BOYS AGE presents カセットテープを聴け! 第四回 : 『フォービドゥン・プレイセス』ミート・パペッツ

気鋭の音楽家ボーイズ・エイジがカセット・リリースされた作品のみを選んで、プロの音楽評論家とがちんこレヴュー対決!


今回のお題は、ニルヴァーナのアンプラグドへの客演でも知られるミート・パペッツ。

ミート・パペッツ『フォービドゥン・プレイセス』(購入@中目黒 waltz


そして、ボーイズ・エイジKAZと対決する音楽評論家は、第一回目以来の登場となる天井潤之介!


前回は天井の勝利だったが、リベンジなるか!?

>>>先攻

レヴュー①:音楽評論家 天井潤之介の場合

ブラック・フラッグのグレッグ・ジンが認めたUSオリジナル・ハードコアの第一世代。にして、マッドハニーやメルヴィンズと時代を共にしたグランジ・ロックの後見役。そんな予備知識や先入観を持って聴いたら、まず確実に肩透かしを食らうこと請け合い。栄光の「1991年」、それもアメリカ西海岸のローカル・シーンを背負って生まれた作品として思い浮かべる光景とは、どうにも異質。というか、「え、こんな感じだったっけ!?」みたいな、聴けば聴くほど当時の記憶が覚束なくなり不安になってくるようだ。


デビューの最初こそオーソドックスなハードコア/パンク・スタイルながら、2枚目の『ミート・パペッツII』(1984年)では早くもよれよれとアコギを弾き始め、「本心を表現したかったら32秒で伝える」と語ったイアン・マッケイのマイナー・スレットら同輩をよそに、ジャムを織り交ぜたりと奇妙なレイドバックを露わに見せたアリゾナの3人組。ピクシーズに先んじてカントリーやブルースをパンクに混ぜ込み、かたやダイナソーJr.が手を伸ばす前に(パンクやハードコアが過去に追いやったはずの)ハード・ロックをせっせと掘り起こしたミート・パペッツは、有り体に言えば少しだけ早過ぎた存在。


もっとも、当の本人たちがそのことにどれだけ自覚的だったのかは知らない。「ハードコア」と「グランジ」という、アメリカン・ロックの近過去史における2大エポックを股にかけたというよりも、むしろそのふたつに挟まれた空白地帯にみずから迷い込んでいった……という感がなきにしもあらず。が、同時代のバンドの多くが次々と姿を消していった中で、数少ない当時の生き残りとして今でも彼らが永らえているという事実は、結果として彼らの辿った道が正しかった、少なくとも間違ってはいなかったことを物語っているのではないか、と思う。


フル・アルバムとしておそらく8枚目にあたるこの『フォービドゥン・プレイセス』。現在は廃盤となっている本作が、はたして彼らのディスコグラフィの上でどのような位置に置かれるのか。正直わかりかねるのだけど、しかし、とりあえずここまで述べたような彼らの個性や魅力が余すところなく詰め込まれた作品であることはたぶん間違いない。バンド演奏はとても軽快で、懐が深く、エレキがふんだんにまぶされているがトーンはあくまでノイズ・レス。指先の器用さをいかんなく発揮したカークウッド兄弟の兄カートのギター・プレイにはやや偏執的なきらいが感じられるものの、兄弟のヴォーカル・ワーク&コーラスには悪びれないマッチョな味わいがあり、どこかユーモラスでさえある。どの曲が特別どうこう、というわけではない。しいて挙げるなら、“ザッツ・ハウ・イット・ゴーズ”のデザート臭皆無のエヴァーグリーンなフォーク・ロック。ないしは、カウ・パンクの面目躍如な“シックス・ガロン・パイ”だろうか。


繰り返すが、本作は1991年のアメリカで、それこそニルヴァーナの『ネヴァーマインド』やパール・ジャムの『テン』と同じレコード棚に並べて売られた作品である。ヘヴィネスやダウナー感はほとんどゼロ。いわゆる「アメリカーナ」的な志向をパンク/ハードコアの現場に持ち込んだ稀有なバンド、という見方も今ならできそうだが、素朴な感想としてはZZトップやクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルを聴いている感覚に近い。勿論いい意味で。


そんなミート・パペッツのことを、けれど他でもないニルヴァーナのカート・コバーンがとても大好きだったというのは有名な話。かのMTVアンプラグドのライヴでカートは彼らのカヴァーを3曲も披露していて、演奏の場にはカークウッド兄弟がゲストで迎えられていたことも印象深い。ちなみに、そのカヴァーされた3曲はこのアルバムには収録されていない。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

★★★★★

非常によく出来ました。先生、少し感動しちゃいました。ニルヴァーナさんが世界中で大ブレイクした直後、このアルバムが日本盤でリリースされた時って、いかにもグランジ景気に乗った感じで売り出されたんですよね。『ロッキング・オン』の表2見開きにも広告が出ていて、先生、その当時、広告の版下をレコード会社さんにもらいにいった思い出があります。ただ当時はこのアルバムの真価がよくわからなかった。でも潤之介くんがその時のモヤモヤを見事に解消してくれました。よく頑張ったね。ありがとう!


>>>後攻

レヴュー②:Boys AgeのKazの場合

ゴミ箱が目の前にあるのにワザワザその近くの野にゴミを放棄する人間は、自分が死んで棺に入れられる時に、目の前の棺を無視され野晒しにされれば良いと思う今日この頃。ミュージシャンが「やれ環境問題だ、やれイルカが可哀想だ、やれ戦争法案反対だ、やれ脱原発だ」と騒いでいるが、行動は立派かもしれないがお前の本職はなんだ? 音楽を単なる道具とする活動家かと問いたくなる今日この頃。愛と平和でラヴ&ピース? お前それ嬲られ尽くされた人間の前で言えるの? お前狂人だな!と思ってしまう今日この頃。そんな風に振る舞うなら、半端で未熟で核廃棄物より厄介な腐れ音楽の製造を止めて今すぐ活動家にジョブ・チェンジしろ、と言いたくなる今日この頃。そもそも未熟な見識に幼稚な感情論で具体的には一切中身も解決策もないにも関わらず社会派気取りとは片腹痛い今日この頃。お前、銃口向けられても同じこと言えるの?と問いたくなる今日この頃。お前、屠殺場で家畜を他人に殺していただいたり等しく五分の魂の蠅は難なく叩き潰すくせにイルカは保護しろとかどの口なの? と問いたくなる今日この頃。そんな風に感じている男がこの都会の片隅に一人や二人はいるかもしれない。


バカ語で話してバカで群れてバカな笑顔でデモ行進。一部の本気はさておいて、大半の人間は遊び半分で電車ごっこ。本当の本当に戦いだというのなら、笑顔は完全勝利を掴むまで浮かぶはずがない、お前はなんで朗らかに笑っているんだ? 戦いで笑うのは馬鹿か狂人だけだ。と常々思っているのだよ。本当に地球を救うのが急務なら、文明の完全放棄、あるいは人類の絶滅を視野に入れるのは大前提なの、賢い学者さんたちはそれを当然とした上で足掻いてくれているんじゃないかと信じてるだけで私はもう人類の末路に何も期待していない、そんな午前二時。踏切もないし望遠鏡買う金もない、いつだってロンリー、箒星に見えなくもないテールランプを1人で追いかける迷い宇宙人オーバーラン! お姉さん、財布落としましたよ、と声をかければ高圧的な態度でタメ口を聞いてくる警察が颯爽と参上、日本人に礼節? そんなものはないよ、いいね? アッハイ。安全と平和は勝ち取るものではなく他者から享受するもの、それが文明社会なの!っていうじゃない? でもその考え、ひな鳥と同じですから〜、残念。そんな風に感じている男がこの都会の片隅に一人や二人はいるかもしれない。


人間は自分の目の前に危機が迫るまではどんなことでも対岸の火事に過ぎないし、いざ彼岸が自ずから近づいてくれば、誰かのせいにすることで心の平穏を得ようとする。お前に足りないもの、それは情熱、気品(中略)なによりも速さ、なんてどうでもよくて「危機感だよ」。もしそうでないなら、ホームレスなんて駆逐されて当然なんですの。大飢饉で年端もいかぬ子供たちの命がゴミのように消えていく中、私たちは飽食の日本は日に驚愕的な数の廃棄弁当や食材を捨ててるけど、どうでもいいよね。対岸の火事だし。みんな同じことしてるから君だけじゃないよっ。仲間が増えるよっ、やったねっ。


そう! 私たちは結局のところほんのすこしの刺激があれば、あとは何も要らなくて、人の言うことに生返事するだけの簡単なお仕事に就いていたいのさ。まさに善性の糸に吊られた機械仕掛けの肉人形。さあ聴こう、肉人形師、ミート・パペッツが歌う禁断の地の讃歌を!


で。このミート・パッペツなんだけど、テープとかさておきこのアルバムは初めて聴いたんだけど(というか知らんアルバムだから買わせた)、うんー、私が今まで聴いた彼らのアルバムの中じゃ一番合わなかったかな。いい出来だと思うし充分カッコいいよ。これは偽りない真面目な話。彼らはいわゆるグランジに分類されてしまってるバンドだけど、一般的な日本のライト・ユーザーが想像するグランジとはかけ離れていて、とても頭が良い音楽、多彩で雄弁、上品ぶってるわけでも下衆に振る舞うでもなくニュートラルで、そこが超サイコーなんだ。


ただ単に、このアルバムは今の私には不一致だったってだけかな。そういう意味ではオススメできないけど、一曲目のイントロ聴いたときは目が「カッ!」ってなったし、みんなは好きかもね。もっと私の心が元気だったならこのアルバムは強く響くかも。時間が経てば感覚も変わる。昔はペイヴメントの『テラー・トワイライト』全然好きじゃなかったけど後々好きになったしね。それにヨ・ラ・テンゴですら最初は全然心に来なかったんだよ。ある日たまたま、なんとなく“グリーン・アロー”って曲再生したら瞬間、ココロ、重なった。62秒もいらんかったんや。とにかく『フォービドゥン・プレイセス』は自分の耳で確かめてね。飾りじゃないでしょ?


しかし今回は今までで一層ひどいな。このままじゃ『チャ○チャ』の打ち切り記録を更新してしまう。……大丈夫か、ありゃ集英社でここはAmebaだ。音楽制作に打ち切りはないがな。毎度おなじみ、予定では『California Blowout』を作り終えてると思う。この原稿時まだ3月だから、『TOWA』すらリリースしてないけど。次で1stシーズン、というか最初に選んだカセットは終わりだね。次回、城之内死す。デュエル、スタンバイ。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】


★★★★

とてもよく出来ました。カズくんが誰よりも心の優しい男の子だということは先生は誰よりも知ってるつもりです。だからこそ、こんな風に世の中に対する罵詈雑言を吐いてしまう。昔あった『スヌーザー』という雑誌を思い出しました。この作文からはそれが本当によく伝わってきます。でも、先生はカズくんが奏でる音楽がそうであるように、クラスのお友達のみんなの気持ちを高揚させたり、驚かせたりしてくれる作文が読みたいかな。この作文のギャラが入ったら、新しいエフェクター買ってね。これからも頑張って!


勝者:天井潤之介

惜しい! ボーイズ・エイジKAZは過去最高評価を得たものの、天井潤之介が満点を獲得して2連勝。しかし、確実に機運は高まっている。これは、次こそは…!?


次回もみんなで読んでね!

〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。

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