気鋭の音楽家ボーイズ・エイジのKAZが、カセット・リリースされた作品のみを選んで、プロの音楽評論家とがちんこレヴュー対決!
予告編を経ての第一回レヴュー作品はこちら。
>>>先攻
レヴュー①:Boys AgeのKazの場合
ボン・ジョルノ。日本で一番圧倒的に天才かつ世界でも頂点の一つに君臨するバンド、Boys AgeのKaz君だよ。最近はエイジ君て呼ばれることも多いんだけど、「だったらダブルスで行くよ」とか「あえて菊丸を分身させて」とか、そういうのは一切無理だよ。グッバイ、エイジ・ダテ。『はじめの一歩』はいつになればマルチネスと戦うんだよ。『ベルセルク』の完結と同じぐらい心配だね。昔から私はE.T.だのファービーだの呼ばれてるけど、別に超能力なんてない普通の宇宙人だよ。よろしくね。プロフィールは多分文末に記載されるよ。だいたいレヴュー・ページって文末にそういうの載るよね。興味持ったことなんてないけどな。
今回、このページでカセットのレヴューを書かされるよ。人生で初めての書き物の仕事だよ。バンドの儲けだけじゃ生きていけないからこうやってアルバイトしなきゃいけないんだよ。バンドで生きていきたいなら、商品としての生き方を学ぶか、相当の決意と覚悟、もう二度と念能力を使えなくてもいいや、ってぐらいじゃないとだめなんだ。ボッ。昨今も活動休止ってニュースが相次いでるけど、あれって大概生きていけなくなったからだと思うんだ。10年流行するって難しいものだよね。まあ、新規に起業しても一年で閉店ガラガラーッなんてザラだし、そういうことだよね。
バンド活動は駄菓子屋経営みたいなものさ。駄菓子屋さんも別の仕事をやってたり余生の楽しみだったりってあるよね。近所の駄菓子屋はクリーニング屋と併設してたよ。つまりバンドは兼業しなきゃってのが結構普通なのさ。こんな当たり前のことを、私の周りの大人たちはまったく教えてくれなかったね。道連れを増やしたかったのかな? この人でなしめ。
800~1200字ぐらいって注文だったのにもう800字超えちゃったからレヴューは巻きで。そもそもカセット・レヴューで書くことなんてないんだよね。
カセットテープはみんな知ってるかな? CDやMP3の前の時代に登場した携帯出来る音源。カセットの中に磁気テープが入った形態のものをこう呼ぶんだよ。オープンリールっていうテープがむき出しのヤツに対する名前だね。確か、データ媒体用の奴は基本的にカートリッジだったかな? ゲーム・カセットとかたしかカートリッジって読んだような。今は昔にはカセットテープにTVゲームが入ってた時代もあったね。私は生まれてなかったけれど。今(?)普及してるカセットテープはオランダのフィリップス社が開発した奴だね確か。別にこのテープがカセット媒体のオリジナルじゃあないんだけど、俗にいうアナログ・カセットはこの形。(のちにデジタル・カセットっていうのも現れたよ。MDという記録メディアと確か争ってて、まったく勝負にならずに消滅したよ。ニンテンドーやSONYに対するSEGAみたいだね)。
いや、でもSEGAも頑張ってたんだよ。先鋭的過ぎて世の中がついてこれなかったんだ。まったく、民衆はいつもそうだ。自分たちの理解が及ばないだけで悪と断じて排斥しようとする。まったく許しがたい。ちょい前に日本にカセット・ブームが入り出した頃ちょうど80’sファッションとか音楽のブームが来てたけど、SEGAのメガドライブのサウンドを聴いてみなよ。80年代を体現した無敵具合を感じられるよ。今でもFuture FunkとかNintendocoreとかでBANDCAMPで検索するとそういうのが好きな連中が実に売れなさそうな、だが素晴らしい音楽を作ってるよ。メディアが紹介してる音楽だけが優れてるって勘違いしてる少年少女はさっさと目を覚ましたほうが良い。
だいたい、私の周りの大して文化や芸術に興味がないくせにしたり顔で「昔は良かった、みんなが知ってる歌があって」みたいなことをぬかすけど、ただのマヌケを晒してるに過ぎない。表に出る手段が企業に依存しまくってた時代だってだけじゃねぇか。このスットコドッコイが。
わかった、いい加減テープの話しようか(これ文字数大丈夫か?)。
今回ご紹介させていただくのはこちら。1972年に結成されたイタリアのプログレ・ロック・バンド、ゴブリンによる名作映画『サスペリア』のサウンドトラック。これを聴けば、自信が持てる、女にモテる。確か元々うだつの上がらないスタジオ・ミュージシャンたちで、ホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェントが見出してデビューしたんだっけか?
『サスペリア』は、正直よく知らん。たしか――魔女三部作って呼ばれてるやつの一作目だったかな。日本でのキャッチフレーズはたしか、「決して、ひとりでは見ないでください」。なんか、『邪聖剣ネクロマンサー』のキャッチフレーズもこんなんだったような。恐怖の音楽、なんて書かれてるけど、少なくともいまのホラーの感覚では(特にジャパン・ホラー好きにとっては)ホラーでも何でもないと思う。結構パワーがあるし、どちらかというと、『悪魔城ドラキュラ』(現『キャッスルヴァニア』)のようなアクションで使われてそう。イタリア人独特の汗が飛び散るほどの情熱と百万輪の薔薇の花束のような噎せ返るほどの芳醇な香りを秘めた名盤。ジョージ・A・ロメロの映画、『ゾンビ(原題:Dawn of the Dead)』のサントラでもそうなんだけれど、こいつらのホラーはドラマティックに過ぎる。だが、それがいい。『花の慶次』の画像を持ってこれないのが残念でしかたない←だが、それでいい。
テープで聴いた感想? A面とB面の間に面をひっくり返す作業があるんだけど、その時間が息継ぎになって新鮮な気持ちになれる、ぐらいかな。音は、結局マシンの性能に左右されるし、そもそも音の良し悪しってあくまで好みに過ぎないし。(私は二種類プレイヤーを持っていて、Sonyのスピーカー付きのはポータブル・ラジオみたいな音、Panasonicのスポーツ・タイプの奴はCD並で聴ける)。
だから毎年ビートルズか何かしらのリマスターが出るじゃない? バカにしてんのかって思うよ。でも、それを聴いて満悦面してこれ見よがしに「高音質」だの「ハイレゾ」だのを語って、それだけで音源の成否を判断してる人間は、もう音楽を聴くことをやめるべきだよ。(上の奴のことではないけれど、ほとんどの商用ポップ・バンドはどうあがいても糞は糞だよ。実際の糞は肥料に成る分、糞より糞だね。糞を糞でコーティングして糞をホイップして糞のメッセージプレートに糞で文字を書いたケーキ糞だよ)。
そもそも音質っていうのは、手段なんだよ。高音質で、サーッっと流れるノイズひとつ無いような無音の中で旋律が鳴らなきゃならない音楽もあれば(個人的にはビーチ・ハウスの『ブルーム』とか)、全部の音が同じところでゴチャゴチャになっててテレビ裏のコンセントばりに音が絡まってなきゃ魅力的が薄らぐ音楽もあるの(最近聴いたのだとリッチー・ウッズの『ワオ・クール』)。生み出した音源の魅力を引き出すための道具の一つに過ぎないんだよ。
ただただ迫力があれば音楽が引き立つとかなんとか、逆に迫力があってはならない音楽だってゴマンとあるし、それすらも手段なんだよ。手段と目的が理解出来てない人間の多いこと多いこと。私は学があるわけじゃないが、そんな自分から見ても、世のマヌケさ加減に頭を抱えるよ。抱える手が足りないからヘカトンケイル(ギリシャ神話の五十頭百手の巨人)になりたい。あ、抱えるべき頭も増えてるじゃん。ヘカトンは大変だな。
それにいくら弄っても、時代の格差は越えられないよ。
結論としてこのカセット・ヴァージョンの『サスペリア』は、楽しむ手段としてしっかりしてる。ハイレゾ・リマスターでタフな音で聴くもよし。iPhoneに搭載されてるようなスピーカーを内蔵したカセット・プレーヤーの薄っぺらいラジオ・サウンドで聴くもよし。その日の気分で楽しめばいい。テープで音楽を聴くのは、音楽鑑賞っていう趣味の細分化された選択肢の一つだよ。その気になれば紙コップと裁縫針でだって音楽は鑑賞できるんだ。試してみれば? 趣味の一つとして。釣りみたいなもんだよ。渓流、湖畔、海、餌、銛、ルアー、楽しみ方はいろいろだ。
このカセット・レヴューはとりあえず(経費がもったいないし)5回ぐらいは確定で続くので、次回以降もちゃんと見るんだよ。校長先生との約束だ。見てくれないと、暴れちゃうぞ。
【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】
★★★
よくできました。アメリカやヨーロッパでは有名なあなたも、日本では無名に近い、悔しい、口惜しいという気持ちがよく書けています。でも、少し愚痴が多すぎましたね。次回はいつもKazくんが見せてくれるような素直な笑顔が透けてくる作文が読みたいかな。頑張ってね!
>>>後攻
レヴュー②:音楽評論家 天井潤之介の場合
イタリアのプログレ・バンドが作った40年前のホラー映画のサントラ。と、いきなり目の前に差し出されても「で?」という感じだろう。が、多少の事情通であれば、この手の70年代や80年代のホラー映画のサントラが近年、その手のマニア外のところでとみに話題を集めていることはご承知かも知れない。そのブーム(?)を後押ししたのは、ジョン・カーペンターやルチオ・フルチ監督作品の音源を次々とリイシューし、コズミックやバレアリックを通過した現行クラブ・ミュージックの文脈でその再評価を促したレーベル〈デス・ワルツ〉。そして、それより少し前には、アメリカやイギリスのアンダーグラウンドで話題が取り沙汰されたことも記憶に新しい。
で、その後者において舞台となったのが、いわゆるダーク・アンビエントやドローン、そしてウィッチ・ハウスが台頭した2000年代末から2010年代初頭のエレクトロニック・ミュージック周り。どういうことかというと、それは当時のホラー映画でもっぱら主役として使われていたアナログ・シンセの、あのいかにも物々しくて仰々しい電子音のマニエリスティックな響き。それがメロディや効果音としてムードを醸しだす一連の――いや、もはやムードそのものがそもそもあの界隈ではお気に召されていたようで、実際に音源をサンプリングして自分たちの作品に使ったり、さらにはフィルム自体をアートワークやMVに引用したりするといった手合いも。なかでも、それ系のカルト映画を集めたサイトを自ら運営するコレクターを座付きの映像作家として抱えていたデムダイク・ステアはよっぽど。ちなみに、かたや近隣のチルウェイヴやシンセ・ポップが「hypnagogic(入眠)」とも呼ばれていたのに準えるならば、ゴシックやオカルトな趣向を色濃く帯びたそれらアンダーグラウンドの一群は「mesmerism-ic(催眠・暗示)」という形容がふさわしいかもしれない。
――というアングルから、この作品について言えることはとりあえず「A面の4曲はスルーしてよし」。早速カセットを巻き戻して、ぜひB面から聴いていただきたい。とりわけ見ものは冒頭の“マーコス”。カーペンターのサントラ作品も十八番にしたハイ・ピッチのシンセ・アルペジオとワーム状に延びるムーグ、そして一斗缶や銅鑼を叩いたようなガムラン風のメタル・パーカッションが目くるめく4分強のニューエイジ・アンビエントは、それから40年後のアンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックの雛形を幻視させておもしろい。いや、むしろ逆で、それこそワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやアシュ・クーシャがクラシック・ミュージックの知識も援用してソフトウェアや具体音で脱構築したアンサンブル/ハーモニーを人力でリプレゼントしている、と想像した方が「プログレッシヴ」か。サン・シティ・ガールズとエルメート・パスコアールがストーンしたような“ブラック・フォレスト”から“ブラインド・コンサート”の流れももちろん見せ場。が、「サウンドトラック」というものをざっくりと広義の環境音楽~バックグラウンド・ミュージックと捉え直して今の耳で聴き返したとき、やはり“マーコス”の耳愉しさはこの作品のなかで唯一際立っているように思う。
余談だが、当時の映画のなかでも件の界隈でとくに人気が高かったのがヨーロッパ系/出身の監督。ルチオ・フルチやアベル・フェラーラ、そしてこの『サスペリア』を撮ったダリオ・アルジェントといった名前がその主なところで、理由は正直よくわからない。ただ、アンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックのディガーなら、彼らの監督作品のサントラを試しに追いかけてみるのも価値があるかもしれない。
【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】
★★★★
とてもよくできました。プロの音楽評論家としての知識とボキャブラリーの豊富さがとても際立っています。でも、潤之介くんがどんな風にこのカセットを楽しんだのか、先生にはそれが少しわかりませんでした。次回はもっとあなたの気持ちが伝わってくるような作文を読みたいかな。頑張ってね!
勝者:天井潤之介
ということで、第一回は音楽評論家側の勝利で幕を下ろした『BOYS AGE presents カセットテープを聴け!』。実はすでに一挙5本をセレクト済み。
さて、次のレビュー作品は? そして挑戦者は?
謎が謎を呼ぶ次回をお楽しみに!
〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。
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