田中「やっぱり女性の視聴者の中には、『みくりなんて、あんなに可愛いんだから、さっさと永久就職しちまえよ!』とか思う人もいるかもしんないもんね」
小林「みくりに共感出来なくてもおかしくないですよね」
田中「だから、34歳キャリアの女の子に訊いたのよ。『みくりって共感出来る?』って」
小林「あれ? もしかして、僕も知ってる編集者の女性ですか?」
田中「そうそう」
小林「じゃあ、綾乃ちゃん(仮名)ってことで」
田中「彼女さ、この前も、今は仕事も遊びも充実してるんだけど、ここ数年で学生時代の友達が立て続けに結婚して、『これでいいのかな?』ってふと思うことがあるって言ったじゃん」
小林「打ち合わせの時にいきなり『幸せって何?』っていうパンチラインぶっ込んできましたからね」
田中「あの時、涙目だったもんね」
小林「地雷踏んじゃいました」
田中「でも、彼女のFaccebook見る限り、翌日は渋谷のVISIONにキース・エイプ観に行って、めっちゃ盛り上がってたけど」
小林「チェック、細かいな!」
田中「綾乃ちゃん、キース・エイプの“It G Ma”が『忘れるな』っていう意味で、日韓の侵略した/されたっていう文脈について触れてる曲だったことも知らなかったけどね」
小林「ダメだなー。だからこそ、ハーフ・コリアンのKOHHが自分のヴァースの最後の最後で『過去の話/すんのダサいから/昔のこと忘れちゃったらいい』ってラップするのが感動的なのに」
Keith Ape / 잊지마 (It G Ma) (feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh)
田中「でも、綾乃ちゃん、友達とクラブで盛り上がった後、自宅に戻って、ひとりになった途端、思わず虚しくなって一人酒とかしたのかな?」
小林「世間の人だろうが、友人だろうが、他人を傷つけることに関しては超一流ですね」
田中「だって、あの娘、最高だよ。例の『アリー my Love』ってドラマあるじゃん? あのドラマに、今じゃマーベル映画『アイアンマン』で世界中で飛ぶ鳥を落とす勢いのロバート・ダウニー・Jr.が出てたんだよ」
小林「主人公のアリーの恋人役でしたっけ?」
田中「そうそう。で、それまでずっと恋愛で苦労してたアリーがロバート・ダウニー・Jr.が登場したことで、ようやく幸せになれる相手をみつけた! みたいな感じになったのよ」
小林「そうだそうだ。でも、ドラマ放映中にロバート・ダウニー・Jr.がヘロイン中毒で降板することになって、仕方なくドラマの筋書きが変わっちゃったんでしたっけ?」
田中「そうそう。アリーをひとり残して、いきなり街から消えうせた設定ですよ」
小林「脚本家もプロデューサーもいい迷惑だ!」
田中「おかげで、ようやく幸せになりそうだったアリーが、最終的にはシングル・マザーになるっていう結末を迎えるんだけど」
小林「そりゃひどいな!」
田中「綾乃ちゃんときたら、『ロバート・ダウニー・Jr.のことは大好きですけど、彼のリハブ入りのせいでアリーのストーリーがめちゃくちゃになったのを恨んでます。あのラストは私の人生に衝撃の選択肢を与えてしまいました。この話も5時間くらい語れます』って言ってた」
小林「綾乃ちゃんの人生はどうでもいいんですけど」
田中「最高でしょ、綾乃ちゃん。泣けるでしょ」
小林「まったく興味ないし」
田中「でも、綾乃ちゃんみたいな女性って決して少なくないと思うの」
小林「まあ、『逃げ恥』で言うと、百合ちゃんの若い頃みたいな女性ですよね」
田中「そうそう。『逃げ恥』の主人公って、本当は百合ちゃんだと思うの。みくりと平匡じゃなくて」
小林「ああ、なるほど。百合ちゃんって、結婚と雇用という問題にずっと対峙しながら、女性であるがゆえに必要以上に闘い続けてきた人なわけですもんね」
田中「だから、『逃げ恥』っていうのは、百合ちゃんが歩んできた血の轍を、みくりと平匡の二人が追体験するようにして、同じように苦しみながら、成長するドラマなんですよ」
小林「なるほど。だからこそ、百合ちゃんみたいな女性だったり、彼女の場所まではまだ届いていない人たちにこそ、『逃げ恥』は観て欲しい、と」
田中「うん。だって、本当は彼女たちのためのドラマでしょ」
小林「そうですね」
田中「だからこそ、『逃げ恥』で描かれる今後のみくりの行く末というのは、綾乃ちゃん(仮名)みたいな視聴者に対する責任があると思うんだよね」
小林「責任、ときましたか」
田中「これからみくりがどんな選択をするのか? 結婚という道を選ぶのか? 仕事に比重をおいて恋愛を諦めるのか? それともその両立を手にいれることが出来るのか?」
小林「まあ、そこは見物ですよね。楽しみっていうか」
田中「でも、平匡とも破局して、仕事も手に入れられないっていう結末だってあるにはあるわけでしょ」
小林「いやいやいや、それはさすがに全視聴者、大激怒でしょ」
田中「とにかく『逃げ恥』には、全国の綾乃ちゃんが希望を持てるような現代的なヴィジョンを期待しているわけですよ」
小林「でも、綾乃ちゃん、自分のこと、幸せ拒否症だとか言ってたからなー」
田中「でもホント二人には幸せになって欲しいのよ!」
小林「想像以上に入れ込んでますね(笑)。でも、その幸せって、二人が結ばれるってこととも違うんでしょ?」
田中「うん、違う」
小林「じゃあ、タナソウさんとしては、『逃げ恥』の結末に何を期待してるんですか?」
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