②『逃げ恥』は究極のラヴ・コメディ? トランプ時代の希望のメッセージ?


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田中宗一郎(以下、田中)「いや、みくりの『ハグしましょう!』っていうのは、発想としては、『疲れてる雇用主にも笑いかけてあげなきゃ』ってことじゃんか。『時には自分から時間外勤務もしなきゃ』ってことでしょ」

小林祥晴(以下、小林)「なるほど」

田中「まあ、回が進むにつれて、そこが変わってきたわけなんだけど」

小林「でも、少なくとも最初は仕事ですよね。なるほどね」

田中「で、そのすれ違いのせいで当初は『余計な期待はするんじゃない、平匡!』ってハラハラしちゃうわけじゃん!」

小林「まあね」

田中「思わず切なくなっちゃうわけじゃん!」

小林「世間の人はそうなんでしょうね」

田中「思わせぶりなオンナだな、みくり!」

小林「いや、だから、無頓着なだけですよ」

田中「ナチュラル・ボーン・悪女ですな」

小林「思いのほか、ガッキーにやられてますね」

田中「まあね」

小林「要するに、みくりの場合、特に恋愛と仕事が区別されてないってことですよね」

田中「そうそう。もちろん彼女は間違いなく人と人との信頼とか、心の繋がりを切実に欲してはいる。でも、それは別に男女間の恋愛に限ったことじゃなくて、仕事の現場とか、友人関係にもそれを求めてるわけじゃんか」

小林「ある種の承認欲求ですよね。でも、それが満たされていなくて、うっすらとした寂しさに苛まれてるっていう」

田中「だからこそ、契約結婚という仕事の現場でも、ハウスキーパーだの、料理だの仕事をしてる時は本当に溌剌としてるっていうね」

小林「あんなに主体的に仕事してくれる人、いないですよね」

田中「会社経営者として重みのある言葉ですな」

小林「しかも、必ず仕事+αの思いやりを欠かさないっていう。ホントうちの会社にもひとり欲しいな!」

田中「で、その+αの思いやりっていうのが平匡からすると思わせぶりな態度になっちゃうんだけど」

小林「それを見て、思わずヤキモキしちゃう、と」

田中「ホント興味なさそうだね、君」

小林「でも、信頼や精神的なコミットメントが必要不可欠だっていうのは、仕事の現場でも恋愛関係でも同じですからね」

田中「お、ようやく人間らしいこと言ったね」

小林「まあね」

田中「で、このドラマの二大トピックでもある“雇用”も“結婚”もそもそもはどちらも契約なわけですよ。わかるっしょ?」

小林「一種のシステムですよね。いろんなものを効率的かつ円滑に進めるための契約システム」

田中「だから、このドラマは“雇用”と“結婚”っていう二つのシステムを扱いながら、そのあり方を再定義しようとしてる」

小林「なるほど。結婚届とか雇用契約書には記載されてない、そこから食み出ていく何かを描こうとしてる、と」

田中「そうそう。その『何か』ってのが大切なわけじゃないですか」

小林「なるほど。それこそがこのドラマの肝だ、と」

田中「だって、そもそも結婚なんてシステム、ホントどーでもいいからさ!」

小林「いやいや、幸せな結婚生活を送っている人だっているんですから、そんなこと言わないで下さいよ」

田中「でも、まだ婚活だの何だの、みんな、結婚することに必死だよね。例えば、君とか」

小林「いやいやいや、来年、結婚するってだけの話ですよ」

田中「でもさ、この2010年代において、結婚っていうモチーフがこれほど音楽や映画/ドラマに頻繁に取り上げられる国っていうのは、日本だけなんじゃないか?って思ったりしない?」

小林「まあ、海外の音楽も映画もドラマももう少し視点としては広角の、社会的なテーマを持ったものが多いですよね」

田中「でしょ?」

小林「ここ最近、海外で結婚をモチーフにしたヒット曲とかヒット映画とかありましたっけ?」

田中「ほら、『アリー my love』とか」

小林「懐かしいな!」

田中「法廷もののドラマばっか作ってたデヴィッド・E・ケリーのプロデュース作品で、『逃げ恥』だと石田ゆり子が演じてる、いわゆるキャリア女性の結婚っていうモチーフを扱ったドラマ」


『アリー my Love』


小林「若者は誰も知りませんよ」

田中「だから、大昔の話なんだって。だって、98年とかでしょ?」

小林「自分の論旨に持ってくために、恣意的にサンプルを選んでるだけだって感じはありますが(笑)」

田中「でも、ここ最近、全米で爆発的にヒットした、ヤングアダルト小説が原作の『トワイライト』シリーズとか、『ハンガー・ゲーム』みたいな映画も、恋愛がモチーフでしょ。結婚じゃなくて」

小林「どちらもSFの形式を借りて、二人のモテ男が主人公の女性を手に入れるために必死で闘う、そして最終的にはどちらかを無理やり奪うっていう腐女子的なファンタジーですよね」


『トワイライト~初恋~』予告編


『ハンガー・ゲーム』予告編


田中「あれが2010年代の想像力ってやつでしょ?」

小林「でも、『トワイライト』シリーズとか、『ハンガー・ゲーム』に夢中になったのって、まだ結婚を意識しないですむティーンエイジャーなんじゃ?」

田中「いやいやいや、ティーンだかじゃなくて、むしろ既婚の女性たちが夢中になったんですよ」

小林「そうなんですか?」

田中「要は、『こんな結婚するんじゃなかった』『つまんない男と結婚しちゃった』っていう全米の既婚女性の後悔をど真ん中から射貫いたってことですよ」

小林「怖いな、それは!」

田中「つまり、欧米では結婚と恋愛がもはや乖離しつつあるっていう証明でもあるわけで」

小林「退廃的だとは思いますけど、それも現実ですよね」

田中「それに比べると、まだ日本は結婚に対する期待とか幻想がきちんとあるよね。良くも悪くも」

小林「でも、結婚をモチーフにした日本のポップ・ソングというと?」

田中「ここ最近だと、西野カナの“Dear Bride”でしょ」

小林「なるほど」


西野カナ / Dear Bride


田中「嵐の“愛を叫べ”は去年? 今年?」

小林「2015年ですね。確かに最近は最近ですね」

田中「しかも、西野カナにしても、嵐にしてもメガ・アーティストでしょ。それがどちらも結婚の歌を歌ってるわけでしょ。『誰もがそんなに結婚したいのかー』とか思うじゃん」

小林「なるほど。でも、嵐も西野カナもJ-POPの中でもタナソウさんの数少ないお気に入りじゃないですか」

田中「まあね」

小林「でも、やっぱり思うところはある、と」

田中「そりゃ、首をひねるよ」

小林「さすがに価値観としては保守的すぎやしないか、と」

田中「逆に、ここ最近、海外のポップ・ソングで結婚をモチーフにした曲とかってあったっけ?」

小林「うーん、エド・シーランの“シンキング・アウト・ラウド”とか、マルーン5の“シュガー”とか? でも、前者は『70歳になっても君を愛し続けるよ』って歌詞だから結婚式でよく歌われるだけだろうし、後者は結婚式会場にマルーン5がサプライズ登場して演奏するっていうPVなだけで、どちらも具体的に結婚をテーマにした曲じゃないですよね」


Ed Sheeran / Thinking Out Loud


Maroon 5 / Sugar


田中「ほら、ないじゃんか!」

小林「でも、西野カナはまだしも、嵐の場合、リクルートの結婚情報誌『ゼクシイ』のCMソングでしょ? 単純な話、マーケットからの要請以上に、スポンサー収益を狙ったっていう話なんじゃないですか?」

田中「でも、結婚情報誌の存在自体がこの国の社会の反映じゃん」

小林「まあね」

田中「でも、2曲ともすごくない? 結婚というのは幸せのひとまずのゴールであり、約束された新しい未来の出発点だっていう揺るがない確信があるじゃん。おい、今、時代はいつだよ?っていう」

小林「興奮しないで下さいよ。たかが歌なんだから」

田中「いやいやいや、表現っていうのは、時代を表象するっていう意味において責任があるんだって!」

小林「まあね」

田中「そういう話からすると、星野源ちゃんが歌ってる、このドラマの主題歌“恋”っていうのは、恋愛や結婚っていうイシューに対して2010年代的なヴィジョンと価値観を提示してると思うんですよ。時代全般の風潮に対するメッセージを持ってて、きちんとその役割を果たしてる。偉いのよ」

小林「いきなり大きく出ましたね。じゃあ、そのココロは?」


<続く>

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