〈代々木上原のカラアゲおじさん〉がはじめた、本気の服作り

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(必ずしも)旅に出ない旅行誌「モウタクサンダ・マガジン」。SILLYに出張中。
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今この記事にアクセスしているってことは、その場所から一歩も動かずに世界中のものを購入できるってことになる。

無料で提供されるインターネットブラウザと、ダイエットの味方にすらなれない程度の消費カロリーを生む指先の運動があれば、快適なインターネットショッピングが楽しめる寸法だ。

日本中で同じものが手に入るようになった今じゃ、「何を買うか」のプライオリティはそろそろあやしい。だから、「だれから買うか」ってことが重要だったりする。

何の話かって?

「服はこの人から買う」と信頼して間違いない人間のひとり、代々木上原の“カラアゲおじさん”が、新しいプロダクトを作っているらしい。せっかくだから〈カラアゲ〉に遊びにいってみた。

「カラアゲ」こと、代々木上原の洋服屋〈Color At Against〉の店主・高橋優太。「カラアゲおじさんってだれ?」っていう人は、彼のエネルギーが炸裂している以下の記事を。

—やあ、調子どう? あ、それどうしたの?

「MODESTYっていう染めのブランドに別注頼んで作ったんですよ」

—〈カラアゲ〉の新作ってこと?

「そうっすね。ヤバいっすよ、この染め。超かっこいい」

—オールネイビーだ。

「裏地まで全部ネイビー……マジでかっこいいな」

—軍モノ? 確か前は白いヤツ置いてたよね。

「そうそう、50年代のフランス軍のプルオーバー。デッドストックをいくつか仕入れたんすけど、それをMODESTYに別注かけて染めてもらって」

—きれいだね。洗って育てるのも楽しそう。

「ボタンまできれいに染まってますよ。すげーな。いやーかっこいい。このサイズ感で、この染め」

さっそく着用感を確かめながら、嬉しそうに話している。改めて紹介すると、〈カラアゲ〉は洋服屋で、扱っているのはセレクトした洋服や、このパーカーみたいなオリジナルウエアに、雑貨や本。つまり本人が好きなものだけを置いている。コマーシャルに操作されたトレンドに疲れた頃には、それくらいのノリの方が信頼できる。

—そのリュックも?

「こっちはサンプルなんすけど、オールネイビーのリュック。完全オリジナルでイチから作って。パイピングも裏地も全部ネイビー。防水で、ノートパソコン用のスリーブもつけて。生地はリップストックっていう、破れに強いヤツ。ベトナム戦争時のアメリカ軍の服なんかでよく使われてた」

—このサイズで、これだけ機能性あるのはいいね。一見シンプルなんだけど、ギミック凝ってる感じ。これも売ってるの?

「即完売しちゃったんすよ。ありがてえっす。……あの、『KIDS』って映画知ってます?」

ラリー・クラークの?

「そう。あの映画でキャスパーってヤツがしょってるリュックが、こいつのイメージソース。静岡にSTORYってショップがあって、そことウチがちょうど3周年で一緒に作ったんです。STORYのヤツも1986生まれの同い年だから、リュックは『キャスパー1986』って名前。あ、ちわっす!」

いつになく真剣に服のことを話すカラアゲおじさんに面食らっていると、来客が。平日の昼間からクセのある人間が集まってくるのは、この店ではいつものことだ。

「彼、このジャケットの染めをやってくれたMODESTYっていうブランドのデザイナーで」

「ウチは今年の4月に始めたばかりのブランドなんです。三軒茶屋にショップも作ったんですよ、Sally's Journeyって名前。古着とかスケート関係も置いてて、ホットドッグ屋を併設してる。ふらっと遊びに来てください」

こうやって〈カラアゲ〉に来るたび、東京の遊び場が増えていく。服とカルチャーを通して、人や場所との関係が積み重なっていく場所。それって、いい店のひとつの条件だと思う。きっと、この店に集まる人は服だけを買いに来るわけじゃない。

ー前に話してくれたよね。この場所を人で繋がっていくたまり場にしたいって。その感じ、もうあるね。

「そうだとうれしいっすね。ちょうど最近リニューアルして、またいろんな人が出入りするようになって。こっちはROWCHEっていうブランドがからんでやってる〈THE SENATE〉っていうお店。カラアゲのイラストも描いてくれてる」

「まあ、いつもの調子でやってるだけっすけど」そういってカラアゲおじさんは、以前より健康そうな顔で笑う。

—今日はちゃんと服のこと話してくれたね。

「たまには言いますよ、照れくさいっすけど。あ、ちゃんとしてないバージョンもやっときますか? あと1時間は喋るんで覚悟してもらわないとっすけど。ハハハ」

リニューアルした店内を眺めてみる。あいからわらずだれかが持って来たらしい酒が転がってたし、チャールズ・マンソンのTシャツなどといった香ばしいアイテムも飾られてた。

面倒くさいほどの洋服へのこだわりと迎合しないスタンスを、ピースフルなマインドで包んだ空間……っていうと大げさかもしれないけど、カラアゲおじさんの店はそんな感じ。

ワンクリックでできる便利な買い物の良さもあるし、わざわざ出かけて会話して、手から手へと渡ってくるモノの良さもある。どっちがいいとかの話じゃない。ただ、ひとつ言えることは、簡単に手に入れたものは、簡単に手放しやすいってこと。

すこし便利になりすぎた今は、ちょっとした手間がエネルギーになる。

だから、〈カラアゲ〉に出かけて、面倒くささの極地みたいなこだわりで作った洋服に触れるのは、面白い。

ひとつ付け加えるなら、カラアゲおじさんのトークがノってくるとしばらく店から出れなくなる。この面倒くささも最高だ。

俺はこの日も2時間くらいしゃべって、たっぷり元気をもらって店を出た。

Writer : 山若マサヤ / Masaya Yamawaka

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