代々木上原のイメージって?
たぶん、上品で生活に余裕のある大人が暮らすエリアって感じが、おおかたのところだと思う。ところが今、この街が少しずつ変わろうとしてる。
その原因は、このクリーンな街に異物のように混入した、個性的なひとつの店。名前は「カラアゲ」、正式名称は「Color At Against」(だけど、正式名称で呼んでいる人は見たことない)。
店主の強烈に人を惹き付ける引力に誘われて、面白いものや新しいカルチャーに鼻の効く人間が、集まり出している。
「洋服屋っぽくない洋服屋にしたいっすね」と話すのが、この店の店主・カラアゲおじさんこと高橋優太。
「70'sのフランスのサンダル履いてたら、俺の足には合わなかったみたいで。左足の甲がありえないくらい腫れて。病院行ったら、聞いた事無い名前の関節炎。『ここ、関節あったんすね〜! 知らなかったわー、すげえな〜人間の身体は』みたいな。
<カラアゲ>はこの名前で、実は洋服屋。ここに来た人は、きっといくつかの理由で面食らう。まず、カラアゲおじさんが強烈におしゃべりだってこと。そして、こっちが心配になるくらい商売っ気がないこと。
「『これは何年代の軍モノで……』とか話すと、『服のことも話せるんすね!』とか言われるんすよー。『当たり前だろう! 洋服屋だぞ〜!』って。いつもバカ話してるからっすよね。お客さんに『そろそろ服見ていいっすか?』って聞かれますよ。『まだだ!』とか言って」
—お客さん、なかなか帰らないよね?
「帰らないし、むしろ帰らせない。酒持って来る人も多いんすよ。『ビールやめたって言ったじゃん』『大丈夫、お茶割りもあります!』『キミ、デキるね〜』なんて」
ここに人が集まるのには、多分いくつか理由がある。
この無限に続きそうな魔術的トークと、人の誘いを断らないカラアゲおじさんの人柄。「みんな大人になって遊ばなくなったから、逆にとことん遊んでやろうって。そうすると毎晩誰かから電話くるようになりました」だって。
—電話あると、行っちゃうんだ。
「行っちゃうっすね〜! 知り合いのバーがよくしてくれて、『出世払いでいいよ』って言ってくれたりもして。でも俺出世しないんすよ? だって社長だもん!」
—普通は「長居して悪いな」って思うんだけど、<カラアゲ>だと、逆に「まだしゃべんるんだ!」って思うよ。
「お客さんに『帰っていいっすか?』って聞かれますよ。大抵『まだダメっす』て言うんすけど・・・あ、どーもです!」
馴染みの仲間が納品に来て、話し始める。
「……だからアッパーの部分とか軍モノで、ソールはオーソライト入ってて。普通のジャックパーセルより、めっちゃ軽いから……」
こう見えてっていうのも失礼だけど、<カラアゲ>はWARP magazine や、THE DAYとかのファッション誌に衣装提供をしてたり、スタイリストや雑誌のエディターなんかもよく出入りしてる。
—あれは似顔絵?
「そうそう、RWCHEっていうブランドの人が描いてくれたんすよ。今月ウチの内装リニューアルして、新しくRWCHEのポップアップも出来ますね」
—野球のやつは?
「あれは『ビッグ・リボウスキ』っていう映画のネタで。夢の中のシーンでハサミ人間が出て来るんすよ。そのひとりがレッチリのフリーで。前列の右から4番目くらいが、思いっきりフリー。その頃、レッチリのメンバーがそれぞれ映画出てるんすよね。アンソニーは『ハートブルー』っていう映画で。脚撃たれて『ウウウギャー!』って叫んで一瞬で消える役。ハハハ」
—映画、好きなんだね。
「けっこう好きですね〜。映画ものの洋服はすぐ売れるんですよ、元ネタ分かる人来るとすぐ」
—このレジ前のフィギアも映画のヤツかな。
「これは60年代くらいに、アメリカが日本に作らせたおもちゃ。電池入れてスイッチ押すと、おしっこのところからお酒が出てくるっていう。それでこの表情っすから。もう、最高ですよね。オリジナルの完品だと、足の親指に絆創膏がついてるんですけど。日焼け具合とか、すげーいいんすよ。シンボルっすね、ウチの。酒だし」
改めて店内を眺めてみる。チロルシャツやデッドストックの軍モノ、オリジナルやセレクトしたブランドものに混じって、アクセサリー、雑誌、古い雑貨……まるで友達の部屋に遊びに来たみたい。もちろん、酒もしっかり置いてあった。
—扱うものはどういう基準で選んでる?
「俺が好きなもの。置きたいものっすね。年代とかは絞ってないかな。アメリカっぽい物も好きだし、最近はヨーロッパの方が多いかな。なるべく他で置いてないものを選んで。自分のスタンスを見せることを大切にしたくて」
—トレンドとかはあまり気にしない?
「今の流れもふんわりおさえつつ、『それ好きなんだったら、こっちも面白いよ』って提案したい感じっすね。流行だけ追いかけても、自分でやってる意味なくなっちゃうから。それは大手さんにやってもらって、俺たちはローカルで、自分らのやり方で」
—<カラアゲ>を始める前は何してたの?
「原宿のセレクトショップで働いてて。5年くらい。その前がSTUSSYで、その前が文化服装学院」
—ガチっと働いてきたんだね。
「キャリア生かしきれてないっすよね〜完全に失敗してるっす!」
こうやって、すぐ茶化して笑う。立派に店を構えてコミュニティを作っているし、評価もされている。でも「別に大したことやってないよ、楽にいこう」って感じだから、居心地がいい。
—代々木上原に店を出した理由って?
「原宿と自宅の中間点だったんで。あと、祐天寺とか東横線の方はもう盛り上がっちゃってるじゃないっすか」
—確かに代々木上原にこういう店ってないよね。品がいい店が多いっていうか。
「あえてそういう場所に出したかったんすよ。別のノリが混ざる感じが面白いだろうって」
—こういう店にしていきたい、とかはあるのかな。
「そうっすね・・・憩いの場っていうか」
—憩いの場。
「それぞれの友達が友達を呼んで、仲良くなって。シーンが出来るっていうか……この場所からカルチャー作りたいっすねえ。一瞬でもいいんで。何年かして『あそこあったね』って言われてえっす」
—とりあえず行けば面白い人たちがたまってる、みたいな。
「そういう場所、東京で欲しいんすよね。高校生の頃とか、洋服屋で会う人たちがめっちゃ大人に感じて。実際自分が同じ年齢になったら全然そうでもねえなって。大人になれないっすね〜」
—ところで、なんで<カラアゲ>って名前なの?
「俺がめちゃくちゃ唐揚げ好きなんすよ。とにかく唐揚げであれば何でも好きっていうか、むしろ唐揚げが無い事に怒るタイプっすね〜」
気がつけばこの日も2時間以上話していた。
最後に、夏にうってつけな底抜けにご機嫌なアロハシャツを買って帰ることにした。自分でもちょっと心配になるくらい派手なヤツだけど、それもいいと思った。
カラアゲおじさんと話してると、人生楽しくやらないと損だって思えるんだよね。
photographer : Yuri Nanasaki/七咲友梨
text : Masaya Yamawaka/山若マサヤ
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