田中宗一郎(以下、田中):BABYMETALって、ここ10年、新しいメタル・スターがいなかったところに、大文字のメタル・バンドとして迎えられたっていう側面もあるわけでしょ?
照沼健太(以下、照沼):なるほど。つまり、その背景には、あまりにサブ・ジャンルが細分化したメタルというマーケットがあった、と。
田中:それって、EDMが形式として一人勝ちしたのと、すごく似てると思うんだよね。ただ違いがあるとすれば、クラブ・ミュージックの場合、特にこの何年かというのは、ダブ・ステップにしろ、ベース・ミュージックにしろ、トラップにしろ、メインストリーム・ポップがそれぞれの形式を取り込んできたという流れがある。代表的なところが、ジェイムス・ブレイクだよね。
James Blake - Radio Silence - Later... with Jools Holland - BBC Two
照沼:遂にはビヨンセですからね。他にも、ここ数年だとカシミア・キャットとか、アルカとかもそうだし。それぞれアリアナ・グランデとか、ビヨークの作品でフック・アップされて。
Cashmere Cat - Trust Nobody (Audio) ft. Selena Gomez, Tory Lanez
田中:彼らみたく個々のプロデューサーがフックアップされる場合もあるし、ジャンルとか、形式そのものが利用される場合もあったり。
照沼:身の蓋もないいい方をすると、パクられる。
田中:リアーナとヴァイパー・ウェイヴとかの場合、そうだよね。
照沼:あの時はすごいバック・ラッシュありましたからね。
田中:だから、「引用か、剽窃か?」っていう、そこのさじ加減というのは、すごく重要なんだけど。
照沼:ただ、クラブ・ミュージックの場合、少なくともメインストリームに常に刺激を与えて、活性化させてるのは、まず間違いない。まあ、それをポジティヴに捉えるか、ネガティヴに捉えるかの違いはあるとは思うんですけど。
田中:アトランタのトラップなんて、もはや数年前からアンダーグラウンドでも何でもないけど、気がつけば、ケイティ・ペリーでさえ、あの808のサウンドを使ってたりするっていう。
照沼:かなり笑えますけどね。「この細かいハット、どうしても必要なの? 流行りだから、使ってるだけじゃない?」っていう。
Katy Perry - Rise
田中:でも、象徴的だと思ったな、あの曲。
照沼:今のメインストリームのポップ・ソングって、猫も杓子もあの細かいハットのサウンドだらけですからね。このケイティ・ペリーの曲のプロデューサーって、マックス・マーティンでしたっけ? スウェーデンの売れっ子プロデューサー。
田中:と考えると、厳密に言えば、アトランタのプロデューサーたちからしたら、完全にパクりでしょ。
照沼:倫理的には明らかにそうですね。
田中:ほら、ベックの“WOW”もトラップっぽいところあるじゃん。
照沼:ありますね。ベック自体はどう思ってるんですかね?
BECK - WOW
田中:今年夏の〈フジ・ロック〉の直後に、「これはトラップからの影響なの?」ってベックに訊いたら、「いや、『オディレイ』の時代から、TR-808しか使わないスカスカのサウンドのヒップホップを作ってみたいってアイデアはあったから、僕からすると、トラップは特に新しいサウンドってわけじゃないんだ」って言ってたけど。
照沼:ちょっと苦しい言い訳っぽいですね(笑)。
田中:でも、そうやって、誰もが共有することが出来るトレンドというか、新しい言語が生まれるっていうのは何よりも健康的だし、それこそがポップっていうことじゃない?
照沼:そこが今の欧米のメインストリーム・ポップの面白いところですからね。
田中:だよね。ただ、ヘヴィ・メタルにしても、アンダーグラウンドではいくつものサブ・ジャンルがあって、しっかりとしたカルチャーを形成してるという点では同じでしょ。でも、ここ10年、そのサウンド自体が現行のポップ・ミュージックに利用されることって、ほぼなかった。
照沼:確かに、欧米のポップスを聴いて、「メタルっぽい」ということはあまりないですよね。ボーイ・バンドがエモをやってたりする場合はあるけど。
Bring Me The Horizon - Shadow Moses
田中:ただ、日本国内だと、ハード・ロックやメタルの手法をアイドル・ポップが使ったりするっていうのは珍しくない。卑近な例だと、パワーコードをミュートしたギター・カッティングとか、サスティーンの効いたリード・ギターとか。
照沼:ありますよね。80年代歌謡曲の時代からの伝統っていうか。
田中:2010年くらいまでのAKB48の公演曲とか、ハード・ロックだらけだったよ。「まだやってんの?」っていう。
照沼:もはやJ-POPの基本みたいな部分もありますしね。もしかすると、世界中でハード・ロックの手法が生き残ってるのは、日本のアイドル・ポップくらいかもしれない。
暦の上ではディセンバー / アメ横女学園
田中:ただ、そこをきちんとやらないと、ハード・ロックやオーセンティックなメタルをネタにしたノベルティー・ソングみたいになっちゃうじゃん。目も当てられない。
照沼:ありますよね。曲によっては、「メタルのこと、馬鹿にしてんのか?」みたいな場合も。でも、BABYMETALの場合は、ある時期から本気でメタルをやるようになった。後で話しますけど、初期の頃はそこまでメタル・マナーに則ってはないですからね。
田中:だから、俺の視点というのは、BABYMETALというのは、アイドル・ポップでもなく、メタルでもなく、勿論、バンドではなく、セリーナ・ゴメスとか、アリアナ・グランデの隣に並べるとしっくりくるような欧米型のポップ・アクトだってこと。
照沼:ただ、音楽的な参照点が、たまたまメタルだったっていう? なるほど。
田中:それが一番しっくりくる気がする。まあ、別に大した話じゃないし、ありきたりな視点なんだけど。
照沼:でも、そう考えると、欧米じゃ最初にBABYMETALをフックアップしたのがレディ・ガガだっていうのも当然っていう感じがしますよね。
田中:実際、こんなに欧米のマーケットをしっかりと意識したポップ・アクトっていないと思うよ。中田ヤスタカが切り開いた畑を別のアイデアでもって、さらにしっかりと耕した。
照沼:特にタナソーさんの場合、「アイドルって何?」っていうのが基本的な立場ですからね。
田中:まあ、アイドルっていうのは、日本固有の概念だし、特に今はさらにハイコンテクスト化してるじゃん。ファンダムとしても特殊だし。たまにすごく苦労するんだけど、海外の人間にアイドル文化について説明するのって、すっごく難しい。てか、俺もよくわかってないから。
照沼:海外にはアイドルって言葉自体、ないんでしたっけ?
田中:それに近い言葉は、ボーイ・バンドとか、ガール・グループなんだけど、また別だから。
照沼:でも、さっきは「たまたまメタルだっただけ」って言いましたけど、音楽的な参照点がヘヴィ・メタルだったってこと自体、画期的なアイデアだったと思うんですけど、そこはどうですか?
田中:いや、まさにその通り。メタルってもはや世界言語のひとつでしょ。ジャンルとしての世界的な浸透度で言うと、レゲエと並ぶんじゃないかな。欧米だけじゃなくて、世界中にバンドがいるし、ファンがいる。
照沼:音楽的な形式としてもロックほど曖昧じゃないし。イメージとしても確立されてますからね。
田中:しかも、ステレオタイプな連中からすると、キワモノ扱いされてるジャンルでもあるでしょ。所謂ヘビメタっていう。
照沼:一部からは虐げられてきたジャンルでもあるっていう。メタリカ以降、ジャンルを飛び出して、世界中から受け入れられたスターが存在しなかったところも原因だとは思うんですけど。勿論、その後もコーンとか、スリップノットみたいなニュー・メタルもあったにはあったんだけど。
田中:それ以外にも挙げればきりがないけどね。コンヴァージとか、マストドンとか、重要なバンドもたくさん輩出されたわけだし。
照沼:でも、BABYMETALって、タナソーさんも最初に言ってましたけど、楽曲ごとにジャンルが違うじゃないですか。「え? 確かにこの曲もメタルだけど、細かく言えば、別ジャンルだし、ひとつのバンドがやる曲じゃないよね」っていう。彼女たちがメタル・ファンにもきちんと受け入れられて、世界的にブレイクしたのは、そこも大きいと思うんですよね。
田中:その通りだと思う。今回5曲聴いただけでも、どの曲も見事にジャンルが違う。
照沼:そうなんですよ。単なるパロディーの集まりじゃなく、細かくサブジャンル化したメタルを横断する大きな“メタル”と言ってもいいかもしれない。
田中:で、何より重要なのは、個々のサブ・ジャンルに対する理解と尊敬、それをきちんとした形に落とし込むスキルがあったっていう。
照沼:そして、そこには“カワイイ”というこれまでのメタルにない要素がある。だからこそ、メタルの世界でも本当に久しぶりに最大公約数になったんだと思うし。
田中:実際、一般層に受け入れられる以前に、世界中のメタル・フリークから受け入れられたことはデカかったんじゃないかな。
照沼:さっきもタナソーさんが言ってましたけど、もはやメタルって世界言語なわけじゃないですか。
田中:それにメタルって、ポップ・ミュージックの世界で、初めて二世代、三世代に受け入れられたジャンルでもあるでしょ。国籍とかエリアだけじゃなく、世代を越えたジャンルでもあるっていう。
照沼:そうなんですか?
田中:それ以前は、ロックにしろ、パンクにしろ、その進化や歴史が世代交代や世代間抗争の上に成り立ってたところがある。パンクが始まったらもうロックは聴かない、テクノやヒップホップに間に合った世代はもうロックは聴かないみたいなさ。
照沼:でも、メタルが二世代、三世代に共有されるジャンルになった理由って、何が一番のきっかけなんですかね?
田中:やっぱり一番の理由はオジー・オズボーンの存在だと思うんだけど。
照沼:オジーがMTVでやってたリアリティ番組の影響もあるんですかね。あれって、かなりメタルをお茶の間化したっていうか。
THE OSBOURNES
田中:やっぱり90年代後半から00年代初頭にかけての〈オズフェスト〉の存在だと思うな。フェスティヴァルって、その元祖である〈ウッドストック〉にしろ、それを受け継いだ英国の〈グラストンベリー〉にしろ、何かしら特定の世代の受け皿でもあったんだけど、でも、〈オズフェスト〉って子どもも一緒に来るんだよね。
照沼:そうか、〈オズフェスト〉って新旧のメタル・バンドが集まるジャンルに特化したフェスティヴァルの先駆けだから、そこで世代を超えるっていう現象が生まれたってことだ。
田中:だから、メタルには世代をまたいだマーケットが存在することになった。乱暴に言うとね。しかも、欧米にも日本にも南米にも膨大なマーケットがある。
照沼:つまり、そもそも潜在的とも言える膨大な受け皿があったところに、そのすべてを横断する音楽性を持ったBABYMETALが出てきた。そりゃウケるでしょっていう?
田中:なんならガンズ&ローゼス以来の最大公約数になりうる存在ってことでしょ。
照沼:実際、BABYMETALのライブも実際に年齢層が幅広くて、年季の入ったメタルファンから若者、そして、小さな子どもたちまでいるんですよね。
田中:まあ、これも特に誰も喜ばない、退屈な分析だけどね。
照沼:じゃあ、BABYMETALの音楽性の部分をいくつかの曲をピックアップしながら、具体的に見ていきましょうか。
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