最初はやっぱり「まがいもの」だった? ゼロから聴くBABYMETAL

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ローマは一日にしてならず。BABYMETALのアルバム『Metal Resistance』が全米チャート40位にランクインしたのも、突発的な事件ではない。そこに至る数年間の音楽的な試行錯誤と段階的な戦略があってこその結果ではないか。

以下の対談記事の骨子は、BABYMETALの初期からの代表的なトラックを5曲、時系列に沿って1曲ずつ考察しながら、彼女たちの音楽的な変化と、その背景にある戦略性についても考えてみよう、というもの。

結果から言うと、日本のマーケットのみに特化した初期のトラックに端を発し、その後は明確な形で海外戦略を視野に入れながら、時には日本というエキゾチズムを取り入れ、時には欧米ポップのトレンドを取り入れたりと、かなり意識的な形で段階的なプログレッションが行なわれている。

つまり、BABYMETAL の全世界的なブレイクは、バンド全体のコンセプトにとどまらず、その時々の時代的な状況、その時々のバンドを取り巻く状況を的確に分析した上で、常に新たな音楽的なカードを投入してきたところにもある、ということ。

ただ勿論、言うには易し。以下の対談で語られているトラックメイキング、ソングライティングの妙は、ヘヴィ・メタルの各サブ・ジャンルにおける音楽的スタイルのみならず、欧米を中心としたポップの潮流の理解なしには果たすことは出来ない。

では、お楽しみ下さい。(それ以前の「BABYMETALが全世界でブレイクした理由」についての考察については、こちらの記事のリードを参考にして欲しい。)


照沼健太(以下、照沼):では、個々の楽曲については、時代順に見ていきましょう。

田中宗一郎(以下、田中):一応、照沼くんに必須だと言われた曲は何度か聴いてみたので、それなりのコメントは出来ると思う。

照沼:まずはデビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」。

田中:これは何年の曲?

照沼:2011年にDVDシングルとしてリリースされた彼女たちのデビュー曲です。もともとBABYMETALは、さくら学院というアイドルグループのサイドプロジェクトのひとつ「重音部」として、アミューズの小林さんというメタル好きの方がプロデューサーとして立つかたちで結成されたユニットなんですよね。

田中:なるほど。この時点では、本陣が別にあって、言ってみれば、まだ余暇的なプロジェクトだったんだ?

照沼:そうです、そうです。


BABYMETAL - ド・キ・ド・キ☆モーニング - Doki Doki☆Morning


田中:ここ最近のBABYMETALの曲からすると、この曲の場合、いまだノベルティー感強いよね。いかにも「取りあえずアイドルにメタルをやらせてみました」っていう。

照沼:明らかにこの曲は今イメージされるBABYMETALとは違う感じの曲なんですけど。でも、この頃からYouTubeで外人からの反応があったみたいです。

田中:リフで押しきるヴァースとかはいいんだけどなー。イントロの時点で、ちょっと聴き手を限定しちゃうよね。

照沼:あきらかに「アイドル」というのが前提にありますよね。

田中:ヴァースとコーラスの間にブリッジがある構成もJ-POP的というよりは、所謂アイドル・ポップのフォーマットだし。

照沼:今からしてみれば、いまだ手探り状態というか。まあ、まだこの時は、恒常的なユニット/バンドとして、その後もBABYMETALを続けていくっていうイメージは希薄だったのかもしれない。

田中:どの曲もbpm計ってみたんだけど、これはbpm168。メタル的なプロダクションはこの時点でもう既に本格的だけど。

照沼:だけど?

田中:ソングライティングっていうか、和声の部分だよね。ありきたりすぎるっていうか。トニックから6度のマイナー行って、サブドミナント行ってからドミナントっていうコーラスのコード進行にしても、少なくともメタルを更新していこうという意識はないよね。

照沼:でも、それが予想外にメタル方面でウケたからマジになって行ったってことじゃないんですかね。

田中:なるほど。

照沼:次は“イジメ、ダメ、ゼッタイ”です。


BABYMETAL - イジメ、ダメ、ゼッタイ - Ijime,Dame,Zettai


田中:これは何年?

照沼:2013年にリリースされたメジャー・デビュー・シングルです。

田中:デビュー曲の「ド・キ・ド・キ☆モーニング」って、タイトルからしてまぎれもなく所謂アイドルソングだと思うんだけど、この「イジメ、ダメ、ゼッタイ」っていうテーマ設定は何なの?

照沼:正直、さっぱり分からないです。個人的にはかなり苦手な曲。

田中:秋元康が得意な分野とも言えるよね。いじめ問題っていう世の中で話題になっているモチーフを取り込むっていう手法もそうだし、そうしたモチーフに対して、誰もが納得する範囲内のモラリティーを前面に押し出すっていう部分でも。

照沼:誰も否定出来ない正論をメッセージに掲げるっていう。

田中:いずれにせよ、意識的にソーシャル・コメンタリーをやろうとしたってこと?

照沼:BABYMETALには「メタルで世直しをする」的なコンセプトがあるので、それの一貫かもしれないですね。

田中:なるほど。じゃあ、この時点で、最初期のコンセプトが明確になり始めたってこと?

照沼:いえ、曲自体はごく最初の頃からあって、ライブの定番曲だったらしいです。篠原涼子“恋しさと せつなさと 心強さと”のパロディーが突然差し込まれたりするし、どこまで本気なのかは分からないですね。


篠原涼子 / 恋しさと せつなさと 心強さと


田中:音楽的な部分で言うと、bpm160越えのメタル。ただ和声的には明らかにJ-POP。イントロのピアノとヴァースが和声的にはほぼ同じで、ヴァースでコードがコロコロ変わっていって、ブリッジでもう一回宙ぶらりんになって、コーラスでまたトニックに戻るっていう。

照沼:最近の曲に比べると、展開も多いし、160越えのテンポにしてもアニソンとかに近いというか。

田中:だから、プロダクションの形式としてはメタルなんだけど、ソングライティングとしては明らかにJ-POP。

照沼:だからこそ、海外でも受けたってところはあると思います。

田中:海外のプロパーなメタル・バンドからは絶対に出てこないタイプの曲だしね。

照沼:この曲がおもしろいのはライブの時ですね。“ウォール・オブ・デス”と呼ばれる、左右にクラウドが分かれて、その後、走って中央でぶつかり合うという暴力的な場面があるんですよ。

田中:KOHHくんがライヴで“FUCK SWAG”やる時にやってるやつだ? あれ、メタル・マナーなんだね。

照沼:でも、そういうアグレッシヴな演出がありつつ、リリックはイジメ撲滅を願う平和な楽曲であるという。そのギャップがとてもBABYMETALらしい光景だと思いますね。

田中:なるほど。

照沼:じゃ、次は“メギツネ”行きましょう。この曲、個人的には大好きなんですけど。

田中:この曲もプロダクションの基調はメタルなんだけど、メインのリフはシンセでしょ。EDMとか、ブローステップみたいな。スクリレックスが書きそうなリフだよね。

照沼:「それ!それ!それそれそれそれそれ!」っていう間の手が入るパートですよね。


BABYMETAL - メギツネ - MEGITSUNE


田中:一般的なポップ・ソングというのは、コーラス(日本だとサビと呼ばれるパート)が一番盛り上がるわけだけど、EDMの場合、ドロップと呼ばれるリフ部分が一番の上がるパートになってて、この曲はそういうEDM特有の構成を取り入れてる。うん、これはかなりの発明だと思うな。

照沼:ライブではオーディエンスが「それそれそれそれそれ!」を一緒にやって大盛り上がりです。

田中:この曲、bpmは140前後で。勿論、それってメタル特有の2ビートでもあるんだけど、2010年代前半のEDMとか、ブローステップとも同じでもあって。

照沼:やっぱりEDMに対する目配せはあったんじゃないですかね? その後、スクリレックスが〈ウルトラ・ジャパン〉でパフォーマンスした際に、BABYMETALをゲストとして招いていますし。



田中:でも、実は、この曲、ドロップのパートがなくても、ソングライティング的には十二分に成り立ってるんだよね。メタルを基調としたポップ・ソングとしては。

照沼:確かに。

田中:にもかかわらず、さらにこのドロップ部分を加えることで、さらにアゲアゲの構成になってる。1曲通して、何度もハイライトが出てくるっていう。

照沼:ハイライトだらけですよね。ブレイクからの阿波踊りみたいになる展開とか本当にめまぐるしい。

田中:そんな曲、これまで聴いたことないっていうか。欧米のポップ全体が構成的も和声的にもミニマルな方向に向かっているのに対し、いかにもJ-POP的なマキシマムな方向性になってて、そこは世界的に見ても、すごくオリジナル。

照沼:だからこそ、欧米でも受けたんだと思いますね。

田中:この時点では海外戦略というのは始まってたの?

照沼:始まってたと思いますよ。「ド・キ・ド・キ☆モーニング」の時点で海外から反響はあったそうですし、何かしら意識はあったはずです。これは明らかに“和”の要素を取り入れていて、MVもそう。

田中:イントロの琴の音色を使ったシンセとか、まあ、かなり意識的だよね。

照沼:因みにライブでは向井秀徳っぽいキツネのお面を使った演出が定番です。

田中:日本人目線からすると、ブレイクに入ってくる“さくら さくら”のメロディとか、明らかにやりすぎだけど、やっぱりこの時点ではオリエンタリズムを全面に押し出すことで、海外マーケットに標準を合わせてたということなのかな?

照沼:そうですね。デビュー当初から予想外の海外リアクションがあったみたいですし、この時点で意識していたのは間違いないでしょうね。日本人相手だったらこれをやる必要はないでしょうし。

田中:ただ、やっぱりこの曲も、曲全体の構成もそうだけど、和声的にもJ-POPだよね。ヴォーカルが乗っかるところはリフ主体じゃなくて、コード主体のパートだし。でも、海外だと、BABYMETALのJ-POP的な部分ってウケてるの?

照沼:海外でBABYMETALが語られる場合、ほぼ間違いなく“J-POP”というタームが出てくるので、意識されているのは間違いないと思いますよ。どっちかというと“KAWAII”とメタルの融合っていう部分でウケている印象はありますが。

田中:照沼くん、彼女たちの2ndアルバム『METAL RESISTANCE』は大傑作だって言ってたじゃない? このアルバムに収録されてる曲にはJ-POP要素はあるの?

照沼:世界的なブレイク後ということもあって、J-POP要素というかアイドル・ポップ要素は薄くなってますね。ただ、ヴィジュアル系バンドのパロディーみたいな曲もあるし、日本らしさを捨て去ろうとはしていないと思います。

田中:メタル・マナーに乗っ取ったところと、日本的な要素を含んだ部分とのバランスがいい案配ってことだ? なるほど。

照沼:ですね。じゃあ、次はブレイクのきっかけとなった“ギミチョコ!!”に行ってみましょうか。

田中:照沼くんが言う通り、これが圧倒的に良い曲だった。

照沼:お、そうなんですね。じゃあ、そこのところ、細かく聞かせて下さい。


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