BOYS AGE presents カセットテープを聴け! 第11回:セス・ボガート『セス・ボガート』

日本より海外の方が遥かに知名度があるのもあって完全に気持ちが腐り始めている気鋭の音楽家ボーイズ・エイジが、カセット・リリースされた作品のみを選び、プロの音楽評論家にレヴューで対決を挑むトンデモ企画!

セス・ボガート『セス・ボガート』


今回のレビュー対象作品は、初の新譜です!こうでなくちゃ!(心の叫び)しかもボーイズ・エイジもリリースしているLAの〈バーガー・レコーズ〉からの作品です。


そしてボーイズ・エイジ Kazと対決する音楽評論家は2回目の登場となる清水祐也なり!


さて、初の新譜レビュー勝負は果たしてどうなる!?

>>>先攻

レヴュー①:音楽評論家 清水祐也の場合


フェミニズムを掲げる女性ミュージシャンの多くは単なる男性批判に終始していてうんざりさせられるのだが、元ビキニ・キルで、現在はザ・ジュリー・ルインとして活動するキャスリーン・ハンナの、『NME』での発言には唸らされた。


「わたしとしては男性からの言葉として、男らしさとそれがもたらす弊害について聞いてみたいと思うのね。伝統的な男性としての役割を満たそうとすると自身の感情のすべてを享受できなくなること、また伝統的な男性としての役割を満たそうとすると家族の大黒柱になることを強いられるけれども、実はそうなりたいわけではないし、それが不得手かもしれないということを(中略)男性同士の会話や曲を通して聞いてみたいと思うわけ」


まさにこれこそが、男女平等というやつではなかろうか。そんなキャスリーン・ハンナも在籍したエレクトロ・パンク・バンド、ル・ティグレに触発されたというのが、サンフランシスコのバブルガム・パンク・バンド、ハンクス・アンド・ヒズ・パンクスのリーダーであり、ゲイでもあるセス・ボガートが、初めて本人名義でリリースしたこのアルバムだ。ここでの彼は、普段の革ジャンを脱ぎ捨て、本当の自分をさらけ出している。


セスは本作の制作にあたって、ベルギーのポップ・シンガーであるプラスチック・ベルトランや、オノ・ヨーコ率いるプラスチック・オノ・バンド、そして日本のプラスチックスに至るまで、「プラスチック」という単語のつくミュージシャンに取り憑かれていたようで、“プラスチック!”というそのものズバリなタイトルの曲まで収録されているが、本作もそういった音楽を連想させるキッチュなサウンドに乗せて、セレブリティに代表される「フェイク」な人たちを皮肉った、一種のコンセプト・アルバムになっているのだ。


同時に、本作ではこれまで以上にセスの中の「女性」が解放されているが、それをサポートするために招かれたのが、個性豊かな女性ゲスト・シンガーたち。先述したキャスリーン・ハンナは化粧品を食べてしまう依存症の女性を描いた“イーティング・メイクアップ”を歌い、LAのパンク・バンド、チェリー・グレイザーのヴォーカリストで、サンローランのモデルも務めたクレメンタイン・クリーヴィは、ニナ・ハーゲンと某有名アイスクリームをかけた“ニナ・ハーゲン・ダッツ”なる曲でヴォーカルを担当している。ドゥーワップ風の“ベアリー21”を歌うのは、12歳の時に立ち上げたブログ『ルーキー』で、一躍ガーリー・カルチャーの担い手となったタヴィ・ゲヴィンソン。女性が憧れる旬の女性たちに囲まれて、まるで10代の女の子のように、キャッキャとはしゃぐセスの姿が目に浮かぶ。


肝心のセス本人はというと影が薄いし、冒頭の“ハリウッド・スクエア”のメロディがポスタル・サービスの“サッチ・グレイト・ハイツ”そっくりなのもご愛嬌だが、「複製品」という本作のコンセプトを考えれば、それも納得だ。そういえば本作のリリースに際して男性用パンティ・ストッキングのCMを模したプロモーション映像が公開されていたが、「男がパンストを履いたっていいじゃない」「女子会に男子が出たっていいじゃない」というメッセージを、自らがマネキンとなることで身をもって実践したのが、このアルバムなのではないだろうか。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

★★★★

とてもよく出来ました。作文の冒頭から、直接的な仮想敵を想定した問題提起からの導入。しかも、「うんざり」という、あたかも書き手である祐也くんがネガティヴな気分に苛まれているかのような感情的な言葉を意識的に配置することによって、読者を一気に惹きつけようとする工夫。とても効果的です。そうした少しばかりドギツメの導入ながら、その後きちんと、作品自体のもっとも重要な特性をジェンダーにまつわるメッセージ性として位置付け、参加アーティストの属性やリリックのモチーフといった諸要素によって、それを証明していくという、こなれた手つきもお見事と言うほかにありません。


そうした理性的、分析的な論旨展開の中に、ところどころ皮肉や当てつけといったネガティヴな感情をまぶすことによって、アテンションを高める。祐也くんのこうしたスタイルが、ありとあらゆるものが分断し、互いのクラスタ間における無関心さによってかろうじて均衡を保っているかに見える危うい状況に対して、どの程度、互いの交通を促すことが出来るのか? 先生には正直わかりません。ただ、ある種のバックラッシュというリスクを引き受けながらも、そうした対話のプラットフォームを築こうとする祐也くんの態度は素晴らしいと思います。よく頑張ったね!


>>>後攻

レヴュー②:Boys AgeのKazの場合

USゲイ・ロックスターの一人、ハンクスが率いるハンクス・アンド・ヒズ・パンクスは、ラモーンズ的なポップさを持ったパンク/ロックンロールを演奏するグッド・バンドなのだが、そのミスター・ハンクスが(多分)本名のセス・ボガートとしてソロ・アルバムをリリースしたのは今春の前くらいだったか。有体に言うとスゲー80年代風なエレクトロ・ポップで、機械を通したヴォーカルだとか、とにかく80’s、80年代だ。


パンク・バンドをやってるとふとした時にこういうものをやりたくなるのか? 我がカリフォルニア在住の友人で、多分セスとも知り合いか友人のフリー・ウィードやアンクル・ファンクルもメインのロックンロールの傍ら、妙なシンセ・ポップやってる。 多分こいつらのエレ・ポップは一般的視点で見て品が無い。だがそれがいい。というか、こいつら普段ヘロヘロのローファイ・ギター・ポップやってるくせに本当は音楽的知性に溢れすぎだろ。あ、今回は私の趣味です。別に現行のバンドのテープで自分が好きなのならなんでも良かったんですけど、ちょうどオーダーするタイミングで新譜だったんですよ。 原稿起こすまでに結構経っちゃったけど。


さて、このセスって男なんだけど、よく知らん。 確かガールズってちょっと前にいたアメリカのバンドのミュージック・ヴィデオに出演してたってのをどっかで読んだぐらい。まあ上にも書いたけど、グッド・バンドのグッド・ルッキング・ガイが――グッド・ルッキング・ゲイ、かな? がロックンロールとは別のグッド・ミュージックを用意してくれたからハピハピ☆にょわ〜ってことでいいんじゃないかな。アイドル・ポップぽいところもある良いアルバムだよ。ルックスもイケメンだ。


でも残念ながらプロデュースは出来ない。 今回のアルバムは(も、のが正しいか)、USカリフォルニアにある天下の〈バーガー・レコーズ〉からのリリースだ。ちなみに日本人では、BOYS AGEが2枚、幾何学模様と今度出るギターウルフ、レーベルの〈キリキリヴィラ〉、あと昔なんかのウェブ・サイトで謎の日本人が出してるのを見た気がするけどそれについてはその後一度も見つけられないのでわからん。暫定私らが日本人初やね(ドヤァ……ニチャァ……)。もう私っていうのめんどいからやめる。


〈バーガー・レコーズ〉は発端が発端なだけにガレージ・パンクとかが勢力図として強いんだけど、ようわからんものも結構出しててね(そもそも例えばハンクスみたいに元がパンクとて普通はアイドル・ポップになったらリリースせん)、ワンス&フューチャー・バンドとか超いいよ。イエス直系の普遍的ながら異様に完成度の高いなプログレッシヴ・ロックだけど。あと音選びのセンスが高い。他にもザ・ガーデンっていう双子のベースとドラムのデュオ、がやってるソロ・プロジェクト。いやバンドもカッコ良いんだけどさ、特にベーシストがやってるエンジョイっていうちょいニューウェイヴっぽいプロジェクトは音階楽器がシンセとベースのみなんだけどとてもスムースで味わい深い。いやうまく言えんのよ。「走る車の外を過ぎ去る街灯が放つ陶器の肌触りのする光っぽい音」って感じなんだけど、多分伝わらない。俺はそうかんじるの。


〈バーガー〉のレーベル・オーナーのショーンが、〈バーガー〉がカリフォルニアシーンのプラットフォームになれば良い、みたいなこといってて、日本にポップアップ・ショップが出来た時も、日本での拠点の一つになれば良いねって言ってたの思い出した。時を経たずして場所を提供してたブランド〈And A〉が事業撤退とはね。〈バーガー・レコーズ〉の日本上陸の第一歩はなんとも言えない結果になったけど、今後はウチが恩を返せればいいんだけど。まあ世界中の俺らのために二つ返事で金出してくれたレーベル全てに恩を返さなきゃならんが、先は長そうだ。俺ら日本で需要ないもんなあ……。


今聴くと14年末にリリースした『TIGER! TIGER!』、最高傑作ってぐらいいい出来なのに、なんで一瞬も話題にならなかったんだろ? 『ELSE』と二枚組で流通させたからか? 元から大して希望を持ってなかったが、『タイガー』が一切ピックアップされなくて日本では望みが絶たれたよ。海外じゃ割と売れてるってのにさ。 そういえばUSデビュー盤の『FAKE GOLD』も全然だったなあ。どこのニュース・サイトも取り上げてくれなかったもんな。あ、また暗黒面に堕ちそう。現実はダースベイダーみたいに都合よく善に返り咲いたりしないよ。


そういえばボガートといえばテリーかアンディか、『KOF98』やるか。いや、下手くそなんですけどね。愛用のキャラはラッキー・グローバーです。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

★★★★

とてもよく出来ました。アーティストの経歴と音楽的傾向、作品自体のサウンド、所属レーベル〈バーガー・レコーズ〉の位置づけ、そして、日本ではあまり浸透してはいない〈バーガー・レコーズ〉のそもそもの特性をきちんと伝え、再定義していく。そうした様々な角度から小気味よく作品の輪郭を明確にしていく手腕と、ユーモラスな文体。総じてカズくんは、もう一流の音楽評論家ですね!


しかも、そこからさりげなく、というよりは、あからさまに自分の作品の宣伝に繋げる強引さも気持ちいい。だって、カズくんたちが作ったアルバム『TIGER! TIGER!』は、日本では本当に見過ごされた名盤ですから。


初めてボーイズ・エイジのライヴを観た時に興奮した先生が一番食いついたのがこのアルバムの最終曲でした。ラドヤード・キプリング愛好家の先生が思わずタイトルの出自について尋ねた時、いや、むしろ引用元はキプリングの詩を引用したアルフレッド・ベスターのSF小説なんだ、とカズくんが教えてくれた時は、先生は本当に感動したものです。これからも作文以上に、いい音楽を作って下さいね。それで儲かるといいね。頑張ってね!


勝敗:引き分け


ということで初の新譜レビュー対決は両者健闘の引き分け! せっかくなので今度はボーイズ・エイジの作品でレビュー対決してみてほしいですね(無責任)


次回もみんなで読んでね!


〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。

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