BOYS AGE presents カセットテープを聴け! 第七回:ザ・ニュー・アメリカン・オーケストラ『ブレードランナー』

日本より海外の方が遥かに知名度があるのもあって、完全に気持ちが腐り始めている気鋭の音楽家ボーイズ・エイジが、カセット・リリースされた作品のみを選び、プロの音楽評論家にレヴューで対決を挑むトンデモ企画!

ヴァンゲリス『ブレードランナー』(購入@中目黒 waltz

今回のレビュー対象作品は、続編制作も話題となっている名作SF映画のサントラ! サントラ好きですね本当に! そしてボーイズ・エイジ、KAZと対決する音楽評論家は、河村祐介!

得意のサントラでKAZはどう打って出る?


>>>先攻

レヴュー①:Boys AgeのKazの場合

『ブレードランナー』、原作はたしか『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。昔ポケモンに『コイルはでんきネズミのユメをみるか!?』って回があったな。初期のポケモンしか知らんが、結構パロディがふんだんにあったな。

サントラを聴くにあたって、あらためてちゃんと見ようと思ってブルーレイを買いました。私たちの音源を発売日前日に中古でオンラインに並べた実績のある某古本屋FUCK-OFFで980円だったから。別に私は中古販売奨励って感じだし、フライング販売そのものを咎めたいわけでもないんだよ。大真面目に発売日にピカピカの新品を買ってくれる熱心なファンに対する侮辱的な商売に腹が立ってるだけだよ。


なんでお前らがファンより先に手垢つけてんだ糞が。って。


おっと、これ以上はいけないや。コレは我が個人的愚痴であってSILLYは関係ないよ(編集で文字サイズを小さめにしてもらうか)。


いやはや、ブルーレイのデジタル・リマスターって凄いのね。恐ろしい画質だったよ。ちょっと引いたよ。映画の面白さに画質は関係ないけど、『ブレードランナー』は元の映像美が強烈で、雰囲気作り、看板や街並みの細かな部分まで巧みに世界が構築されているんだよ。それがリマスターによって迫力をさらに増しているんだよ。VHSとかもそれはそれでアリだけど(ビデオ・ノイズがウニョーンって入るのもそれはそれで好き)、こういうのは体感して見ても良いかもしれない。音楽のリマスターもやるならこれぐらい頑張って。


リドリー・スコットの描く環境汚染と酸性雨に塗れた、当時としては斬新な未来都市観、シド・ミードの美術にヴァンゲリスのシンセサイザー・ミュージックが融合、フランスのコミックであるバンドデシネに近い影の感じとか、役者のアドリブとか、素晴らしいんだよ。82年公開? マジかよ。作中は結構整合性が取れてないんだけど、そこは凄みでカヴァーだよ(だから公開当時B級扱いだったのかな)……たんにスピルバーグのせいか。


あとこの映画のテーマが好きなんだ。機械と人間の違いっていうテーマが。あ、サントラ? オリジナルは公開から12年後にリリースされたんだってさ。今回のテープは実はオリジナル盤じゃないんだよ。一番最初、84年ぐらいに出たオーケストラが演奏したカヴァー・トラック集みたいなものだよ。ヴァンゲリス版は90年代まで発売されなかったんだ。映画のクレジットには〈ポリドール〉の名前まで書いてあったのにね。


そういえば『ブレードランナー2』が製作だとか。主演のハリソン・フォードにとって苦い思い出も多い映画らしいんだけどよく受けたな。『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』で既にジジイ扱いだったのに、あの爺さんも死ぬまで現役だな。でもそんなに期待してないんだ。最近のハリウッドの映像は、なんか昔の映画とは別の感じでCGと実写がチグハグだし、最近見た『ジュラシック・ワールド』とかも楽しいんだけど、それは重量感のある恐竜が自由に、スピーディに暴れまわってたからで、人間ドラマの部分は別に要らなかったとすら言えたもの。私にとっては。


『ブレードランナー』もCGのお披露目会になりそうでさ。『ブレードランナー』の世界観は、スパイスであってメインディッシュじゃない、と思ってるからそういう意味じゃ期待してない。小説版では既に2があるけど、映画はヴァージョン・チェンジが多々あったから新たに脚本を書くのかな。もっと精密に心に焦点を当ててほしいな。説明過多になれって意味じゃないよ。……やっぱり良くも悪くも大いに期待してるみたいだ。


昔からどうも「マシン」って題材に弱い気がする。ロボットが取っ組み合いするやつじゃなくて、人工知能に関わるやつ。『ドラえもん』とかさ。樹なつみって漫画家の『Oz』って漫画が面白い。作中にある「機械が機械を見下して優越感に浸る」描写は、作風も相まってアッサリとしているけれど、かなりエゲツない。2000年ぐらいにあった手塚治虫の『メトロポリス』の新訳アニメもよかったな。今〈週刊少年チャンピオン〉でやってる『AIの遺電子』っていうアンドロイド治療医の漫画とか、もちろん『2001年宇宙の旅』も。

キューブリックの功績はHALの人格付けの成功、そして最大の罪はHALを確立しすぎたことか。「機械と人間」が主題にあるシーンではいつもヒューマン・ビーイングスの在り方について考えさせられてしまう。実際のところ、多くの作品は人間讃歌であるけれど、人間を神格化しすぎだと思うよ。大したもんじゃない。いかに叡智に優れていようとも、野にいる数多の獣らとなんら変わらんよ。誰だったかな、地を這うもの総てを支配させようなんて言ったのは。……なんで私はこんな支離滅裂な臭い話してるんだ?


最後に、最新作『ROMANCE PLANET』がBandcampで試聴出来るから是非。買えばデジタル版でボーナス一曲、CD-Rでボーナス3曲。発売は5月11日だよ。あと、今月リリースのアメリカのソニー・アンド・ザ・サンセッツの新譜にギター・アレンジで参加したからチェックしてね。棚ぼたで〈ポリヴァイナル〉から出すとはね。他人のフンドシだけどさ。




【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

★★★★

とてもよく出来ました。カズくんの作文の素晴らしいところは、それが単に対象である音楽について語るだけに留まらない大きな視野を持っているところです。音楽、映画、小説、デザインといった時代の表現というのは、常に相互に影響しあっている。個々の作品はそうした時代のエピステーメーから生まれることをカズくんは理解していて、それについてきちんと考察を加えている。


この映画が公開された時、大学生だった先生はひとりでガラガラの映画館にいました。映画のエンドロールで監督リドリー・スコットが賛辞を捧げた、メビウスことジャン・ジローに夢中でした。高校時代に夢中になった『童夢』時代の大友克洋の元ネタがすべてメビウスにあったことに知った直後のこと、彼の世界観そのもののヴィジュアルが立体的に表現されていることに大興奮。またウィリアム・ギブソンを筆頭にサイバーパンクという新しい言葉を知ったばかり。同時にフィリップ・K・ディックの存在が自分の中に忍び込んできた時期でもありました。


ポップ・カルチャーにおけるそうした横断性は、特にここ日本では失われつつあるものです。作家側も受け手もそれぞれが属する表現の形式やファンダムから一歩も出ようとしない。そんな傾向が年々強まってきています。大方の表現はジャーゴン化した文脈だらけになり、サブカルへと堕してしまっています。それゆえ、表現としてのアクチュアリティをすっかり失ってしまった。でも、カズくんの視点は違います。すべてが繋がっていることをカズくんは理解している。それを確認出来ただけでも先生は感動しました。頑張ったね!

>>>後攻

レヴュー②:音楽評論家 河村祐介の場合


上映されてからこのかた、「2つで……」と「あのユニコーンなに??」と、延々と全世界のボンクラさん共通の話題を提供し続けるカルト映画『ブレードランナー』(1982年)。監督は『デュエリスト/決闘者』(1977年)、『エイリアン』(1979年)のヒットで、ノリにノリはじめていたリドリー・スコット。ご存知、フィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1968年)が原作(余談ですが『ブレードランナー』自体はウィリアム・バロウズの小説タイトルからとか、もう「ポストモダン」って感じで、そのあたりとかもサブカル、ボンクラ心に刺さりますね)。




そいでもってこちらはギリシャ人アーティスト、ヴァンゲリスによるサウンドトラッック。リリースは1994年と、1982年の公開から考えると10年以上の年月を経てのリリース。もろもろ制作会社との意見の相違などで、特にエンディング付近に関して公開当時から数ヴァージョンあると言われているこの映画ですが、リドリーによる決定版として映像ソフトでの「デレクターズ・カット」版とともにリリースされた作品であります。1982年といえば、ヴァンゲリスもやっぱり映画音楽家としてノリにノッていた時期でありまして、1981年にはヴァンゲリスの真骨頂ともいえる壮大すぎるシンフォニック・シンセのテーマ曲(“チャリオッツ・オブ・ファイアー”)が目印の『炎のランナー』をサントラも手がけ、グラミーも。




ヴァンゲリスは御年73歳のギリシャ人アーティストで、その表現の中心にいち早くシンセサイザーを選びとったアーティスト。なんとなーく、頭のなかのアーティスト・ファイル分類としてはジャン・ミッシェル・ジャールとかぶるというか、もしくはジョルジオ・モロダーからディスコを差っ引いた人というか、ニューエイジというか、まぁ、ともかくいわゆるストリートのダンス・ミュージック発、もしくはクラフトワーク~エレポップといった文脈ではないところで、壮大すぎなシンフォニックなシンセを鳴らしていた人物といった感覚でしょうか。とはいえ楽譜はほとんど読めないという話もあって、それゆえに打ち込み……というのであれば、そのあたりはいまのエレクトロニック・ミュージック系のアーティストとなんとなく通じる部分も。本作を含めてヒットも飛ばしていたので「シンセ音原体験」「当時の未来の音楽」系のアーティストとして、よくテクノ・アーティストの影響元として出きますな。




その映像と相まったエレクトロニック・サウンドでカルト的な人気を集めていたものの、上映当時はスコアを元にしたオーケストラ・ヴァージョンのサントラがリリース(アニメの主題歌を全然違うヤツが歌ってるカセットみたいな感じ?)。そして上述のように1994年までリリースされることはなかった作品。そのあたりは逆に言うと先にいっていた作品に時代が追いついたという感覚もしかりで、オーケストラ顔負けの大げさな当時のヴァンゲリスの音楽性に比べると、よりミニマルで抽象性の高い作品で、そのディスコグラフィとしては違和感があり、当時リリースされなかったのではないかとも。なので本作がリリースされるまで、同様のオリジナル音源を使用した海賊盤も出回ったとか。




バーで酒をあおるデッカードの横で流れるオールディーズ・ポップス風の“ワン・モア・キッス・ディア”以外は、ほぼニューエイジ系のエレクトロニクス・サウンドで占めております。いわゆる希望に満ちているツルっとしたレトロ・フューチャーよりも、1980年代初頭の、退廃の匂いがする「21世紀」「未来感」が伝わってきて、このあたりの質感は、1980年代のデトロイト・テクノ初期の荒廃とした未来像との共通点や、まさに現在のヴェイパー・ウェイヴ/ニューエイジ系が質感そのものをサンプルしている感覚もありますな。


またリリースとなった1994年といえば、テクノ・カルチャーを中心に、アンビエント・サマーが直後というわけで、本作がそのルーツとして再評価されていた部分はあるんじゃないかと。“ブレード・ランナー・ブルース”~“ダマスク・ローズ”あたりの流れは、まぁ若干音色的にダサい感じは否めないですけど、1980年ごろの作品としては十分にアンビエント・テクノ感ありますね。


とはいえ、このヴァンゲリスのあの大げさなシンセの感じ、わりと1990年代とかには「喜多郎系?」「古臭い」という感覚で一時期「なし」だったんですが2000年代中頃のバリアリック~コズミック・リヴァイヴァルで「あり」になったり、上記のヴェイパー・ウェイヴ/ニューエイジ系の流れもあり、逆にいまだからこそ聴ける系音源だったりもします。そういえばセオ・パリッシュによる2002年のデトロイト・ハウス・クラシック“ソリタリー・フライト”には、レイチェルが自らの出自を知る“メモリーズ・オブ・グリーン”ががっつりサンプリングされております。

オリジナルは1994年といっても、まだまだウォークマンや車載機、ダビング・メディアとしてカセットテープが現役バリバリだった時期なのでカセットのリリースもあります。“ブレード・ランナー・ブルース”以降がB面、ということで、B面のみチルなアンビエント・セットとして聴くの、ありじゃないかと。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

★★★★★


よく出来ました。祐介くんの作文は音楽評論家としての役割を果たした、とてもきちんとしたものです。きちんとした情報のアーカイヴと的確な情報の整理、そして、祐介くん独自の視点があります。しかも、客観的な歴史認識から導き出された視点と、自らの世代意識やこの2016年という時代から導き出された視点のバランスがとても絶妙です。ただ気にくわないことがあります。


それは祐介くんが自らをサブカル、ボンクラと呼ぶ、その自嘲性です。実際、祐介くんの視点はとてもサブカル的です。映画『ブレードランナー』について語るのに、最初に出てくるポイントが「2つで十分ですよ」というセリフだったり、何度も改変されたユニコーンの扱いだったりするというのも、祐介くんの視点がオタクのそれだということを示しています。


先生という立場を顧みず、歯に衣を着せず言うなら、祐介くんのようなサブカル的立場こそが偉大なるポップ・カルチャーからアクチュアリティを奪ってきたのです。ポップ・カルチャーはオタクやボンクラの逃げ場所ではありません。常に時代や社会に対して、疑問と混乱を突きつけ、思考し、行動するという能動性を促すものです。そうした何よりも大切なことを忘れてはいませんか? 先生は少し悲しかった。この糞ボンクラ野郎が!

と、ここまで書いて、気がつきました。祐介くん、あなた、作文のモチーフを間違えてますよ。今回のモチーフはヴァンゲリスによるオリジナル・サウンドトラックではなく、82年にリリースされたオーケストラ・ヴァージョンの方です。ホント、ボンクラだな!


と、ここまで書いて確認したところ、編集部の間違いで、ヴァンゲリス版を届けていたようです。悪いのは祐介くんではありません。ボンクラはこちらでした。こっぴどく悠介くんを叱責した先生の立場もどうにもならなくなってしまいました。ごめんなさい。お詫びに満点を差し上げます。頑張ったね!

勝者:河村祐介


ひー! 違う作品をレビューしてしまうという思わぬ展開となってしまいました!


それを踏まえてぜひ最初から読んでみるのもおすすめです(?)

〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。

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