BOYS AGE presents カセットテープを聴け! 第六回:V.A.『ピロウズ&プレイヤーズ』

日本より海外の方が遥かに知名度があるのもあって完全に気持ちが腐り始めている気鋭の音楽家ボーイズ・エイジが、カセット・リリースされた作品のみを選び、プロの音楽評論家にレヴューで対決を挑むトンデモ企画!


『ピロウズ&プレイヤーズ』(購入@中目黒 waltz


今回のレビュー対象作品は、初のコンピレーション! そしてボーイズ・エイジ、KAZと対決する音楽評論家は、清水祐也!


前回KAZが初の勝利を収めたが、連勝なるか?

>>>先攻

レヴュー①:Boys AgeのKazの場合


第5回までテンションが比較的高い状態でキーボードが弾けてたせいで、今回からはしばらくテンションが低いんだよ。結局打ち切りも回避したから憂いも無くなったんだよ。これを書いてる頃もいろいろ世間では大きな出来事があったから、こき下ろす気にもならないし。地震な。知り合いが住んでるから本当に心配だよ。小さなお子さんもいる人だからさ。幸いにしてとりあえず大丈夫だそうなんで、そこんところで安心した。世間では安全圏で愚にもつかない議論が飛び交ったりしてるけど、もうそういうのいいよ。議論って基本的に当事者は蚊帳の外だしね。論じ合いといえば、国会の文字通りの水掛け論中継だけど、あれが、実は「政治家の間抜けなところを見せつけて攻撃対象として意識させることで民衆の溜飲を下げさせたり」、あるいは「裏で官僚がなにかしら行動するための時間稼ぎ」、とかそのためのアトラクションだったらちょっと感心するね。そういえば近所のブックオフに車が突っ込んできたな。幸い怪我人は居なかったっぽいけど、構造上あんな風に突っ込める場所じゃないんだけどなあ。ハンドルの右と左が混乱したのかね。


今回は〈チェリー・レッド〉のコンピレーション、桜はとっくに散ったけど。酔っ払いが多くて本当に嫌になる。たしかに酒を飲んで楽しむのは自由なんだけどね、香水と酒と汗とタバコの匂いが混じってるのには本当にイライラするよ。臭いんです。しかもそれで突然電車の中、私の横で吐き出した日にはもうね、「憎しみで人が○せたら」って横島くんも言ってた。うるさい、臭い、目障り。……私は本当に人間社会生活が向いてないんだろうなー。


そういえば、プリンスも亡くなちゃったね。現代のポップ・ミュージックの歴史も半世紀を超えて、かつてスターになった連中もどんどん現世を去っていく。本当の意味で世代交代が起こる。そんなかで、我々は塵芥に消えるのか、どうなるかね。とりあえず日本の業界はとてもヤバいぞ。みんな貧乏だよ。少子高齢化社会の影響もより強くなるだろうし、これからはNINTENDOみたいに「音楽におけるより新しい遊び」を提案しないとね。やっぱり全国のラジオ局をジャックして……根本的に有能な人材が少なすぎるんだよなあ。J-POP勢の音楽なんて公共の施設とかで聴いてらんないし。もっと環境に適応した音楽とか作って欲しいよ。「ライヴハウス以外でも楽しめる音楽」っていうのを、バンドは考えるべきだよなあ。


あ、今回のテープはタナソー氏が選んでくれたんだけど、日本のインディ・ポップにも影響を与えてるレーベルなのかね。ある意味罪深いけど。いわゆるネオアコ扱いで紹介されてたらしいから。……そう考えると責はないけど罪深いかもな。ワケは、とは今日は言わないよ。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

★★


もう少し頑張りましょう。連載が打ち切られないことがわかった途端、見事に手を抜くなんて、あまりにカズくんらしすぎるぞ。しかも今回のセレクトは先生の渾身の一枚だったのに、この作文の内容はとても残念です。このアルバムを先生が手に入れたのは忘れもしない83年の1月。その冬初めて東京に雪が降った日のことでした。当時の先生は19歳。音楽的なテイストは完全にポストパンク一色。古臭いロックもフュージョンもディスコもすべてゴミ、ポストパンクだけが実験的で冒険的で唯一新しいポップの形だと信じてやまないクソ頑固なクソガキでした。そんなクソ頑固な19歳にとって、このアルバムはまさに福音だったのです。スクリッティ・ポリティと並んで、今も先生がポストパンクの象徴的存在と信じて疑わない、オルダス・ハクスリーの小説『ガザに盲いて』をバンド名に冠したバンド、アイレス・イン・ガザを発見したのもこのアルバムでした。パンクは死んだ。だが、ポストパンクだけがポップ音楽をいまだ更新させようとしている。その大志に伴わない演奏力ながら、いくつもの新たなリファレンスと新たなアイデアによって。そう感じさせてくれるに十二分な大傑作コンピレーションでした。ここに収録されているモノクローム・セットもまた、まぎれもなくポストパンクの象徴のひとつ。日本のネオアコ文脈の中で傑作扱いされている3rdアルバム以前の作品こそが彼らモノクローム・セットの真骨頂だと今も思っている先生からすると、後年、この作品がこの島国において、ネオアコという日本独自のガラパゴス化した文脈に取り込まれていったことは、何よりも許しがたいことでもあったのです。でも、そこには気づいてくれたんですね。もう少しその辺りを書いてくれれば良かったのに。また頑張ろうね。ギャラ出します。


>>>後攻

レヴュー②:音楽評論家 清水祐也の場合


まずはタイトルの響きが素晴らしい。ピロウズ&プレイヤーズ。枕と祈り。誰だって一度は枕に顔を埋めて、願いごとをしたことがあるはずだ。


イギリスのインディ・レーベル、〈チェリー・レッド〉が1982年のクリスマスにリリースしたこのコンピレーション・アルバムを自分が初めて聴いたのは、大学生の頃。選曲を担当したレーベルA&Rのマイク・オールウェイは、のちに〈エル・レコーズ〉を立ち上げ、コーネリアスこと小山田圭吾の〈トラットリア〉にも携わった伝説の人物で、本作もネオアコ・ファンの間ではバイブルのような扱いになっていた(そういえば小山田圭吾がプロデュースしたカヒミ・カリィの1stシングルのタイトルも“マイク・オールウェイズ・ダイアリー”だ)。


だからそんな情報から本作を聴いて、正直面食らってしまったのを覚えている。イタリアの現代音楽家ピエロ・ミレシからパンク詩人のアッティラ・ザ・ストックブローカー、果ては60年代ガレージ・サイケ・バンドのミスアンダーストゥッドまでが雑然と並んだ内容は掴みどころがなく、ボサ・ノヴァ風のギターを爪弾くエヴリシング・バット・ザ・ガールのベン・ワットとトレイシー・ソーンの楽曲を除けば、収録されたアーティストたちのぶっきらぼうで感情を押し殺したような歌声は、「ネオアコ=ネオ・アコースティック」という言葉の持つイメージとは程遠かったからだ(ちなみに本作には日本のみでリリースされた続編が存在するのだが、日の丸をあしらった安易なジャケットはともかく、そちらの選曲のほうがはるかに自分のイメージする「ネオアコ」に近かった)。


けれども十数年ぶりにカセットで聴く本作は、中音域が強調された音質のせいだろうか、それともデッキの回転数が狂っていたのだろうか、以前とは印象が違って、すんなりと受け入れることが出来た。でも一番の理由はきっと、自分が年を取ったからなのだろう。70年代から活躍するシンガー・ソングライター、ケヴィン・コインの“ラヴ・イン・ユア・ハート”はタイトルからしてラヴィン・スプーンフルみたいだとか、フェルトのローレンスの歌い方はテレヴィジョンのトム・ヴァーレインによく似ている(実際、フェルトというバンド名はテレヴィジョンの“ヴィーナス”という曲に由来するらしい)とか、今まで気づかなかったことに、気がつくようになったのだ。ネオアコとは言ってみれば「しらけたパンク」で、当時の自分が感じたある種の近寄りがたさがそこに起因していたということも、今ならわかる。いやむしろ、そのことがどうしようもなく愛しく思えるのだ。


あれから十数年が過ぎて、今ではもう、願いごとをすることもなくなった。風変わりな若者たちの心の拠り所だった〈チェリー・レッド〉はいつしか過去の音楽の再発レーベルになり、寡作だったベン・ワットも、30年ぶりのソロ・アルバムをリリースした。いくつかの願いは叶わなかったけれど、いくつかの願いは叶えられたのだ。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

★★★★


よく出来ました。2010年代におけるポップ音楽批評は二つの問題に直面しています。ロックンロールの誕生から数えても60余年。それがブルーズやヒリビリー、ディキシーランド・ジャズ、あるいは、世界各地のフォーク音楽に端を発すると考えると、その歴史は膨大なことになっています。もはや個人がその全貌を把握しようとすることは容易ではありません。それがまずひとつ。ただ現在の我々が置かれている状況は、20世紀と違い、そうした音源に気軽にアクセス出来ることになった。と同時に、研究も進んでいる。しかし、歴史とはひとつの正解があるわけではなく、異なるコミュニティや文化、異なる世代、異なる個人それぞれに存在するものでもあります。よって、いくつもの歴史が存在する。批評家は自らのコミュニティ、文化、世代からのパーステクティヴによって、その対象にアプローチすべきか、それとも、大文字の歴史があるという前提の元にその対象に臨むべきか。正直、そこに答えはありません。これがもうひとつの問題。祐也くんの作文は、現在のポップ音楽批評が直面している困難さを炙り出すような内容になっています。祐也くんより学年が上の先生とはまったく違うパーステクティヴから書かれている。でも、どちらかが正解というわけではない。そこに2010年代のポップ音楽批評の面白さと困難さの両方があるわけです。それを示してくれただけでも、クラスのみんなは祐也くんの作文からいろんなことを学んでくれるに違いありません。頑張ったね!



勝者:清水祐也


残念ながら連勝ならず! そして各レビューが比較的短めにまとまったのに対し、田中宗一郎先生のコメントが長め!


次回はコメントのほうが長くなるかも!?

〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。


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