BOYS AGE presents カセットテープを聴け! 第18回:ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『アポロ18』

日本より海外の方が遥かに知名度があるのもあって完全に気持ちが腐り始めている気鋭の音楽家ボーイズ・エイジが、カセット・リリースされた作品のみを選び、プロの音楽評論家にレヴューで対決を挑むトンデモ企画!


今回のお題は、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツが1992年にリリースした4thアルバム『アポロ18』。これは、オリジナル・メンバーのジョン・リネルとジョン・フランズバーグによるデュオ編成から、フル・バンド編成へと移行する前の最後の作品。ゆえに、二人の奇才っぷりがもっとも濃密に凝縮された、バンド初期を象徴する傑作です。そして、グランジ・エクスプロージョンが巻き起こっていた1992年という時代の影に埋もれてしまった、まさに隠れた名盤でもあります。


ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『アポロ18』(購入@中目黒 waltz


ボーイズ・エイジ Kazと対決する音楽評論家は、本企画ではお馴染みの天井潤之介!


さあ、果たして今回の勝者は?!




>>>先攻

レヴュー①:音楽評論家 天井潤之介の場合

現在に通じるニューヨークのアンダーグラウンド/インディ音楽には、大きく分けてふたつの系譜があるとする。ひとつは、スーサイド以降のパンクやノー・ウェイヴを由来としたアート・ロックの系譜。もうひとつは、90年代にモルディ・ピーチズやジェフリー・ルイスを顔役としたアンタイ・フォークの流れも含むローファイ~バロック・ポップの系譜。今で言えば、パーケイ・コーツや〈セイクリッド・ボーンズ〉周辺のバンドに前者の、かたや、フランキー・コスモスやエスキモーといったシンガー・ソングライターがたむろする「ジ・エポック」界隈のコミュニティに後者の系譜を見つけることができるだろうか。そして、本稿の主役であるゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツのふたりは、後者の系譜の中興の祖にあたる存在、とあえて言うならば位置づけることができるかもしれない。


もっとも、あくまでこれは乱暴な二者択一に無理やり当てはめるとした場合の話であって、実際のところはぶっちゃけ曖昧。80年代の初めごろに結成された彼らの音楽には、その世代らしく、そもそもリアルタイムに刷り込まれた皮膚感覚のようなものとして前者の系譜を色濃く留めたところがなきにしもあらず。ギターや鍵盤からラッパやシンセまでマルチに操る演奏はローファイなチェンバー・ポップといった装いながら、時おり覗くエスノなテイストや黒いダンス・フィールは、それこそジェームス・マーフィも愛した〈ZE〉のカタログと彼らが同じ時代の産物であることを頷かせること請け合い。一見佇まいの似たハーフ・ジャパニーズのフェア兄弟や同期のヨ・ラ・テンゴと比べても音楽的な振り幅は大きく、醸しだす「諧謔」の含量はかなり多め。サービス精神が過剰で、ミュージック・ラヴァーというよりミュージック・フリークといった形容がぴったりなクセのあるエキセントリックなノリは、じつは元ニューウェイヴ・バンド崩れというサガもあるのか、なんなのか。


要するに、とても器用で多才。マルチ奏者なところも含めて、ガレージ・ロックやパワー・ポップからジャズやキャバレー音楽~ボードヴィル風まで演じ分ける芸当に長け、かつ、その楽曲のベースにはカントリーやフォークやブルースといったアメリカーナ的なところの基本からカートゥーン・ミュージックみたいな大衆音楽まで広く通じた素養を感じさせる。その名調子は、この20年以上も前になる4枚目のアルバム当時からしてなかなかのものだ。 


全部で20曲弱。できれば頭から通しで、なんとなしにただ流し聞くだけでも楽しいしその醍醐味を味わえるところだけど、あえてハイライトを一曲だけ選ぶとするなら、最後から2番目の“フィンガーチップス”か。というのもその曲、5分足らずの間にほとんど数秒や1分程度のバラバラな演奏が数珠繋ぎにコラージュされた構成になっていて、言うなれば、彼らの器用で多才な魅力がいささか極端なかたちで詰め込まれたスニペット音源、として聴けなくもないから。様々なスタイルの音楽を一見脈絡なく繋ぎ合わせてみせる(ことで、何か見えない文脈を訴えかけているようにも聴こえる)それは、さながらクリスチャン・マークレイのレコードのカットアップのよう、とも。もっとも、そんな穿った聴き方などしなくても、試しに“ナロー・ユア・アイズ”や“シー・ザ・コンステレーション”をひとたび聴いてみて、このふたりがリチャード・ロイドやクリス・スタミーといった同郷の先輩格に連なる非凡なソングライターであることを再発見するだけでも、このアルバムを聴く価値は十分にあると思うのだけれど。


まあ、いずれにせよ、この『アポロ18』は聴き手の態度や意識によっては、今あらためて聴いても十分に楽しめる作品だと思う。そして、いや、「アート・ロック」としての彼らの音楽を聴きたいという方には、本作よりさかのぼる初期の作品をお勧めしたい。メジャーと契約して大きな成功を手にして以降、さらに子供向け音楽の制作で一山も二山も当てて以降、よくも悪くもウェルメイドな落ち着きを見せていった彼らだが、まだバンド編成を敷く以前のデビュー・アルバム、とりわけ結成間もない当時のデモ音源は今聴いても珍味。もっとも頭がおかしかった頃のフレーミング・リップス、『フィールズ』以前のアニマル・コレクティヴ、ウィーンやヴァイオレント・ファムズ、レイモンド・スコットなどなどが神出鬼没に顔を覗かせる、それはまるで化け物小屋のような。それいくらなんでも盛り過ぎだろ、といぶかしむ向きはぜひ、ネットで探してみたりしてみては。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

 ★★★★★

非常によく出来ました。今も当時ももっとも過小評価されていて、この2017年に聴くにはもっとも最適の寝かし具合とも言える究極の秘宝。この珠玉のレコードを改めて聴いた潤之介くんの興奮が見事に伝わってくる作文でした。リリースされたのがグランジ・エクスプロージョン直後の92年ということもあって、歴史の傍流に押しやられがちな本作ですが、潤之介くんの作文はリアルタイムのヨコ軸の視点と、今から当時を振り返った時のタテ軸の視点の両方を駆使しながら、時には当時の記憶を、時には今の興奮をスパイスに、この奇妙で魅力的なレコードの輪郭を活き活きと浮かび上がらせています。


潤之介くんが書いてくれた2016年〈サインマグ〉年間ベスト原稿のように、いわゆるロック音楽が低調だと言われる世間の風潮に対して、ちょっと不機嫌な時の作文もエッジが効いていて好きですが、この作文のように対象にエキサイトしながら、過去と今を縦横に行き来する潤之介くんの作文が先生は本当に大好きです。今年はそんな潤之介くんの作文がたくさん読みたいな。


ところで、先生としては、この2010年代にロックとは呼ばれていない音楽の方が、このレコードと同じ系譜にある気もするんだけど、どうですか? また放課後にでもお話しさせて下さいね。楽しみにしています。これからも頑張ってね!



>>>後攻

レヴュー②:Boys AgeのKazの場合


この原稿を書いてる前の週、久しぶりにタナソー氏にラインした時(彼は忙しいので俺たちみたいな売れないバンドに構う暇は無いのです。いや知らんが)、「MD」って送ってきたからメガドライヴだと思ったら、マーチャンダイズって意味でした。


おとなのせかいはとてもきびしいのです。ところで、俺たちが売れないと日本の音楽業界は結局近く完全に崩壊するよ。だから月に一枚デジタル・アルバムを1,000人が買えばとりあえずツアーとか困らないの。よろしく。たった1,000人だよ。過疎った村かよ。


さて、アポロとは、アポロ計画を思い浮かべる人も多いだろう。もしくはチョコレートかな。アポロは、ギリシャ神話の太陽神アポロンのラテン語名だよ。そうなると「太陽神計画」って意味になるのかな? 尊大というか、昔の映画『太陽を盗んだ男』? を思い出した。たしか原爆を日本国内で作った男が云々っていう、『博士の異常な愛情』みたいな映画なのかな? 見たことは無い。『アポロ18』は、アポロ18号から来てるのかな。計画の中で打ち上げが中止になった機体だったはず。なんか同名の映画があった気がするけど、それはずいぶん後に作られたんだっけ? 知らん。今日はフワッとしてるな。PCエンジンシャトルも思い出した。


They(略)sはね、友達のYounger Siblingsってバンドのやつがすげーすきでね。あいつあんなに天才的なメロディ・センスなのになんでちっとも売れないんだろう。そのバンド自体は解散しちゃった。いや、解ってるのよ。少なくとも音楽は、純粋な音楽の力を持つ奴が勝つわけじゃ無いんだよな。3年ぐらい前に浦和美園だかのHMVでうちのCDを当時の店長さんが大きく展開してくれてて期待に胸膨らんだけど、結果的には窒息死寸前の散々たる結果だったし。音楽売るのに音楽の才能なんていらんよ。ゴーストライターでも連れてくりゃいいしな。


They Mightは今も活躍してるな。ちょうど3年ぐらい前に1stと2ndがひとまとめになったやつを買ったよ。いや、素晴らしいに尽きる。それ以降のはほとんど聴いてなくてたまにシングル単位で聴いたりとか程度だけど、いつも色々やってていいオヤジどもだよなあ。そりゃ爆発的にヒット出すバンドじゃ無いけど、楽しい音楽でさ、かくありたい姿のひとつだよ。いやけどこいつらメジャーとも普通に契約してたな。〈ラフトレード〉っつーイギリスの有名な……こんなの読むぐらいだから知ってるか、トコとも契約してた(wikiを見ながら)。


……なんか、そうなるとちょっと具合の悪い話になってきたな。過去とはいえ、なんで大手と契約してんだこいつら。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】

★★★★


とてもよく出来ました。随分前に提出してもらった作文なのに、うちの学校にファイナンシャル的な諸々の変更があったりしたせいで、カズくんたちに通信簿を書いてあげるのがようやく今になってしまいました。ごめんなさいね。


そう、思い出しました。カズくんにラインを送った時の先生は、北米のメインストリームのアーティストが作るマーチャンに夢中な時期だったのを。あの直後、カニエ・ウェストの『パブロ』のマーチャンを大量に買い込むために、日本円にして6万ほど散財したところだったはずです。いやあ、無駄遣いしたわ、まったく。


おい! だったら、ボーイズ・エイジのフィジカルCDの10枚や20枚も買ってやれよ! というクラスのお友達たちの声が聞こえてきそうですが、先生は朝から深夜までストリーミング・サービスで最新の新譜やまだ聴いたことのない旧譜を聴くのが忙しくて、わざわざ店頭に足を運んでも大した発見も思わぬレコメンドもないCD量販店に出かけていくほど暇ではないのです。デジタル? うーん、データが増えるのも嫌なんですよね。と敢えて酷いことばかり言ってますが、今は昨年のボーイズ・エイジのアルバム『Avians』を聴きながら、この通信簿を書いているので許して下さい。でも、きっとカズくんのポケットには10円も入りませんね。無碍なるかな。


と、カズくんを真似て、ひたすら脱線しようとしてみましたが、やはり付け焼刃の真似事はどうにもならない。どこまでもスキゾフレニックなカズくんの作文の足元にも及びません。しかし、メジャー・レーベルに対するカズくんの憎悪といったら半端ないですね。でも先生の記憶からすると、90年代のメジャー・レーベルの大半は異業種に買収されていなかったし、気骨のあるA&Rだらけだったんですよ。今は知らん。


ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツはもはや30年以上ずっと活動し続けてるのが仇になっているのか、なかなか再評価の波がやってこないバンドのひとつですが、ボーイズ・エイジもまた間違いなく彼らが歩んできた轍の上に存在するバンドでもあります。継続は力。などと何の慰めにもならないことを言ってしまいましたが、作家たるものベネフィットなどという言葉は口にしてはなりません。ひたすら作品を作るのみ。あ、こんなのカズくんには釈迦に説法でしたね。これからも頑張ってね!


勝者:天井潤之介


ということで、本企画では無双しまくっている天井潤之介が今回も勝利! しかし先生、本校がしばらく休講だった理由をサラッとばらさないで下さいね♡ 2月は授業の数が一気に増えますよ。次回もお楽しみに! 


〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。

過去の『カセットテープを聴け!』はこちらから!

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