いとうせいこうインタビュー③「HATEが溢れる時代だからLOVEを」

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編集者。雑誌屋。SILLYコントリビューティング・エディター。

日本語ラップのオリジネーター、いとうせいこうが語る濃いトークはまだまだ続く。「フリースタイルダンジョン」の舞台裏が語られたvol.1、ヒップホップ黎明期の秘話が語られたvol.2に続く最終回は、今年開催された「いとうせいこうフェス」と、自身が参加するバンド「DUBFORCE」について。この活動についてのご本人の思いが語られたと同時に、HATEな言葉が溢れる現代への、熱きメッセージが。

「フリースタイルダンジョン」で初めていとうせいこうを知ったという若者も、ぜひ最後まで熟読あれ!

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いわばフリー“リーディング”

あれをずっとやりたかった


ーDUBFORCEでは、フリースタイルとは対象的とも思えるポエトリーリーディングをしてらっしゃいますよね。あのスタイルを選ばれたのはなぜなんでしょう?


ある詩を読むスタイルですね。詩は用意してるものを読んでるんだけど、でも、毎回違う乗せ方をしてるんですよ。そうなっちゃんですよね、セッションになっちゃう。僕がミュージシャンじゃないからかもしれないけど、同じ言葉の束を読むにしても、その日の気分でズレていっちゃったりして、そしたらDUBFORCEのメンバーは腕の立つミュージシャンばかりだから、僕の言葉をホントよく聞いてて、その気持ちみたいなもんを汲んで演奏してくれるんですよね。それで、自然と尺が伸びちゃったり、縮んでサビに入っちゃったり、とか自在にやってくるんですよ。そうすると、僕もそれに乗っかって、また違うふうに読む。そういうのがDUBFORCEでやってること。

だから、僕がやってるのは、フリースタイルじゃなくて、フリーリーディング。読み方が変わっちゃうし、それがリズムに乗ったり乗らなかったりもするというフリーな感じでやってる。そこにダブマスターXがダブミックスを重ねていくんで、音が前衛的に、エコーがいっぱい効いて、音が変調されていく。でも、お客さんは基本的にスゴイ踊れるというものをやってる。結局、音とリズムの周りを回ってるという意味ではやってることは全然変わらないですね。でも、結局ああいうことをずっとやりたかったんですよ。


ーせいこうさんにとって、そこまで思い入れの深いバンドだったんですね。オリジナルの詩だけでなく、名作などの詩を読むというスタイルを選ばれたのには何か理由はあるのですか?


自分の詩も読んでるんだけど、自分の詩のなかに他人の詩も入っちゃうというのは、ヒップホップでも、フリースタイルでもやってることじゃないですか。あるフレーズがきたら、有名なフレーズを入れる。でも自分なりに変えてやる。そのやり方はもう文芸の世界ではごく自然なこと。それこそ和歌の時代からそうだった。本歌取りってやつですね。もともとあったやつを平気で引用する。それが時代を超えて繋がっちゃうというのが面白いでしょ。

言葉ってある意味、時を超えることがいちばん簡単だから。「ここに宇宙的な表現欲しいな。でも自分で宇宙的な表現を自分で書くとわざとらしいな」って思ったら…「ななおさんの詩のアレが良かったなぁ」って、それを読んじゃう。(編註 : ななお さかき/世界的な詩人・ヒッピー)

それは詩に限らず、その日の新聞でもいいわけですよ。周りにそういうテキストを散らしておいて読んじゃう。そうすると、自分のラップの歌詞も自然と繋がってきて、今度はそれをレゲエ的に裏打ちで乗せてっちゃう。

DUBFORCEはいろんなことができる幅が広いんですよ。フリースタイルだったら、若い子たちの脳みその方が絶対フレッシュだし、思い出せることも多いし、覚えることもいっぱいできる。自分のキャリアなりにできることってなんなんだろう、音楽のなかでどんなことができるか、人をどんな気持ちにさせたいか、って考えてたらこうなった。

最初はラップから始まってるけど、同じなんですよ。リズムにその場で乗せる。フリースタイルの場合は、思いついたフレーズをどう飽きさせずに乗せるかがテクニックで。上手いやつほど、よく止めるもんね。リズムを止めて、同じリズムで乗らないようにして。リズムに対するアプローチを変えたり、いろんな手を使うわけですよ。それをバンド側でやってるというのが、いま自分がDUBFORCEでやってることなんです。

ヒップホップ黎明期の仲間たちでもある、DUB MASTER X、増井朗人、屋敷豪太など元MUTE BEATのメンバーを中心に結成されたDUBFORCE。その初めての音源も発売されたされたばかり。5曲入りのCDで、UKのレゲエバンドASWADの「Dub Fire」をカバーし、いとうせいこうがダブポエットを乗せた1曲も収録されている。
『DUBFORCE / DUBFORCE』



面白いものを見つけるのが好き

見つけたらやっぱり紹介したい


ー先ほど少し話が出ましたけれど、今年、『建設的』の30周年の祝賀会として「いとうせいこうフェス」を行いましたが、とっても貴重なイベントだったと思います。いま音楽フェスはとても数多くありますが、音楽だけでなく、これだけいろんなカルチャーが混ざったフェスはなかなかないですから。


そうですね。テレビタレントが出てきて腕を見せるコーナーがあれば、細野晴臣さんと一緒にブラックユーモアのコントやったり。僕が面白いと思ってる劇団の「東葛スポーツ」とか「ナカゴー」とかにも出てもらったり。それは結局、面白いものを見つけるのが好きだから。見つけたらやっぱり「スゴイいいんだよ!」って紹介したいですからね。それがあのカタチになった。

ヒップホップも、ラガマフィンも、当時僕以外の人がやってたら、僕がやらなくても良かったんですよ。例えば、詩を書く側に回るとか、宣伝する側に回るとか、プロデュースするとかでいいんですよ。たまたまいなかったら自分でやったというだけで。

だから今回のフェスも、出てもらった人たちは、その人ならではの面白いものを持ってる人たちだから、それを持ってこざるえない。例えば、岡村靖幸の面白さは自分がからんだ方が引き出せるな、と思えば、岡村くんと数曲やる。MCU(KICK THE CAN CREW)が『マイク2本』という、僕の昔作った『マイク1本』という曲をベースにした曲をやりたいというから一緒にやる。自然と、自分がやるものと人がやるものがゴッチャになっていって。

そうすると、僕は編集をしてるだけで、本当にゼロから自分で作ってるのとはちょっと違いますよね。

いま自分がやれるヒップホップは

こういうものだと見せたい


ーたしかに、あのフェスはもともと編集者だった方らしい、すごく編集者的な作り方のフェスだな、と思いました。


編集で、かつ自分も出るという。他の人ができなさそうだな、と思ったら自分がやる。でも、基本は全体を見てほしいという気持ちが強い。だから順番とかも、知り合いの作家に頼んだんですけど、最終的にチェックしてちょっと変えたり、少し足したりして。そうすると優秀なスタッフたちだから、すぐ対応してくれていいものになった。まさに編集長的な感じでした。

たとえば三浦憲治さん(編註 : ローリング・ストーンズやPILなどを撮影する巨匠カメラマン)が、「フェスやるらしいね、撮りに行くよ」って言ってくれたから、「憲治さんに撮ってもらえるなら最高です!」ってなるじゃないですか。憲治さんって、ステージの下から長い棒を突き出して撮ったりするんですけど、「あの棒、お客さんが後ろから見たら気になるよな」と思って。じゃあ、憲治さんが今まで撮った写真を貸してもらって、スライドで見せて「そこでウロチョロしながら写真撮ってるおじさん、スゴイえらい人なんですよ」って紹介する。そうすると、お客さんは感心して、三浦憲治という人にも注目がいくし、棒が何かも分かる。カメラに興味ある人だったら、あんな風になりたい、と思うかもしれない。そういう一手を打つ。

そういう一手一手がいっぱいあって、イベントってそんな小直しが楽しんですよね。お客さんの気持ちに立って、「この一手があれば、不平不満が出ないんじゃないか」とかを考える。

本当に直前に全部作ってるんで面白いですね。雑誌の編集だったら前から準備して作っておかなきゃならないけど、イベントは違う。直前でも、「ここもっとこうしたい」ってスタッフにいうと、優秀な人たちだからすぐやってくれる。お客さんには見えてないだけで、やってることは完全に編集でした。


ー今後も何らかのカタチで続けていく可能性はあるんでしょうか?


まぁ、そうですね……あそこでやりきっちゃったからね。最初の日のトリのところで、DUBFORCEと小泉今日子さんが一緒にやって、USGROWというグラフィティアーティストにライブペインティングもしてもらったんだけど。

さっき言ったように、僕はDUBFORCEというものが、自分がやりたかったことの、ある意味収束してる部分なんで。「あれをどうやっていくか」「あの凄腕のミュージシャンたちと一緒にどのくらいのことができるんだろう」、そちらをスゴく考えてますね。

いま自分がやれるヒップホップはこういうものだというのを見せたいんですよ。自分にはフリースタイルはできないけど、その代わりこういうことできるからって。それをずっとやりたかったんです。そしたら、不思議なことに、みんながこういうバンド作ろうっていっせいに集まってバンドになっちゃった。自分がやっていきたいのは、当面はあれですね。


いとうせいこうフェス〜デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会〜」の模様は、2017年1月2日と3日、スペースシャワーTVで放送される。計5時間にわたるオンエアーで、9日にはリピート放送も予定。

人をハグする言葉の方が
長い時間をかけて
人に染み込む力がある


ー最後の質問です。インターネット登場以降、人が浴びる情報や言葉は何倍にも増えました。だれもが発信者になれるSNSが、当たり前の時代。そのことについて、言葉を表現者として使ってきたせいこうさんはどう感じられていますか? ポジティブな面とネガティブな面があると思うのですが…。


そうだね。今はネガティブなことの方が多いんじゃないかな。人を傷つけちゃう言葉の方が力を持っているし、そんな言葉の方が人を惹きつけちゃうから。あんまり言葉のいい使い方ができてない時代かもしれないよね。

いとうせいこうフェスでもメッセージしてたんだけど、世の中にはHATEがあふれてるから、これはLOVEのフェスなんだって。カウンターカルチャーはLOVEなんだ。優しくすることや、愛を訴えること自体が、世の中に反抗すること、世の中に歯向かってることなんだ。

ヒップホップとかパンクとかレゲエとかは、もともとレベルミュージックであって、反抗のための音楽なんだけど、今それは何に反抗するのかって言ったら、人を殴ることじゃない。人をハグすることの方が、HATEがあふれてる今の時代には大きな反抗なんだ。だから俺はLOVEをやる!って。

だから、あのフェスはお客さんもすごいニコニコしてたんですよ。そんなふうに、ハグすることの方に言葉が集中するようなことにだけ、自分は加担していきたいですね。せっかく言葉があるのに、人をむやみに傷つけることだけに言葉が使われてしまうと、言葉が可哀想すぎるから。だから、みんなでLOVEを。

フリースタイルだって、互いにディスりあってはいるけど、最終的にはみんな握手するし、ユーモアがある言葉を使うでしょ。相手を認め合って、リスペクトがあるうえでやってることだから、それ自体LOVEだと思う。LOVEって単純に「愛してる」って言えばいいってもんじゃないから。

若い人にも、そういう言葉の方が本当は長い時間をかけて人に染み込む力があるんだって、分かってほしいですね。

「AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」

放送日時:12月31日(土)20:00 ~ 23:45

「フリースタイルダンジョン」のスペシャルプログラムが12月31日にAbemaTVにて放送される。日本全国から選ばれし凄腕ラッパーたちが集結!ここにお馴染みの最強モンスターたち6人も加わり、東軍と西軍の2チームに分かれバトル。『フリースタイルダンジョン』史上最高額の賞金300万円は手にするのは? 「フリースタイルダンジョン」初登場のSIMON JAPはGADOROと、呂布カルマは漢 a.k.a. GAMIと対戦。審査員を務めるKEN THE 390とERONEの対戦など、見逃せないバトルが連続。

Photographer : 下城英悟 / Eigo Shimojo(いとうせいこう氏)、Yuki Hayashi(会場)

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