日本語ラップの先駆者・いとうせいこうに訊く、フリースタイルが支持される理由

a2c_HASEBE

編集者。雑誌屋。SILLYコントリビューティング・エディター。

フリースタイルダンジョン」の盛り上がりには驚かされる。

DJがかけるサウンドに合わせて即興(=フリースタイル)でラップし、言葉でバトルする…。そんなヒップホップのプリミティブなカルチャーが地上波のテレビで放送され大きな人気を得るとは。毎回、若きラッパーたちの挑戦を受ける“モンスター”に至っては、今やお茶の間の人気者的存在。だれがこれほどの盛り上がりを予想したであろうか。

この大晦日には、特番として「AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」が放送される。時間は夜8:00から。そう紅白歌合戦の真裏。AbemaTVの放送で、国民的歌番組に真っ向勝負するわけだ。

「フリースタイルダンジョン」が、そして日本のヒップホップが、日本語ラップが、なぜこれほどまでに盛り上がっているのか? それならぜひこの方に話を聞いてみたいと思っていた人物へのインタビューが実現した。いとうせいこう氏だ。「フリースタイルダンジョン」の審査員として、そのキーパーソンであるのはもちろん、日本語で最初にラップをはじめた本当のオリジネーターでもある。

「フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」の収録の合間をぬって話していただいたこのインタビューは、「フリースタイルダンジョン」の裏側にはじまり、日本のヒップホップ黎明期の秘話、そしてSNSに罵詈雑言があふれる現代の“言葉”についてまで……濃厚にして読み応えたっぷりの内容となった。30分ほどのインタビューとは思えない、その言葉数。まさに日本語ラップのオリジネーターの面目躍如! 3回に分けてお届けするインタビュー、まずは「フリースタイルダンジョン」への思いからスタート! カマセー!

このポップカルチャーを
リスペクトしてることがポイント


ー「フリースタイルダンジョン」がここまで盛り上がっていることには驚いてもいます。番組が始まった時、ここまでの盛り上がりを予想されてましたか? 出演者のおひとりとしても、その成功の理由はどこにあったと思われますか?


シーンの盛り上がりは、なんとなく分かってはいたけれど、それがテレビというものにそぐうものなのか、マッチングがうまくいくものなのか、まぁ未知数でしたよね。だから、僕の仕事は、このアンダーグラウンドでやってきたものを、どう一般的な人が面白がって観るものにするかっていう部分。つまりテレビっぽくするにはどうしたらいいか。テレビっぽくと言っても悪い意味じゃなくてね。

こっちのカルチャーを崩さないで、テレビのなかで通用するものにするか、というのが僕の仕事だと思ったし、きっとZeebraもそういうつもりで僕をあそこに置いたんだと思うんですよね。なので、なるべく、例えを分かりやすい例えにするのだとか。それが僕の仕事ですよね。他のことはまぁ、KEN THE 390とか、ERONEくんとかがいるから。でも、そのバランスというのはすごく難しいから、テレビをこっち側で作ってるスタッフもかなり工夫をしてる。もちろんZeebraたちともずいぶん協議を繰り返してたのは知ってるし。

このポップカルチャーをリスペクトしてる感じがちゃんと出てることがまずひとつのポイント。だから、アンダーグラウンドでやってた連中や音楽好きな連中がみんなこっちに入ってきた。この番組は信頼できると。

もうひとつは、テレビでしか見たことない人、こんなこと見たこともなかった人たちにも伝わったってこと。たとえば、テロップを出すか出さないかの問題については、けっこう話し合ったと思うんですよ。そういう話も聞いてるし。で、最終的に出すことにした。これがスゴく大きくて、テロップが出ることで何をやってるか、よく分かる。初めて凄さがよく分かる。ヒップホップに慣れ親しんできた子たちにとっても、ここまで細かくよくできてたんだ、と思ったんじゃないですかね。テロップで目にできたことで。それは、やっぱりテレビの技術。


ー伝える技術ということですね。


撮り方にしても、なるべく小さい手持ちカメラで勢いを感じさせるように撮ってる。それを変に多くない台数で。それはテレビの技術論的な面で、これをどう撮るか、ということはものすごく考えてやってると思う。

YouTubeなんかでフリースタイルの映像を見ると、だいたい正面からと寄りとの2台くらいで撮ってるのが普通だと思うんだけど…。それはそれで臨場感はスゴくある。でも、もしそのままテレビでやっても、安っぽい絵になっちゃうんですよ。かといって何台も置いて、歌謡番組みたいな撮り方をしてしまうと、それはもう全然リアルじゃなくなってしまう。ここはもうテレビ屋として考えどころだったと思うんですよ。それがうまくいったんだと思う。

もっとメジャーな
22時台のテレビ番組になる
可能性も秘めてる


ーテレビサイドの人たちもフリースタイルをやってるひとたちやシーンへのリスペクトがちゃんとあった上で、製作されているんですね。


そうですね。それはもう絶対的に。彼らはこっちサイドの人間としてやってるから。出る側のラッパーたちも、最初はすごく緊張してたと思うんだけど…。そういう環境で作られてるから、2回目3回目と繰り返していくにつれて、モンスターたちも自分たちの素の表情を見せるようになって、より魅力が引き出されて、そしてカルチャーヒーローになっていったわけで。だから、両者にとって、いいマッチングになったんですね。

ここまで来たら、もう見てる方たちがバトルの見方をもう分かってる。だからもう、こういうふうにいったん形式を作っておけば、いろんなかたちで応用が利くはず。例え審査員が変わっても、同じことが起きるはず。それに対して、このスタッフとか、Zeebraたち、プロデュースする側はルールを変えてみたり、どんどん新しい企画をやっていってますよね。

今回の「口迫歌合戦」にしてもそう。それをホントの「紅白」の裏にぶつけるというやり方とか、飽きないように次々と手を打ってる。そこはテレビサイドのやり方。もしかしたら、テレビ以上に、ネットっぽいやり方かもしれない。スタッフサイドによる「もうここまででしょ?」と思われないように先手を打っていくというやり方は、僕は面白いなと思っている。やっぱり「これがちゃんと続くのか?」って心配する人たちがいるけど、もともとがこの状態は儲けもんみたいなもんなんだから。やるところまでやればいいと思ってるんですよ。

とにかく盛り上げるだけ盛り上げて、それでもう飽きられたと、問題があったとかしたら、スッパリやめればいい。別にライブでやればいいことをやってるだけなんだから。終わったらまたライブに戻っていけばいいんだから。


ーまぁ、今の人気がずっと続くわけはないですからね。


でも逆に、もっとメジャーになる可能性もあるかもしれない。22時台くらいのテレビ番組になっちゃう可能性も秘めてると僕は思ってるんだけど。でも、結果はどっちになっていい。

大事なのは、これだけスキルが上がってるラッパーたちがいるって伝えられてるということ。それともうひとつは、これを見てラップを始める子たちが出てくるだろうってこと。その子たちは当然、今のラッパーたちよりうまくなっちゃうだろうからね。


ーたしかに、子供たちとか若いところまで届いてるでしょうから、とっても若いときに始めて、次の世代にものすごいラッパーが出てくる可能性がありますね。


物心ついたときから日本語のフリースタイルがテレビのなかにある世代と、僕らみたいな世代はえらい違いがありますよね。フリースタイルも何もないどころか、ラップを日本語にすることさえおぼつかなくて、どうやってやったらいいかだれも分からなかった時期からヒップホップみたいなものをやってる人間にとっては隔世の感がある。

だけど、芯にあるものは同じだから。言いたいことを、ただリズムに乗せて言いたいだけじゃなくて、興奮させたり踊らせたりもしたい。そういう気持ちは変わらないと思うんですよ。それは変わらない普遍的なものがあるから。

だから、ロックの子たちとか、アニメを観てた子たちにも、いま響いてるんでしょうね。そういったものが商業ベースに乗っちゃうことが多くなったという風に見えてると思うんですよ。だから、こっちの方がリアルだし、自分たちに近いと感じる。大人によって曲げられてない何かを言ってるって。

それは、初期衝動のまま彼らがやってるからだと思うんですよ。逆に言ったら、商業化がしにくいとも言える。言葉数が多いから、この分野は「好きだ好きじゃない」って言葉だけじゃ持たないから。そうすると、自然と、いまリアルに起こっているニュースとか、そういうものを斬るしかなくなってくるでしょ。そうするとリアルになりますよね。

目の前で起こってることとか、駅前に何があるのかとか、盛り込んでいかなきゃいけないかもしれない。そういう点で、自分たちを代弁する音楽がないと思ってた子たちには、インパクトがあったと思うんですよ。


<②に続く>

「AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」

放送日時:12月31日(土)20:00 ~ 23:45

「フリースタイルダンジョン」のスペシャルプログラムが12月31日にAbemaTVにて放送される。日本全国から選ばれし凄腕ラッパーたちが集結!ここにお馴染みの最強モンスターたち6人も加わり、東軍と西軍の2チームに分かれバトル。『フリースタイルダンジョン』史上最高額の賞金300万円は手にするのは? 「フリースタイルダンジョン」初登場のSIMON JAPはGADOROと、呂布カルマは漢 a.k.a. GAMIと対戦。審査員を務めるKEN THE 390とERONEの対戦など、見逃せないバトルが連続。

Photographer : 下城英悟 / Eigo Shimojo(いとうせいこう氏)、Yuki Hayashi(会場)

0コメント

  • 1000 / 1000