SFアニメ好きの写真家・ソウヤンランの「完璧な身体」への憧れ

eisaku sacai

💣 1993 editor/writer @sacaieisaku 💣

偶然、気になる台湾人ファッションフォトグラファーをWEB上で見つけた。

彼女のインスタグラムを見てみると、日本人には見覚えのある日本のアニメや古いシティポップがポストされている。台湾にあるカルチャーがどんなものかは知らなかったけど、なぜだか一気に親近感が湧いてきて、連絡を取ってみた。すると、昨年末から東京に住みはじめ、日本で活動を開始しているとの返答が。日本のカルチャーは、彼女の写真となにか関係があるのだろうか? 

ファッションフォトグラファー・ソウヤンランは、以前、SILLYでも取材した新鋭ブランド『kotoha yokozawa』の撮影や、本国版『i-D』WEBにて作品の掲載など、ファッションシーンを中心にじわじわと注目を集めはじめている若き才能だ。

彼女はなぜ日本に来たのか? 日本のカルチャーはどのような影響を与えているのか? 台湾と日本それぞれの視点から彼女の写真について話を聞いてみた。


ソウヤンラン Tseng Yen Lan 

1993年生まれ。台湾台中市出身。19歳からキャリアをスタートし、身近な女の子をフィルムで記録し始める。”若い女性たちの美しさ”が中心のテーマ。女性の身体が持つ、形状、色、匂い、そして、彼女たちがもたらす雰囲気や感情といった様々な面に魅了されており、そういった女性への関心は、幼少期の環境や、自意識過剰、劣等感、そして、完璧な身体への欲望に起因している。近年は、若い女性だけではなく、ファッションデザイナーやスタイリスト、アーティストといった才能のある女の子たちを記録開始。kotohayokozawa 2017SS撮影。WestEast WE PEOPLE MAGAZINE撮影。 

日本SFアニメ好きが見出した
“完璧な身体”への憧れ


—今は東京に暮らしているんですよね?

ヤン 去年の12月から日本に来て、今は日本語の専門学校に通っています。


—なぜ日本に来ようと思ったんですか?

ヤン 日本の写真はジャンルに縛られない感じがしたからかな。もし仮にニューヨークへ行ってしまったら、ファッションフォトしか求められなくなってしまう気がしたの。なんだか日本の雑多なところが面白そうだと思ったんだよね。


—なるほど。プロフィールに「幼少期の環境」が作品に影響しているとのことですが、どんな子ども時代だったのか教えてくれますか?

ヤン 12歳から15歳くらいまで続いたいじめがトラウマになっているの。私の性格に問題があったのかもしれないけど、太っている見た目のことでいじめられた。それから自分に自信が持てないんだよね。今もずっとそう。  


—そのトラウマは、プロフィールにある「完璧な身体への欲望」と関係ありそうな気がします。

ヤン そうね。高校生になってから、10kgくらい体重を落としたんだけど、途端に友達ができるようになった。そのときに、痩せている身体を良しとする世間の目線って変だなと思ったよ。でも、その経験を経て自分の身体にはない「完璧な身体」をどこかで求めるようになった部分があるんだと思う。


—女性の写真ばかり撮っている理由もそこにある?

ヤン うん。作品として撮るのは女性だけなんだ。あと、「完璧な身体」の話で言うと、自分の部屋に引きこもってずっとテレビやパソコンを見ていたことも関係があるかもしれない。両親が共働きだったこともあって、テレビとパソコンが唯一の友達と言っていいほど、ずっと画面の前にいた。学校に行くのも嫌だったし、あのときはずっと日本のアニメを見てた。


—そうなんですね。日本のアニメとはどういう関係があるんですか?

ヤン 一番好きなアニメは、押井守の『Ghost In The Shell(攻殻機動隊)』なんだけど、人工知能とかアンドロイドとか、人間の理想を自分の手で作り上げちゃうのってすごくない? 理想の身体を作ってることにワクワクしちゃって、興奮しながら見たのを覚えてる。あとは『エヴァンゲリオン』かな。ヒロインの綾波レイって実は主人公のお母さんをコピーした存在なんだよね。そんなものを作ろうと思い付いちゃうのってやっぱり変態のやることだよ(笑)。

—「完璧な身体」を持ったキャラクターが出てくる作品が好きってことですね。どれもSFの作品で写真とギャップがあって面白いです。

ヤン 日本のアニメに関しては、引きこもってずっと見てたから、本当にただのオタク(笑)。日本語だとオタクって悪い意味?


—最近はそうでもないと思うよ。

ヤン そうなんだ。日本のアニメは、自分のなかの狂った部分にかなり影響を与えてると思うな。

自由な表現が許されなかった
ファッションデザイナーからの転身


—そもそも写真をはじめたきっかけはなんだったんですか?

ヤン 明確には覚えてないんだけど、15歳くらいのときに親からデジタルカメラをもらったからかな。でも、高校は日本で言うファッション科に通っていて、ファッションのデザインについて勉強してた。あー……そうだ。ここでもイヤなことがあった(笑)。学校では、服を使って表現するんじゃなくて、作り方ばかりを教えられた。宿題があると「やりなさい」と言われたことを、その通りにやるみたいな。だから、ミシンのある部屋が本当に嫌いだった。自由に表現することが許されない空間な気がして。


—各時代にトラウマがあるんだね(笑)。19歳からキャリアをスタートしたとのことですが、何かきっかけがあった?

ヤン 最初に作品として撮った写真は、いとこのヌード。今、考えるとおかしいんだけど、なぜかヌードを撮ろうと思い立ってお願いしたんだよね。その後、WEBに写真をポストしていたら、自然と声がかかるようになって、仕事として写真を撮るようになっていった。

関心の対象は身体から顔へ
日本に来てから変わったこと


—日本に来てからファッションブランドやWEBマガジンでいくつか撮影を行っていると思います。日本に来てなにか変わったことはありましたか?

ヤン 女性の身体ばかりを撮っていたんだけど、日本に来てからは、顔にクローズアップしようと思ったことかな。台湾にいた頃、初期の作品は、むしろ顔は写さないようにしていて、アノニマスな作品を撮ってた。


—日本のどんなところが、そう思わせたんですか?

ヤン 実を言うと、日本で売ってるレンズが安かったからなんだよね(笑)。ずっと顔にクローズアップしたいとは考えていたけど、近くに寄るためのレンズを持ってなかったから。


ーたしかに日本は中古カメラ屋が結構ある。

ヤン いや、Amazonで買ったんだ(笑)。最初は確信がなかったんだけど、出来上がった写真を見て「うん、これだ」としっくり来た。それから、コマーシャルワークでもプライベートワークでも顔にクローズアップしたカットを必ず入れるようになった。


—身体から顔へと関心が移ったのは、女性に対して求めるものが変化したからなのかな。

ヤン そうそう。過去の自分の写真を見てつまらないと思ったんだよね。ただ美しいだけのものってつまらないでしょ。昔は、身体の美しい部分を切り取って、理想的で完璧な身体を探そうとしてた。そういう理想を投影させるためには、顔が余計な存在だと思っていたし、完全にモノとして身体を扱っていたんだと思う。


—今はそうじゃない?

ヤン とにかく女の子の感情を撮りたいと思えるようになったかな。昔の写真には感情というものがほとんどなかったからね。顔はその人の感情が映し出されるもので、その人にしかない美しさがあると思った。

ファインダー越しに見つける

「あなたが知らない美しさ」


—最近リリースしていたプライベートワークの「YOU DON’T KNOW HOW BEAUTIFUL YOU ARE」というタイトルがとても印象的でした。

ヤン ありがとう! モデルをしてくれたXinju Sanは、〈KENZO〉のモデルを務めていたりしたのだけど、そんな彼女のイメージは、男らしくてかっこいいものが多かったんだよね。でも、私は彼女が本来持っているはずの女性としての側面を見たかった。だから、一緒に江ノ島に行って撮ることにしたんだ。

—この作品にはヌードのカットも含まれていますが、ヤンさんが感じる「美しさ」にはセクシャルな要素はない? 女性のどんな部分に反応しているのかが気になりました。インタビューの前に、篠山紀信展「快楽の館」を一緒に見に行ったけど、どうだった?

ヤン 篠山紀信の写真を見て、男性的な視線をとても感じる写真だなと思った。女性の身体にセクシーさを求めている感じ。一番気になったのは、写っている女性たちが、男性に見られていることを意識したポーズや表情をしていたこと。エロい視線がダメというわけではなくて、写真を通して生まれる関係性として、私には不自然に見えちゃった。単純に普段はあんなふうにセクシーなポーズをすることが少ないと思うから(笑)。


—ヤンさんにとって自然な関係ってどういうもの?

ヤン 私がフィルムカメラを使っていることと繋がってくるのだけど、見られていることをモデルに意識させずに撮ることが自然な状態かな。カメラは、あくまでもコミュニケーションのツールとして捉えてるから、会話と同じで、お互いが通じ合った瞬間しかシャッターを押そうとは思わない。


—モデルとの間にある独特な距離感が写真にも表れている気がします。最後に聞きたいのですが、さっきのSFの話とこじつけると、女性と向き合うときは、好きというよりも、キャラクターに憧れるという感覚に近い?

ヤン あえて言うなら「ロマンティック」を求めているのかもしれない。以前、友達に「あなたの写真はエロくないね」と言われたことがあって、その通りだと思った。私の写真には性的な要素はなくて、相手とのコミュニケーションのなかで生まれる感情や、二人の間の距離感、関係性みたいな目に見えない部分に対して、美しさを見出しているんだと思う。


—なんだかそういう美的感覚は「少年ジャンプ」のコンセプトになっている三原則 ”友情・努力・勝利” と近いものを感じるね。

ヤン そんな言葉があるの? 面白い考え方だね(笑)。


—目に見えない部分に対してロマンを感じる部分は似ているかなって。

ヤン そうね。


—日本語の専門学校を卒業した後は、どうするの?

ヤン 卒業したあとは、映画を学びたいと思ってる。写真は学校で学ぶ必要がない気がしていて、それよりも、ストーリーの作り方と映像の技術を学んでいきたい。


—映像でも女の子を撮っていく?

ヤン もちろん。ずっと撮り続けていくつもりだよ。





Coordinator :  倉田 佳子 / Yoshiko Kurata

Translater : トマゾ・バルベッタ / Tommaso Barbetta

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