デジタル/アナログを横断する写真表現・フォトグラファー「ACE DUCKET」

MOUTAKUSANDA!!! magazine

(必ずしも)旅に出ない旅行誌「モウタクサンダ・マガジン」。SILLYに出張中。
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「これはD.C.の古い家でイベントを開いたときの写真。本当の意味で家を破壊していたよ」(デジタルブックdieepicurean.coより)


ACE DUCKETという、ワシントンD.C.を拠点に活動するアーティストを知っているだろうか? もし知っているとしたら、君は自分の先鋭的な嗅覚に自信を持つべきだ。

若い写真家らしいフレッシュな感性と、不思議と冷めた視点を同居させながら、USカルチャーシーンや身の回りの出来事をフィルムに収める。そのフィルム写真をデジタルアートの手法でフィニッシュさせるのが彼独自のプロセス。


今年4月に東京で写真展を開催したことで、国内でもにわかに注目を集めている、若く才能あるフォトグラファー。東京のアパレルブランドのいくつかが、この気鋭のアーティストを起用してファッションビジュアルを製作したっていう話も届いている。


ミュージシャンのK.A.N.T.Aに誘われた展示会場でACE DUCKET本人と話すことができた。作品の印象とは違ってとてもストイックで紳士的、ナイスなアーティストだと思った。

後日、つたない英語でインタビューの依頼をメールしてみる。すぐに「もちろんOK」との返信。「英語がメチャクチャでごめんね」という俺の断りに対して、「英語もいい感じだよ、心配しなくていい」と沿えてあった。

ACE DUCKET本人。



—やあ、ACE DUCKET。インタビューの機会をありがとう。写真家として日本でも注目されはじめているわけだけど、まずは簡単に自己紹介をお願いしていい?

ACE DUCKET:そうだな、僕はニューヨークで生まれてローリーで育った。大学に進学するためワシントンD.C.に移ってから、僕の人生はガラリと変わったよ。ローリーで高校に通っていた頃は音楽に夢中で、最高の音楽プロデューサーを目指してた。当時はすべての金をレコードにつぎ込んでくらいね。

それからD.C.に移って「BFA」っていう写真とビデオのインターナショナルエージェンシーで、インターンで働きだしたんだ。その頃から僕の興味は写真へと移っていった。年に2度のファッションウィークにも関わるようになって、SNSのキャンペーン用に写真を撮ることになった。少しずつポートフォリオを作りながら、自分の写真スタイルを見つけていったんだ。つまり、写真にのめりこんでいった。

ここしばらくは、デジタルアートの作品を製作してる。その結果が僕の今の活動に繋がってる感じかな。最近、初めて東京でエキシビジョンを開いたんだよ。

D.Cにある古い僕の家で撮ったもの。この場所で、たくさんの素晴らしいアイデアが生まれた。写っているのは友達のシンクレア。大好きなモデルのひとり。



—写真について、もう少し詳しく教えてほしい。写真を撮り始めたきっかけって?

ACE DUCKET:とにかくD.C.での経験を記録したいと思ったんだ。D.C.に引っ越してきたばかりで町中を歩き回っていた頃、ローカルのストリートアーティストを写真に撮ってInstagramにアップしてた。リアルなユースカルチャーをみんなにシェアしようと思ってね。それに、D.Cは.建物も刺激的で面白い。D.C.のいくつかのエリアはパリの建築に似ているんだ。そして、極めつけは僕の家は完璧なロケーションにあった。通りの端にホワイトハウスがあって、市内のメジャーなエリア間の真ん中みたいな場所。どこでも好きな場所へ簡単に出かけることができたんだ。

「これはニューヨークのチャイナタウンで撮影した」



—撮影方法を教えて。普段どんなカメラを使ってる?

ACE DUCKET:最近は主にMinolta Stisi Maxxum(※古い一眼レフカメラ。日本だとα-7000という名前で流通)を使っているよ。何を撮るかはその時々。パーティーでだれかにスポットを当てたり、ソーシャルメディア上で被写体を見つけたり。いつも興味をひかれるものを探している。スタイルも大事な要素だね。


—被写体とはどのようにコミュニケーションを取るの?

ACE DUCKET:撮影によるかな。例えば決まった場所でセットアップして撮影するときは、何を撮りたいかある程度決めて臨む。どんなストーリーや絵にしたいか、自分の頭の中に描いておくんだ。自分が思い描くストーリーと絵の先に何が起こるか……その部分については被写体の動きやその場の流れを大切にしている。必ずしも大きな動きじゃなくていいんだ。自然な動きが、写真に本当の意味のエネルギーを与えてくれる。



—35mmフィルムを使っているよね? フィルムを選ぶ理由って?

ACE DUCKET:最近フィルムを使うのは、デジタル写真に飽きてきたから。僕の写真に関していうと、フィルムで撮ることで結果やプロセスは確実に違ってくる。デジタルより1回のシャッターに対して強く集中するから、ミスも少なくなるよね。フィルムを使うと現像なんかで多少失敗したりもする。でもその失敗から、デジタルとは違ったオリジナルのニュアンスが生まれる場合があるんだ。

「上の写真と、ひとつ前の写真は『LIVINGROOM TODAY』っていうパーティーで撮影したもの。Tinychat(ビデオチャットのサービス)を通して、3次元の現実とWebで世界をつないで開かれたパーティー。コンセプトも音も最高だった」



—写真には多くの要素があるよね。フレーミング、構図、質感、色、被写体との関係性……。撮影ではどういう部分により多くの注意を払う?

ACE DUCKET:僕にとっては、それらの要素は元から組み合わされたもの。強いて言うなら、最近は特に色の組み合わせにこだわってるかもね。今は、直感的には相反するような色の組み合わせが面白いと感じるんだ。一見合わない色同士の組み合わせが、なぜか魅力的だったり。でも、一番重要なのは被写体の内面を写真に組み込むこと。それが写真にエネルギーを与えてくれるから。


—個人的な感想だけど、ACEの写真を見ると、パーティーの狂騒も何気ない街角の風景も、どちらも同じ「日常」のワンシーンだっていう通底したクールな視点を感じる。

ACE DUCKET:正直に言って、これが僕が見ている世界。少なくとも「こうあってほしい」と思っている世界だね。

僕が人を撮るときは、いつも「いかに相手に指示を与えず、その人の内面を捉えるか」って考えてる。被写体が風景の場合は、写真からだれも知らないようなストーリーを感じられる……そんな街の一角を探したりする。

「これはマンハッタンのロウワー・イーストサイドで撮った写真」



—少し個人的なことを。D.Cでの生活はどんな感じ?

ACE DUCKET:D.C.の暮らしはとてもリラックスしてるよ。いつも新しいことを探しているけど、外で遊んだり友達に会う気分じゃないときは、ひとつかふたつ美術館に出かけるんだ。ほとんどの場所は無料で入れるからね。


—D.C.のカルチャーシーンはどう感じる?

ACE DUCKET:DCの文化は密に絡み合っていて、それが個性的でかっこいいと思ってる。すごく小さな町だけど、ここは政府機関で働くために世界中の人が集まってくる。アートやクリエイティブの新しいムーブメントが次々と生まれるし、D.C.が他の大都市より小さくて親近感が持てるのはそれが理由。そんな街だから、アーティスト同士がコラボレーションする機会も増える。これって、最高のことだよ。

「ニューヨークの『5pointz』が壊される直前に撮影した、ストリッパーの写真」

(※5pointzは、かつてNYに存在した、グラフィティで覆われたビル。屋外芸術のメッカとして有名だった)



—東京の印象はどうだった?

ACE DUCKET:東京は夢みたいだね。人や食、文化そのものに好奇心を刺激される。そういえば、道に迷って携帯電話の充電も切れて困っていたら、ある男性が近寄って来て目的地まで一緒に案内してくれたんだ。こんなこと、アメリカじゃあり得ない。人がこんなに優しいなんて!って驚いた。そして、町自体がデザインに対して先進的で、いろんな意味でアバンギャルドだとも思ったよ。

東京での僕のエキシビジョンはとてもいい結果になったと思うよ。東京での展示は初めてだし、必ず特別なものになると思っていた。この2年間撮りためたなかで、ほとんどまだ公開していない作品を飾ったんだ。とても才能にあふれた人々とこういう経験をできたことが素晴らしかったよ。特に、Amarachi Nwosu, K.A.N.T.A、Justice Lasyone, Lianna Gutz, Sleep Dealer。彼らのパフォーマンスとホスピタリティーに心から感謝してる。


—最後に、今後のプランを教えてほしい。

ACE DUCKET:ちょうどインタラクティブアートブックをリリースしたところ。ここ 2年間で撮りためた写真を掲載してる。このアートブックをプラットフォームにして、他のアーティストたちの写真も紹介していく予定だよ。このデジタルコンテンツ作品の世界をどう広げていくか考えてる。僕のビジョンをシェアするのが本当に楽しみだよ。



ここだけの話だけど、ACE DUCKETは日本のレーベルから写真集を出版するため準備を進めているらしい。彼のデジタルアートブックは以下からフリーで見れる。新たな写真表現に挑戦する熱量を、たっぷり感じられるはずだ。

Interview&Text : Masaya YAMAWAKA/山若マサヤ

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