日本より海外の方が遥かに知名度があるのもあって完全に気持ちが腐り始めている気鋭の音楽家ボーイズ・エイジが、カセット・リリースされた作品のみを選び、プロの音楽評論家にレヴューで対決を挑むトンデモ企画!
今回のレビュー対象作品はこちら!
80年代ニューウェーヴ期に産み落とされた英国産ソフト・ロックの、忘れ去られた傑作。カラー・フィールド『ヴァージンズ・アンド・フィリスタインズ』(購入@中目黒 waltz)
そしてボーイズ・エイジ Kazと対決する音楽評論家は2回目の登場となる岡村詩野!
前回はKazの勝利となったが、果たして今回は!?
>>>先攻
レヴュー①:音楽評論家 岡村詩野の場合
岡崎京子の漫画を読み返すと、そういえばテリー・ホールってどうしているんだろう、と、ふと思う。岡崎の作品の中には、明らかにテリーをモデルとしたと思しき男性がちらちらと登場する。髪をゆるく立てて、甘いマスク……というよりちょっと眠たそうな瞳。そう、『東京ガールズ・ブラボー』の金田サカエじゃないけれど、80年代のパンク~ニューウェイヴ好き女子にとってテリーはちょっとしたアイドルだった。
もっとも、そこまでわかりやすい女の子目線ではなくとも、ロンドンのルーディーたちの親玉としてブイブイ言わせていたスペシャルズのヴォーカリストを出発点に、ファン・ボーイ・スリー、カラー・フィールド、テリー、ブレア&アヌーシュカ、ヴェガス……と頻繁にプロジェクトを結成しては乗り換えていたテリー・ホールは、恐らく90年代後半……いや、デーモン・アルバーンのゴリラズの作品に客演した00年代初頭くらいまでは、アンディ・パートリッジやイアン・ブロウディらと並んでもっとも英国的なソングライター、シンガーの一人として認識されていたと思う。ああ、そういえば、テリーはそのアンディやイアンともそれぞれ共作していたっけ。
なのに、どうしたことか、00年代後半はスペシャルズの再結成に参加するくらいの話題しかなくなってしまった。95年の再結成時にはジェリー・ダマーズと共に見向きもしなかったというのに、なぜ! 結局、おおまかに見て00年代以降は、あのキラキラとしたセンチメント満載の、そのマスクさながらに甘いメロディは、いつのまにかすっかり遠い記憶になっている。ソロ名義のアルバムも、ファン・ダ・メンタルのムシュタクとの共同名義で制作した03年の『ジ・アワー・オブ・トゥー・ライツ』を最後に出ていない。もっとも、ムシュタクと作ったあのアルバムはスペシャルズ~ファン・ボーイ・スリーのテリー、すなわちルーディーとしての鼻息の荒さが出た作品だった。
そう、テリー・ホールというアーティストには大きくわけて二つの顔がある。一つはスペシャルズ~ファン・ボーイ・スリーといった反体制~労働党支持のバックボーンを持つ気骨あるダンス・ミュージック・ラヴァーとしての顔、もう一つは気品と洒脱なウィット溢れる英国人メロディ・メイカーとしての顔。勿論、その極端とも思える両サイドに共通するもの、そしてテリーの音楽的アイデンティティこそはブルー・アイド・ソウルというブレない軸なのだが、まあ、それにしても、ナショナル・フロントが台頭すればストリートで仲間と闘い、「君が必要だと感じるなら僕はそばにいるよ」(本作収録の“シンキング・オブ・ユー”)と甘く囁くような歌も歌う、硬軟併せ持つテリーは岡崎京子でなくても女子なら夢中になって当然だった。
このカラー・フィールドは、そんなテリー・ホールにとってスペシャルズから数えて3つめのユニットであり、「気品と洒脱なウィット溢れる英国人メロディ・メイカーとしての顔」を初めて正面から見せつけたユニット。本作は今でも熱心なポップ・ミュージック・ファンから愛されている85年発表の1stだ。それまでの2つのユニットでは存分にコンポーズ・センスを発揮出来なかった彼は、ここでは驚くほど丁寧に旋律を綴り、それに合ったホーンやパーカッションによるアレンジを施している。
後にゴースド・ダンスでデビューする女性シンガーのカトリーナ・フィリップスとデュエットした1曲目“シンキング・オブ・ユー”などは、さしずめカエターノ・ヴェローゾとガル・コスタとの共演の、英国流ソフト・ロック版といった感じ。間奏の展開がメランコリックに過ぎて、日本人の我々にはちょっと演歌調にさえ聴こえる“キャッスル・イン・ジ・エアー”なんて曲もある。この時期のシングルのカップリングでは、ミシェル・ルグランやアメリカのシンガー・ソングライター、ボビー・ゴールズボロなどの曲をとりあげていたが、フレンチ・ポップ、AOR、ボサ・ノヴァなどをリファレンスにしたようなここでの楽曲は、ロンドンの路上で労働者たちにメッセージを送っていたテリーとは全く別と思えるほどだ。
けれど人間の無作為な肉食生活を批判するような“クルエル・サーカス”、愛に対する空虚な思いを伝えるタイトル曲や“ソーリー”などからは、ただただ甘くメランコリックな曲を書くイケメン英国男子になったわけではない、女の子と甘い夜を共にしても、どこかで常に社会の歪みを気にしているルーディーとしての鋭い視線が感じられる。そこがいい。サッチャー政権真っただ中に全英アルバム・チャート12位を獲得したのもダテではない、大衆的で親しみ持てるポップな曲ばかりながらもチラチラ社会性も滲ませる内容だ。
だから、頼む、テリー。スペシャルズの再結成などではなく、もう一度、ストリートで歌って。甘く囁くようなメロディを書いて。だって、まだ57歳なんでしょう?
【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】
★★★★
とてもよく出来ました。特に作品論というよりは、敢えて作家論に寄せた導入。おそらくこれは、現在のポップ音楽カルチャーの大半が音楽というよりはアイコンを消費する傾向にあるという現状に対する、詩野ちゃんの批評性の発露なのでしょう。そうした状況の中、頑なに音楽について書き連ねるのではなく、まずは作家という記号をキラキラと輝かせてみよう、そこから何とか作品にも興味を持たせようという詩野ちゃんの苦労が滲み出ています。
岡崎京子という固有名詞の使用、あるいは、作家と同時代を生きた者にしか書けない視点を利用していることについても、2016年という現在、完全に忘れ去られつつあるテリー・ホールという作家と、かつて彼が残した傑作に対する興味を喚起させようという懸命さが垣間見られます。よく頑張ったね!
ただ、作品自体を翻訳していくことに関しては、ジャンルや参照点になる他の作家名といった固有名詞、あるいは、形容詞に頼ってしまっている部分もなくはありません。普段から音楽を聴かないクラスのお友達にはちょっとハードルが高かったかも。ないものねだりを言うと、もう少し楽曲という記号がざわめき出すような、クラスのお友達向けの翻訳を読みたかったかな。これからももっともっとワクワクするような作文を書いてね!
>>>後攻
レヴュー②: Boys AgeのKazの場合
カリフォルニアは〈バーガー・レコーズ〉のオーナー、ショーンから先日メールが来て、VIP扱いで新譜のMP3データが送られてきた。いやはや、本当ありがたい。俺たちはほぼ〈バーガー〉から恩を受けてばっかりだ。『Calm Time』は売れてるのかね。送られてきたのは、スモーキング・ツリーズ、ゾーズ・プリティ・ウォングスのそれぞれの新作で、非常に良かったんだけど、特に俺を感動させてくれたのはゾーズ・プリティ・ウォングスだった。 メンフィスの古いバンド、ビッグ・スターのジョディ・ステファンスとLAのバンド、フリーウィーラーズのルーサー・ラッセルという二人のベテランによるバンド、というか二人ともレジェンダリ、伝説的ミュージシャンで、確か去年1stシングルをリリースしてたような記憶がある。おっちゃんのやるフォーク・ユニットっていうと、そこで話が終わってしまうのだけれど、このアルバムはすげー良かった。流れも素晴らしかったけど、なによりヤバかったのが最後の曲。この曲のメロディ、コード・ワーク、ブラス・サウンドは凄まじいとすら呼べる。いわゆるポール・マッカートニー型。
もう一方のスモーキング・ツリーズも勿論良かったよ。LAのフォーク・サイケ・バンドだったかな。確か今作で3作目。実は一番昔から知ってるバンドで、2012年に出した彼らの1stの頃から密かに追跡してた。ジャケットが素晴らしかったから。絶妙さ加減というか、過去作から全体的なクオリティの底上げが行われてる印象。派手な変化は少ないけど、それぞれが個として確立してるかな。bandcampには無いUKの〈アンプル・プレイ〉から出した2ndの『TST』も名盤よ。今回の作品を聞いて、そんなに似てないんだけどアイルランドのドクター・ストレンジリー・ストレンジを思い出したよ。なんでだろ。ちょっと前に俺が言ってた幾何学模様の新作が好きならまず問題なく好きになるね。 〈アンプル・プレイ〉といえばイギリスの伝説的バンド、コーナーショップのメンバーが立ち上げたレーベルで、そこから出してるサドン・デス・オブ・スターズっていうフランスのバンドはちょっと凄まじいよ。他には日本からYokan Systemってバンドもリリースしてるね。俺も出したいんだけど、仮に気に入っても俺なら出さん。レーベルのカラーに合わなすぎる。
で、今回はカラー・フィールドね。
いや、どうせ今回不運にも対戦相手になった人がキッチリ書いてくれるし。
なんにせよやっぱり今年はサイケの年だな。昨年末ぐらいにキング・ギザードが新譜出した時の予感は間違ってなかった。
【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】
★★★★★
呆れました。作文のモチーフに対して何ひとつ書かず、YouTubeをひとつ貼るだけ。しかも、それ以前はカズくんの海の向こうの仲間たちの宣伝に終始するという、二度とは使えない禁断の手に遂に出てしまいましたね。この馬鹿野郎!
しかし、この大胆極まりない身振り、むしろ天晴れです。これぞ、コバヤシマル・シナリオを唯一クリアすることの出来たキャプテン・カーク並みの手腕。と、トレッキーにしかわからないジャーゴンで話を濁しておきたいと思います。その大胆すぎる態度に今回のみ、満点をあげます。次回は頑張ってね! ホントにね!
勝者:Kaz
って、おい!そっちが勝つのかよ!対戦相手が俺だったら放送事故やで!
…これに懲りずに、次回もみんなで読んでね!
〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。
過去の『カセットテープを聴け!』はこちらから!
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