先月公開のSILLY記事では、VOUのルーツや活動のスタンスについて紹介されていた。『グラフィックやイラストレーションのムーブメントを牽引するVOUが、東京でどんな展開を見せてくれるのだろうか』と、期待に胸を弾ませながら7/15に行われたオープニングイベントへと足を運んだ。
会場に着くと、VOUオーナーの川良さんがいた。いつもは柔らかな笑顔を向けてくれるのだが、今日は真剣な表情でイベントに備えて準備をしていた。
「来てくれてありがとうございます。ちょっとビールでも飲んで落ち着きませんか?」と声をかけてくれ、一足先に開催を祝して乾杯。
川良「今回の展示は、西くんが『岡村さんとNAZEとDAISAKさんと展示やったら面白くないですか?』と連絡をくれたのがきっかけです。僕からしてもその4人はVOUにとって重要なアーティストだから、もともと『一緒にやりたいな』という気持ちがあって、良いタイミングで連絡が来て、嬉しかったです。
だから、僕が発端で皆に声かけたっていうよりも、先にその4人とVOUが一緒にやるっていうのが決まってたという感じでした。
場所をいろいろ探していたなかで、原宿のトーキョーカルチャートbyビームスでやるのは面白いんじゃないかという話になって。自分としては、『東京にはない風を吹かせにいくぞ』っていう気持ちがあったので。作品の展示だからといってアート界隈の人たちだけじゃなくて、たくさんの人に見てもらえるような場所の方が広がりがあるはずだし、京都から行く意味があるなと思ってます」
京都からやってきて、原宿の真ん中で突然彼らが発表をするというところで、「“藪から棒に”みんなを驚かせられたらな」という気持ちから今回のタイトルが決まったという。
川良「グループ展としてのコンセプトやテーマを付けて、皆が作るものを意識してやるっていうものよりも、皆が全力でやってできたものが集まったときに『面白い』ってなるようにしたかったんです。このメンバーならそれができると思って。なんでかというと、メンバー全員が同じ大学の出身で、同じ土地で同じ環境で同じものに影響を受けていて。下積み時代に生活を共にしていた、根っこの部分で繋がっている人たちだから。
そういうのって変えられないものだと思っています。卒業してそれぞれの道に行って、それぞれの道を極めつつあって。それを今、もう一回『ひとつにまとめたらどんな感じになるんだろう?』というのが今回の展示の目的でもあり楽しみでもあると思っています。だから、今回はVOUも一人のアーティストとして出るっていう感覚でやろうと思いました」
ショップ兼ギャラリーであるVOUでは、オリジナル商品や、アーティストとのコラボ商品を展開している。いつもユニークなものを発表しているのだが、新しい商品はファッションとして取り入れやすいベーシックなものが並んだ。「薮から棒」でリリースとなる新作について三重野龍くんに話を聞いた。
三重野「今回出したのは、ハンカチとTシャツと靴下とウエストポーチ。今までブランドの基盤になるようなデザインじゃなくて、アーティストのアートワークを使ったり、洒落が効いたデザインにしてみたり、軸がないのに遊びがあるものばかり作っていて。このままいったら収拾つかなくなるぞってなったので、一回軸を作って、自分たちも作るもののバランスを楽しんでいこうと。
ロゴものもバッジくらいしか作ってなかったから、『そろそろ作る?』って話になって、今回はVOU(棒)っていう文字だけを入れたロゴアイテムを作りました。東京のストリートカルチャーやストリートブランドも意識しているんですが、京都にもこんな風に腰を据えて取り組んでるブランドがあるんだよっていうのを見せたかったから。今回のデザインはだんだん削ぎ落とされていって、今までより落ち着いた『風格』みたいなものが出せるようになったら、という意識があったかな」
続いて、NHK Eテレで放送されている番組『シャキーン!』でアニメーションが放送され、イラストレーターとしても活躍する西雄大くんに今回の作品について伺った。
西「『藪から棒』=『藪から突如として何かが出てくる』という意味を考え、分かりやすく『驚かす』というところに落とし込もうと思って。顔に見えたり体に見えたりして、驚かされる『だまし絵』を描いてみようと。
僕は東京にいて、京都と離れてますけど、常にVOUがあって『その人たちが仲間』という意識があるから、皆がリンクしあっていい形で影響しあえる環境を、これからも作り続けられたらいいと思ってますね。それは皆が自立したうえでのVOUを模索することが結果としてVOUがいい形になるっていうことは意識してます」
ちなみに西くんは現在個展を中目黒の『VOILLD』で行っているので、気になった人はハシゴしてみるといいだろう。
西くんの「バラとトラの作品」の手前にあるサボテンの入った鉢は陶芸家のDAISAKさんの作品。
陶芸というと由緒ある伝統的なイメージがあるかもしれないが、DAISAKさんの陶器は型破り。ひとつひとつの作りが精密なうえに、癖のあるキャラクターが共存する様が特徴的だ。
DAISAK「食器以外の作品は全部新作です。今回は今までと違うことをしようと思って。
陶芸って技法があるけど、それにこだわらずに自分がつくっているときに楽しめるものをつくろうと。昔、油粘土とかで遊んでいたのを思い浮かべてたんですけど、それって陶芸やってなくてもできるじゃないですか。純粋に作っていて楽しいことだったから、そんな風に技法にとらわれずに、それを陶器でやったらどうなるのかなと思って」
今までと違うものをつくってみたというDAISAKさん。そしてNAZEくんも今回は意外な作品が展開されていた。
NAZE「普段イベントのときは、キュートちゃんという被り物を被ってライブペイントやパフォーマンスをしていたんですけど、キュートちゃんを被った自分を作品として残したいって思ったんです。でも、写真を出力したままのものを作品にするというのも自分のなかでしっくりこなかったので、白いTシャツを着て写真を撮って、その写真がポスターになった段階で、ポスターに写るTシャツ部分にひとつずつドローイングをしました。
以前行われた鉄道芸術祭で、写真家のホンマタカシさんの写真にライブペイントをするというイベントがあったんです。すごく大きくプリントされた写真に、スプレーでドローイングをして。今までは身近にあるものを使って作品を作っていた僕が、躊躇なくポスターに描くということができたのは、それがあったからかもしれないですね」
奥へ進むと、東京防災の本や数々の雑誌などにイラストを提供する岡村優太くんの作品が壁にずらっと並んでいた。
岡村「もともと、図鑑に載っている植物に影響を受けていて、それをここ何年かずっとイラストの仕事以外で描いていたので、今回もテーマは植物にしようと思って。『薮から棒』というタイトルは意識していなくて、普段から描いていたものを展示しようと思っていたけど、他の皆も植物の作品があったから、なんとなくまとまった感じがあるのかもしれない」
岡村くんも西くん同様、現在東京に住んで活動をしているのだが、VOUとの距離感をどう感じているのだろう。
「京都にいたときよりも東京に出てきてからの方が自分の活動が明確になっていて、自分のスタイルみたいなものが確立されつつあると思います。だから今、自分とVOUの『ものづくりとの付き合い』みたいなものもうまくできているんじゃないかな。東京に出て実際の距離は離れたけど、感覚的な距離の方が以前よりも近くなっている気がしています。毎年どんどん一緒にやる機会が増えているし、前よりももっと面白いことができてるんじゃないかな」
一通り話を伺ったところで、オープニングイベントとして行われる「ストロベリーパンティース」のLIVEが始まろうとしていた。
ストロベリーパンティースはMPCをギターやドラムの様に奏で、その上にラップと情熱を乗せてズッコケては立ち上がるHIPHOPバンド。歩歩、BINGO、ジャッキーゲン、マネージャーゆーじの4人組で、今回「薮から棒」を盛り上げるために参戦したのだ。会場ではストロベリーパンティースの物販もあり、ステッカーはちょうどスーパーファミコンにハマるサイズになっている(笑)。
コミカルなバンド名とは裏腹に、歩歩さんのパフォーマンス力の高いラップと、BINGOさん、ジャッキーゲンさんの奏でる即興的なパーカッションがむちゃくちゃ格好良くて、正直写真も撮らずに踊っていたかったくらい魅了されてしまった。会場を立ち回りながらハイテンションで観客を惹き込んでいき、最後の曲で歩歩さんがダイブをしてVOUメンバーが受け止めるという熱い競演もあり、会場が笑いと興奮で一体となったのだった。
イベントも終盤にさしかかり、最後に今後の活動について川良さんに伺った。
川良「京都でやればいいことをわざわざイベントを組んでやっているのは、京都からもっと外に向けて自分たちで発信していきたいっていう気持ちがあって。東京の人から見ても、『こんなおもろいやつがいるんだ』って言ってもらえたらもちろんうれしいけど、それよりも『VOUやってるな』って、京都の人たちにワクワクしてもらえたらいいなと思っています。
これからも京都を拠点にしつつ、京都以外でも活動をしていくことは、地方とどうやった関わり方をしていくかの実験でもあると思っています。それはいまの時点では分からないけど、この展示が終わって、その後の反響で気持ちは変わってくるんじゃないかな」
よくあるグループ展とは異なり、何もコンセプトを設けず、「全員が個の力で」展示に挑んだ。何も言わなくてもそれができるのはアーティスト全員とオーナーの川良さんの強い信頼関係があるからこそ。
若いキュレーターへの支援制度がなく、育たないと世間に言われるとおり、どんどん若いキュレーターが少なくなっている。一方で、だからこそ「自分たちで場所を持つ」「既存のギャラリーのような場所ではないところで何かを発表する」「自分たちの面白いと思うことを自分たちの手でつくっていく」というムーブメントが各所で起きている気がする。
そういった時流のなかで、VOUが自分達のペースを保てるようにと、拠点として自分たちのルーツでもある京都を選んだ。そのコアとなる部分を保ちながらも存在を広めていくというスタンスを、ブレることなくしっかり持っているからこそ、アーティストとキュレーターがお互いに補完しながら楽しい展示を実現することができているのだなと思った。
これからも彼らが魅力的に思っていることを、覗ける機会が増えたらいいな。
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