30代の遅れてきた青春。僕らの部活的クリエイション

仕事終わりに友達と居酒屋に集まって、「こんなことしてえな」とか「こんなのあったら面白そうじゃん」みたいな話をつまみに、酒を飲む。その場の勢いで繰り広げた会話ってどんなに面白くてもだいたい次の日には忘れてしまってる。でも、それを酒の席の冗談にしないで、本気でやってみちゃうのが「TALKY」(トーキー)だ。

「TALKY」のメンバーは3人。彼らは全員アパレル企業の第一線で活躍をしている。2008年の居酒屋で結成し、そこから「部活」のような感覚で、仕事終わりに集まってはクリエイションをしている。「TALKY」では長崎の伝統の波佐見焼を、自分たちのバックグラウンドにあるヒップホップカルチャーに落とし込んで「陶器のリメイクやデザイン」を行っているのだ。

やっちゃう? くらいのノリからはじまった

まず結成のきっかけから。

「メンバーのひとりが長崎出身なんですけど、同級生の波佐見焼の窯元が困ってるという話を聞いたんです。百貨店クオリティーの厳しい検品で微細な傷でB品になってしまった陶器がたくさんあって。お金を払って処理するか、陶器市で安い値段で売るか、割って捨てるか、という選択肢しかない状態で。そういう風に行き場をなくした陶器が『陶器の墓』と呼ばれている場所に山のように置いてあるというのを聞いたんです。それってもったいないねって話をしてて。『陶器のリメイク』って聞いたことがないし、ヒップホップのビートメーカーが古いレコードをディグして、新しい曲を作る感覚で陶器を再定義しちゃう?っていうくらいのノリからはじまったかな。

それとちょうど僕らの気分的に、プロダクトやってみたいねって話をしていたんですよね。ファッションって、流行に左右されてせっかくデザインしても1シーズンで終わってしまうことが多くて。プロダクトは一度デザインしたら長いスパンで使ってもらい、買ってもらえるよな、と思っていて」


流行り廃りの消費サイクルの早いファッション業界のデザインに携わっているからこそ、何年も先を見据えた上でのデザインや長いスパンで市場に出回るプロダクトに魅力を感じていたという。居酒屋で結成した彼らは、今でも打ち合わせを居酒屋やファミレスで行っているようだ。


「表面的には居酒屋でワイワイ、ギャグで出てきたことを後でみんなで真面目にやる。デザインとか背景とかテキストとか全部細かくしっかり作っていく。それが『TALKY』かなって思いますね。1からブランディングやコンセプトを考えてというやり方じゃなくて、頭が柔らかいときにバンバンフレーズを出してみんなの心に響いたものをきちんとあとでまとめて形にするっていう作り方かな。この3人を繋げてるのは音楽とかスケボーとか、ヒップホップのカルチャーだったりするんで、『全部これにブッこんじまおうこのノリを』みたいな」


その場で出た遊びのノリを終わらせず、持ち帰って真面目に再構築する。「TALKY」にとって居酒屋はアイディア出しの場なのだ。

表面削っちゃえばよくね?


陶器を作る際に表面に釉薬を塗るのだが、色むらや小さな黒点が出てしまうことがある。そういったB品をどういった手法でリメイクしているのだろう。


「もうできあがってるものに何かするって難しいんですよね。やり方のチョイスが少ないなか、メンバーの家族が当時サンドブラスト屋さんで勤めていたんです。サンドブラストって砂を使って空気圧で研磨する方法で、よくサビ取りとかに使う手法なんですけど。表面の黒点を消したいなら表面削っちゃえばよくね?っていうところで、やってみたんです(笑)。ヒップホップでいうところのスクラッチって感じがして。それがすごくうちらっぽいかなって。もともと窯元が絵付けしてるものを容赦なく全部剥がしちゃう(笑)。よく向こうも受け入れてくれるよね、とか言いながら」

例えば、この「WALL湯のみ」は「全部削ったら80年代のNYの壁っぽくなったからグラフィティのせちゃう?」という話の流れでできあがったもの。「TALKY」の手にかかればスタイリッシュで遊び心あふれるプロダクトに生まれ変わってしまうのだ。


「うたい文句とかを考えるのが好きで、陶器の商品説明に『陶器の壁にグラフィティー!!!!!!!!! まるで80年代のNYみたいなWildなStyle。街で落書きをしなくてもお家でグラフィティーアートを!!!! must buy!!!』なんてだれもつけないでしょう? それを言いたかっただけなんです(笑)」


冗談めかして笑うが、「伝統」と「ヒップホップ」のマッシュアップで作られた陶器は、さすがネーミングも洒落ている。

こうしてサンドブラストを利用するという斬新なアイディアを採用した彼らだったが、はじめた当初は割れてしまったり、削れすぎて表面が荒すぎたりと、商品にならないものばかりができるという苦労も当然あった。

陶器によって吹き付ける強さや吹き付ける砂の密度を変えるなどの試行錯誤を繰り返し、何度もテストを重ねてできあがったものなのだ。


マーケティング的思考で結果を急いだら消費されるだけ


伝統工芸品という長く受け継がれてきたプロダクトに対して、新しい切り口での提案。販売の場でもすぐに受け入れてもらえたのだろうか。


「最初の展示会を2009年にしたのかな。大手のファニチャーを扱ってる会社に『来てください』って連絡したけど全然ダメで(笑)。大きな合同展にも出たけど、全然見てくれない。

でもそりゃそうなんですよ。その当時を思い出すと、リメイクの陶器やってるものとか陶器で面白いものなんて圧倒的に少なかったんです。今ではアパレルだけじゃなくて、衣食住すべて含めてライフスタイル提案しているのなんて当たり前で、みんな二言目にはライフスタイルだったけど、そういうトレンドが来るちょっと前だったから。

アパレルのセレクトショップにはアパレルの衣類しか置いていないし、陶器のガチの人から見ればふざけているように見える。作りは波佐見焼きでちゃんとしてるんだけど、カルチャーを落とし込んでいる分、変にファッションっぽくみられてしまったのかな、と」


彼らのアイディアや展開の仕方は、時代より数歩先を進んでいたのだ。ファッションと生活雑貨の業界が分かれていたことによって、最初はどちらの業界にもハマらず、まったく見向きもされなかったというが、そんななかでも彼らは次の時代を見通し、制作を続けていったのだ。


「こうして注目してもらえるようになったのは本当にここ最近のことなんですよ。ようやく風向きが変わったなって実感しますね」

僕らは遅い青春を味わってるって感じかもしれない


先見の明で時代の数歩先のデザインを行う2人が楽しくクリエイションを続けていく上で大切にしてることは何なのだろう。


「お金かな(笑)? 僕たちはお金目的で活動しているわけではないからこそ、それでお金を作ることができたら『TALKY』のテーマでもあるヒップホップそのものであるような気もするし。今の時代のやり方であるような気もする。けれど、すぐお金にしたいと思ってはいないです。すぐ儲けようとするとすぐ消費されちゃうので。作ったものをバーっと広めるよりは、ちゃんと作って、地道に広めていく方がいいなと。

僕達はバックグラウンドに仕事がしっかりあるから、部活みたいに遊びでやれるんだと思うんです。そこをマーケティングとかブランディングとか表面的な思考で結果を急ぐと、残るものは作れないんですよ」


制作にかけた時間に対して、すぐに戻ってくるとは考えていないという反面、本業では全員が各分野の第一線で活躍しているのだから暇なわけがない。『遊び』に対しても抜かりないというのは並大抵のことではないはず。

「大人の遊びですよね。とことん本気で遊ぶっていう。ファミレスで胃が痛くなるコーヒーを飲みながら徹夜したり(笑)。それをやっていけるメンバーだったり、やっていて面白いと思えることじゃないとできないんじゃないかなって思いますね。

遊び盛りの20代のときは各自みんな真面目に仕事してたタイプの人間だから。20代に遊べていなかった人たちが30代になってこうやって遊んでるっていうだけの話なんですよ。若い子とかが面白いクリエイティヴを作っているのを見て、楽しそう、何か良いなあって今でも思いますよ。純粋に羨ましい、そして悔しい(笑)。そういう意味では遅い青春を味わってるって感じかもしれないですね」


メンバーそれぞれがフリースタイルでクリエイションを行うスタンス。次の時代のひとつのスタイルになるのかもしれない。


そしてこの度、「TALKY」が所属するプロジェクト「PEOPLEAP」とのコラボによる熊本地震へのチャリティー企画を開催した。

音楽、グラフィックデザイン、映像、イラストをかけ合わせ「ギフト/日用品」の形でアウトプットする新感覚マルチメディアプロジェクト、PEOPLEAP(ピープリープ)。

長崎の波佐見焼ということもあり、「同じ九州として何か力になりたい!」という思いで始動。「TALKY」のロングラン商品スケボー箸置きが「PEOPLEAP」の参加アーティストが手がけた特別パッケージ仕様となって30セットの限定販売となり注目を集めている。

これは「必要な人に、必要な支援を、必要な分だけ」の理念に基づいたチャリティープロジェクト「スマートサバイバープロジェクト」を介して、売上から製造コストを引いた金額を支援先へ寄付するというもの。 どこまでも動機が純粋で粋なのだ。


後編では「TALKY」メンバーに2.5Dのプロデューサーである比留間さんを加え、「PEOPLEAP」が行っているマルチメディア・プロジェクトや、これからのプロダクトデザインの未来について伺ってみたので、そちらも合わせてチェックしてほしい。

photographer : 花房 遼 / Ryo Hanabusa

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