乃木坂46『それぞれの椅子』(とカニエ・ウェスト)が衝突する、ザ・ビートルズがつくった神話

AKB48の公式ライバルとして2011年にデビューし、今や勢いとしてはAKB以上の存在となりつつある乃木坂46


その2ndアルバム『それぞれの椅子』が、まあ問題作だ。カニエ・ウェストが最新作『ザ・ライフ・オブ・パブロ』、そして前作『イーザス』の唐突なアップデートによって「アルバムというフォーマット、音楽作品という概念への揺さぶり」を行ったことは記憶に新しいが、本作はそれともまた違うかたちで、ザ・ビートルズが『リボルバー』〜『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』で作り上げた「アルバム」の定義を破壊しに来ている。


まず、とにかくリリース形態がややこしい。本作のフィジカルリリースにおいてはTYPE-A〜D、通常盤の全5タイプが用意されているのだが、それぞれ収録曲全16曲中8曲が違うため、同じタイトルを冠しながらも別作品と言っても過言ではないのだ(ただしTYPE-Aと通常盤は同内容)。


トラックリストの構成としては、以下の通り。

M1〜7:全タイプ共通。最新シングル4曲がリリース順に並び、アルバム用新曲3曲が続く

M8〜9:各タイプ別。アルバム用新曲2曲

M10〜15:各タイプ別。既発カップリング5曲

M16:全タイプ共通。「乃木坂の詩」(1stシングル収録のカップリング曲)


まあ、なんともシステマチック。しかもよくよく見れば、各タイプとも新曲は16曲中5曲しかない。


もっとも、前作である1st『透明な色』にも新曲は数えるほどしか無かったが、2枚組全29曲というボリュームに、それまでのシングルや人気カップリング曲をほとんど収録したベスト盤的内容だったので納得感はあった。しかしこの2ndアルバムはどうだろう?「これってもはやアルバムを作ることを放棄しているのでは?」と思われても無理はない内容ではないだろうか。


いや、もはやCDはコレクターズアイテムなのだ。いちいち目くじらを立てる必要はないのかもしれない。


事実、配信限定の「Special Edition」には、アルバム用新曲11曲がすべて収録されているため、1タイプ購入すれば、いやストリーミングサービスに契約してさえいれば、容易に新曲はすべて手に入れられるようになっている。そう、一般リスナーへ向けてのアルバム『それぞれの椅子』はこちらなのだろう。……と好意的に言いたいところだが、そうもいかない。正直「Special Edition」もまた微妙な内容だ。新曲群もシングル表題曲に比べてあまり予算が投下されていない印象の楽曲が目立ち、そればかり続いてしまう全17曲75分もまたツラい。


と、ここで思い出すのが、レディオヘッドの2003年作『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』リリース後、2006年英スピン誌によるインタビューでのトム・ヨークの「曲順を変えたい」発言だ(一次ソースは確かではないが、音楽雑誌「スヌーザー」による2004年刊『The Essential Disc Guide 2004』にも「メンバー自身も、iPod時代を意識したコンピ的な構成を望んていた模様」との記載がある)。


『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』がリリースされた2003年といえば、iPodとiTunesの普及により、CDの価値が下がり、それぞれのリスナーが好きな曲を好きなようにプレイリスト化して聴きはじめた時代。それから13年後、この2016年は、アルゴリズム型プレイリストやサジェスト、ストリーミングによるほぼ無料に近い値段での無料試聴が当たり前となっている。そして前述のカニエ・ウェストのことを思い出してみてほしい。


ならばこうだ。「配信限定の『それぞれの椅子 (Special Edition)』は単純にトラック集であり、それぞれのリスナーが好きなように、それぞれの『それぞれの椅子』を作ればいい」。

当初アルバムタイトル候補には存在しなかったという『それぞれの椅子』。このタイトルを、メンバーそれぞれの個性、それぞれのリリース形態、そしてそれぞれのリスナーがつくる曲順、と解釈して、好き勝手に楽しむのが2016年的ではないだろうか。もはやアーティストは神ではなくなったのだから。


というわけで、勝手に乃木坂46の2ndアルバム『それぞれの椅子 (SILLY Edition)』を作りました。選曲ルールはひとつ。「1stアルバム以降にリリースされたシングル曲は全曲収録する」。全12曲、アナログレコードを意識した2部構成で、M1〜6がA面、M7〜12がB面です。


それでは『それぞれの椅子 (SILLY Edition)』、Apple Musicプレイリストでお楽しみください。

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