高円寺駅南口を出て、パル商店街に入り、一つ目の十字路を右に曲がったつきあたり手前に『新しい人』というお店がある。
『新しい人』はオーナーの小池雄大さんが買いつけて来た世界各地の民芸品や食器、古着、スニーカー、本。そしてお客さんが持ち込んだものや委託の作家ものがジャンルレスに並んでいる古道具店だ。
7年間勤めた修理屋を辞め、古道具屋に
2014年11月に開店してから1年半。『新しい人』を開く以前、小池さんは革製品の修理のバイトを7年ほどやっていた。その時に疑問がふつふつとわき上がってきたようだ。
「『何で名前が通っていて高価なものが簡単に壊れちゃうのかな?』という事例をいくつも見ていて、疑問に思ったんです。そういったものをみるたびに、『ああ、そうか。長く使われるということよりも、大事に思われているのは"トレンド"なんだな』とか『目先の消費ありきのものが生産されているんだな』と感じていました。
でも個人的には『それってどうなのかな?』って思えて。だって既にこの世にあるもので使えるものって沢山あるのに、壊れやすいものが作られていくのってナンセンスじゃないですか。
『既に世の中にあるものを回すだけで経済を循環できるんじゃないか?』と考えていました」
そういった疑問から、ものに関してや、こういう場所を持つことに対してなど自身の中で構想ができていったようだ。
SNSめんどくさい
今でもネットはほとんど使用せず、SNS上での情報発信も一切行わない。ときどき開かれる『新しい人』のイベント情報は、希望するお客さんにだけ直接メールを送っている。
売り上げには貢献するかもしれないが、ネットで先入観を持たれるより、お店に足を運んでものを実際に見て気に入るものがあったら買ってほしいという思いが強いからこそできる行為だ。
「そもそも僕がそういう人間じゃないんだと思います。ネットに対してポリシーがあるんじゃなくて、単純にめんどくさい(笑)。それに僕はネットのなかじゃなくて、ここにいるので」
たしかにここに来るとお店に来ているというより、小池さんに会いにきているという感覚に陥ることが多い。
この日も取材陣に、「コーヒーでも飲みますか?」ともてなしてくれたが、これは『新しい人』の客のあいだでは珍しいことではない。そういう風にして目の前の人とのコミュニケーションを一つ一つ丁寧に大切にしているからこそ、SNSが必要ないと感じているのかもしれない。
いいモノはとことん隠したくなる
店内には小池さんが買い付けてきた商品、取り扱っている作家の作品、お客さんから持ち込まれた商品が、ジャンルレスにミックスしてレイアウトされている。金額の低い商品のすぐ隣に、掘り出し物がまぎれ込んでいるのだ。だから気を抜けないし、宝探しをするような感覚になる。
「僕はあまのじゃくだからか『良いものを良く見せて、良く見える』というのは当たり前過ぎて照れちゃうんですよね。なので、良いものが仕入れられるとついつい隠したくなって、わかりづらい場所に置いたりします。まるで犬ですね(笑)。それをお客さんが見つけたりすると『おっ、見つけたな』ってなる。うちに置かれたものの力を信じているので、真剣勝負みたいな感覚もあるかもしれないです」
自分が良いものを見つけてきたのと同じように、たくさんの商品の中から、お客さんが自分の好きなものを選ぶ。ジャンルレスにしているのは、小池さんの意向など関係無しに、お客さんには『自分が思う良いもの』を探して見つけ出して欲しいという気持ちがあるんじゃないだろうか。
本当の利益とは何か
ここまでの話を聞くと普通の古道具店のようだが、ここでは他とは違う独自のルールを設けている。お客さんとの取引は、独自通貨の『こい券』で行っている。
お客さんが売りたい商品を持ち込むと、商品の価値に応じて『こい券』を渡す。レートは現在1こい券=100円。そしてその『こい券』を使って、店内の商品と交換できるというシステムだ。
「『こい券』の説明をするとふざけてると思われることもあるんです」と苦笑いをしながら話を続ける。
「お客さんがもう使わなくなったものを持って来てもらって、ここにあるものを持って行ってもらう。たまたまそのタイミングで欲しいものがなかった場合に、いつでも使える仮の形として『こい券』を発券しているんです。ここをオープンする前にお金を貯めている間、お金について考えることが多くなっていました。そのときに『本当の利益って、お互いがちょっとずつハッピーになることじゃないのかな?』と思ったんです」
商売としてお店の利益を一番大事にすると、まずはお金が優先されるのは至極当然だ。でも小池さんは本当に大事なのはそこじゃないと感じている。だから売り手と買い手が物々交換するという経済システムを採用しているのだ。
商売としてお店の利益を一番大事にすると、まずはお金が優先されるのは至極当然だ。でも小池さんは本当に大事なのはそこじゃないと感じている。だから売り手と買い手が物々交換するという経済システムを採用しているのだ。
独自のビジョンで商売をする『新しい人』は、これからどういうチャレンジをしていくのだろうか。あまり教えたくなさそうだったが、少しだけ話してくれた。
「周囲の人もそうですが、主に自分自身を裏切っていきたいですね。 知らず知らずのうちに、お店のルールみたいなものがどんどんできてしまうんだなというのを最近感じているので、そういうものをとっぱらっていきたいです。気が向く限り、面白そうなことならどんどんやっていくという感じで、色々な表情を見せていきたい。店としてどうこうよりも、一人の人間としてこの場所にいて、そこからの広がりで面白いことができたらいいなと思います」
『新しい人』には気楽さがある。「今日暇だな~」と思ったら遊びに行く。
挨拶を交わして、いただいたコーヒーでも飲みながらお互いの近況を話す。行ったら買わないといけないみたいな空気もないし、肩ひじを張らなくていいからこそ『新しい人』に行くことが日常になる。小池さんに会うために遊びに行く常連さんが沢山いるのはきっとそのためだろう。
また暇ができたら、小池さんに会いに行こう。
photographer : 三宅 英正 / HIDEMASA MIYAKE
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