Akeem the Dreamがかっこいい大人であり続けられる理由

音楽や服や食の選び方、交わす言葉や身のこなし、遊び方。すべてにおいて自分が選ぶものや行動にセンスが出る。そういったところに人を喜ばすための洒落が効いているっていうのがかっこいい大人だと、私は思っている。そんなことを考えていたとき、ふと頭に浮かんだのがフリーデザイナーのAkeem the Dream(アキーム・ザ・ドリーム)さんだった。

Akeemさんは、『ヘクティク(HECTIC)』のデザイナーを経て、ファッション、ミュージック、アートとさまざまなジャンルでマルチな才能を発揮している。

現在、サンフランシスコ在住でRi$ky Bizne$$ Crew のDJ、Eddie Ra$kelと共同で立ち上げた自らのブランド『リザーブド ノート(Reserved Note)』や、有名ミュージシャンへのアートワーク提供などを行っている。Akeemさんに初めて会ったのは去年。共通の友人を通して知り合ったが、彼のことをもっと詳しく知りたいと思い、話を聞くことにした。


小学生時代、スケボーカルチャーに影響を受けた


まず、現在に至るまでファッションや音楽に深く関わってきた彼が、そもそもそうしたカルチャーに興味を持ったきっかけは何だったのかを伺った。

「親の仕事の都合で84年ぐらいにオーストラリアに移住したんです。当時はスケートボードが2回目の黄金期を迎えて盛り上がっていたので、自分もやりはじめたんですけど、当時のスケートやってる人たちは、変わった人が多くてアウトサイダーみたいな人たちの集まりだったんです。そこでスケートしはじめたんで、自然にパンクを聴いてスケートにハマってったんですよ。当時『スラッシャー』っていう雑誌を見ていて、USのスケーターたちがやってるファッションとかに憧れて、真似をして。髪型はこういうスタイルにしてるとか、Tシャツはこう着てるとかっていうディティールを自分なりに分析して。でもオーストラリアは当時まだ田舎だったから、『スラッシャー』で見たものと同じものは買えないんですよね。だから、そうしたアイテムに似たようなものはないかな?って探したり、なければ自分で作ったり。そんな風にして自分でやってたのがきっかけだったのかなと思います」

幼い頃、憧れの存在から影響を受けて真似をしていたことはだれしも経験あることだと思うが、Akeemさんはスケートボードカルチャーを通じてファッションを学んでいったようだ。しかも小学生時代。なんて早熟なエピソードだ。2年後、中学生になった頃に日本に帰国し、当時流行っていたクラブカルチャーに触れたことが、さらに音楽にのめり込むきっかけとなっていったという。

「中学生の頃に帰国して、原宿の『ムラサキスポーツ』にスケボーのパーツとかを買いに行ってたんですけど、そこでかっこいい先輩方と出会って情報を得たり、雑誌で情報を得たりして、芝浦のGoldとかに忍び込んだりしてました(笑)。東京の人たちは、スケートして聴いてる音楽もクラブミュージックとかヒップホップだったりして、すごく都会的で洗練されて見えましたね。都会での遊び方はこのとき出会った先輩たちからがっちり学びました」

中学生から高校生にかけて東京のスケートボードカルチャーやクラブシーンに没頭したという。スケートボードチーム『T19』での活動はどう影響していったのだろう。

「『T19』って最初は単純に一緒にスケートしたり夜遊びしたりする集まりだったと思うんですけど、90年代入ってからオーさん(大瀧ひろし)がオリジナルの板やウィールを開発しはじめて、それと一緒に洋服も作っていったんだと思います。オーさんとスケシンさん(スケートシング)がタッグを組んで作っていたプロダクトのサポートを受けていたのはすごくうれしいことでしたし、物が出来ていく過程を見れてすごく勉強になりましたね。あとその頃みんなでヒップホップばっかり聴いていたので、それの影響が強くて、今でもラップやヒップホップを表現方法にしてるのかもしれませんね」


『リザーブドノート』は商業無視。自由なクリエイティブを続けたい

Akeemさん自身のブランド『リザーブドノート』には、商品一つに対するシルエット、素材、プリントバランスにありそうでない"違和感"がある。もっとも特徴的なのは、強烈なパロディやシニカルなセンスが光るデザインだ。現在洋服での発表が2シーズン続いているが、今後はどう展開していくのだろうか。


「『リザーブドノート』はアートプロジェクトみたいに考えています。あんまりビジネスベースにならなくていい形で作品を作っていけたらいいなと思っています。例えば、音楽をやっている友達でコラボできる人がいたら音楽を作ったり。以前KZAさんにNo Limitというレーベルの音源だけのミックスCDを作ってもらったりしましたね。かっこいいなと思うアーティストやブランドがあった場合は、面白い形でなにか一緒にできないか?といつも考えています。あくまでもアートプロジェクトなので、ジャンルや形にとらわれずに面白いコンセプトを現実のものにしたいですね。みんながダウンロードして使えるものだったり、聴いたり、身につけれるものだったり」

自由に表現するためにはビジネスとのバランスが大事になってくると思う。『リザーブドノート』では、そのバランスをどう考えているのだろう。

「リザーブドノートはビジネスほとんど無視です(笑)。でもブランドとして動かせるギリギリの所で動かしますけどね。社会風刺とか微妙な冗談とか、インディーズだからできるっていうことを貫けたらいいなと思っています」

大きな仕事での表現の制限を経験してきたからこそ、インディーズにしかできない表現の幅の広さを大事にしていきたいという。とはいえ、商業ベースにしないとなると、継続していくのは大変じゃないのだろうか。

「まぁ正直しんどい部分もありますけどね。でも、純度を下げずにワクワクするようなものを作りたいですよね。自分の美意識を貫くことが大事なのかなと思っています。ありがたいことにブランドを面白がってくれる方々が助けてくださって成り立っています。展示会に来てくれて、洋服を買ってくださる人たちの期待を裏切りたくないですよね」

『リザーブドノート』をやることで、今までのデザイナーとしてのAkeemさんから、表現者としてAkeemさんという見え方が変わってくるのではと思う。フリーの仕事にも変化はあるのだろうか。

「ブランドを使って自分のやりたいことを自由に表現しているんで、フリーランスの仕事につながることももちろんあります。『こういうことやってます』っていうのが分かってもらいやすいという意味でも便利なツールですね」


なるべく子供でいたほうがいい、感受性が高いという意味で


Akeemさん自身、やりたいことにあふれ、常に新鮮な情報にアンテナを張っている。今界隈で注目されている若いクリエイターとコラボしたり、アートワークを提供したりしているが、彼らの動きを先輩としてどう見えているのだろう。

「最近よく若い子たちと音楽つくったり、プロダクトを開発したりしますけど、いつも彼らのために何かできないかと考えてますね。好きなことをやって生活しようとする生き方は楽ではないと思うので、応援したくなります」

音楽にしてもファッションにしても、好きなことを続けていくのは大変なことだ。活動を続けていく上で、Akeemさんが大事にしている部分は何なのだろうか。

「自分が楽しむことですかね。やったことないことに挑戦するのも大切な気がします。あと、自分が欲しいものをつくるとか、自分が世の中にあったらいいなと思うものをつくることって自分にとって癒しの効果があるんですよね」

音楽、ファッションに関わらずに、アートプロジェクトとして自由に表現をしていきたいという『リザーブドノート』を含め、これからやっていきたいことについて伺った。

「今後は海外の友達とか周りのいろいろな才能を持つ人たちと一緒にものをつくっていきたいですね。洋服だけじゃなくて空間だったり場であったり、パーティーとかアートショーだったり……言いだしたらキリないですけど(笑)、今までやってきたことを踏まえてなにか次のことに挑戦できたらいいなと思っています」

純粋な好奇心を失わないで、新しいことにチャレンジを続けているから、若い世代もついてくる。だからこそ一緒に面白いことができるし、新鮮なものを生み出し続けることができる。いつでも自然体で周りを楽しませてくれるAkeemさんはかっこいい大人だなぁと、改めて思った。

photographer:宇佐 巴史 / Tomofumi Usa

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