「順位付けは必要ない」コレクター歴30年の男が語る醍醐味

フリーマーケットやリサイクルショップが好きだ。そうしたスポットに行くたびに、知らないキャラクターのグッズや俳優やタレントとおぼしきプロマイド、だれが書いたかわからない絵にピントが合って、ついつい買ってしまう。

そんな風に人がガラクタと呼ぶようなものばかりを集めてしまう癖が私にはある。あるとき、よく古物を一緒に見にいく友人に「面白いものをいっぱい持ってる人がいる」との触れ込みで紹介されたのが、今回お話を聞かせてもらう田中哲也さんだ。


田中さんは『ROBOTROBOT』という中野ブロードウェイや秋葉原などに店舗をもつおもちゃ屋さんのディレクションをしている。他にも、『プラトー』という雑貨やビンテージのコレクションを置いているようなオルタナティブカフェのディレクションと、『ほうき社』という個人名義で、コレクターのためのイベントなどを行っている。


田中さんに会うのは1年ぶり。秋葉原にある『ROBOTROBOT』に伺った。会うなり田中さんが、バーガンディーのシックな生地に『捜査』と書かれたキャップを被っているのに目が釘付けになった。思わず「それ何ですか」と聞いてみる。

「コレクター仲間の、永井ミキジさんからもらったやつです。彼はこのキャップを4個持ってたのでひとつ譲ってくれたんです。これは警察の捜査のときにかぶる帽子ですね」

会って早々に面白い話が出てきた。まずは田中さんのコレクターとしてのルーツから聞いてみた。


ジャッキー・チェンが好きすぎて、カンフー教室に

以前、別の仕事で田中さんのコレクションをお借りするために、自宅に伺ったことがあった。部屋の壁一面に設置されたラックにはアンティークの小さなフィギュアがぎっしり。部屋の床には足を踏み入れるのが困難な程のおもちゃの箱が積み上がっていた。今では部屋中コレクションに囲まれている彼が、ものを集めだしたのは幼稚園からだという。

「幼稚園の頃、日曜日は超合金の日って決まっていて、毎週買ってもらっていたんです。小学校に入ってからはますます物を集めるようになりました。ジャッキー・チェンとかブルース・リーが好きで、映画を見に行ってグッズを集めたり、ファンクラブに入ったりしていました。なんならカンフーも習っていたくらいなんです(笑)。今でもそのときの会員証を持っています。ファンクラブって言ってもオフィシャルじゃないやつが、当時の日本にたくさんあって(笑)」

ジャッキー・チェンやブルース・リーを好きになって、カンフーまで習っていた程の熱狂的なファンだったことから、気づいたらコレクションが増えていたという。しかし、今まで集めていたコレクションのすべてを捨て、コレクターをやめた経験もあるようだ。

「中学に入ったときにスポーツをはじめたので、カンフーをやめたんです。コレクションも増えて収集つかなくなってしまったので、団地の公園で今まで集めていたコレクションを全部泣きながら燃やしましたね。それで一回コレクションすることをやめました。でも高校生になって熱が再燃してしまって。当時ベスパとかラビットといったバイクに乗っていて、パーツをアンティーク屋さんで探していたのがきっかけで、懐中時計とか昔のライターをまた購入するようになってしまったんですね。それから今に至るまで、30年来継続していってる感じですね」

今では仕事で海外や古物市場などに買い付けにいっては、自分の物も買って帰るという。そこで手に入れたコレクションを何個か見せてもらった。

「古物市場って、日本だと閉鎖的なところもあるんですが、そういった所に行って競り落としていますね。これが好きっていうジャンルは特にないんです。おもちゃでいうと、ブリキの世代、プラスチックの世代、僕たちとかだとソフビの世代となっていくんですが、その時代ごとに自分がいいなと思うものをチョイスして、集めているような感じです。


これは多分、古物市場で競り落としたのかな。漫画にバイクを登場させる場合、参考にする資料が必要になりますよね。これは、漫画家さんが自分で、バイクの写真ばっかりスクラップして集めた、スクラップブックです。他にも、スターウォーズとか、スーパーマンもあります」

話が熱を帯びはじめる。

「こっちのスクラップブックは、60年代後半ぐらいのもので、『グループサウンズ』とかが流行ってた時代だったんでしょうね。若い子たちのファッションだとか、流行っているものがスクラップされています。その時代の風習が見えて面白いですよ。この写真は、地下鉄のホームに、落としもののボタンがいっぱいついたポスターが張り出されているんです。『あなたのボタンはどれですか?』って書いてある。そんなこと今って絶対しないじゃないですか」

新聞や雑誌の切り抜きが切り貼りされ、綺麗にファイリングされている。時代ごとの流行りも知ることができるが、誰かの視点でスクラップされていると思うと、このスクラップブックを作った作者の趣味も想像できて面白い。

「パックマンのパーフェクトゲーム(333万3360点)をはじめて達成したビリー・ミッチェルって人がいるんですよ。ビリー・ミッチェルは普段はホットソースの会社をやっているんです。これはバンクーバーのクラシックゲームショーに2002年に出店したときに、出店していたディーラーにだけ配られたビリー・ミッチェルのホットソースです。クラシックゲームショー限定のパッケージになっているので、出店していた人しか持っていなんです。その日の夜はディーラーのみんなで、ピザにかけて食べました」

ひとつひとつの思い出をこうも覚えているものなのか。エピソードを語りながら「あのとき面白かったですね~」と楽しそうに笑顔をこぼす田中さんから、コレクションを通して人との思い出を大事にしているような気がした。

「これは前に『コレクターズショーケース』っていうおもちゃ屋さんで働いていたときのもの。もともとはアメリカのアンティークモールにショーケースがあって、いろんな人が自分のコレクションを持ち寄って販売する場所があったんです。それをはじめて日本に持ってきたお店が、90年代後半に吉祥寺にオープンしたのが『コレクターズショーケース』です。今では貸しショーケース屋さんっていろんなところにいっぱいあるけど、その先駆けですね。『コレクターズショーケース』はコレクターの熱量がすごくて、何十万円もするソフビとかブリキとかが販売されている場所なんです。いろんな人が来るので、そこで働いたことでおもちゃやアンティークについての知識を得ました。そこのオーナーにもらったイデアルの60年代の毛虫のおもちゃはずっと大事にしています」

時代の移り変わりで感じる、コレクターのスタイルの変化

コレクターであり、コレクションを提供する側でもある田中さんは、時代の流れとともにコレクターのスタイルにも変化があるように感じるという。

「物を集めている人が減ったっていう感覚はないんですけど、売るものが変わってきたという感じがしますね。今はアニメのグッズとか、『アイアンマン』や『キャプテン・アメリカ』とかの映画のキャラクターが人気です。今の特徴としては売れる・売れないという消費サイクルが早いんですよ。例えばアニメが1期2期と放送されて、それが終わったらもう人気も離れてしまって、全然売れなくなっちゃう。『ラブライブ』とかも、最後のライブが終わったらまったく売れなくて。放送してた時は1日100個売れてたものが、終わった途端に1日1個2個しか売れなくなるということは多々あります」

田中さんが言うには、おもちゃ業界の消費サイクルはどんどん早くなっているようだ。一気に大量の物が売れ、一気に売れなくなる。お店としては次に何が来るんだろうと先読みしておかないと大変だ。

「特定のお店に限定で卸す売り方が多いので、集める側も大変ですよね。『次にあれが出る』という情報や『何時から販売がはじまるか』といった情報をネットで仕入れて、パソコンの前で待機していたりするみたいなんです。しかも、実際販売されても1分で売り切れみたいな感じで。昔はそんな文化なかったから、足を使って探すしかなかったんですよ」

今では情報も購入もネットで取引をするのが主流になっているが、当時はどのような探し方をしていたのだろうか。

「いろんなお店に行って、話を聞いて情報を仕入れていました。そのうち90年代になって、『クワント』という個人売買情報誌が出て、そこに『何々求む』とか、『何売ります』とか投稿されたものが載っているんです。それを見て情報収集してましたね。まだインターネットが普及するちょっと前の話ですね」


アクの強い店主との会話もコレクションを買う楽しさ


コレクションの仕入れ先や情報ツール自体も、時代の流れとともに変わってきているが、アナログな現地の店舗での情報収集や仕入れ現場では、一癖も二癖もあるキャラクターのスタッフとの濃密なやりとりが繰り広げられているようだ。田中さんが体験した仕入れ先での思い出についても話してくれた。

「二子玉にあるアンティークの家具屋さんがあるんです。『この机いくらですか?』って聞くと、『感じてください』っていうんですよ。『2万円くらいですか?』って聞くと、『いい線いっていますね。だいたいそれくらいです』って最後まで教えてくれない(笑)。

やばいから話をそらそうと思って、『営業時間は何時から何時までですか?』って聞いたら、『それもフィーリングで感じてください』って言われて。『売る気がないのかな?』って思うことすらありましたね。そのお店の物が欲しかったんですけど、結局買えなかった。

あと、おもちゃ屋さんの接客が高圧的で、『お客さん買い物で来てる?』『買うの?』ってすごい圧で迫ってくるんですよ。それで喧嘩になってお客さんに目黒川に投げ落とされたっていう人がやってる店なんですけど(笑)。ただ商品はすっごくいいものが置かれているんです。

まあ、想像通りかもしれませんが、アンティーク屋さんとかおもちゃ屋さんとかって、アクの強い人が多いんです。買い物していてそういう人に会うことも、コレクションする上でのひとつの楽しみだと思っています」


二子玉のお店がだいぶ気になるところだが、たしかにそういうお店には、『名物店長』と呼ばれる人が経営している場合が多い気がする。そういったコアな情報を得たり、そこで起きたことが、のちに話のネタになったりもするのだ。

最後に30年来コレクターとして活動し、それが生業になっている田中さんが思うコレクションの醍醐味について聞いた。

「コレクターってものすごいお金をかける人もいるじゃないですか。アンティークの車だったり、ギターだったり。でも僕はコレクターの醍醐味ってそういうんじゃないんです。よく『集めているものの数が数えられなくなったらコレクター』と考える人もいるんですけど、コレクターの中でもランク付けや比較をしないほうがいいと思うんですよね。集めはじめたばかりでも、数は関係ないです。自分を中心において、周りに好きなものが少しずつ増えていく楽しみがコレクションする楽しみの本質なんだと思います」

コレクターのためにイベントなども行っている田中さんだが、今後どう展開していくのだろう。

「個人でやるときは、『ほうき社』という名前で活動してるんですが、また時間があればなんかやりたいなと思ってます。『代官山Ivy House』とか、以前下北沢にあって代田橋に移転した『commune』とかで、自分たちで集めたものを並べて即売会をしたこともありました。普段とちがうお店の空間作って、パーティーみたいな感じにして。面白いものがあれば、何か作ったりもしたいですね」

インタビューが終わったあと、近況報告や最近あったことなどを話していた。そういう何気ないコミュニケーションがアイテムとリンクして、形として残っていく。田中さんのコレクションというのは、もしかすると日記や写真の代わりに、日々の記録としての役割もあるんじゃないだろうか。

田中さんにとってコレクションしたアイテムはいろんな出来事を思い出す目印になってて、コレクションの数だけ大事な思い出があるのかもしれない。誰に何と言われようとも、そういう生き方は全然アリだと思う。

photographer:宇佐 巴史 / Tomofumi Usa

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