日本一狭いスケートショップ「THE 1st SHOP」

MOUTAKUSANDA!!! magazine

(必ずしも)旅に出ない旅行誌「モウタクサンダ・マガジン」。SILLYに出張中。
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「ペーパー売ってなかったっけ?」

「ありますよ! RAWでいいっすか?」


手巻きタバコのペーパーを入手したオバちゃんは、電動アシスト付きの自転車で坂道を登っていった。店主のシンゴ君は窮屈そうに2階スペースからタバコの在庫を引っぱり出す。


「葉巻も置いてますよ。毎週日曜に必ずスイッシャーのストロベリーを買っていく人がいて。カセットテープ見にくるB-BOYとか、近所のおっちゃんが立ち話しに来たり。色んな人がふらっと。本当にキオスクみたいっすよね」


14時過ぎ。だいたいこれくらいの時間に、この店は開く。俺は午前中の撮影を終えて、この「The 1st SHOP」に寄ったところだった。タバコを買うためじゃない。実はここは“日本一狭いスケートショップ”だ。



プロスケーターのシンゴ君が仲間と始めた、(たぶん)日本一狭いスケートショップ「THE 1st SHOP」。見ての通りスペースは1帖に満たない。

この店を知ったのは、ミュージシャンのK.A.N.T.Aが紹介してくれたから。K.A.N.T.Aのスタジオで遊んでいたら、「シンゴ君のところ行きましょう」って誘われた。「何の店?」って聞くと「行けばわかります」って。

結局その日は3人でくだらないバカ話をして帰っただけで、何の店かはよくわからなかった。でも、青山辺りでいいノリで遊ぶなら、ここに来たらいいってことは十分伝わった。面白い人や情報が集まる、あの匂いが強烈に漂っていたからね。



「そんなことありましたね〜覚えてますよ、1年くらい前かな?」

シンゴくんはスケーターの界隈だとちょっとばかり有名な人らしい。今日は天気がいいし風も寒くない。この店でダベるならこういう日がベストだ。


「今日はゆっくり話を聞きたいと思って。シンゴ君のこととか、この店のこととか」

「もちろん、いいっすよ!」


俺はさっき買ったRAWのペーパーで1本煙草を巻いて火をつける。1st shopの前を通りすぎる外国人モデルたちを横目に、キラー通りのポールに寄りかかって、話をはじめる。


「『SHINGOLD』っていう名前で自分のデッキブランドをやってて。デッキの他にグッズもありますよ。これがキャップ。シャーピーっていうアメリカのペンのロゴをパロってて。これはスラッシャーロゴのパロディ」

話している間にも、多くの人がキオスクみたいに見えるこの店を不思議そうに眺めながら通り過ぎていく。

「めっちゃビビる人もいますね〜。『ギャー! 人が入ってるー!!』って。変わった人多いっすよ、このへん。この前シアトルから来たっていうヤツが突然ここでラップ始めて。『特別にフルパート聴かせてやる』とかって。ぜんぜん終わんないんすよ〜」

俺は店先に並んだカセットテープを手に取る。よく見るとスケートとは直接関係ないものもたくさん置いている。

「昔っからヒップホップ好きなんで、話のネタになるかなって。テープ最近流行ってますよね。自分とかはずっとテープとラジカセ。テープ世代だし、スケートするのもテープウォークマン聴きながらだし。根付いてるかな。かっこいいっすよね、このサイズ」

NASの1stアルバム『Illumatic』のカセット。初めて実物を見た。

「けっこう売れちゃったけど、他にも良いヤツあったんですよ。これはマライヤ。この頃めっちゃかわいいっすよね。改造前かな、ハハハ。先輩からカセットをごそっと譲り受けて、置かせてもらってて。

「もう入荷できないから、売れたらフィニッシュ。欲しい人に繋げてったほうがいいし、好きな人は大切にしてくれるだろうし。『ここで買ったなー』って思い出にしてくれれば、嬉しいっすね」

値段を聞いたら、めちゃくちゃ安くて驚く。転売目当てのヤツらが買い漁りに来ないか心配になるくらい。

「そういう人とは話会わないと思うんすでよね〜。ほら、この店ってちゃんと会話しないと、モノ買えないから」

あらためて、狭い店内を眺めてみる。シンゴ君がカウンター内の定位置にが収まると、後ろの商品が隠れて見えなくなる。元から表に出てないアイテムも多い。思わず「確かに、買いものしにくいね」と言ったら、シンゴ君は嬉しそうに同意する。


「お客さんが服買うにしても、『サイズ出してもらっていいっすか?』とか聞かないといけないですからね。試着用の鏡も置いてないから、店前に停まってる車の窓ガラスの反射で見てもらって。お客さんもウケますよね、『えっ! これで見るの!?』みたいな」



「でも声かけないと買えないのが、いいと思ってるんすよ。『どこでこの店のこと知ったんすか?』とか会話も生まれるし。お客さんにとっては面倒かもしれないけど、ハハハ。目当てのもん買ってサクっと帰るのは楽だけど、この店はそうじゃなくても、いいかな」


会話らしい会話もせず買い物を終えることってよくある。インターネットなら無言でボタンを押せばそれでオーケー。でも本当は、少し間口が狭い店の方が入ってみたら面白いって、みんな気づきはじめている。そう話すと、シンゴ君は「面倒くさいなりに、伝わるものってあるっすよね」と言って続ける。



「ここに来たら隣のバーも紹介できるし、『今日こういうパーティーあって面白いよ』って誘うこともできる。そうやって一緒に遊べば人も紹介できますからね。この店きっかけで繋りまくって、遊びを広げていってくれたらいいなって。落とし穴にハマるっていうんすかね。仕事もあるだろうけど、週2回くらいの遊びは外出て、店来たりスケボーしたりするのもいいと思うから」



「ネットにパーティーとか店の情報も載ってますけど、それだけじゃ分からないことっていうか。会って話す中で予想外の方向に広がっていくこともあると思うんで。情報ゲットしに、ふらっと来てもらえるといいっすね」


俺たちもスマートフォンに頼る前はそうやっていた。予定を決めず馴染みの店を回って人に会う。他の店やその日のパーティーを教えてもらって、また次の場所へ。その日のリズムに乗って遊ぶ感覚。


「狭いことって大変じゃない?」

狭さに何かメリットはあるのか?っていう意味だ。ちょっと意地悪な質問かもしれない。


「いや〜マジ大変っすよ!」

予想外の答えに驚いた。シンゴ君は嬉しそうに続ける。



「在庫が雪崩おこすし、冬寒くて夏暑いし、排気ガスもハンパない。在庫取るにもはしご登らないといけないし。お客さんびっくりするんすよ、『どこ行くんですかー!?』って、ハハハ。

だから、全然便利じゃないです、実際。でも自分のサイズには合ってるかなー。めちゃくちゃ不便だけど、その不便さが好きっていうか。広かったらそれなりの作り方もあると思うけど、ココはこの空間ありきで始まってるんで。元は隣のバー『C.O.D』の倉庫で、それをみんなで改装して。あるものでどうやって面白くするかっていうDIYの考え方で」


スケーターじゃない俺からしたら、多くのスケートショップは入りづらく感じてしまうのが本当のところ。でも、この店ならタバコついでに寄れる。滑ってるシンゴ君を見てると、スケートって楽しそうだとも思う。


「スケボーやってない人が来てくれるのは嬉しいっすね〜。スケート以外の物から入って、いつかスケート始めてくれたらめちゃくちゃ嬉しい。入り口は何でもいいと思ってるんで。

常連でオタクのヤツがいるんすよ。近所に住んでて、バーでいつも飲んでて。中古の板組んでスケート教えたんですよ。『面白くなったらウチの板買えよ!』って言って。今じゃガンガン、プッシュで滑ってますね」

俺も滑ってみたいと言うと、「教えますよ!」とさらりと答えてくれる。


「スケートって難しいとか危険っていうイメージあるかもしれないけど、最初ちゃんとした人に教わったら全然違う。それに、スケートから音楽とか服とか別のカルチャーにも広がっていくとも思うんで。自分も若い頃、先輩の店に通って色々教えてもらったから。この店がそんな感じになるといいなって。

最近は子どもたちにスケート教えてるんです。若いヤツらがこの辺りで遊べる環境を作っていきたくて。少しずつですけど、地元っぽく根付いてって」


クライアントから進捗を確認する電話が入った。そろそろ戻ろうと思ったら、シンゴ君は通りがかかりのオジサンと話していた。

「今の近所の人なんすけど、最近ヒップホップにハマってて。『今度踊りに連れてってくれ』って言われて一緒にクラブ行ったら、『次はもっとガンガン踊れるところが良い』って、ハハハ。また遊び連れてかないと」

シンゴ君と別れ、キラー通りを下りながら考える。俺たちは便利なものに慣れて麻痺してる部分があるかもしれない。

少し不便な方が頭を使って工夫しようとする。店の広さもそうだし、金や時間だって似てる。制限が多いからこそ、クリエイティビティが生まれることは確かにあるはずだよね。

そんな大げさな話かって? それは現場に出かけて君の目で確かめてみて。


 photographer : 茂田羽生 / HAO MODA

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