「逗子海岸映画祭」体験記|創設者インタビュー編

今年で7年目の開催となった「逗子海岸映画祭」。

前回の記事では、実際に私が体感した映画祭の雰囲気をレポする記事を掲載した。

今回も引き続き、映画祭の空気を写真でお見せするとともに、映画祭の創設者である志津野雷(しづの・らい)さんが考える「逗子海岸映画祭で本当に伝えたいこと」、この映画祭にかける思いを紹介したいと思う。

実をいうと、映画の上映はどうでもよかった

「この人が雷さん」そう紹介され視線を上げると、日に焼けた小麦肌の男性が満面の笑みで振り返り手を差し出してくれた。パッと見ただけで私よりもひとまわり年上であろうその男性は「どうもどうも~初めまして雷です! 今日はありがとね~!」と驚くほど気さくに話しはじめ、互いに自己紹介を済ませると、会って数分しか経っていない私に「とりあえずビール飲もうよ」とお酒をご馳走してくれた。

ここでもそのゆるさに驚きを隠せなかったが、ビール片手にさっそく逗子海岸映画祭をはじめたきっかけを聞いてみた。

「もともと僕は写真家で、写真を撮りながら世界を旅していたのね。それで日本に持ち帰った写真を海辺で上映したいと思ったのが最初のきっかけ。世界を旅するなかで出会った人やもの、自分の目に映ったもの、それを自然のなかで人に見てもらいたいと思った。

でもどうせするなら、写真だけじゃなくて僕が世界で見てきたものをそのまま感じてほしい、見てほしいと思って、CINEMA CARAVANをはじめたんだよね。

そうしていろんな形を模索していくなかで、CINEMA CARAVANを通して、僕が世界で出会った素晴らしい人や美味しいご飯、カルチャーをみんなに知ってほしいと思うようになった。だから正直なことをいうと、今では映画の上映はある意味どうでもいいんだよね。こんなこと言ったら怒られそうだけど(笑)」


CINEMA CARAVANに携わるすべての人が映画の主人公

ものの数分で「映画の上映はどうでもいい」と衝撃の一言を放たれ、呆気にとられていた私だったが、その言葉から、ではCINEMA CARAVANの本意はどこにあるのかと思い、話を続けてもらった。

「こうして毎年映画祭を逗子で開催していて、来場者数も増えていって、スポンサーとかがついてくれるようになったけれど、僕が一番大事にしているのは本当はそこじゃない。お金とかスポンサーとか、それは無くてもいいことで、まず大前提としてこのCINEMA CARAVANのスタッフをお客さんに見てほしいと思ってる。

このキャラバンを成功させるために連日動いてくれているスタッフひとりひとりにストーリーがあって、皆が映画の主人公なの。皆それぞれ“できること”が違って、それぞれがいろんな能力を持ち寄ることでこのキャラバンは作られているんだよね」

「1からすべて自分たちで作り上げていったキャラバンで、わからないことがあればお互いに教え合って、お互いに成長してきた。知識を持ち合ってひとつのものを作りあげることで、僕たちはどこに行ってもキャラバンを作ることができるようになる。

そうしていろんなストーリーが集合することで、1つの大きなストーリーとなる。それがこのCINEMA CARAVANだと僕は思っている。『CINEMA CARAVANを一緒に作っている僕の仲間は、こいつらホントにすげー奴らなんだよ』って自信を持って言えるんだよね」


どんなときも、自分に嘘はつかない

志津野さんの話を聞いていくうち、会場にいるスタッフたちに対する印象があっという間に変わっていく感覚を憶えていた。

今では日本のみならず世界中からCINEMA CARAVANを開催してほしいとオファーが来ているらしく、現時点ではオランダ、そして南アフリカからも依頼がきているとの話に驚きを隠せなかった。

海外で開催したCINEMA CARAVANへはベルリン国際映画祭やカンヌ国際映画祭からも取材が入り、今日の映画産業に携わる日本人として、今最も注目を集めているであろう彼が、こうして逗子で毎年映画祭を開催する理由はどういったものなのだろうか。

「逗子は僕の地元で、若いときからこの海でずっとサーフィンをしてきたんだよね。だから自然に育てられたようなもので、それも逗子で映画祭を開催する理由の一つなんだけど、世界を旅しながら自然と対峙することでちっぽけな自分に気付くというか。自分っていう存在の無力さを知ったり、自分と向き合ったりすることができる。

自然って嘘をつかないじゃない? だから自然とともに生きることで自分に嘘もつかなくなるんだよ。自分に嘘をつかなければまわりも嘘をつかないし、空も風も、みんなが正直になることですべてがうまくつながっていくんだよね。

そうやって、自然のなかでいろんなものに触れて、五感に正直になってほしいっていう想いがあることは確かで、そういう機会を作りたかったっていうのもあるね」


地球と生きるということ

志津野さんの熱く語る姿にえらく感動し、まさに人の上に立つべくして立っている彼は、だれよりも人のことを想い、人のために世界を奔走しているのだと感じた。

CINEMA CARAVANを「皆を乗せて海を渡る大きな船のようなもの」と言い表し、自然と共に在ることで時代の先を読む彼は、このキャラバンの未来をどう考えているのか。

「いくら自然と上手く付き合っていっても、ときには自然を前にすると人間は無力だなと思わざるを得ないときがあるでしょ? そう思うと日本もいつ住めなくなるかわからない。僕には子どもがいて、大切な仲間もたくさんいる。じゃあもし日本に住めなくなったとき、家族や仲間はどうなる? って考えたのね。

でも例えば、このキャラバンを世界のいろんなところで開催して、世界各地に人のつながりを作っておけば、絶対にその人たちが『こっちにこいよ』って手を差し伸べてくれると思うんだよね。 『雷の家族と仲間なら受け入れてやるよ』って必ず言ってくれる。そういう場所をつくるためにも、世界中でこのキャラバンを開催することには意味がある。

だから基本的にはオファーがきたらどこへでも行くし、写真家としても素敵な人と場所を見つけるために旅をする。いい場所にはいい人が集まるし、いい空気が流れるよね。そこで皆が協力して作りたいものを考え、勉強して、また新たなキャラバンを作り上げる。そのキャラバンの空気を感じることで、人は自主性をより強く持つようになって、つまりはどこでも生きていけるようになる。もちろん場所によって土地を理解して、風を読みながら活動するから結局は地球と共に生きるっていうことになる。

そういう意味で僕はいつも地球と向き合いながら本気で生きているんだよね。そうやって生きていれば、このCINEMA CARAVANの未来も、人間の未来も明るいものになるよ」

そうして、短くもとても濃密な時間が過ぎていった。ここまで人のために生きている人を私は見たことがない。キャラバンについて話しているときの彼はとても幸せそうで、話を終えお礼を伝えると彼は別の笑い声の中へと去っていった。

周囲にいる皆が「雷さん、雷さん」と声をかけ、そのたびに彼は忙しそうに、そして非常にうれしそうにその空間を楽しんでいた。

そうして毎晩仲間同士で、飲みながら夜な夜な語り合っているという彼ら。日に焼けた肌に、無精髭が伸びた風貌はものすごくカッコよくて、着飾らないその生き方に惚れ惚れしてしまった。

どっぷりと日が暮れて海風が肌寒く感じてきたので、人々が一斉に帰りはじめるほんの少し前に会場をあとにした。スクリーンの前、砂浜の上に集まる人々は、波の音と映画の音に聞き入り、そっと身を寄せ合いながらスクリーンを見つめていた。

年々規模を拡大しているこのCINEMA CARAVANは、いつか地球を丸ごと巻き込んだ大きなキャラバンとなり、私たちに壮大なストーリーを見せてくれるのだろうと、また来年の開催に期待を膨らませながら東京行きの電車に乗った。

まだこの場所に足を運んだことのない人は、来年もきっと開催されるであろう逗子海岸映画祭のあたたかな空気を、その場で体感してみてほしい。

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