今年で7年目の開催! 「逗子海岸映画祭」体験記|レポ編

東京から電車で揺られること約2時間。都会の喧騒をくぐり抜けた先、神奈川県は逗子の海辺に毎年5月の大型連休にのみ突如現れるキャラバンがある。人はそれを「逗子海岸映画祭」と呼ぶ――。

今年で第7回目の開催となった本イベントは「play with the earth〝地球と遊ぼう″」をコンセプトに、国内外のさまざまな映画を浜辺で上映し、世界の食文化や遊びを取り入れた屋外型映画祭だ。

今では移動映画館や野外映画フェスは広く認知されるようになったし、至るところで開催されているが、この「逗子海岸映画祭」が開催された当初は、きっと映画館ビジネスの業界において革新的な試みであったことは間違いない。

開催当初から、感度の高い人々から注目を集めていたこの映画祭。今では入場券がソールドアウトするほど、老若男女問わず人気のイベントとなっている。

筆者も今年はじめて参加することになり、「海辺で映画を観る気分とはどんなものか」と興味津々で、ぜひ取材をさせてほしいと申し入れたのだ。

今回縁があって、映画祭の創設者であり写真家としても活躍する志津野雷(しづの・らい)さんと話す機会をいただけた。インタビューは後半に記載するとして、まずはこのキャラバンの紹介から始めたいと思う。

取材日は平日で、会場は17時からオープンとのことだった。その日は曇天で少し肌寒さもあったので、そこまで混んでいないだろうと思っていたが、その期待は一瞬で裏切られることとなる。

逗子駅からしばらく歩き、砂浜が見えた瞬間に目に飛び込んできた風景は衝撃的だった。数百の人が海岸線に沿って蟻の行列のように並んでいたのである。

あまりの人の多さに絶句したが、並んでいる人たちはみなにこやかに話しながら、今か今かと入場待ちの時間を楽しんでいるように見えた。

そして夏の装いに身を包んだ女子たちの笑顔の眩しさに、思わず目がくらんだことは言うまでもない。

振り返ってみて感じるのは、このときから客はキャラバンから漂うなんともゆるく暖かな雰囲気に取り囲まれ、既にキャラバンの一員になっていたということだ。

入場ゲートをくぐり抜けると、いくつものテントと砂浜に建てられた大きなスクリーンが姿を現した。食欲をそそる匂いが辺りから立ち込め、キラキラと光り輝くメリーゴーラウンドでは子供がはち切れんばかりの笑顔ではしゃいでいる。その光景にここは夢の国かと錯覚したくらいだ。

会場では、そこかしこに設置されたスピーカーから海辺に似合うサーフミュージックが流れ、特設のスケートパークでは地元の子どもであろう少年たちと、遊び好きの大人たちが仲睦まじげに遊んでいる。田舎育ちの私は、自然と都会の狭間・逗子のエリアで育ったらしき彼らを羨望のまなざしで見つめ、夢中で写真を撮っていた。

映画の上映まで少し時間があったので、会場内をぶらついていたら「BLUE MOON」というなんともかわいい看板が目に入った。

店主に聞いた話によるとアメリカでもっとも人気のあるクラフトビールらしく、このネオン看板も逗子海岸映画祭のためにわざわざアメリカから取り寄せたとのことだった。

取材とはいえせっかく遠路はるばるやってきたのだから一本くらい……と気が緩んだ私は、迷わずビールを購入した。

冷え切ったビールに香るオレンジの酸味が美味しい。浜辺でアメリカ産のビールを味わうなんて、気分はまるで西海岸。なんて小さなことにいちいち感動して写真を撮る私を、店主の男性は終始にこやかに見守ってくれた。

この日は「Purtugal Day」で、ポルトガルにまつわるイベントや料理が振る舞われていた。10日間開催されるこの映画祭では、毎日違うテーマを設けた催しが用意されており、他にも「skateboard day」や「Indonesia Day」など、いろんな国やカルチャーにフォーカスした取り組みがなされている。「Kids Day」には、映画「スタンドバイミー」が上映され、だれもが知る不朽の名作ではあるが、「おいおい選映完璧かよ……」と心の中でツッコんだ。

日没が近づき、皆がぞろぞろとスクリーンの前に集まり出した。私も映画を観るか……と一息つこうとしたとき、突然肩を叩かれ振り返ると、よく知る顔が目の前に現れた。

「おつかれ~! ビールいいね~! ロケーション最高でしょ?」

水平緯線に沈む夕日を眺めて少しセンチメンタルになっていた私に、とんでもなく軽いノリで話しかけてきたその人は、この映画祭の設営に携わっている友人だ。

軽く立ち話をしたあと、その友人に連れられ、なんと映画祭を創設した志津野雷さんを紹介してもらうことになったのだ。

この楽園を作り上げたのは、果たしてどんな人物なのだろう。期待と緊張に胸が高鳴った。

後編へつづく


0コメント

  • 1000 / 1000