1-2年前からファッション誌・ライフスタイル誌がこぞって『今、バーバーが熱い』と注目していたことは、記憶に新しい。
そうした誌面を飾っていたバーバーのスタッフは十中八九タトゥーが入ってて、ゴリゴリの気合が入った男たち。
店内にはロカビリーが流れたりなんかしていて、ポマードのついた髪をコームでガッと撫でつける煙たい男の感じ。こういうバーバーのスタッフは10代の頃やんちゃをしてきて、そのまま大人になったという風情の人ばっかりだっていうイメージじゃない?
男なら、そういう不良の男の美学や哲学がもろに投影された世界ってクールに思えて、憧れてしまうもの。
けれど、実際のところ通うのには、距離を感じている人も少なくないんじゃないのかなって思う。
だからこそ、今回取材で原宿にあるバーバー『MR.BROTHERS CUT CLUB』を訪ねるということが決まったとき、『これは男どうしの勝負だ。舐められたらいけない』と強く思った。恥ずかしい話、内心ビビったりもしていた。だって、スタッフはいかつくて美学を持ったかっこいい不良の男達ばかりだからね。背筋が伸びるのは当然っちゃ当然。
取材に向かう道中は、いつも以上にイヤフォンから流れる音楽に耳を傾けて、早足で原宿通りを肩をいからせて歩いてみた。想定より早く現場に到着してしまった。
こういうとき、大抵近くで待機するものなのだけど、店舗の前でタバコを吸ってくつろぐ男たちと目があった。試合開始のゴングが聞こえた気がした。
「あ、どうも。冨手さんですか? はじめまして。代表の西森友弥です。天気いいんで、窓全開でくつろいでました。といってもまあいつもこんな感じですが(笑)コーヒーでも飲みます?」
開始早々、虚をつかれた。めちゃくちゃ柔和で感じがいいじゃないか。
「新規のお客さんもイメージで、めっちゃ怖い人たちって思われるんですけど、結構ゆるいっすよ。全然ラフに構えてもらっていいんで。僕らと対面すると割と安心される人が多いっすね」
実は三軒茶屋に住んでいたころ、池尻大橋にある『KING』というバーバーに行ってみたことがある。すっごくかっこいいんだけど、雰囲気に気圧されてしまったことを伝えた。
「ああ、わからなくはないっすね。でも僕らは元が美容室出身だしまだまだ若いんで、もっと印象はソフトかもしれないっすね。
ただ元々原宿で爽やかな美容室で働いていた頃から、アメリカ西海岸の若者たちのライフスタイルと生活が全部繋がっている感じが好きだったんです。ファッションも格好いいしそもそもバイク好きだし、アメ車も好きだし。なんか自分自身の趣味とそいつらの生き方が合うなと。
そういう男たちって体にタトゥー入れてバンドやっていたり、服作ってたり、バーバーやってたり、車売ってたり。一個を切り離して考えるというより、仕事とプライベートすべて一本の筋が通っているのってめちゃくちゃ格好よくないですか? それが本当の意味でのスタイルがある奴だなって思うんすよ。そういや、僕最近アメ車買ったんで、その車モチーフで掘ってみました。いけてますか?ってかこんな生き方ヤバいのかな?」
嬉々として語ってくる口ぶりは、全然ヤバいなんて思ってない感じだ。
ちなみに右腕にはこのお店のオープン日である2015/02/08って書かれている。
これまで美容師をやっていた経験から、原宿でバーバーを立ち上げるタイミングで、昔からつるんでいた仲間経由でそういうカルチャーが好きな人同士が集まっていったと話す。
「古きよきバーバーのスタイルは最大の憧れなんで踏襲していますけど、日本の接客を含めた技術というか、心づかいとかそういう姿勢を入れ込んでアップデートすれば、原宿のストリートから世界に発信できるものがあるんじゃないかなって思ってやってますね」
1988年生まれで今年28歳のオーナーの西森氏(同い年ということに驚愕!)。言葉尻は穏やかだが、やっぱり貫禄は20代のそれとは当然違った。
リスクを背負ってでもスタイルのあるお店を作る生き方を選んだのには理由があった。
「昔の日本って表面的におしゃれだったり、格好よければそれでよかったと思うんですけど、今ってそういうメッキはすぐに剥がれるというか。ライフスタイルが渾然一体になっていないと格好つけられないんじゃないかなって思うんですよね。だから、僕らはそういうカルチャーについても精通していたいし、お客さんともそういう話ができる人でありたいというか。これからもっとハイブリッドに生活とスタイルが一緒の若い奴らが出てくると思うので、そういう若者たちに格好いいって思ってもらいたいじゃないですか。
僕自身もこういうやり方を若い頃からやってたので、面白がってくれる先輩たちも沢山いましたし。自分自身もそうでありたいんですよね」
別のインタビューで『美容院から人を連れ戻したい』と思っているという言葉が書かれていたのが、印象的だったと伝えるとこう答えが返ってきた。
「そうですね。表面的に格好よくても、スタイルに筋が通ってないふわふわチャラチャラした美容室には中指を立てていきたいなみたいなところもあるにはありますね。『もっと格好いい、本質が磨かれるようなお店で髪切ろうよ』みたいに思ったりはします。
単純にウチが美容室からお客さんを掻っ攫いたいみたいな話ではなくって、スタイルのあるお店がもっと増えたほうが楽しくなるだろうなって思うので。
僕は自分自身がこういうカルチャーが好きでどっぷり浸かっちゃってるので、メンズのお客さんに向けて自分自身がこれだって思うものをずっと提案していくだけじゃないっすかね」
東京・原宿からスタイルを提案するその様は、彼自身が影響を受けたというロサンゼルスで「ハリウッズバーバーショップ」を運営するドニー・ハリーという男も認めている。
ドニーはバーバー運営のみに留まらず「レイライト」というポマードを開発しており、西森氏は彼から直接ポマードを買い付けたり、来日のたびにアテンドしたりもしているようだ。
柔らかな口ぶりと表情に宿る覚悟と自信。自分自身の好きを形にしてきている男は、同い年でもやっぱり大きく見えるものだ。
インタビューも撮影も終盤に差し掛かったころ
「今度ヒゲを整えるだけでもいいんで、気軽に遊びに来てくださいよ」
と、柔和に笑いかけられた。
ただ厳ついだけじゃない、次世代のバーバーを作ろうとする男がそこにいた。
photographer : 後藤 倫人 / MICHITO GOTO
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