展示、ライヴ、面白ければ全部アリ! セレクトショップ「BIN」のスタイル

中目黒駅と代官山駅をちょうど繋ぐような坂道。英単語3文字に屋根のようなモチーフのこざっぱりとした看板が申し訳程度、道路へ突き出るように飾ってある。

中目黒で買い物した帰り道、代官山蔦屋で作業をした帰り道、ふと思い立って“BIN”と書かれたこの看板を目指して歩くのに、何度も迷ってしまう。——この店を初めて知ったのは、今より鼻息荒く、同世代のクリエイターの動向を意識していた2015年の2月。トヤマタクロウという作家の展示があると知ってからだった。

展示があるといってもBINはイベントスペースではない。.efiLevol(エフィレボル)やTHE NERDYS(ザ ナーディーズ)などをはじめとするドメスティックブランドを中心に展開するセレクトショップである。

にもかかわらず、若手写真家の展示を仕掛けたり、トークイベントを行ったりしている。昨年末はファッション誌『STUDY』企画でTurntable Filmsという京都のバンドを呼んでライヴもした。その日も遊びに行ったのだけれど、誰よりニコニコと演奏を楽しんでいるのは、今日取材をさせてもらうオーナーの阿久津誠治さん自身に思えた。

ようやくお店を見つけて中に入ろうとする。入口手前の広い喫煙スペースでは、たいがい誰かがタバコを吸ってくつろいでいる。

「おいーっす。なんかあらたまって取材とかすげぇやりにくいよな」と誠治さんが出迎えてくれた。前に来たときは、ここに座って最近の海外バンドの話をしたり、今お互いグッと来ているアーティストをワーワー言い合ったりしていただけなので、「そうっすよね」と同意した。

阿久津さんはちょうど10年前の2006年に自身のブランド.efiLevolを立ち上げた。渋谷に事務所を構えていたが、急遽取り壊しになるということで補償金をもらって、中目黒に移りBINを構えたのが5年前。

「もともと事務所のつもりで借りたんだけど、思ったより広くってせっかくならここをお店にしちゃわない?みたいなノリで始めただけなんだよね。全然売り上げ立たなかったら、ま、プレスルームってテイにしちゃえば格好つくかくらいのテンションで(笑)」

服の世界で一番になるんだと息巻いて上京。志を共にする仲間や業界を代表する裏原系全盛の人たちと夜の社交場を共にした。そうして一時代を作り上げた人たちの空気や感覚を隣で見聞きして20代を過ごした誠治さん。30代を迎える頃、自分のブランドを持ちたい/店を構えたいという気持ちが強くなった。そしてそれまであるショップで販売・バイイング・店長を務めた経験から根拠のない自信を持ち始めていたという。

「.efiLevolを立ち上げたばかりの頃は、インスタレーションを作ってた。6年前にはトラックを借りて渋谷の109の前でゲリラでショーをしたり、結構むちゃくちゃなこともやったよ。弁護士さんに相談して最悪俺しか捕まらないし、留置所に勾留されるのはせいぜい2日程度って言われたから、やってみっか! くらいの気持ちで。もちろん止められたけどね。でも面白そうってアイデアが浮かんだら、実行したくなっちゃうんだよね。そういうノリだけでここまでやってきていて、多分それは今も変わらない」

こうした無邪気な過剰さは若手の頃にとどまらない。.efiLevolの旗艦店としてBIN(当時はSHOPという名前だった)をオープンさせる上で、一番金をかけたのが、マンホールだという。

「エントランスのマンホールがすごく気になっていて、なんとか無くせないかなって相談したけど、国の管轄だからさすがにそんなことはできなくって。で、どうすればかっこいいものになるかなって思ってエントランスの蓋を24金で塗装してもらったんだよ。『すごい作品が作られるんです!』ってマンホール会社の人を説得して、わざわざ純金を譲ってもらって、それを塗装に練りこんで。やったー!ってめちゃくちゃテンション上がったけど、まぁほとんど誰にも気づかれないよね(笑)」

なぜ僕自身がBINに惹かれて、足を運ぶようになったのか。

それはBINが阿久津さんにとって遊び場であり、自慢の城であり「面白そう」と思ったことを一番に実験できる場所だと肌で感じているからだと理解できた瞬間だった。

同じように誠治さんの無邪気な過剰さに惹きつけられる20代がここにやってくるんだろう。おそらく、誠治さんが20代の頃NIGOさんや藤原ヒロシさんに憧れていたように。

「俺はNIGOさん、藤原ヒロシさんみたいなムーブメントを作れなかったけど、この城を持って下の子たちがここでなんかやることでそれが大きな渦になるかもしれないって思ってるんだよね。ファッションっていうジャンルを超えて、今の若い連中が東京のカルチャーにビッグバンを起こすことを期待してる部分がある。そこを面白がっているからこそ、いろいろな企画をやるんだろうなって思うよ。こうして話を聞きにくる冨手くんも、そうした世代のミュージシャンも、ムーブメントを生む立役者になっている気がしてさ、結構楽しみにしてんだよ。俺もファッションにこだわり続けているわけじゃないし、好きなことをやりたいだけだけなんだよ。なんなら今ぜんぜん違う構想があって...」

今感じている若手への期待を惜しげもなく語り、自分がまた仕掛けようとしている新しいビジネスや次のものづくりについて楽しそうに語り続けるその様に、阿久津誠治の人となりを見た気がして、テープレコーダーを止めた。そしてこう笑うのだった。

「ファッションのことをここまで聞かない取材は初めてだよ。まぁいいか。これで大丈夫って冨手くんがいうならね」

photographer:宇佐 巴史/ Tomofumi Usa

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