カニエにドレイク…大物と次々共演する次世代UKシーンの最注目株、サンファにインタビュー

先日、「第59回グラミー賞」の結果が発表された。そこには、5冠を達成したアデルを筆頭に、フィジカルリリースなしにも関わらず新人賞を受賞しグラミー賞の規定を変えたチャンス・ザ・ラッパーや、ドレイク、ソランジュなど時代のムードを象徴するアーティストが名を連ねており、音楽史を更新した特別な一夜となった。

そんな彼らから絶賛されフィーチャリングで多数の楽曲に参加し、2016年のヒットチャートを影で支えていた、サンファをご存知だろうか。The xxやFKAツイッグスらを擁するロンドンのレーベル、Young Turksに所属。昨年末はそのレーベルメイトでもあるThe xxと共に来日し、彼らのオープニングアクトを務め、翌日にはエクスクルーシブなピアノのソロセットで美しい旋律を奏でてくれた。 

リリースされたばかりのニューアルバムも注目されており、一部では早くも2017年のベストアルバムとの声が上がるほどだが、未だ謎の多い存在なのも確か。SILLYでは、そんなUKコンテンポラリーの次なる鬼才、サンファにインタビュー。自身のファーストアルバム『プロセス』についてや、大物アーティストとの共演秘話をたっぷりと語ってもらった。彼の話を聞いていると、EUを離脱したUK混乱の時代に響き渡る、新たな音楽に耳を傾けたくなってくる。   

アーティストとの共演で
音楽との向き合い方を学んだ


ー東京の印象はどうですか? 


東京は4回目だけれど、今回は今までで最も長い滞在なんだ。いろんな都市を見てきたけれど、他の都市とは全く異なる印象だな。古い建築物とフューチャリスティックな建物が混ざった統一感のない街並みも独特だし、僕は日本語が読めないから看板とか街の標識も非常に新鮮に感じているよ。日本は四季があるから、いつの時期に訪れても紅葉や街の風景を楽しむことができて面白いね。 


ー先日のライブのようなピアノソロのセットは他の国でもよく行うのですか?


サンファ いいや、あんまりこのような形式のショーはやらないからすごくレアだね。僕にとってシンプルにピアノを弾きながら歌うショーは、すごく健康的で初心に戻れるんだ。この間のライブも、僕とピアノだけのシチュエーションですごく特別な気分で演奏できたよ。 


ーライブのトークで、“ブラッド・オン・ミー”をピアノソロのセットでプレイするのは初めてだと言っていましたが、あれは本当に日本初だったのですか?


サンファ ああ、実はそうなんだ。この曲は結構強烈で、声を枯らせたくなかったからライブ前もあんまり練習をしなかったんだよ。だけど当日、歌っているうちに「これはいける」って思ってラストでトライしてみたんだ。 

ーカニエ・ウェストやドレイクなど大物との共演が続き話題になってますが、彼らから学んだことや影響を受けたことはありますか?


サンファ カニエとの共演で「ひとりですべてのことを背負わなくていい」ということを教わったよ。あとは、自分のヴィジョンに自信を持って、それを素直に実行することかな。エゴと言ってしまったらそれまでなんだけどね。ドレイクに関しては仕事に対する姿勢かな。彼はすごくまじめで常に先を見ていている。「来年はこれをする」と口に出して宣言して、自分のモチベーションを上げているんだ。 


ーフランク・オーシャンとも共演していますが、彼とのエピソードがあったら教えてください。 

サンファ 面白い話があればいいんだけど、やっぱり音楽の話とかシリアスなエピソードが多くて(笑)。印象に残っているのは、フランクに朝5時に起こされたことかな。ホテルにスタジオみたいなものがあって、僕はパソコンの前でパーカのフードをかぶって寝ていたんだよ。そしたら、ポンポンって彼に肩を叩かれて「曲を聴いてほしい」って言われたよ。 


ーフランクはどんな人でしたか?


サンファ 彼はシリアスですごくもの静かなタイプなんだ。常になにかを考えているから頭の中は考えごとで一杯だし、何度も頭のなかに入って覗いてみたいと思ったよ。彼のような有名なアーティストと一緒に仕事をすると、四六時中音楽のことを考えながら毎日を生きていて、音楽で呼吸をしていることに気付かされるんだ。音楽を作り続けていると、たまに人間らしさが失われてしまったりすることもあるんだけれど、このときのように誰かと一緒に仕事をすると、音楽との向き合い方が分かってとても勉強になるんだよ。 


ーファーストアルバム『プロセス』に込めた思いを教えてください。 


サンファ アルバム制作に入る前はプランやコンセプトとかは特に考えていなかった。ただ、アルバムを作りたいという強い意志だけがあったんだ。制作期間は2年ぐらいで、この期間に起きた僕の経験を記録に残した時間軸のスナップショットのようなものだと思っているよ。 


ーどのような手法でこの2年間に起きたことを音に落とし込み、表現したのですか?


サンファ まずどの曲も、長いピアノの即興を作って基盤を作っていった。次に、それをパソコンに取り込んで、アレンジを加えてメロディに落とし込む。アコースティックがベースだけど、アルバム自体の内容はすごく感情的で自分自身にフォーカスしたものにした。どの曲も僕にとってのカタルシスのような役割で、2年の間に起きた個人的な出来事をレコーディングによって解放させていくイメージかな。だから、レコーディングスタジオは感情をリリースするツールともいえた。アルバムではアーティストとしての音楽の作り方を表現したくて、シンセやドラムンベースなどのエレクトロニックな部分にアコースティックなサウンドやシンガーソングライターとしての能力をクロスオーバーさせて、自分らしさを表現したよ。 

カニエの家で音作りしてたら 

彼がフリースタイルし始めて


ー「ティミーズ・プレアー」はカニエ・ウェストとの共作だったとか。これについて教えてください。 


サンファ このトラックは、デイヴ・ロングストレス(ダーティ・プロジェクターズ)とロサンゼルスにあるカニエの家に滞在しているときに書き始めたものなんだ。そこで僕はティミー・トーマスの「ザ・コールデスト・デイズ・オブ・マイ・ライフ」という曲をサンプリングして、音のループを作っていた。彼は確か「セイント・パブロ」の制作に取り組んでいる期間だったかな。そしたら、そのループを聴いて彼がフリースタイルラップをし始めたから、それをiPhoneで録音をしておいたんだよ。後日、歌詞を考えているときにそれを再生してみたら彼がいいことを言っていて気に入ってしまって、それをベースに「ティミーズ・プレアー」の歌詞を書いたんだ。だから、この曲はカニエ・ウェストがプロデュースしたということになっているんだよ。  


ーあなたがどのような音楽遍歴を経てこのようなパフォーマンスができるようになったかが気になります。 


サンファ 父と兄弟からの影響がすごく大きいかな。幼少期に家でかかっていた音楽に非常に影響を受けたよ。僕の年代だと10歳ぐらいまでインターネットがない環境だったから、音楽はテレビやラジオから聴いていたんだ。あとは兄たちが音楽好きだったから家では常に音楽が流れている環境で、すごく多様な音と接してきたと思う。例えば、ミニー・リパートンやスティーヴ・ライヒ、スティーヴィー・ワンダー、ブライアン・イーノ、トッド・エドワーズ、ジョニー・ミッチェル、ジェームス・ブラウン、フォー・ヒーローとか。あとはアフリカ音楽も聴いていたな。ポップミュージックはセミソニックというバンドの「シークレット・スマイル」が好きで何度も聴いたよ。ロンドンのグライムとかヒップホップはタイムリーに影響を受けたし、言いだしたらキリがないな(笑)。 


ー今日もオランダのスニーカーブランド、PATTAのスウェットを着てますが、やっぱりストリートファッションがお好きですか?


サンファ そうだよ。フード付きのスウェットにデニムみたいなストリートスタイルが定番かな。滞在中は下北沢に行って、日本のストリートウェアを見に行くつもり。日本でレーベルをやっている友達がアパレルショップをやっているらしいから、その店はチェックしようと思ってるよ。 



音楽にまつわる話は、ひとつひとつ言葉を選んで応えてくれ、その音楽同様に真摯さが伝わってきたサンファ。ファッションの話になると、一変、普通の20代の若者らしい顔を見せ、それがまた魅力的でもあった。

FUJI ROCK FESTIVAL'17への出演も発表され、日本での知名度もアップするのは間違いない。後にビッグネームとなるアーティストのフジロック初ステージは伝説的となった例も数多く、今のサンファにはそんな期待感を覚える。今年のフジの見逃せないステージのひとつだろう。


Sampha『Process/プロセス』 
(Young Turks / Beat Records) 


ピッチフォークが選ぶ、2017年期待のアルバム32選にも選ばれた待望のデビューアルバム。数多くの大物アーティストを唸らせた、彼の才能のすべてが凝縮された1枚。

Photographer : 古渓一道 / Kazumichi Kokei





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