「KOHHのどこが良いの?」今年、いろんな人に同じ質問をした。
時は2015年。身の周りで「KOHH良い」という評判を聞くようになり、海外での人気も知るようになった。とりあえず手に取ったのは最高傑作と呼ばれる『DIRT』。だが、コレがまったく分からなかった。線の細い踊れないトラック、ブルーハーツをもっと単純にしたような平易すぎるリリック、従来の日本のヒップホップからすると素っ頓狂なフロウ。そのどれもが新鮮ではあったが、正直に言えば稚拙に感じられたのだ。
この〈SILLY〉においても数々の人気記事を手がけている田中宗一郎氏、今年サインマグにてKOHHやフランク・オーシャンについての素晴らしい原稿を書いた天野龍太郎くんを筆頭に、みんな彼らなりに考えるKOHHの良さをいろいろと教えてくれたが、結局はその瞬間が来るまでは納得することはできなかった。
「その瞬間」への入口となったのは“Living Legend”と、”Die Young”のMVだった。
“Living Legend”のリリック中のゴッホへの言及から始まるLSD的なサイケ描写、そして“Die young”はまるでトラップ版ニルヴァーナのようだった。そのどちらも、KOHHの音楽がヒップホップの範疇からはみ出す、ボーダー上を行き来するものだということを示していた。
するとどうだろう。踊れないトラックは海外のトラップの東京的解釈に、平易なリリックは無意識の底からサルベージした言葉のように、素っ頓狂なフロウは普段聴いている海外の音楽のそれに聴こえるようになってきたのだ。
ようは「KOHH=日本のヒップホップ」という自分の先入観から、自分の中の「日本のヒップホップ」というコード(先入観)に沿わないKOHHの音楽を「理解し得ないもの=良くないもの」としてしまっていたのだろう。 …まったくもって恥ずかしい。
その後、霧が晴れたようにKOHHに夢中になり始めたところで出会ったラインがこれだ。
KOHH最高とか言う奴最低の間違い(KOHH “Hate Me”)
これで完敗。今一番好きなアーティストは海外含めてもKOHHかもしれないというところまで行ってしまった。周りの連中からは「遅いよ」と散々笑われたが。
そうして先日、KOHHの地元凱旋ライブ『LIVE IN OJI』に行ってきた。Abema TVでも放送されたため当日の様子はすでに知られたところだと思うが、第二部は“結局地元”やその他の楽曲で知られる仲間たちとKOHHでのカラオケ大会だった。
何通りもの解釈があるが、そこに最も強く感じたのは「KOHH=日本のヒップホップ」ではなく「KOHH=みんなのうた」と定義づけるためのプレゼンテーションだったということだ。
「何を言ってやがる」と思われるだろうが、KOHHがアートへの憧憬とシンパシーを頻繁に口にしていること、そして自身の曲の演奏について「ラップする」と言わず「歌う」という言葉を使うことを思い出してみてほしい。
ラッパーじゃない ラッパーなんかじゃない(KOHH “Business and Art”)
アートにおいて重要なのが(作品それ自体はもちろんながら)「プレゼンテーション」だということは、マルセル・デュシャンを見ても、ウォーホルを見ても、バスキアを見ても、バンクシーを見ても、村上隆を見ても明らかだろう。
KOHHは自身のサイトからのアルバム特別盤リリースだけでなく、スマホアプリを通して自伝や最新音源や凱旋公演のチケットをファンに直接届ける新たなルートの開拓、最新MV“Mitsuoka”はLINEで先行配信するなど、デリバリーにおいても独自路線を拡大させている。またインタビューをほぼ受けないことによるブランディングなども明確なプレゼンテーションだ。
大晦日 紅白歌合戦の舞台に立つのも夢(KOHH ”I'm Dreamin'”)
なぜ「KOHH=みんなのうた」である必要があるのか。おそらく、そこには自己実現のほか、単純に「日本のヒップホップ」という枠を超えなくては生きていくことができないという市場的な必要性もあるだろう。ビートルズに始まりなぜイギリス人ミュージシャンはアメリカを目指してきたのか、K-POPがなぜあそこまで精力的に国外に進出するのか。
つまりはそういうことだ。この国の経済的衰退、人口の減少、音楽販売システムの変化は、来来来世どころか今今今世からJ-ROCKはもちろんJ-POPも内需だけでは賄えなくなることを示している。日本のヒップホップは言わずもがな。
…ならどうする? やるだけ。そういういうことだ。
ありがとう(Keith Ape - 잊지마 (It G Ma) (feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh))
2016年大きな話題となった宇多田ヒカルとの共作を含め、KOHHは確実に次へと足をかけている。とりあえず最新ミックステープ収録の新曲“MItsuoka”と“働かずに食う”を聴いてみてほしい。
これが2016年の「みんなのうた」だ。
(照沼健太)
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