PAELLASが手探りで見つけた、新しい自分たちらしさとは?

東京インディーシーンを追う音楽ファンから着実に支持を集めているPAELLAS(パエリアズ)というバンドを知っているだろうか。

今年春にはPeach JohnのCM曲にも起用されたことを機に、ファッション業界からも熱い視線が注がれるようになった彼らが、フルアルバム『Pressure』をリリースした。現在勃興する東京インディーシーンから、今年最後に放たれた重要な1枚が誕生した経緯を聞いてみた。


今好きな要素を突き詰めた
日記みたいな楽曲群


PAELLASはこれまでボーカルがソングライターとなって詩曲を手がけ、メンバーがそろって楽曲を編曲する制作スタイルとは異なり、メンバーのジャムセッションで楽曲を制作していた。

「昨年まではハウスの音像をバンドで鳴らすことに重きを置いていた」という通り、『Hold on Tight』や『Night Drive』などの楽曲群はディープハウスやエレクトロに影響を受けた硬質な音像になっているが、今作はこれまでとは一味異なり、今世界で聴かれているインディーR&Bの要素を咀嚼し、ゆったりとしたBPMの楽曲が並ぶアルバムに仕上がっている。バンドはどのような変遷を経て今作を作り上げたのだろうか。

ー今作の制作スタイルの特徴を教えてください。

MATTON(Vo.) 今回のアルバムと過去作で一番違うのは楽曲の出所です。これまでは自分とBISSHIとANANでセッションしながら作っていました。今作ではデモをすべてANANが作っています。そのため、歌メロも彼が作り上げてきたものに自分が歌うスタイルになりました。


—アルバムを作るうえでテーマは設けたのでしょうか?

ANAN(Gt.) 自由に作りたい楽曲をまとめていった感じです。今年は自分がBlood OrangeやFrank OceanといったBPMが90〜100くらいの楽曲を中心に聴いていました。PAELLASはもともと分かりやすく盛り上がるキャッチーさより、じわじわしたと浮遊するような微熱感みたいなものが特徴だと思っていて。そのトーンを出すのであれば、このくらいのBPMの方が自然かなと考えたんです。そんなこともあり、自分が今聴いている楽曲の気分が自然と反映される楽曲を作っていきました。


—今までと制作スタイルが異なったことで、プレイヤーとしても変化を強いられた部分はありましたか?

RYOSUKE(Dr.) そうですね。自分たちがこれまで築いてきたプレイスタイルは一端脇に置いておいて、それぞれが楽曲のクオリティを高めるため、スタジオワークやライブパフォーマンスを通じて楽曲に寄り添いながら、自分たちを再構築していきました。

BISSHI(Ba.)  自分はR&Bを聞き出して、1〜2年しか経っていなかったので、スイングするリズムをベーシストとしてどうやって体に染み込ませるかは苦労しました。しかもミックスも自分でやるから研究要素しかないというか(笑)。そこでANANとふたりで参照点としうるアーティストの楽曲を持ち合って、それぞれの素材をどうアウトプットすると気持ちいいかを熱心に議論しましたね。

MSD.(Sampler) バンドとしては、トラックをライブ中に同期することに初めてチャレンジしています。パッドを叩いて表現していた自分の役割が変わりました。

MATTON バンドとして同期されたものを提示するのは、今まで抵抗があったのですが、コペンハーゲンのLISSなどのバンドをみていて、上手く自分たちの出したい音像を提示できるのであれば、同期された音像を取りいれてもいいんじゃないかと思うようになっていたんです。


—楽曲はどのように作っていったのですか?

ANAN 朝起きて改まって『曲を作るぞ』みたいなことはせず、移動中の車や電車などに思いついたフレーズをメモしておいて、それを家で肉付けする形でした。never young beachの活動をしていることもあり、今年は移動がとても多かったので、そのとき見てきたものや気分も投影されているかもしれません。

BISSHI デモがおおよそ月に1度くらい上がってきたんですけど、なんとなくANANの日記を見るような気分でしたね。そのときそのときのテンションを楽曲を通じて理解するみたいな。『今忙しくて余裕ないんだ』とか。

ANAN そこまでは分からないでしょう(笑)。

BISSHI そういう意味では、アルバムを通じての哲学らしい哲学はないかもしれない。それよりもANANから上がってきた楽曲をいかに自分達が気持ちいいと思える楽曲に仕上げるかを意識していましたね。

—アルバムが完成した手応えはどうですか?

ANAN 今まではPAELLASは夜の雰囲気とか硬質なイメージを持たれていましたが、もっと自然帯で人間味を帯びた曲ができたと実感していますね。リズムがスイングしたり、スローな楽曲ができたことで緩さとか甘さといった、バンドとして新しい一面を出せたかなと思っています。

BISSHI 夕方感みたいなものは出せた気がしますね。

RYOSUKE もともとあった要素から、それぞれ今聴いている楽曲の志向性が変わっていくなかで自然と変化したものが投影されているかなと思います。音楽を聴いてくれる人に委ねる部分、解釈する余白を持つことは狙った部分でもあるので、スルメ盤になるのじゃないかなと思っています。

—制作を通じてキーになった楽曲はありますか?

ANAN 8曲目の『Anna』ですね。シンガーソングライターの歌が結構好きなので、バンドとしてはじめてAメロ/Bメロ/サビという構成で楽曲を作ってみたんです。するとスローですけどポップで力強い曲ができたなと手応えを感じることができました。

MATTION 僕は7曲目の『Pears』ですね。アルバムのなかでも早い段階でできた曲ではあるんですけど、はじめて自分の中で本格的にR&Bらしい音楽、歌を作ることに向き合った曲ですね。あと、シンガーとしてどうやって耳を惹き付けるかみたいなことを意識しだしたのは、『Fire』ですね。今までは5人のバランスのなかでも立ち振る舞いを意識していましたが、歌い手として、ライヴでも楽曲でももっと強く惹き付けられる存在でありたいなと思うようになりました。

背水の陣で臨んだ楽曲制作

そしてライヴにかける想い


—タイトルに『Pressure』というタイトルを付けたのはどういう理由があるのでしょうか?

ANAN これは自分から自然と出てきた言葉で、それをメンバーがすぐに『いいね!』と言ってくれたという感じですね。ジャケットも自分が血ノリにまみれて死んでいるような状態なんですけど。それでもここから這い上がっていきたいなという気持ちがありますね。


—楽曲をどんな風に聴いてもらいたいですか。

BISSHI 正直に言うと自分たちだけでミックスしたのはじめてだったので、未熟なところも当然ありますし、新しく見えた課題もある。それでも自分なりに音の鳴らし方、出し方にこだわることができた。そこを聴いてもらえたらと思いますね。

MSD. そうですね。今まで言ったとおり、今年流行った世界で鳴らされている音の影響もありますが、それは置いておいて一音一音丁寧に聴いてほしいなと思いますね。自分の耳も世間の印象も疑って、楽曲と向き合ってくれたらうれしいですね。

MATTON この1年でできることをこのアルバムに閉じ込めましたが、新しいPAELLASを作っている過程にできた曲なのでまだまだ成長過程にあるように思います。まずは楽曲を聴いてもらって、もし少しでも耳に残るものがあれば、ライヴにも来てもらいたい。その上で評価してもらえたら嬉しいなと思いますね。そして楽曲を育てていけたらと思っています。

RYOSUKE スルメ盤になるかどうかは、ライヴでどれだけイメージを残せるかにもよるかなと思います。イヤホンで感じる音はそうですが、ライヴハウスのスピーカーで体全体から感じた印象も持ち帰ってまた楽曲を聴いてもらえたら勝ちだなと思います。

ANAN ゲストボーカルを招いたり、いろいろな音を加えたり、ミックス作業においても突然カットするものがあったり、それぞれの楽曲で自分がやってみたいことに挑戦できたアルバムです。このご時世、楽曲を集中して聴くのは労力のいることですが、その耳で確かめてもらえたらうれしいですね。


<ライブ情報>

12/22 代官山UNICE

1/20 新宿Marz

1/21 渋谷O-nest

2/5 大阪Club STOMP

2/12 福岡Kieth Flack

2/13 渋谷clubasia

photographer:Kodai Kobayashi / 小林 光大

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