「東京の流行や文化の発信基地はどの街か」と問われたときに、大抵の人が西東京のエリアを真っ先に挙げるのではないだろうか。
しかし今、20代で東東京に新しい飲食店やショップを構える人が、じわじわ増えている。とりわけ、かねてから職人、工場、問屋などが多い御徒町から蔵前のエリア(通称カチクラ)に、感度の高いクリエイターが集いだしているのはどうしてなのだろう。
今回取材させてもらったのは、7月にオープンした『BORED』というアトリエ兼ショップ。アクセサリーブランド『Jackson Niche』を手がける小川 麻里子氏と、鞄ブランド『SEEP』として活動する鈴木 茂夫氏と、『iep works』の成瀬 大氏が在籍している。彼らは文化服装学院の同級生で、現在28歳だという。
蔵前という場所に自分たちのアトリエ兼ショップ『BORED』を構えた理由とは。
<左から『Jackson Niche』小川麻里子氏、『SEEP』鈴木茂夫氏、『iep works』成瀬大氏>
リスクを共有できる仲間と
20代のうちにお店を構えたかった
—アトリエ兼ショップを構える構想はいつからあったのですか?
鈴木「話が出たのは、一昨年くらいですね。自分が鞄メーカーとして独立したタイミングでOEMの仕事受けて制作することが多いんですけど、ずっと自宅で黙々と作業するのはしんどくて。せっかくやるなら一緒に面白い仲間と工房をショップ機能を兼ね備えた場を持ちたいなと思っていたんです。そこで成瀬に相談を持ちかけました。いわゆる夢を語るような言い回しではなくて、結構具体的に話しましたね。でも最初は軽く断られて(笑)」
成瀬「そのとき僕はまだ会社員で、しかも別のところからも誘われていたタイミングで。現実的に考えられる状態ではなかったんですよ」
鈴木「当時すぐに成瀬からは断られてしまったのですが、すでに『Jackson Niche』として活躍してる麻里子に声をかけたら?と、仲間から提案されたんです」
小川「去年の頭くらいに、飲みの席で『一緒にやろう』と誘われました。でも当時はまだあまり実感がわかなくて。正直なところ話半分で聞いてたんです。それから半年後に『ここの物件どうかな?』と物件の詳細情報が送られてきました。そのときに、『やっぱり本気なんだ』って気づいて、そこから私も真剣に考えるようになりました」
—すでに全国のショップに自分の商品を置かせてもらっているような状況のなかで、なぜあえて自分のアトリエ兼ショップを持つことに乗り気になったのでしょうか?
小川「ブランドを持つようになって7年半が経つのですが、3〜4年前から急に取引先が増えていって、地方にも卸してもらえるようになりました。でもその分、昨年末頃から自分の商品がどんな人たちに届いているか、お客さんの顔が見えないようことに、モヤモヤした気持ちを抱えるようになっていました。だから改めて、自分自身が、自分の商品を買ってくれるお客さんと接点を持てる場を作りたかったんです。蔵前という場所に『BORED』があって、作家である私に会いに来れるし商品を見れる。そういう環境を作りたいなと思っていたところでもあったのです。
もちろん共同で場を借りることにはリスクがないわけではないし、心配していた部分は少なからずありました。それでも最終的に認識をすりあわせるときに、『この3人なら絶対後悔ないようにできるから』と鈴木くんに言われて。その言葉に信頼を覚えて、決意を固めることができましたね」
若い店舗同士のコラボも盛ん
街全体を盛り上げる気風
—『BORED』を立ち上げての感触はいかがですか?
小川「お店を構えたことで、買ってくださる人、卸をしてくださる方との関係がシンプルになりましたね。昔から買ってくださっている方がわざわざ会いにきてくださることもありますし、また卸しの人も顔を見て取引させてもらうことが増えたので、コミュニケーションがしやすくなりました」
成瀬「まだまだはじめたばかりで難しさや大変さを感じながらですが、お客さんの目に触れる場所ですし、緊張感を保っていられるのが良いなと思いますね。近くに仲間がいるのもモチベーションが保てます」
—蔵前という場所の雰囲気はどうですか?
鈴木「鞄屋のメーカーや、資材屋が多いエリアということもあってか、仕事の案件をもらう機会が多くなりました。あと浅草も近いですし、外国人のお客さんもとても多いんです。ふらっと見にきてくれる方が多いのも、日々新鮮ですね」
小川「昔ながらのお店がある一方で、若いお店同士の横の交流も増えています。直近だと、『From afar 倉庫01』というカフェとショップの複合施設で売られている鉱物の雰囲気が気に入って。そちらを使った指輪を作って、23日まで展示販売しています。3人での企画展もそうですが、こちらの場所に構えたことでできることはどんどんやっていこうと意欲もわいていますね」
鈴木「ファッションなら青山、カフェなら清澄白河といったイメージがついていますが、まだ蔵前はそこまで強いカラーがない土地だと思うんです。もちろんモノ作りの街という印象を持っている人もたくさんいますけど、自分たちはそこを前面に推したいわけではありません。むしろそれぞれが西東京のカルチャーとか感度を持ちよって、蔵前という場所で再提案していく一因になれたらなと思います」
小川「面白い作家やお店が蔵前エリアに増えているように感じるので、今少し熱くなりかけているブームを一過性のもので終わらせたくはないですね。勢いにしっかりと乗っかりつつも、ここで20代の自分たちなりのカルチャーを育んでいけたら良いなって思いますね」
鈴木「退屈を意味する『BORED』をお店の名前にしましたが、それは誰かにとって空白を埋める何かを提案できるような場所にしたいという意味が込められています。決して大量生産できるようなものはないけれど、その分質の高いモノ作りをしていきたいですね。
また、これからは外部のセレクトアイテムを増やして、何か新しい価値を提案することも積極的に行ないたい。誰かの"退屈な"気持ちを打ち破るようなショップになっていけば良いなと思っています」
Photography:Yoko Kusano / 草野 庸子
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