古着屋か、たこ焼き屋か。はたまたバーか。三茶「en the beginning」の正体

今年の6月。SILLYで毎度東京の風変わりなショップを取材しているせいもあってか、ラッパーの友人から『en the beginning』を紹介された。面白い仲間が言うんだから、きっと面白いお店に違いない。話を聞くと、表参道で22歳の男の子が古着屋を営んでいて、そこがすごくイケてるという。早速行ってみようと翌月アポイントを取ってみたら、一度お店を畳むことになったと聞いて、残念がっていた。


季節は変わって11月。三軒茶屋と池尻大橋の間あたりの住宅街に再びお店をオープンさせたから遊びにこないか、とその男、廣原 隼人くんから連絡を受けた。


「美味しいたこ焼き焼いて待ってますね」。そうメールの終わりに書かれた一文に若干首を傾げながら、遊びに行くことにした。

Instagramで見た住所をたどって世田谷通りを下馬方面に抜けていくと、人通りの少ない道に出た。住宅街を行った先に小民家風のお店がポツンとあった。どうやらここが『en the beginning』のようだ。店先の看板にはたこ焼き、そして扉には『huddle』という文字が記されている。一体どういうことなんだろう。そんな疑問を抱きながら店内に入ってみた。

「お疲れ様です。たかしくんのお友達なんですよね。とりあえずビールでも呑んじゃいます? 取材とかほんとに苦手なんですよ。というか俺みたいな大したことやってないやつの取材記事なんて、大丈夫なんすかねぇ?」


そう恥ずかしそうに挨拶をする廣原くん。店内は六畳一間程度の店内にバーカウンターと数席ほどイスが並ぶくらいだった。背面には洋服が吊るされていた。


彼に促されるまま、遠慮なくビールをいただくことにした。それにしてもたこ焼きってどういうことだろう。ここは古着屋さんじゃないのか。

「最近たこ焼きづくりにハマってて。仕込みながらの取材でもいいですか? もしよかったら食べていってくださいよ。じゃあすみません。背中を向けて話しちゃいますね」


という言葉に促されるように、その日彼が着ていた映画『パルプ・フィクション』をモチーフにしたロンTのバックプリントで、ポーズをとるタランティーノを見つめながら、お話を聞かせてもらった。

居酒屋で夢語るくらいなら

できる範囲からはじめる


「看板にもある通り、そもそもは『huddle』というバーなんです。僕の家がここから20秒ほどのところにあるのでたまに呑みに来ていて。オーナーの山本さんの懐の深い人柄やお店の雰囲気を気に入っていたんです。いつも混んでいるんですけど、ある日、オーナーの山本さんが夜な夜なYouTubeで鎮座DOPENESSを爆音でかけながら、暇そうにしていたのを通り掛かりで見つけて。チャンスは今しかないと思って、『昼間にショップとして営業したい』と言ったんですよ。そしたら『丁度だれか使わないかと思っていたとこなんだよね』という話をしてくださって。ルールさえ決めればすぐにでもできると思ったので、オープン日を土日火の3日間と速攻で決めて、その週から営業を再開しました」

聞くところによると表参道にお店を開いたのは、今年の4月。高校卒業後、広島から上京した廣原くんは1年半ほど古着屋のバイトをしていたが、とある大人からチャンスを貰って貸してもらえることになったのだという。


しかしオープンしてみたはいいものの、表参道のハイソな感じが性に合わなかったという。そこでもっと気楽にやれる場所、ミニマルでも自分自身を取り繕わないでできる場所でお店を探していたのだという。


「服が好きで広島から上京して古着屋で働いていましたが、だんだんと自分が好きだなと思える服屋がなくなっていったんですよね。周りには同年代で服飾関係の学校に通う仲間もちらほらいて。わりと就職で大きなアパレルの組織に入りたがるんですよね。でも大きなところに所属してしまうのは、個人的につまらない気がするんです。だったら自分でやってしまったほうが早いし、面白い人たちと出会えるんじゃないかなって。そうこうしているうちにたまたまチャンスに巡りあえたという感じですね」


そうはいっても同年代でお店を構える人間は決して多くはないだろう。いきなりはじめることに躊躇はなかったのだろうか。


「なんというか、居酒屋で夢ばっかり語っているやつを信用していないというか。自分でやれることはやっちゃいたいタチなんですよね。やんないと始まらないけど、やりゃあ始まるし終わるから(笑)」


そういう言葉を話す今もたこ焼きづくりに熱中して、手を動かしている。

好きでやっていることだから
媚びないし、嘘は言わない。


『en the beginning』のアイテムは、2階をメインに並べられている。居間のようなスペースで、靴を脱いで商品をチェックしていると、知り合いの家のクローゼットを覗いているような気分になる。


「場所が変わってセレクトも変わりましたけど、ここにあるものは結構自分の趣味ですね。好きでやってるのに、あんまりお客さんに媚びるのは本質的ではないじゃないですか。特にレディースものは自分が女の子にこんな服を着ていてほしいみたいな願望が投影される傾向が強いかもしれないですね。

アイテムは売れてもいいし売れなくてもいいというか……仕入れのタイミングも、アイテムが減れば仕入れるけど、減らなきゃ仕入れない。無理をしないようにしてますね。洋服なんてユニクロもあるしZARAもあるし、そこまで無理して売るようなものでもないかなとも思うので。

ありがたいことにわざわざ僕のお店でばっかり買ってくれるような高校生もいるんですけど、そこまで熱を上げなくてもいいんじゃないかなって思うんですよね。僕を経由してもっと違う所に行ってもらって全然構わないし」

いくらか聞き手である僕と距離を取るように、廣原さんは言葉を続ける。


「お洋服が大好きだけど、あんまり多くを語りたくないんです。自分が一番人を喜ばせられる手段が洋服だと思ってお店をはじめましたが、それは自分のエゴでしかないんですよね。だれかを喜ばせたいというエゴは、ワガママな気持ちだと思う。お客さんの喜ぶ顔が見たいからとか、言わないようにしてますね。好きなものを好きなように置く。たこ焼きも今やりたいから、ただやってる。結局それが今の自分のテンションに合うんです。こんなこというと、ヌルいとかいって怒られるのかな(笑)」

できるだけ自分自身に嘘をつかないために、丁寧に言葉を選び、俯瞰で自分のことを見つめている気がした。それでもどんなお店にしたいのかと尋ねると、「あんまり語りたくないんですよね、本当は」といいながらも話してくれた。


「最近バイヤーさんから聞いた話なんですけど。海外に買い付けにいってもビンテージのものは高くてあまり買えないみたいなんです。だから日本の東北の古い農夫が着ていたものを持っていって物々交換する。その考え方ってものすごく時代と逆行しているようで古いやり方のように思えるけど、結構面白いなと思っていて。

例えば、今世の中で売ってるものでほしいものがあっても、ちょっと金銭的に買えないものがあれば、お客さんのものを貰ってそのぶん値引いてあげたりする。そういうやり取りの方が、本質的で自然な気がするんですよね」


あくまでお客さんとのコミュニケーションのなかから服を買ってもらう。服を売る身としてできるだけ嘘の混じらないやりとりがしたいからこその考え方なのかもしれない。そんな話をしているうちにあっという間に日が暮れて、スケボーを持ったバーのお客さんがやってきた。

「どうもー、たこ焼き食べにきました」「丁度今作ってるとこっすよ」


とばかりに軽妙なやり取りがなされていく。どうやらバーの常連にとってたこ焼きは既に名物になっているらしい。


変に力まず、やりたいものを自然体ではじめてみる。ミニマルでも周囲の縁に導かれながら、自分の今のマインドをしっかりアウトプットできている廣原くんの言葉は、のらりくらりとかわすようでありながら嘘がないし、誠実で大人びて見えたのだった。


三茶に来たら、またここで彼のつくるたこ焼きを食べに来よう。そして服をチェックしよう。そう思ってお店を後にした。

Photographer : Kodai Kobayashi / 小林 光大

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