KANDYTOWNのメジャーデビューアルバムのリリースからわずか21日後。KANDYTOWN 5CITY TOURの最終日に、メンバーのひとりであるYOUNG JUJUのソロアルバム『juzzy 92’』がリリースされる。
「とにかく時間がなかった」と話す本人の言葉とは裏腹に、意外なほど堂々として落ち着いた“正直な”作品がそこにあった。ファーストアルバムでここまで自分のラッパー像を作り上げてしまえるのかということにまず驚いたし、それだけKANDYTOWNという土壌は強かったのか、とも感じさせられた。
こういったインタビューでは基本的に“作品を褒めるのが当たり前”だが、そういうメディアの状況そのものがつまらないので、もっと批評してもいいというひねくれた気持ちが少しはあった。でも、『juzzy 92’』は本当にいいアルバムだった。
オンでもオフでもかっこいい、
そんな人と一緒にやりたかった
「作りはじめたのは9月半ばくらいから。だから実質、制作期間は一ヶ月ちょいだったんです。今まであんまりソロ名義での音源は出してこなかったから、まずは名刺になるような、自分の好きなものを作ろうっていうのが大きなコンセプトでしたね。ただ、本当にアルバムを作ることに対して無知だったので、手探りでした。ビートメイカーに関しては音で選んだので面識がない人もいるんですが、ラップを乗せてもらう人は一緒にやりたかった人にまず声をかけていって。プライベートも知ってて、そこでもかっこいいと思える人とやりたかった。だから、B.D.さんに参加してもらえたのはすごく大きかった」
ちょうどアルバムの中間を支えている7曲目の「Live Now feat. B.D.」は、この作品の中でも特別な一曲になっている。世代は違えど同じ系譜を持っているラッパー同士だからこその相性の良さ。スタイルが似ているわけではないのに、同じ方向を見ているんだなと感じる掛け合いの美しさがドラマを作っていた。
「B.D.さんには前からお世話になってて、このアルバムを作るってなって、一番最初にお願いしました。出会ったのは19歳くらいで、俺がGROW(AROUND)で働かせてもらってたときですね。半年くらいしかいることができなかったんです。当時は今よりももっとガキで、遅刻も早退もしょっちゅうするし、めちゃくちゃ怒られてた。でもB.D.さんは夜ライブ行って次の日はちゃんと仕事行って、普通のことをちゃんとこなしていて、その姿がかっこよかった。自分は当時そういうことが全然できなかったから余計にカッコよく見えてた。それでいつか一緒にやりたいですって言ってて、その頃は『がんばれよ』って感じで。4年以上たって、こうやって実現できたのは本当にうれしかった。スタジオに一緒にいることが信じられなかったし、B.D.さんの声が入ってることがとにかくうれしかった。アルバムが締まったのはもちろん、重みが増した。本当に助かりました」
Fla$hBackSのFEBBがプロデュースした「Tap This feat. FEBB」、「First Things First」も、今回のアルバムの軸になってくれたという。
「このアルバムを作るとき、KANDYTOWNのアルバムも同時進行であって、正直ヒップホップのビートに飽きてた。飽きてたというか、なにか新しいことに挑戦したくなってた。だから最初はちょっと変わったものを選んでたんですよ。それで優しい音が増えてきて、そうなってくるとちょっとヒップホップ要素というか、もっとドープでヘビーな音が欲しくなった。それでFEBBにスタジオに来てもらったら、持ってきてくれたビートが、なんていうか、自分が求めてるものに、すごく近かった。叩きも音の鳴りもヒップホップだなって。改めて聴いてみても、この曲があったからまとまったなって感じがするんです。FEBBのスタンスもかっこよくて、来てすぐに一発でパッとレコーディングして、俺もうできたよって。そういう音楽に対してのモチベーションというか、パッと集中してこなせるところはYUSHIに似てるなとも思った。なんか昔に戻った感じがして、すごく刺激になりましたね」
スタジオの空気がそのまま音になる
浅はかだった自分と対峙した制作期間
アルバムを一枚通して聴いて感じるのは、曲ごとにテーマがあるというよりは、一貫して自分のスタイルを歌っているアルバムだということ。曲ごとに物語を作り上げるラッパーもいるが、YOUNG JUJUはまず自分自身について考え、伝えようとした。
「やっぱり日々そういう考えになっちゃってますね。何をするにも“何か目線”じゃなく自分に置き換えて考えてる。女の子にフラれちゃった男とか、そういう“物語”を書く人もいると思うんだけど、俺はそういう風にはできなくて。自分の日常を絡めて、なるべくノンフィクションなものをっていう感じだったから。BCDMGのNOBUさん(DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH!)とかにも言われたんですけど、『自分を出してる、けっこう振り切ったね』って。やっぱり、今歌いたいことはそれしかなかったんです。自分たちの置かれている環境を知ってもらいたいし、何にもないところから音楽でやっていこうとしてるっていうところを伝えたかった。分かってもらいたいというのが強かったのかもしれないです」
自分が最初に世に出す作品として本気で作ったからこそ、終わってから気づくことも多かった。ひとつひとつ何かを完成させることで、はじめて成長できる。そして成長すると、過去に作ったものは色あせて見えてしまう。そして、そう思うことで、また成長できる。
「出来上がった今となっては、出したくない、作り直したいっていう思いもあります(笑)。自分では聴けないですね。思うのは、自分の生活とか曲づくりとか全部ひっくるめて、今まで本当に浅はかだったなってこと。集中することだったり、スタジオでの空気だったり、モチベーションだったり、音楽を作ろうっていう一体感が今までなかった。この音楽を世に出して広めてやろうっていう覚悟がなかったんですよね。適当というわけじゃないけど、流れでやってた部分があった。でも今は、もっと誰かに届けたいとか、意味のあるものを出したいって思うようになってる。だから、俺にはもうこのアルバムが意味のないものにしか感じなくなっちゃってるんです。例えばスタジオの雰囲気、会話の内容、その空気とか環境そのものが音楽に繋がってて、そこから良くしようということができてなかった。もっと周りに、音楽に気を使ってあげなきゃいいものはできない。そういう環境がそのまま音になるんだなって。ストレスやイライラがコンディションにも声にも出るし、自分に対しても人に対しても、もっとやれていたら、もっと良くなったんじゃないか。そういうことは途中から意識しはじめたと思います」
そんな葛藤があったからなのか、発売のスケジュールはかなり延期が重なっていた。でも、結局残るのは自分の名前。納得いかなければ、全部作り直すという選択肢もあった。
「やっぱり出さない、出したくないって言ってたし、BCDMGのボスのJASHWONさんにも、『レーベルには悪いかもしれないけど、その一枚は自分の人生なんだから、気に入らないんだったら出さなくていいんだよ』って言ってもらってました。でも、もう出してみたいって途中から思ったんですよね。一回聴いてもらって、どういう反応なのか、もう白黒つけようって。終わらせるってことも大事なんだと感じましたし、それは周りの人がいないとできなかった。本当に関わってくれたひとりひとりに感謝しています。周りの人に恵まれてるし、みんなが気にしてくれたから、やってきたことが間違いじゃなかったのかなと思えた。そういう人のために音楽やんなきゃなって改めて思いましたね」
音楽で繋がっていたあの人、この人
自分がやれるのは“今を生きる”こと
一曲一曲のリリックを聴いていて印象的だったのは、その死生観。普通の人にとって死ぬこと、生きることは、ぼんやりとした遠いイメージかもしれない。でも、そういうことを肌で感じている人でなければ書けないこともある。
「死ぬってこと? うん、それはあるかもしれないですね。KANDYのYUSHIが死んじゃったこともそうだし、他にもそういうどうしようもない悲しいことがここ数年あった。もう会えないんだなっていう。そういう気持ちとか想いをストレートに出そうとすると自然と自分のなかで出てくる言葉も、やっぱりそういう内容になってきてた。でもやっぱり音楽って本当に良くて。年上ってそんなに喋らないけど音楽を一緒に聴いて好きだったから、深く繋がってる気がしてた。みんなと俺は音楽で繋がってると思った。音楽ってそういうもんなんだなって。だから俺はやってるよ、どうかな?って、その人たちに向けて歌うっていうのは多かったかもしれないです」
死に対する考え方は、その人がどういう人間なのかを語ってしまう。それは、どう生きていきたいかという答えに繋がる。KANDYTOWNでは見えづらかったYOUNG JUJUの輪郭が、このアルバムでははっきりと見えている。
「普段から考えこむタイプだから、やっぱり自分の頭のなかで考えていたことが出てきてると思う。死とか、友達関係とか、お金とか、今やっていること、この先のこと。コンセプトが大きかったのかもしれないですね。日曜日に友達と遊んだ曲とか、そういうんじゃない。この曲を作ってだれかを変えてやろうとか、そういうのもあったと思うし。やっぱり、伝えたいと思うのは“今を生きる”ってことですかね。今回、自分が一番学んだ部分でもあるけど、その瞬間に本気で考えて動いてないと、あとで後悔するんだなって。曲作りだって、楽しんでるときも悲しいときも、中途半端じゃなく本気でやる。じゃないと、自分が聴いて納得できるものにはならないし、100%で目の前のことに集中していないければ、いいものなんかできないから」
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