「BLIND BARBER 東京」オーナーに聞く、バーバーカルチャーの潮流とは(※追記あり)

※以下の記事で紹介されている「BLIND BARBER 東京」は、残念ながら急遽出店中止となりました。公式な説明はこちら。(2016.12.16追記)


クラシックヘアの流行からバーバーショップカルチャーのムーブメントが起こり、ここ数年で男の身だしなみはサロンからバーバーが主流になった。個人的にこの流れはクラフトビールやサードウェーブコーヒーのムーブメントに近いものを感じる。日常生活に溶け込んでいた馴染み深いものを“今”の感性で再定義していくようなビジネスを20代~30代の若い世代が成功させてるなぁ、と。日本のバーバーといえば「床屋」なわけで、そこに音楽やファッションなど様々なカルチャーを掛け合わせた新しいスタイルのショップが次々と生まれている。

そんな中で飛び込んできた、NYの「BLIND BARBER」日本上陸のニュース。BLIND BARBERは、今NYでいちばん勢いのあるバーバーだ。しかも、その「日本上陸」を水面下で動かしているのは、神戸にある「MERICAN BARBERSHOP」の代表・結野多久也さん(写真・左)だという。「BLIND BARBER」ってなんなのか? それを日本でやる意味ってなんなのか? 気になることをストレートに聞いてみた。


(「BLIND BARBER 東京」予定地にて。結野さんとバーバーの宮内さん)


様々なカルチャーが混ざり合う

ネオクラシック系バーバー


「僕は髪は切らないんですよ。僕は何もできないんです(笑)。もともと、おじいちゃんの代から美容室向けの商品の卸業をやっていて。3年前くらいにバクスターっていうカリフォルニアのメンズグルーミングブランドのムービーを見て、ネオクラシック系のバーバーの存在を知りました。かっこいいなと思って調べていくうちにバーバーカルチャーが世界的にキテることが分かった。それで人材を集めて、去年の夏ぐらいに神戸でMERICAN BARBERSHOPをつくったんです」

MERICAN BARBERSHOPを立ち上げたばかりの結野さんが、なぜBLIND BARBER 東京を手がけることになったのか? そこには、バーバーの“スタイル”が大きく影響しているようだった。

「バーバーって4つくらい流れがあって、今のマーケットのど真ん中はクラシックなバーバーなんですよ。ブラザーズとかウルフマンとか、バルバとか。髪もパキっと分けるし、ルードな作業着っぽいノリでインク(刺青)カルチャーで。それ以外にサーフ系やヒップホップ系があって、それからネオクラシック系。サーフ系とヒップホップ系は、それぞれのカルチャーに由来してるんでスタイルもそういう感じなんですけど、ネオクラシック系っていうのはバーバーで酒を出して、コーヒーやフードもあって、なんだったらレコード屋とかも併設させたりする。僕がやってるMERICAN BARBERSHOPもそっち系で、BLIND BARBERもそう。BLINDはもう強烈にかっこよかったんですよね。アパレルとも遊ぶし、ショップで展示会もやるしね。僕はそういうスタンスが好きだったので、ネオクラシック系バーバーのど真ん中にいたBLINDにはすごく注目してたんですよ」

すると、なんとBLIND BARBERの方から、東京での展開を任せたいとオファーが舞い込んだ。

「向こうもMERICANを知ってくれてて、日本でやるならうちがいちばん相性がいいって思ってくれたみたいなんですよね。うちはカウンターテーブルがあって溜まり場になってたし、クラフトビールとかのこだわった酒や、フレンチプレスのコーヒーを出したりしてて。そうするとコミュニティができたり新しいものが生まれたりするし、バーバーだけじゃない他のカルチャーが混ざり合ってるのがネオクラシックだから。コンタクトをもらったときはもうノリノリで『やる!』って返事しましたね(笑)」


(NYの「BLIND BARBER」の様子)


人が集まるための場所があって
そのアイコンになってるのがバーバー


今年7月に、実際にNYのBLINDに行ってきたという結野さん。肌で感じた現地のスタイルに衝撃を受けたそう。

「イーストビレッジにある本店にはバーバーのスペースが10坪くらいしかなくて、すごいちっちゃいんですよ。でも、その奥に80坪くらいのバーラウンジがある(笑)。カルチャーが逆転してるんですよね。人が集まるための場所があって、そのアイコンになってるのがバーバー。店自体は20時くらいに閉まってバーラウンジが21時からオープンするんですけど、バーバーを通らないと奥のバーラウンジには行けないから、知らないと行けない場所なんです。それでも300人くらい平気で集まるんですよ。音楽はちゃんとローカルのDJを入れて、大人が遊べるゆるい空間をつくってる。スピークイージーな感じでね。あのやり方はたまんないですよね」

スピークイージーとは、1920年代の禁酒法時代に存在したもぐり酒場のこと。大抵は床屋、薬局、葬儀屋などの奥にあり、人が集まる特殊なハブスポットになっていた。それをモダンにアップデートしたのがBLINDだという。でも、ただ輸入するだけでは意味がない。結野さんがやろうとしてるのは、“神戸のローカルたち”の手で日本ならではのBLIND BARBERをつくること。

「細かいレギュレーションはないんですよ。ちょっと粗いシンプルな内装と奥のスピークイージーなバーラウンジがあれば、あとはこっちの解釈で好きにしていい。僕がやりたいのは、スキルはあるけどアングラで止まっちゃってるやつらをフックアップすること。だから神戸のおもしろいフローリストを連れてきてフラワーショップをやったり、ケータリングを頑張ってるやつにハンバーガーを出してもらったり。だから見た目はNYスタイルだけど、コンテンツは神戸発。自分の周りのローカルを大事にしていきたいってことです。MERICANに集まるかっこいいやつらでBLINDを作り込んでいきたい」


(代表・結野さん)


“ムーブメント”から
“ライフスタイルのひとつ”へ


バーバーをアイコンにして、大人たちが飲んで集まって遊べるハブスポット。コーヒー、クラフトビール、バーラウンジ、フラワーショップ、ハンバーガー、バイクなど、好きなものは何でもぶちこんでいく。そこからアパレルや新しいプロダクトが生まれたら、店でポップアップやイベントも行う。確かにここまで他のカルチャーを巻き込んだバーバーはなかったかもしれない。

バーバーカルチャーが一過性のムーブメントとして終わってしまうのか、それとも残るのか、今が分かれ道。BLIND BARBERは新たな潮流を作ってくれるのか?

「今はクラシックでレトロなバーバーがど真ん中だから、お客さんはそれがバーバーショップカルチャーだって思っちゃうけど、勘違いすんなよって。MERICANやBLINDみたいなスタイルもバーバーショップカルチャーなんだってことを見せていって、コアになるんじゃなくて広げていきたい。そうすれば、“いちムーブメント”から脱却してライフスタイルのひとつになれるかもしれない。だから僕らは、この3~5年で強烈に頑張らないといけないんです(笑)。BLINDは、お店はもちろん、写真やムービーとかのクリエイティブ面がものすごくクールっていうことが強いから、自分たちもそこには力を入れていきたいですね」


BLIND BARBERは来年2月のオープンに向けて、「Makuake」でクラウドファンディングで資金を集めている(※2016年12月20日まで)。そこにも結野さんのこだわりがある。

「MERICANのときもMakuakeで支援を集めたんですけど、やっぱり新しいやり方のバーバーを作るんだから資金調達が今までと同じ銀行融資じゃつまらない。今っていろんな形があるから、まずやってみるしかないなって思ったんです。バーバーとかこういう業界でやってるやつはいなかったから、それもラッキーでしたね。チャンレジしたら、MERICANではすぐに200万集まったんですよ。取材を受けたりすることでPRにもなるし、一石二鳥だった。BLINDも同じ流れですね。業界の身内だけじゃなく、新しいお客さんに知ってもらって広がっていけば、店にもお金がかけられるし、いい人がたくさん働けるしね」


(バーバー宮内さん)


バーバーはやっぱり人ありき
個性があれば、カルチャーが生まれる


今回一緒に撮影をさせてもらったのは、BLIND BARBERでバーバーとして働くことが決まっている宮内政直さん。彼は、何より結野さんの人柄に惹かれたのだという。

「兄貴がMERICAN BARBERSHOPでヘッドバーバーをしているので、そのつながりで自分もBLINDに参加することになったんです。大阪で美容師として10年働いてきたんですが、独立するか迷っているときに結野さんに声をかけてもらって。アパレルが好きだから、ファッションや他のカルチャーと関われるっていうのがすごく楽しみですね。でも、一番の理由は結野さんがおもしろいから(笑)。こういう空気感の人って、あんまりいないんですよ。人間性に惹かれた部分が大きいですね」

やっぱり大事なのは「人」。BLIND BARBERの新しいスタイルに欠かせないのも、カルチャーと深くつながっているバーバーたちの存在だ。結野さんは最後にこう話してくれた。

「バーバーはやっぱり精神性というか、人ありき。ただ髪を切る人としてだけじゃなく、その人と話すと新しいことが知れるとか、何かを教えてもらえるとか、最高じゃないですか。NYのBLIND にもスケーターとか写真やデザインをやってるやつが集まってて、そういうやつらが髪を切ってる。箱だけ良くても人が良くなきゃお客さんは集まらないですよね。だからうちのバーバーは全員バラバラのスタイルでいいんです。個性が強烈にあれば、そのチャンネルごとにコミュニティが広がっていく。そこからカルチャーが生まれるんですよね」


シティボーイとかクラフトとかヒップスターとか、時代によってムーブメントはあれど、みんな横並びのファッションに嗜好(思考)じゃつまらない。神戸のローカルたちがつくるBLIND BARBERは、東京をおもしろくしてくれそうだ。


Photographer:濱田 晋 / Shin Hamada

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