「未来を選び、運命を変えたい」愛と意志で全うしたTHE NOVEMBERSの新作を3つのキーワードで紐解く

「僕は30年かけて、バンドは11年かけて、この『Hallelujah』を作ったような気持ちでいます」と小林祐介(Vo/Guitar)が自ら公言する最高傑作を作り上げたTHE NOVEMBERS。

2005年に結成され、バンド名にちなんだ記念すべき11周年を今年2016年に迎えた彼らだが、この6枚目のアルバムとなる本作『Hallelujah』はまさしくそんなアニバーサリー・イヤーにふさわしい“ベストアルバムかつ新たなファースト・アルバム”と言っても過言ではない作品となり、各CDショップ店頭やメディアを賑わせている。そんな話題作を作り上げた小林祐介に初のインタビューを行った。

今、自分は

人生や運命に試されている


新作『Hallelujah』は小林さんのソングライティングという点でも、バンドのアレンジや演奏という点でも、集大成的な作品だと思いました。最初から“集大成”を作ろうという意識はありましたか?

YUSUKE KOBAYASHI(以下YK) そうですね。“今”がいろんな選択の行き着いた結果だとすると“自分自身の集大成はつねに今この瞬間である”という考え方ができますよね。そういう感覚で集大成が作れればいいなと思っていました。今までの自分たちが手にしてきたものや勝ち取ってきたものを、出し惜しみしないで全部出せたら良いなと。 


ー本作に関する別のインタビューで、小林さんはこのアルバムを“始まり”と表現し「将来像を思い描き、そこに行くために何をするべきなのか“段階”をデザインして考えられるようになった」という旨の話をしていましたが、なぜ未来を想像できるようになったのでしょうか?

YK 30歳になったという年齢的なことや、娘がいるという環境的なことも含め、ありとあらゆる状況を踏まえて「今、自分は人生や運命に試されている」と思った瞬間があったんです。それまで自分は“なるようになるものが運命だとか人生だ“と考えていたんですけど、進みたい未来を思い描けば、それによって選択や手の動かし方って変わってきますよね? そういう意味では、これまで自分は“今”を生きていなかったなと思って。たとえば、子どもって次の日が遠足だと思えば準備するんですけど「いつか行こうね」って言うだけだと何も準備しないんですよ、それと一緒で。「こういう未来に自分たちは行くんだ」とか「こういう景色を自分たちは見に行くんだ」ということを、漠然とした願望ではなく、叶えると信じることで、そのときにやることが変わるはずだと。端的に言うと「運命を変えたい」と思ったんです。 


運命?

YK このままじゃ自分は多分ダメになると思ったし、こういう気持ちになるために生きてきたわけじゃないとそのときに思って…。自分を曲げないまま、人生とか運命をより良くしたいと考えたんです。そこで、自分はどういう未来を生きたいのかということを想像しました。むしろ想像するというよりも思い出すくらいの感じで。


 ー音楽を始めた頃の気持ちに立ち返る部分があったんでしょうか?

YK いえ、それはむしろまったくないですね。バンド始めたときは、そこで思い描いた未来はただの“願望”でしかなかったので。それを漠然と望むんじゃなく、信じることで、その未来を選び直すというか。信じるもの自体も選び直すくらいの感じでしたね。目の前にあるものをその順番で好きなように作り続けてきたのがこの10年間だったと思うんですけど、そこからは意識が変わりました。


 そこで描いた未来というのは、小林さん個人として? それともバンドもひっくるめて?

YK ひっくるめてですかね。バンドで立っているステージのことも想像したし。分かりやすいところだと、フジのグリーンステージみたいなたくさんの人がいる前でこうやってギターを鳴らすんだ!とか。子どもじみているかもしれませんが、そういうところから始めて、いろんなイメージを描きました。 

僕も含めてメンバーのみんなは、なんとなく「自分の人生は今後より良くなっていくんだろうな」とか「うまくいくだろう」と疑わなかったような、ふわふわした生き方をしてきたと思うんですよ。でも、それって“良くなる”っていうのがどういうことなのかちゃんと考えていないし、良くなるために今日することって本当にこれでいいのか?という疑問も持っていないんですよね。それじゃその運命には選ばれない気がするんです。少なくとも僕はこの10年の中でいろいろなものを手にしてきたけど、でも「こうなったらいいな」っていう未来を勝ち取れていないんです。だから、そこに関して疑いを持ったということが、今回のアルバムのいちばん大きなきっかけだったんじゃないかなと思いますね。 


自分たちの集大成を作ろうという意識があるなかで、具体的にやり方/作り方を変えたことってありますか?

YK 余計なことをしなくなったということですかね。「余計だな」と思うものが増えたというか。前作『Elegance』を土屋昌巳さんと作った経験で最も活かされているのが“仏像を作るときの考え方”なんです。

仏像?

YK 仏像の作り方の根本には、木のかたまりの中から仏様を取り出すという考え方があるんですよ。木の中にあらかじめ仏様が入っているというイメージ。さっきの僕の話でいえば、未来で自分たちが楽器を演奏しているところを思い出すっていうのと一緒。

そういう意味で、今回はアルバムの完成形をものすごくイメージしていましたね。行き当たりばったりで作って最終的にOKというよりは、アルバムのあるべき姿を想像して、そこに近づくためにどうしたらいいか、より良くするためにどうしたらいいかっていうやり方でした。だから今回マジックみたいなものはあったけど、マグレは何ひとつなかった。たまたま出来たことは何ひとつなくて、作ろうとしてそれに見合うやり方で作り上げたっていう気持ちが凄く強いです。そういう意味でも集大成という言い方ができるかもしれないです。


今までは恋で音楽をやってきたけど

今回は愛で作り上げた


『Hallelujah』を聴いて、リリック面で印象に残った言葉が3つありました。ひとつめが“美しさ”とか“美しい”というフレーズです。 

YK いちばん“美しい”という言葉出てくるのは“1000年”という曲だと思うんですけど、これは今までやらなかった露骨でストレートな感じで書いてみた曲です。言葉を扱う人間として「“美しい”という言葉を使わずに美しさを表現できたら」っていう思いが当然芽生えるなんですけど、でも「本当にそうかな?」と思うところもあって。 

ストレートに行ってもいいんじゃないかと?

YK 〈少年ジャンプ〉的でありたかったんですよ。THE NOVEMBERSって多分マンガ雑誌で例えるなら〈IKKI〉とか〈ガロ〉とか〈アフタヌーン〉みたいな渋い辺りに位置づけられてきたと思うんですけど、僕自身は〈少年ジャンプ〉で冨樫(義博)さんが描いているマンガみたいな存在でいたいんですよね。『ワンピース』のマネもしないし『ドラゴンボール』のふりもせず、美意識を曲げないまま、子供の都合は知らないけど子どもが読むことは知っているっていう、そういう存在でいたいと思って。だから変な衒いとか技術的な顕示欲みたいなものには、あまりこだわらなくなりましたね。「今日自分が書いたこの歌詞は、明日でも昨日でも書けないものなんだ。少なくとも今の自分はコレを書こうとして書いたんだから」っていう、その都度その都度の自分が作ったものを肯定して未来に連れて行こうという意志で作っていきました。


そして次に目立ったのが「燃やす」という表現。これが本当に印象に残りました。やたら何かを燃やしているな、と(笑)余談ですが宇多田ヒカルも新作でけっこう燃やしてるんですよね。単純に破壊衝動とか、破壊することでそれを完全なものにしたいとか、動機としては色々考えられるんですけど、自分ではどうして燃やそうとするんだと思いますか?  

YK レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』っていう映画があるじゃないですか。あれの海辺で2人が走ってるシーンにイメージとしては近いですね。何かを灰にするためというよりは、自分が燃えてる感じ。ネガティブなものそういうものを振り払うために自分が炎になって駆けていく感じです。何かを破壊するためや攻撃するための火じゃなく、魂とか命が燃える火。「美しさに焼かれたい」とか「むしろ美しさくらいにしか焼かれないぞ」みたいな。…説明が難しいですけど。


そして3つめに印象に残った言葉が「愛」。小林さんは愛について考えることが多い?

YK それはもう人生とか運命と同じような感じですね。“時に愛は2人を試してる”っていうフレーズがGLAY「誘惑」の歌詞にあるじゃないですか(笑)。あれってすごくいい言葉だなと思ってて。というのも「愛に試されてるな」と思うことが自分にもあって。愛ってどこか穏やかで豊かでほんわかして心が暖かくなって、みたいな素晴らしい側面しか語られないじゃないですか? 恋とか。でも正直僕はぜんぜん違うなと思っていて。

ミッシェル・ガン・エレファントで言うところの“愛という憎悪”とか(笑)。 

YK そうですね(笑)。恋をしてるときって相手のことを好きって思うんですけど、それって結局誰かを思うことで自分が気持ち良かったりとか、見返りがあるものなんですよね。でも、愛って見返りがあるものじゃないんですよね。娘を持って初めて思ったんですけど、子どもって普通に考えてすごく手間がかかる存在で「もしこれが自分の子どもじゃなくて友だちだったら愛せるかな?」って。…それは試されてるんですよね、愛に。


なるほど。 

YK 愛は世の中で言われているような、ほんわかしたものじゃないけれど、それでも人が勝ち取っていかなくちゃいけないものというか。たぶん重要な関係性になればなるほどそこにガソリンとして愛が必要になってくるんですよね。だから夢見心地なものじゃなくて超リアルなものというか。


“今まではそのときどきでやりたいことをやってきたけど、未来を考えて行動を考えるようになった”ということを先ほど話していましたが、そういう具体性を持った行動こそがリアルな愛っていう感じもしますね。自分とかバンドとか世界とか…なんでもいいんですけど、愛しているからこそ良くするために考えて行動する。それこそが愛しているということを相手に伝えることになるっていうか。

YK うん。“愛は感情ではない”というのはすごく意識したところかもしれないですね。恋は感情であり状態だと思うんですけど、愛っていうのは明確な意志だし、状態じゃなく能動的な行動というか。そういう意味で言うと、今までは恋で音楽をやってきたけど、今回は愛で作り上げた、意志で全うした、という違いはあるかもしれないですね。 



photography : Kenta Terunuma

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