この「MY WAY」プロジェクト設立メンバーの中核である家電蒐集家の松崎順一氏へのインタビュー。"ラジカセ"というカルチャーについてうかがった前編に続いて、今回の後編では、「MY WAY」でつくったラジカセのこだわりどころに迫った。
「ガチャ」って押した感覚が
指につたわってくるのを再現
─今回のラジカセでは、"「ガチャッ」と押すスイッチの部分にこだわった"と、リリースの方に書かれていましたが(笑)。
そうなんです!
いま市販されているラジカセって、だいたいは中国産なのですが、操作のフィーリング……例えば、ラジカセの再生ボタンの押す部分がフニャフニャなんですよ。
─フニャフニャ(笑)!?
そうなんです! 昔はメカがキッチリした、質実剛健が良いとされたカルチャーがありましたけれどね。いまは、しっかりした製品、音がいい製品をつくるというよりは、どちらかというと安くて安価なモノをつくる方向に向かっていて。
安い製品というのは、徹底して安くつくっているから、鉄板の部分も薄かったりして、ボタンを押したときに、むかしは「ガチャッ」って鳴っていたものが、いまはスカって感じなんです(笑)。
ヘタすると、押したときにグラグラでフニャーって壊れちゃいそうな、そのぐらい華奢ですよ。
─それは、ちょっとイヤですねー。
そう! そして、なによりもデザインがダサい(笑)!
現在、日本国内でラジカセを販売している半分は某T社なのですが、正直言ってデザインはあまりよくないです。
─それは、昔からですか?
いえ。70~80年代はカッコいいデザインのラジカセをたくさんつくっていましたが、中国に拠点を移して、ほそぼそとつくっているうちに、デザインがおざなりになっていったという感じでしょうね。
いまのラジカセって、安くて、音が出て、ラジオもつかえますよ的な家電で、「しっかりした製品をつくる」という、そういうポジションではなくなってしまったんです。
で、デザインは某T社がやっているというよりは、中国の方のメーカーが中東とか世界中で発売している向けのモノを、日本向けにちょっと手直しているくらい。なので、デザインにもほとんどこだわっていないんですよね。
─なるほど。
それと、スピーカー自体の質もイマイチで、音もスカスカ。
最近は、どのメーカーのラジカセのカタログを見ても、音の良さとか、そういう部分にはまったく触れていない。こだわりはまったく感じられないです。それって、すごく嘆かわしいワケですよ。だから、まず今回の「MY WAY」のラジカセで、特に再現したかったのは、操作のフィーリングなんです。
スイッチを動かしたときに、押されているのかがよく分からない感じではなく、しっかりカチっと音がするとか。操作のときに押した時の感覚。「ガチャ」って押した感覚が指につたわってくる。「スイッチって、こうあるべき!」という部分ですよね。本来、ラジカセが持っていた質感を、"ドコまで再現できるか"というのが、こだわりのひとつです。
─なるほど、つまり「五感で聴いてくれ!」ってヤツですね(笑)。
そうそう。「全身の細胞で聴いてくれ!!」って(笑)。
あとは、持ったときの重さですよね。市販のラジカセって軽すぎなんです。持ったときに、壊れそうとか、音が悪そうだとか。そう感じてしまう。だから、あえて適度な重さを出しました。
軽くするのはいくらでもできるんですけどね、逆に重くするって、家電の業界的にはナンセンスじゃないですか(笑)。でも、質感で必要な重さはあると思っているんですよ。
ただ昔のものを回帰させるのではなく、ボクが"いま"「ラジカセとは?」と、おもう部分をつめこみました。
デザインは50年代の
ディーター・ラムスをオマージュ
─デザインに関してはどんな方向性から、現状の形になったのでしょうか?
現存のラジカセのデザインは、丸っこいんです。でも、ラジカセって四角で、カクっとしている方がカッコいいし、本来のラジカセっぽい。それをベースに、2016年の現代に合わせて表現したら、スクエアで、適度な程度の角に丸みのフォルムがあって、イヤミのないシンプルなデザインになった。
デザイン的に、時代にあまり左右されず、長年つかっても古さを感じない、そういうところからですね。家電メーカーとしては困るんですけれど(笑)。
─デザインの元ネタになっているようなラジカセは、あるのでしょうか?
ボクは、もともとドイツのBRAUN(ブラウン)社の50年代のオーディオが好きで、当時はディーター・ラムスというデザイナーがデザインしていたのですが、あの頃のソリッドな感じというか、ムダがなくてめちゃくちゃオシャレというところが、家電デザインの原点だと考えているんです。だから、今回のラジカセは、70~80年代のラジカセという感じではなく、50年代のディーター・ラムスのDNAを継承して、それをある程度オマージュしている。
1950年時代に彼が考えた、「プロダクトデザインというのはこうあるべきだ!」という、「"良いデザイン"の10か条」というのがあるのですが、具体的にデザインをどうというよりは、それをボクのなかで取り入れながら、落とせる部分は落としたという感じですね。
ちなみに、その10か条というのは、50年代だろうが、いまの時代でも、そして将来でも、工業製品のデザインのベースとしては不変だと思っています。
─以前、今後の展望として、生産拠点を日本に移すということを考慮にいれているという、お話しをうかがいましたが、その辺りは具体的にどんな感じで考えているのでしょうか?
先にも話しましたが、いまのところ生産はアジアに移行してしまっている状況です。ただ、世界的にニーズが広まって、それなりの台数が流通するようになれば、その方向性の野望というか、夢はありますよ。
いまって、家電は海外から日本にというのが主流なんです。ただ、その逆の流れをつくっていて、すごくいいなと思う家電メーカーがあって、それは『バルミューダ』ですね。おいしくパンが焼けるトースターでお馴染みですが、『バルミューダ』は生産拠点を日本に持って来て、いち早く国内回帰した企業なんです。
じつは国内に拠点を持つと、いろいろなメリットがあるんですよ。ひとつは、品質の向上。モロモロのやり取りが簡単になるので、よりクオリティの高い製品ができるようになります。それと、いまの家電メーカーって、過剰に在庫をつくらないんですよ。つまり売れる数しかつくらない。だから、中国でつくってからコチラへ運ぶという手間がなくなるんです。もちろん、国内だから物流もローコストになる。とくにそれほど高価な家電でないかぎりは、国内生産の方がコスト面から流通面から、圧倒的に有利なんですよね。
─たしかに。それは実現できそうですか?
「MY WAY」のラジカセも、そういう動きを加速できたらいいかなと思いますけれど、ただそのタメには、やはりラジカセをシーンに根づかせないと、という感じです。
将来的には、第2弾、第3弾と、いろいろなバリエーションをつくりたいと思っていますから、若い方からシニアの方まで、幅ひろい年齢層に「MY WAY」が支持されてくれれば、将来的に、日本に生産拠点をもってきて、もう一度、純粋にメイド・イン・ジャパンのラジカセをつくりたい! という、野望というか、夢は持ってます。
ちなみにいま、ラジカセの国内販売規模って年間約10億円なんですよね。もちろん、いろいろなメーカーがあっての売り上げ規模ですが、10億円あれば生産拠点を日本に持って来れないことはないんです。そこに「MY WAY」が参入することで、10億の取りあいになってしまうのか。どちらかというと、パイがひろがってくれればいいんですけれどね。
─まずは、パイをひろげるというコトを目標としているプロジェクトですもんね?
そうです! いままでラジカセを使用していない方に使ってほしいというプロジェクトなので、パイがひろがってくれればうれしいです。この時代に家電メーカーを立ち上げて、「どうなの?」って思われそうではありますが、これが波に乗れれば、日本の経済界、産業界にひとつのおもしろい形にはなると考えてます。他の大手メーカーではできないような、かゆいトコロに手がとどく的なコトができればいいですよね。
実際に、80年代にはこの大きさのラジカセはたくさんあったんですけれど……"ないのでつくる"ってコトができればいいんです。
─最後に、ラジカセは、これ以上のつけ足しもなければ、引く要素もない、いわゆる「エポックメーキングな発明」と考えますか?
ボクは、ラジカセはエポックメーキング的なモノではなく、けっこう自由なモノだとおもっています。時代によっていろんなものがくっついて、その時代のラジカセがあってもいい。あくまでもボクの考えている"ラジカセの三大要素"があればいいという感じです。
"ラジカセの三大要素"というのは、ひとつは、ポータブルオーディオなので電池でつかえるという点。ドコでもつかえるというのがひとつ。そして、最低でもラジオとカセットがついているという点。もうひとつは、取っ手がついている。この3つの要素があってこそラジカセだとおもっています。個人的にですが(笑)。あ、あとはスピーカーがついているというのも、欠かせないところですね。
この4つの要素があって、CDプレーヤーとか、ブルートゥースとか、いまのデジタルの要素とか、もちろん、今後新しいデバイスがついてもいいと思っていますし、時代とともに変化するのはアリだと考えてますよ。
─ありがとうございました。
ラジカセ製作プロジェクト「MY WAY」。
松崎順一氏の踏みだした一歩は小さな一歩だが、もしかしたら今後のニッポンの家電を変える大きな一歩となるのかもしれない。
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