おばあちゃんのカラオケから、ニューヨークのラッパー、はたまた地球の裏側のジャングルの奥地でラジオ鑑賞のためにも使われている『ラジカセ』。
そんなラジカセをイチからつくろうとするプロジェクト「MY WAY」が、現在クラウドファンディングサイト「Makuake」で進行中だ。
原稿執筆時点でも、まだ残り1ヶ月以上あるにもかかわらず、すでに目標金額を達成。いまだに金額が伸びつづけているところをみても、このプロジェクトへの注目具合がわかる。
この「MY WAY」プロジェクトを立ち上げた首謀者は、家電蒐集家として知られている松崎順一氏を中心とする3人のメンバー。
今回は、そんな松崎氏の事務所(アジト?)にお伺いし、ラジカセ製作プロジェクト「MY WAY」を中心に、ラジカセにまつわるさまざまなお話しとともに、今後のこのプロジェクトにまつわる野望についてうかがった。
ラジカセは日本のカルチャーを
象徴するアイコン
─今回、さまざまな家電があるなかで、なぜラジカセを選択したのでしょうか?
ボクは、「家電蒐集家」というのを10数年間やってきたのですが、それはラジカセの魅力に取り憑かれたのがキッカケなんです。
ラジカセって、日本の家電の歴史の中でも一番象徴するものだと思っていて、もうメイド・イン・ジャパン家電のアイコンとしてもいいくらい。
日本の家電カルチャーというか、日本自体のカルチャーが、海外のいろいろなカルチャーを、日本なりに一度租借して、あらためて日本の文化として再構築しちゃうカルチャー。
それは食べ物にしても、音楽にしても、何でもそうで、特に家電に関しては顕著な部分があって、さまざまな家電をひとつのモノに詰めこんでより便利にする。日本人はそれが得意だと思うんですね。
キーワードとしては「合体」、または「複合家電」で、その代表格がラジカセではないかと思っています。
ラジオとカセットプレーヤー、それぞれ別の国で発明されたモノをくっつけて、「あたらしい家電にしちゃえ!」っていう……そういう発想とか、考え方とかって、日本の家電文化の根底そのものなワケですよ。特にラジカセは、日本が生んだひとつのカルチャーなんです。
─"あつめる(蒐集)"から、"つくる(製作)"という方向に向いたワケですが、その理由は?
数年前からの70年代80年代ブームで、日本もふくめて世界各国でアナログ回帰がきていますよね。その中でレコードカルチャーが盛り上がり、ようやくカセットテープも盛り上がりをみせはじめています。
カセットテープの録音できるという魅力だったり、デジタルでは表現しきれない音の魅力だったり、そういう部分をリスペクトして世の中に出すことで、若い世代、特に10代とか20代とかのカセットテープを知らない世代に、よりアナログのたのしさ、おもしろさを知ってほしいし、さらに次の世代へと受けついでほしいなーという思いが、ボクの中で強いんですよ。
いまの若い世代の音楽体験はスマホがメイン。ひとつのハードウエアをつかって、カセットテープというメディアに録音したり、オペレーションをして音楽を聴くというフィーリングは、スマホとは別の次元。それを味わってほしいんです。
そして、ヒトが音楽の聴き方をTPOに分けて選択できるような世界観をつくりたい。そういう思いもあって、昨年くらいから自分で"つくる"という方向性にシフトしたんです。
─ラジカセという、まったくもってのアナログなオーディオ家電を、いちからつくるコトになりましたが、例えば、どこかのメーカーとのコラボレーションという形では、考えなかったのでしょうか?
実は、数年前から日本のオーディオメーカーには、「こういう時代だからこそ、アナログのオーディオをあたらしいカルチャーとして世の中に送り出したらどうか?」という提案をしていたんですけれどね。
現状、家電業界は、どこのメーカーもインターネットに接続する"IoT家電"みたいな、最先端のテクノロジーを目指した家電が売れ筋なんです。だから、いまさら昔に後退するようなアナログのオーディオには「まったく興味がない」ってコトで断われてしまったんですよ。
ボクとしては、こういう時代だからこそ、アナログの魅力がおもしろいんじゃないかなと思うんですけれどねー。
─今回、ラジカセを製作するにあたって、クラウドファンディングサイト「Makuake」を使用した理由は?
結局、金型から何からすべてイチからおこしたので、やはり資金的にも大変ですし、さらに個人で家電をつくるってのは、非常に難易度が高いんですよ。もちろん資金もないので、まずは資金調達という部分では、クラウドファンディングをつかおうと。
で、そのなかではメジャーな「Makuake」さんと一緒に組むことにしました。
ただ、クラウドファンディングに関しては、もちろん資金集めがメインなのですが、スマホで情報を収集する若い世代へのプロモーションにもなるという部分と、どういう人たちがこのカルチャーに興味があるのか?というテストマーケティングの部分もあったりします。
実際のニーズって「どうなんだ?」ってことですね。
─この「MY WAY」という、プロジェクト名の由来は?
これ、実はブランド名なんです。
今回のプロジェクトは、ボクをふくめて3名でやっているのですが、名前を考えたときに、短くて的確な名前、例えば「SONY」とか、一瞬で製品感をイメージできるような、そんな名前をみんなで考えたのですが、全然出なかったんですよ(笑)。
結局、プロジェクトを立ち上げるギリギリまで出なくて、ボクが「じゃあ、"My Way"というか"自分の道"?」ってポロッと言ったコトバが「それでいいかな」ってなってですね(笑)。
自分が「ラジカセをつくりたい!」となって、それを一途に信じて"そのまま突き進んでいる"という意味にもなるし、それもいいかなと。
最後に苦肉の状況で、ポロっと言ったコトバで決まっちゃったので、あまり深い意味はないんです(笑)。
─いや、サイコーです(笑)。
でも、ブランド名なんてそういうモノなんですよね、「SONY」もそんなもんですし。ブランドのネーミングって、それをどう育てていって、どういうブランディングして、どういう価値観を与えていくか。育て方のほうが大事なのかなーと。
この「MY WAY」自体は、過去のテクノロジーを再構築して、いまのライフスタイルのなかに落としこんだらオモシロくなるんじゃないかな?というのが発想なんです。どのメーカーのどの家電にも似ているようで似ていない。ちょうど真ん中の部分にいる。つまり"自分の道を突き進む"……そういう意味での"MY WAY"感はありますよね。
だから、数年後にまったくちがう家電を出したときにブランド名を見て「ああ、あの家電メーカーね!」って思ってくれればうれしいなー、と思っています。そこに至るまでに、何年かかるかはわからないですが(笑)。
いま始めないと世界から
ラジカセがなくなってしまう!
─今作を製作するにあたって、一番の苦労された部分はやはり工場をおさえることでしょうか?
そうですねー。現状、ラジカセは日本に生産拠点はほとんどない状況なんです。ほんの数年前までは、日本にもまだ生産拠点があったんですけれどね。でも、このラジカセ企画を考えたときには、もうなくなってて。どちらかというと中国をふくめたアジアに点在してしまっているので、いま、あたらしいラジカセをつくるとなると、中国とか、ほかの生産拠点と組まないとできない状況なんです。
ということで、昨年あたりからアジアのいろいろなメーカーとやり取りをしていたのですが、結局、ほとんどのメーカーから断わられてしまっていたんですよ。今年の頭くらいに、その中からやっと一社、「ウチでだったらなんとかできるよ!」ってトコロを中国で見つけまして。そこから具体的にデザインとか、スペックとか、性能とかをメーカー側とつめて、実現できる運びになったのが、今年の夏くらいの話なんです。
─現状、世界のラジカセ事情は、いまどのような状況なのでしょうか?
世界規模で見ると、中東とか、アフリカなんかはまだラジカセとかカセットテープが主流で、そういうところ向けに、中国やアジア諸国が"まだ"つくっているという状況です。中国で日本向けのラジカセをつくっているメーカーはほんの一部で、まだ他でニーズがあって生産されているので日本でもラジカセの販売ができるという感じ。
でも、中東とかで、あと数年でラジカセが使用されなくなっちゃったら、中国でも生産をやめてしまう状況なんですよね。ほんとにギリギリのところなワケです。
─かなり崖っぷち産業なんですね。
そう。だからこそ、いま、このラジカセプロジェクトをスタートさせないと、数年後には生産拠点すらも世界からなくなってしまうという危機感もありました。ラジカセとカセットテープのカルチャーが盛り上がっているいま、日本もふくめて、アメリカとか、ヨーロッパとかで、ある程度のロットでもいいから、ラジカセのニーズを確立すればメーカーの生産を終わらせずにできるのかな。そう考えてます。
>>>家電蒐集家 松崎順一 インタビュー(後編) につづく
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