いつまで「東京」に、しがみついてるの? 社会人3年目のわたしが感じる違和感

taemikagawa

会社員を経て、2013年よりフリーランス。前職の経験を生かし、PRプランナー、ライターとして活動。山口県出身。
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東京に憧れ、上京する人が絶えない。最新情報の発信地は常に東京だ。東京にいれば、不自由はない。欲しいものも行きたい場所も圏内だ。なんとも便利な都会暮らしである。

そんなふうに東京を謳歌する人を横目に、「ホントに東京っていいとこなの?」と、疑問の目を向ける女性がいる。四国で生まれ育ち、名古屋の大学に進学後、だれもが知る都内大手企業に就職した。現在は、観光サービスを手がける部署で働く、25歳の彼女。

農林業を生業とする祖父を見て育った彼女の夢は、地元で就農し、農業によって地域振興をすることだ。そのための一歩と信じて決めた就職先だったが、入社3年目にして、「自分の人生を歩んでいるとは思えない」と嘆く。地方出身の同僚や友人が東京を満喫する姿も、どこか遠くの出来事のよう。

多少の差こそあれ、地方出身者ならだれもが憧れる「東京」での仕事や暮らし。そのなかにいながら、息苦しさを感じる人もいるはずだ。それでも、東京に留まる理由とは、一体?

「上司」という壁にぶつかり考える
会社の存在意義

「今の会社は、夢への通過点。いずれは地元に帰ります。大学を卒業してすぐ帰るより、何かスキルを身に付けた方がいいと思って。そのため、社会に影響力を持つ企業を就職先に選びました」

インタビューを行ったのは、彼女の勤務先から目と鼻の先にあるカフェの一画。まもなくして暮れはじめた空からは、パラパラと雨が降りはじめた。彼女は、雨音に耳を澄ますかのように一瞬沈黙したあと、次の言葉を継いだ。

「企画にして上司に提案するたび、『利益は出るの? 将来性は?』って、詰められて。採算性の合わない企画じゃダメだってことは分かっています。でも、営業や広告の努力もナシに頭ごなしに言われるから、元も子もない。そもそもこのサービスは、地域貢献も目的のひとつなんです。その視点をおざなりにして収益の話ばかりされるから、正直わたしにはしんどくって」

そもそも彼女の考えはこうだ。

全国を一律的に見る時代は、すでに終わった。これからは特色のある地域づくりが必要になる。ある地域は漁業、ある地域は織物業というように各自治体が独自の強みを持ち、発信していくことが大切だ、と。

「その考え方が通用するのか、ウチで試してみたら」。面接官にそう言われて、今の会社を選び、3年間頑張ってきた。

「でも、成果ばかり気にする上司とやりあうことに、もう疲れました。自分の夢に近づいている感じも全然しないし……」


リア充な友人たち。
それって楽しい? 意味あるの?

彼女の憂いは、プライベートにも及ぶ。

「地方から上京している友人たちは、いつも話題のスポットやグルメの話で盛り上がっています。でも、SNSに投稿しているのを見つけると、なんだかモヤモヤ。その場を純粋に楽しみたいというより、誰かの「いいね!」が欲しいだけじゃないのって、つい勘繰っちゃうんですよね。友人をそんな視線で見ている自分って、東京を満喫できていない証拠ですよね」

そんな彼女はどこまでも無表情で、どこか元気がないように見える。なんで、みんな東京がいいの? どこがそんなに楽しいの?

東京生活は、就農までの「修行」
何かを生み出している実感を得たい

仕事でも私生活でも、悶々とした東京生活を送る彼女。ここまでの不満を溜めながらもなお、東京で暮らす理由は何なのだろう。

「今の仕事も暮らしも、地元で就農するための修業期間みたいなものなんです。

畑を耕し、種や苗を植え、実をつけたら収穫する。農業には自分で何かを生み出しているという実感がある。本当に尊い仕事だと思います。でも、いまの農業は、見通しが暗い。稼げないので、せっかく若い人が始めても、2,3年で疲弊しちゃう。その現状を変える一つが、マーケティングの視点だと、わたしは思うんです。ただ作るのではなく、だれに対し、何を作るのかを明確にすれば、良い方向に変わるんじゃないのかなって。そのためには、消費者が多く住む東京の考え方や嗜好を知る必要があると思っているんです」

なるほど。形を成さないサービスとくらべて、農業はどこまでもリアルだ。虚無な今を生きる彼女にとっては、理想的でやりがいのある仕事に違いはないのだろう。しかし、彼女のような考えを持つ人は、やはり少数派のような気がする。多くの人は、いつまでも東京で暮らしたいと願っているように思う。

なぜ、人は東京に憧れ、居続けようとするのだろう。

周りと同化する居心地の良さに
依存していないだろうか

「地方に選択肢が少ないという、思い込みのせいだと思います。このままここに住んでいでも、やりたいことなんて見つかりそうにない。でも、東京に行けば見つかるかも。その“かも”に期待する人は多いんじゃないのかな。それに、東京って周りと同化しやすいから、流れるままに暮らしていける。東京に居続ける意思がある人より、流れから逸れるのが怖くって今の暮らしに甘んじる人の方が、多いのかもしれません」

だからこそ、東京で探す「何か」を見つけるには、期限を決めた方がいい。演劇でも、バンド活動でもいい。目的を探すことが目的になってしまうと東京での暮らしは、無為の連続だ。

そう話す彼女の目的は、言わずもがな地元を農業で振興するためのスキルを得ることである。

地方在住者のロールモデルになるのが
わたしの夢

一方で、地方移住者の動向も一昔前と比べて活発だ。Uターン、Jターンをする人も、毎年一定数存在している。目的を持って地方暮らしを選択する人を増やすには、どうしたら良いのだろう。

「まずは地方を知ること。だれかの体験を自分の体験としてトレースするのではなく、その地域の人がどうやって生きているのか、何を生産しているのかを、一日でいいから体感してほしい。『地方には何があるんだろう』と、あえて知ろうとする姿勢が大事なんじゃないかな。

結局のところ、視野が狭い人が東京に行こうが、地方に留まろうが、何も変わらないんです。確かに都会には、いろんなことが詰まっているかもしれない。でも、その“いろんなこと”って、あなたにとって本当に必要なものなの? と、問いたい。多くの人が唱える都会論や地方論が、自分には当てはまらないかも。その気づきがスタートになれば、都会が全てと考える人ばかりじゃなくなると思います」

そう真摯に話す彼女。地元に戻ったらどんな活動をスタートするつもりだろう。

「畑を持つことが最優先ですが、地域を知ってもらうためのタッチポイントをつくっていきたい。マルシェの設営、ECサイトの開設、イベントの企画など、やれることはたくさん。就農体験の拠点づくりまで漕ぎつけられれば、今の職場で培ったこともムダにはならない気がする(笑)。そのあとは、わたし自身が地方で幸せに暮らすロールモデルになって、地方でも幸せに生きていけることを身をもって証明したい。わたしのように東京で学んだことを地元で活かす人が増えるといいな」

彼女のインタビューを終え、ふと思う。自分の夢は何だろう。その夢は、東京にいないと叶えられないのだろうか、と。そこには、自分のアイデンティティーすら揺らいでしまうような本質が見え隠れしている気がして、考えるのが少し怖くなる。

社会の価値観が目まぐるしく変わる現代。「東京」という価値もまた、彼女のような強い信念を持つ人に押され、緩やかながら変わりはじめている。


text : 香川妙美(リベルタ) / Taemi Kagawa

photographer : 延原優樹 / Yuki Nobuhara

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