今の世界基準の音を創造するバンド、yahyelが語るコンセプトとアジェンダ

atamanisyokku

Switch、Balance、88、Ljなど、数々のカルチャーマガジン&フリーペーパーの編集を歴任。国内外のフェスにも数多く参加し、フェスおじさんという愛称のもと、カウンターカルチャーやフェスカルチャーを広めている。

 今年のフジロックの初日。オールナイト・フジとレッド・マーキーのプラネット・グルーヴを残して、ほとんどのステージで音が止まった午前3時。ルーキー・ア・ゴーゴーは、妙な熱気に包まれていた。

ライブを終えたミュージシャンや翌日に控えたているミュージシャンたちが、このステージに登場するyahyel(ヤイエル)を待っている。それだけでも、いかに注目されている存在なのかが窺い知れた。

フジロックのルーキーステージは、古くはASIAN KUNG-FU GENERATIONやサンボマスター、最近ではSuchmosなど、若手バンドの登竜門として知られている。ここから、飛翔していったバンドは少なくない。yahyelは、フジロックをきっかけに、先達とは違った道を歩みはじめるに違いない。そう感じさせてくれる唯一無二の世界観を披露してくれた。

9月末に、CDとしては初のリリースとなる「Once / The Flare」を限定で発表。わずか数日で完売してしまったという。そして11月23日に初のアルバム『Flesh And Blood』がリリースされる。

ベース・ミュージックやダブステップといった、今の世界基準のポップ・ミュージックを表現するバンドがyahyelだ。

yahyelのメンバーは、ボーカルの池貝峻、サンプリングなどを担う篠田ミル、シンセサイザーの杉本亘に、VJの山田健人とドラムの大井一彌が加わった5人。フジロックではVJもステージに立ち、ライブをしていた。

yahyelが生まれたきっかけは、別々のバンドで活動していたものの大学で顔見知りだった池貝と篠田が、大学4年になって音作りをはじめたこと。

篠田「2014年秋に夜な夜なふたりで音を作るようになって。彼(杉本)とも交流があって、世界を狙えるようなバンドをやりたいね、なんて話していたんです。(池貝と)ふたりで作っていた音を聞かせて、こういうボーカルなんだけどうかな?みたいな感じで誘ったんです。そして3人で初めて会ったのが2015年の2月のことでした」

新しい音楽が生まれるという見えない意志が働いていたのか、3人は初めて会った夜に曲を作り上げてしまった。それが今年2月の初リリース作「Midnight Run」だ。

池貝「3人でやってみて、これはいいなと思いましたね」

杉本「池貝とは初対面でしたし、ふたりが作ったデモテープを聴いたときから、こういうボーカルだったら、こういう曲でこういうアレンジが合うだろうなって僕なりにイメージしていて、それを会った日に提案し、ふたりもそれぞれ自分のやりたい音楽を提案して、それが一曲という形になったんです。そのときに3人ならいいバンドになると確信が持てました」

国内とか海外とか
そんな線引きはどうでもいい


篠田「それぞれが聴いてきた音楽の影響もあるんですけど、yahyelのクリエイティブはマーケティング的な視点も大きいですよ。まず世界でやれるというか、自分たちが聴いている対象と同じ場所、同じ世界でやるということ。それと今、僕たちが手にしている能力で何ができるのか。池貝はスモーキーなブルースが歌える。杉本は最先端のトラックを作られるスキームがある。

2013年以降、インディーR&Bみたいなものが流行っていて、『あ、これじゃん』っていう感じで、自分たちの作るサウンドに落ち着いたんです」

日本というフィールドではなく、音作りをはじめた時点から持っていた世界への視点。世界というよりも、むしろ同時代への深い視点と言い換えてもいいかもしれない。3人にとっては、自分たちがいろいろな音楽を聴くのと同じように、時代のエッジを求めている音楽ファンに向けて発信することを根本にしているのだろう。

杉本「バンドが世界に進出していくというよりも、世界で起こっていることをバンドに取り入れることによって、自分たちのいる場所でどう活性化していくかっていうことでしたね。yahyelは、最初から国内とか海外とか、そんな線引きはどうでもよくて。音楽って世界共通というか地球の標準じゃないですか。だれもが楽しめるものですから」

それぞれ、他のバンドで違う音楽をクリエイトしていた3人だけれど、yahyelでは音のイメージを共通させている。3人から出てきたバンドのバックボーンにある音楽として出てきたキーワードが、チェット・フェイカーであり、SBTRKTであり、フジロックの同じ日に出演したジェイムス・ブレイクだった。ポスト・ダブステップを日本というフィールドではなく、世界基準で生み出していくための音の根源が、そこに秘められていたのだろう。

スタジオでの音作りから、ライブという場にも向かっていったyahyel。ライブという表現の中で、新たなメンバーとして加わったのがドラムとVJだった。

篠田「バンドのテーマとしては匿名性ということが大きいんです。ライブをするっていうことは生身の身体をさらけ出すことじゃないですか。どうしても匿名性ではなく、固有の肉体性に目がいってしまう。それを乗り越えなきゃいけないなって。

ライブではVJの映像を僕らの身体にも直接投影するんです。それによって、僕らの肉体は見えない特別なものになる。映像は僕らの肉体になって役割を果たしてくれるのだから、メンバーに絶対に必要だろうと」

完全に人間でもなければ
完全に機械でもない


杉本「ドラムは、あらかじめ音をサンプルとして組み入れて、それを叩くことによってパッドから出している。タイミングはヒューマナイズされているんだけど、出している音は無機質なんです」

池貝「僕らがやりたい表現が成立していれば、何人いようと、そこには制約も何もなくて。仲がいいからみんなでやるっしょ、みたいな感覚ではなく、表現として成立するために必要か不必要かなんです。表現として、打ち込みだけじゃできないものもあって。例えばライブのなかでのバランス。今の段階では5人がいいバランスなんですね」

篠田「yahyelのコンセプトとしては、完全に人間でもなければ、完全に機械でもない。それを表現したいんです」

曲を作るにあたって、何度でも話し合うという。この曲ではどういうことを表現したいのか、この曲にはどういうコンテクストがあってどういう意味づけがあるのか。そんなことをメンバーで話し合い、アイデアを出し合う。そこがメンバーの言う「マーケティング的要素」に違いない。

今年3月。日本でもまだほとんどツアーを行っていないのにもかかわらず、ヨーロッパに向かい、ツアーを行ってきた。

杉本「ちょうど7インチをリリースして、向こうのショップにも置いてもらったんですけど、置いている棚には『JAPAN』というタグがあったんです。その棚にはBo Ningenや坂本慎太郎さん、エレクトロものとかいろいろあって。結局、ジャパンというものにカテゴライズされているんだっていうことに、ちょっと悔しい感情も芽生えて。そこはいつか乗り越えなきゃならない壁なんですよね」

池貝「その視点を、ものすごく共有しているのが、5人のメンバーなんです。日本ってこういうイメージなんだと付与されるもの、ステレオタイプ自体を、内からも外からも否定したいっていうのが、僕らのテーマとしてあって。そして僕らの音楽によって、それをいつか払拭したいと思っています」

9月末にCDとしては初となるシングル「Once / The Flare」を発表したが、瞬時に完売してしまった。そして11月23日に初のアルバム『Fresh And Blood』が発売されるとアナウンスされた。「僕らは一曲一曲を真摯につくっているだけ」というコメントからは、自分たちの音に対する自信も聞こえてくる。

yahyelというバンド名は、思想家のバシャールの言葉に由来する。2015年に地球文明と最初にコンタクトを取る未知の文明を、バシャールはyahyelと呼んだ。

篠田「僕らが活動をはじめたのが2015年。海外の人から見れば、宇宙人がやっているようなイメージを持つかもしれないし、国内でも宇宙人のような存在に見えるかもしれないと思って」

池貝「アジア、もしくは日本というバックグラウンド、アイデンティティを背負って音楽をすることとはどういうことなのか。僕らの音楽にはそれが聴こえてこないから、おかしいと思われてしまう。宇宙人だねって感覚を持たれてしまう。その感覚を皮肉りたいんですよ」

杉本「そもそもアーティストが、タグ付けとかフィルターを意識して創作する必要はない。自然な形で音楽を作る。それが僕らのそもそもの提示の仕方なんです」

篠田「ある種のアジェンダを、バンド名でも提示しているということです」

 

自分たちのアイデンティティを強く意識している。それと同時に「今の時代」をイメージしている。それが話を聞いて残った印象だった。もちろん、音をクリエイトするミュージシャンに限らず、表現者はだれもが自分の存在を追求していることは言うまでもないことだ。アイデンティティとどう向き合っていくのか。

多様な情報が、世界のどこにいても瞬時に受け取ることができる時代。そこで何を取捨選択するか。自分たちの表現として取り入れ、どう提示していくか。今という時代だからこそ、5人が集い、生まれた音。そして誕生したバンドがyahyelなのだろう。

『Flesh and Blood』

yahyel

(Beat Records)

2016.11.23 Release

photographer:七咲友梨 / YURI NANASAKI

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