「吸えないなら構わない」スタイリスト・石川顕が語る喫煙文化とセレクトショップのこと

スタイリストの石川顕さんが手がけた「KRAFT PUNK」なるスペースが、正直すごい。


今年の4月末にニューオープンした新宿のBEAMS JAPAN4階フロアの一部に出現した空間で、POPEYEでも連載を持つ3D造形グループ「ゲルチョップ」に、サコッシュブームの立役者である〈山と道〉、デニムへのこだわりが尋常ではない〈オアスロウ〉などなど。名うてのクリエイターたちを集め、好きなことをやらせて、できあがった作品を陳列、販売しているのだ。

この「KRAFT PUNK」について別メディアで取材した際、石川さんは新宿という街自体が、あらためて面白いのだと語っていた。中目でも池尻でもなく、もちろん渋谷でも原宿でもない。いま、あらためて新宿のどこに惹かれるのか。

今回、取材先に選んだのはBEAMS JAPANから徒歩数分の場所に位置する「珈琲タイムス」。当然、喫煙可。実は、前日にも別件取材を同店で受けていたそう。そうして、大先輩は紫煙を燻らしながら、喫茶店や喫煙文化、セレクトショップ、東京や地方についてで、語ってくれた。

石川顕|Akira Ishikawa
スタイリスト。TOKYO CULTUART by BEAMS相談役。雑誌『POPEYE』やブランド〈マウンテンリサーチ〉などのスタイリングを始め、オリジナルブランド〈ULTRA HEAVY〉を展開するなど、その活動は多岐に渡る。


原宿なんか全然だめだよ。
へんてこなやつがいないでしょ


新宿は、ぼくとか岡本さん(岡本仁。元relax編集長、現ランドスケーププロダクツに所属する編集者)が上京してきたときのまま、変わってないの。

街って、新しいモノが入ってくるわけじゃない、虫食いみたいに。あの虫食いがひとつも目に入らないんだよ。天ぷら屋とか喫茶店とか、ディスクユニオンとか、そういうものしか目に入んない。だから、ぼくとしては、70年代から80年代、二十歳ぐらいのときの印象とまったく変わってなくて。


原宿なんかぜんぜんだめだよ。それこそ、何にも目に入んないもん。まず、へんてこなやつがいないでしょ。新宿にはタイガーマスク(の格好をした人)とか、60歳以上の変なロックの人とか、普通にいるからね。

それがタイムマシーンというか、ずれてないんだよ。だから、新宿のほうが可能性もあって楽しい。喫煙所に行くと、赤いジャージに真っ赤な髪の女の子とかがいるの。昔は、そんな人いっぱいいたんだよ、下駄を履いてる人とか、着物着た若い連中とか。そういうアングラな感じを引きずってるのを、ちょっと気をつけて見ると、絶対に面白いんだよ。

新宿にある店っていうのは
逆に新宿でしかできない店だから


新宿を再発見したのは、偶然なんだよね。去年、オッシュマンズでフジロックについて取材されたんだけど、「俺、嫌いだぜ。ああいうこと。批判していいの?」って聞いたら、「いいですよ」だって(笑)。


そのとき、オッシュマンズ新宿店に9時半集合って言われたんだよ。でも、通勤電車に乗るの嫌じゃん。それで7時ぐらいには新宿に着いてたの。こことか「喫茶西武」は、朝の7時8時ぐらいから開いてるから、ずっと過ごせるなと思ってはいたんだよ。その後に「KRAFT PUNK」を新宿のBEAMS JAPANでやることが本格化して、ぼくの新宿熱が高まったんです。

というのも、工事中は5時間待ちみたいなこともあったりするから、ネットカフェの会員になったのね。そこで何したいわけじゃなくて、横になりたいだけ。で、行ってみると、ネットカフェやサウナとかさ、「えっここ大丈夫?」って感じの場所や人がいっぱいなんだ。それで、新宿ヤバいって気がついた。


ここも近いからよく来てたんだけど、朝8時にタバコ吸えて、モーニングがある喫茶店を5件ぐらいから選べる、それが都会なんですよ。で、スタバとマックしかないところは田舎なんです。

BEAMS JAPANには1階と5階にちゃんとした“クラフト”があるという安心感もあるけど、やっぱり場所だよ。新宿以外で「KRAFT PUNK」はできないし、想像がつかない。

吸えないんだったら別に構わない
でも、吸わないやつが怒るじゃん


今日は、インタビュー中もタバコ吸っていいんだ。この間もここで取材受けたんだけど、ダメだったからね。でもさ、みんな「タバコ吸えなくなって大変でしょ」って言うじゃん。バカ、違う違う! タバコを喫茶店で吸っていいってなったときの感動ったらないんだから。

お店のひとに「タバコいいですか」って言ったときに、「吸えますよ」じゃなくて「えっ? 何言ってるの。当たり前じゃん」っていう。そのときにグッと感動する。こっちも、吸っちゃいけないとこでは吸わないもん。


岡本さんが、あのひと煙草吸わないんだけど、「煙草が似合う店ってあるでしょ」って言うのよ。「ぼくは吸わないから嫌なんだけど、でもそこに煙草は重要なんだよね、景色として」って。俺もそう思うよ。

だから、吸えないんだったら別に構わない。でも、吸わないやつのほうが怒るじゃん。そこでお前が帰れって言うと喧嘩になるんで、「店主に言えよ」って。でも、だいたいギャフンって言わせますけどね、「知るか」って(笑)。

学園祭みたいな、下手なのに
「味だ」っていうのが嫌いなんです


ゲルチョップもそうだけど、みんな、最初にカルチャ―ト(トーキョー カルチャート by ビームス)を始めたときの知名度とは、ぜんぜん違う。有名になってるし、忙しくなってるよね。おいそれと頼めない。まあ、ぼくは頼みますけどね(笑)。

でも、向こうがやる気があったからね。(盛永)省治にしても(アキヒロ)ジンくんにしても「これをやりたい」っていうのがはっきりしてたから、ぼくは、ノーディレクションです。取っ手が4つある「KIKISA」とか、どんなもんでも買い取ります。それに、学園祭みたいな、下手なのに「味だ」っていうのが嫌だから、ある程度経験積んだ人じゃないと。そうすると、友だちで、うまいやつに声をかけることになるんだよね。


「KRAFT PUNK」は、アートショップではないからね。面倒くさいから「アート」って言っちゃうんだけど、ほんとのこと言うと雑貨屋だと思ってるんだよ。前にも言ったけど、カスタムを取り除くと普通のビームスにあるもんだから、全部が。厳かなアートショップとギャラリーは、断然「敵」です。

あと、ビームスのことを気にしてつくってきたら、却下だから。ぬいぐるみを着けた服も、洗濯するから外せるようにしますっていった場合、却下です。「何、洗濯のこと考えてんの」って。主張だから、縫い込むとか、ワッペンを付けてしまうっていうのは。洗濯のことは、買った人が考えればいいんだよ。着なくてもいいわけじゃん。だから、ビームスのこととか、セレクトショップとか、新宿のことも気にしなくていい。それは作り手側の勝手だから。


ただ、意外とすごく難しい宿題だとは、みんな言う。おっかないって。ほんとに好きなもんつくっていいのっていうのがあって。でも、つくり手の人がビームスだったりとか、東京であるとか、そういうことで気負ったりすると、デコピンする感じです。

「絶対売る」っていう気持ちで
つくってたんだよね


最近、セレクトショップが衰退してるのも、好きなものつくってないからだよ。どうしてもつくりたい。売れなくてもいいとか、熱意がないんだよ。もうバカみたいな熱意がないの。だけど、鈴木くん(鈴木修司。BEAMS JAPAN1階「銘品」フロアのディレクションを担当)はやったぜ。だから、えらいなぁと思って。

昔のセレクトショップには、その熱があった感じがする。どうしてもつくりたいとか、うちでやってほしいとか。それは「絶対売るから」っていう気持ちがあったんだよね。

最近の愛情もないコラボとかさ、タイアップみたいなのあるじゃん。ああいうのはクソだなと思うよ。だから売れねぇんだろと思う。で、そいつらが「全然、モノが売れなくて不況です」って言うんだよ。不況は関係ないからね。売れなかったものをつくったお前が悪いっていう話で。その前にちゃんと努力して作ったの? 努力して売るようにしたの? してないんじゃない。


どうしてもアイツにこれをやらしたかったからっていうのが、はっきりしてるかどうか。断然、それだけですよ。

セレクトショップのセレクトとは、そういうことだから。あと、育てるんだよ。コラボの話なんかも、彼らが有名だから持ってくるわけ。そうじゃなくて、ぼくがつくらしてあげて、有名にしてあげたい。ビームスで売るっていうのは、育てるっていうことだから。その分、何年かかっても売る覚悟がこっちにはある。それを言ってあげられる人がいないのが、ちょっとね。

意外と、東京を大事にしてますよ


1年のうち、2ヶ月半か3ヶ月近くは北海道にいる。冬2回帰って、夏に1ヶ月だから、ほぼ3ヶ月。実家だけどね。

でも、北海道に帰ると「東京で暮らすのって大変ですよね」って、よく言われるんだ。土地は高いし、駐車場はねぇし、暑いしって。でも、待って! ぼくらは好きで住んでるだよ。ダメなやつとか、いいやつも全部ひっくるめてさ。そこに地方の差を感じるよ。


東京が好きなんだよ。東京で暮らしたい。で、たまに北海道とか鹿児島とかで、プチ暮らしをしたいだけ。金があったら全箇所に家持つもん。だから、東京は大事よ。東京が基準だもん。

POPEYEをリニューアルするときも、東京のことしか考えちゃダメだよって、彼らに言ったの。東京だけはこうなんだよって言っちゃう。昔のPOPEYEはそうだった気がするよ。いまは、みんな横一線になっちゃうじゃない、ネットがあって、全国で同じものを買えるわけだから。じゃなくて、東京だけすごいっていう本を作ったほうがいいんじゃないってアドバイスはしました。だから、あの雑誌は東京専用だよ。それを見て羨ましいのか、悔しいのか、まったく興味ないのかは読者の勝手だけど。

だって、東京だけの文化だよ、シティボーイって。雑誌もさ、全国で売れようとすると均一化するんだよ。でも、それだと面白くもなんともねぇじゃん。だったら嘘ついちゃえばいいんだよ。東京だけこうなるんだ、とかさ。例えばお寺がブームになるんだって言っても、それは嘘でしょ。でも、そうやってあたらしいブームをでっち上げられるからこそ、雑誌にも力があったんだよね。


地方の話で言うと、北海道の東川町とかね、移住者が増えてることについて、みんなに注意勧告をしている。君らの居場所なくなるよって。東京から田舎に来たやつが長い間住んでローカルだって言い始めるんだけど、ホントのローカルは「俺、ローカルだから」って、言わないでしょ。

だから、ローカリズムって言葉も好きじゃない。おじいちゃんの代から住んで子たちは言ってもいいけど、あとで入ってきたのがローカルだっていうのは、言わないほうがいいよね。ニセコも、ちょっとそういうところがある。

盗聴器を仕掛けたいぐらい。
昼間のファミレスは最高です


正直な話、東京は空襲で全部ゼロにされてるからね。戦前からあるのは建物ぐらいで、文化も全部あたらしく作ったわけだよ。もちろん、コミュニティで守られてるものもありますよ、下町とかには。山手にはまったく無いですよ。まず、ローカルがろくでもなかったりするんだ。世田谷なんて、意外とひどいよ。貧乏な農家だったくせに、急に金持っちゃったりするから。でも、うちの近所(世田谷)のファミレスは、タバコ吸えるし、めっちゃ楽しい。


前に目撃したんだけど、フィリピン人の女の人におじいちゃんが片言の日本語で「アンタ、ソンナコトシタラ、ダメヨ」って、ずっと叱られっぱなし。でも、おじいちゃんもなんにもせずに、「うんうん」って言いながらハンバーグ食ってんの。新手の風俗かなと思ったよ。だって、ずっと叱られてるんだよ、片言で。その後ろでは、詐欺師のおじさんが誰かを引っ掛けようとしてたり、どうやって借金を返すか、兄弟姉妹で話してたり。ひどすぎるんだよ、配役が。

じいちゃん叱られる姿はね、最初はひでぇなと思ったんだよ。何様だよって。でも、そのうちシフトが変わってきて、これはね、たぶん頼んで、金払ってやってもらってるんだろうなって。おじいちゃんが1万円ぐらい払って、1日どこ行ってもずっとフィリピンの人に叱られるみたいな。プレイだよ、絶対。

タバコ吸えるファミレスと喫茶店は、最高ですよ。ほんと、盗聴器を仕掛けたいぐらい。だから、東京、好きなんですよ。


photographer:濱田晋 / SHIN HAMADA

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