任天堂の正式なライセンスを受けるTシャツブランド『THE KING OF GAMES』

リオ五輪の閉会式で、2020年の東京五輪への引き継ぎ式が行われ、マリオに扮した安倍首相が登場し、大いに会場を沸かせたニュースは記憶に新しい。


今回はそんな世界有数のコンテンツであるマリオを生み出した『任天堂』から、正式なライセンスを受け、Tシャツを作っている『EDITMODE』(エディットモード)さんの取材だ。『THE KING OF GAMES』というブランド名で、任天堂のキャラクターがプリントされたTシャツやグッズなどを発表している。

取材依頼のメールをお送りしたところ事務所にお邪魔させていただけるとのことで、京都の烏丸五条へと足を運んだ。閑静な住宅街に、『EDITMODE』と記されたネオン看板のついた家を見つける。ベルを鳴らすと、江南匡晃さんと山中知佳子さんが出迎えてくれた。『EDITMODE』は、このふたりで運営されている。

古民家の玄関を入ってすぐ、会社のロゴ看板と早速マリオがお出迎え。『ガチャガチャ』の機械も置かれている。懐かしさを感じる和風な内装とそれらの調和がとても洒落ている。

「よかったらコーヒーでもどうぞ」と、山中さんが持ってきてくれたコップにはパーマンのプリントが。他にもE.Tやアラレちゃんなど懐かしいキャラクターが記されていた。

キャラクターグッズやおもちゃが視界のいたるところに置かれていることから、心底ゲーム好きなおふたりなのだろうというのが伝わってくる。

たまたま来たお客さんが任天堂の社員さん


インタビューには社長である江南さんが受けてくれた。

まずは、今年で創業14年目となる『EDITMODE』を立ち上げるきっかけから。

「独立する前はアパレルのショップで企画やバイイングを担当していたんです。

そのお店でオリジナルTシャツをデザインするにあたって、スタッフと『どっちがおもろいTシャツを作れるか』というのを競争していたんです。


何を作ろうかなと考えていたときに、たまたま来られたお客さんの胸に『Nintendo』のロゴがプリントされたTシャツを着られていたんです。

僕は任天堂のゲームが昔から好きだったから、それを見たときに『めっちゃかっこええ!』って思って。『これは何ですか?』と聞いてみたんです。

話によると、なんとその人は任天堂の社員さんで『イベントのときに配布されていた限定のTシャツだ』と教えてくれて。

『こういうTシャツを作りたい』と、その人に話してみたんです。すると『面白そうですね』と興味を持ってくれて、その時点で僕は『ああ、もう作れるな』って思ってたんですけど(笑)、実際はそんなに簡単じゃなかったんですよね」


お客さんとしてお店に来ていた任天堂の社員さんは、当時マリオカートなどのゲームを作る部署のディレクターさんだったという。ライセンスの商品については管轄が違うことから、グッズや商品を開発している部署の担当者を紹介してもらい、改めて企画書と任天堂への熱い想いを綴った手紙を送った。

「プレゼンする機会をいただいたんですけど、すぐに断られたんですよ。『任天堂のロゴは、自社で使うのはいいんですけど、他社の方が使うことはできないんです』と言われてしまって。代わりに他のゲームの商品を作りませんか?と、いろいろと資料を見せてくれたんです」


当時、任天堂の方であらかじめ用意されたデザインがあり、そのデザインを使って、筆箱や下敷きなどに商品化されるというのがライセンス商品の通常の手法だった。しかし江南さんが実現したかったのは任天堂のキャラクターを使って自らがデザインして、オリジナルのTシャツを作ること。そこは譲れなかった。


「これから出る新作ゲームの資料を見せていただいたんですけど、イメージと違ったので、返事を濁らせてしまっていたんです。するとその僕の面談に、CMや広告を作っている部署の人も同席してくれていて、その人が『こんなのしたいんちゃうやろ』と代弁してくれて。


接客をしてた時にお客さんのTシャツを参考にしていたりとか、普段こういうデザインしたいなと思ってたことをメモ帳に書いてたんです。そのメモを見せながら、こういうものを作りたいと話したんです。そしたら、『もう一回ちゃんと企画書まとめて持ってきてくれないかな』とチャンスをもらえたんです」


2年の歳月を経て

ついに任天堂のライセンスを獲得


改めて新しいデザインを提案し、任天堂も協力的に稟議にかけてくれたが、すぐに商品化には至らなかった。


「今まで任天堂で、他社がデザインした商品を出すという事例がなかったので、確認しなきゃいけない部署も項目もいっぱいあって。一カ所でもダメなところがあったら修正して送って、というやり取りが2年ほど続きましたね。


今では当たり前のように8bitのマリオの商品が出てたりしますが、僕が8bitのマリオをモチーフにした商品を作りたくて企画を持っていった当時は、『イラストで書かれたマリオが正式なマリオであって、ファミコンのテレビに映るドットのマリオは当時の技術的な問題で忠実にイラストを再現できなかったにすぎない。だからマリオであってマリオじゃない』ということだったんです。


でも折れずに『僕たちはテレビ画面でこのドットのマリオをずっと見てゲームをしてきたので、このマリオを”マリオ”だと認識しているんです』というのを説明して納得してもらうことにとても長い時間がかかったんですよね。要は今まで8bitのキャラクターを商品化したことがなかったので、その”基準”というかルールがなかったために、時間がかかったんだと思います」

そういったやり取りを重ねていくうちにようやくひとつ目の商品ができあがったのが、2002年のこと。その後、アパレルショップから独立した。


「よく『任天堂さんってライセンス受けるの厳しいんでしょう?』といわれるんですけど、初めてライセンスというものを取りにいったんで、僕らは難しかったという感覚がないんですよね。その企画自体がだめになってしまったとしても、また違う企画を出したらいいと考えていたので。今でも、毎回ひとつずつ商品プレゼンして、監修してもらってという段階を踏んでつくっています」

ちなみに『THE KING OF GAMES』で作られるTシャツは、オリジナルの生地作り、プリント、縫製、パッケージの箱もすべて日本の工場で作られている。包装パッケージであるファミコンのカセットのデザインは、通常のファミコンのパッケージを造っていたのと同じ工場で作るというこだわりようだ。


「僕のもの作りのポリシーは、『買った後にも再度うれしいと感じてもらえること』なんです。たとえば『Tシャツを買ったつもりなのに、実はなんかパッケージもイケててもう一個得したと、買ってから気づく』とか。『一粒で二度おいしい』みたいな商品を作りたいなと常々考えているんです。


だからお客さんにもパッケージがファミコンのカセットの箱に入ってるとか、特にあえて宣伝しないですね。ネットで注文して届いたら、箱がファミコンで、Tシャツのタグの見えないとこにマリオがいる、みたいな感じがいい。段ボールも組み立てたら見えないところがあるんですけど、その見えないところにプリントを入れてたりするんです。それも表立って説明しないので、捨てようと思ってつぶしたときに『あ、こんなとこにプリント入ってた』とその時に気づかされる。商品以外にもデザイン的にあしらいがあることに気づくような人たちに、『買ってよかった』と満足してもらえるものを作り続けていけたらいいですね」


ちなみに商品を買うとステッカーがもらえるのだが、これもファミコンのカセットに張られているステッカーと同じサイズになっている。

「ステッカーも発注するたびに色を変えているので、合計で20色くらい出してることになるかな。毎回買ってくれる人に違う色が届くようにしたいんです。


あとサイズも僕らが親しんできたゲームやグッズと同じにしてあるんです。例えばゲームボーイとかに貼れる大きさのステッカーも出しました。『これってもしかして大きさ一緒なんじゃない?』と気づいた人が、ファミコンとかゲームボーイに貼れるっていう楽しみがある。ちなみにスーパーマリオブラザーズ30周年で配布してたステッカーは、ビックリマンシールと同じ大きさにしました(笑)」


すべて日本で生産している商品そのものに対するクオリティはもちろんのこと、それに付随するものにも、いたずらのような楽しい仕掛けが施されているのだ。


ゲームが登場した時の衝撃に
今でも影響を受けている


インタビュー後半、江南さんのゲームコレクションが置かれた地下室があるというので、見せていただくことにした。


「ぐちゃぐちゃなんですけど」と言いながら、防空壕だったというスペースを改装した地下室の扉をあける。恥ずかしそうにしながらも、私たちを中に案内してくれた。

小さなはしごを降りると、まるで秘密基地のような五畳程度のスペースに、さまざまなゲームが雑多に積まれていた。コレクションを見ながら懐かしそうに話を続ける。

「僕が小学校3年のときにファミコンが出たんですけど、僕らの世代が一番テレビゲームというものに影響受けている気がするんですよ。今の子たちって生まれたときから当たり前のようにゲームがあるでしょう。テレビゲームもスマホアプリもポータブルのDSやPS3もある。


でも僕らが小さいときにはテレビゲームはまだなくって。突然テレビゲームという存在が小学生の遊びたい盛りの時期にいきなり現れたときの衝撃たるや、もう(笑)。テレビゲームが登場するまでは野球とかサッカーといったスポーツしか遊んでなかったのに、突然テレビでゲームできるようになるなんて、そりゃあみんな夢中になりますよね」

地下室に置かれてあるゲームは小学生当時に買ったものもあるが、ほとんどは大人になってから買い足したものだという。


「セレクトショップで働く前は、ヴィンテージのデニムとかを販売してるお店にいて、『スターウォーズ』関連のグッズとかアメリカントイも販売していたんですよ。それで最初はフィギュアとおもちゃの両方を買っていたんですけど、フィギュアの場合は、買ったらそれを飾って終わりじゃないですか。でもゲームって買ってからも遊べる。そこに気づいてから集めはじめたんですよね」

コレクションには、ファミコン、ゲーム&ウォッチ、SEGA MARK3など、懐かしいゲームがそろっていた。なかには見たことがないようなゲームもあり、当時を懐かしみながら楽しそうに説明をしてくれたのだった。

ひとしきりコレクションについてのエピソードを聞いたあと、これから挑戦してみたいことについて聞いてみた。


「年に2回ほどお店やギャラリースペースを借りて、自分たちの商品を並べて展示販売を行っているんです。海外の方にもオンラインストアで買っていただくことも多いので、海外のフランスのジャパンエキスポといったイベントでも同じような展示販売をやりたいんですよね。でも今の任天堂との契約では、海外に持って行って販売することはできないんです。


もし、今後その問題をクリアできたら、京都の伝統工芸とマリオなどのキャラクターをコラボした『メイドイン京都』として価値のある商品を作って、海外のお客さんに見てもらいたい。


最初はただただ『Tシャツ作りたいな』というだけではじめたんですけど、身近に伝統工芸に触れられる京都に住んでいるし、今のモノと伝統的なモノの融合したモノを作ってみたいなと思ってるんですよ」


企画立案から商品展開まで2年を費やしたことをまるで当然のように「やりたかったから素直な気持ちのままに伝え続けただけ」と話す江南さんのことだ。きっと海外進出の夢も叶えられるような気がした。


photographer:倉科 直弘 / Naohiro Kurashina


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