ノンノ10月号レビュー「愛が、ふたたび僕たちを引き裂くだろう」


傑作。そう、ノンノ10月号は6月号以来の傑作だ。 


秋口という季節を反映したためか、いつもよりギャグやギミックを少なめとした内省的でシリアスなトーンが基調となった1冊だが、その核となる部分には挑発的でストロングスタイルの問題提起がある。パーソナルかつポリティカルなレベル・マガジンとしての側面にここでは着目したい。


これは夏の狂騒からの揺り戻しなのかもしれない。暑い夏と泡沫の恋が終わり、海は凍てつき、しかし紅葉のように復讐の炎が燃え上がるのだ。 


ページが順番に並ぶことを活かした時間感覚のある台割


まずは目次に目を向けてみよう。「“色っぽボルドー”と“こなれカーキ”」「ワザありカジュアル優子VS.上品スウィート優愛」「上級生の秋色パンツ&下級生の秋素材スカート」と、ここ最近のバックナンバーの中でも多めとなる3つの二者択一の見出しに気付くだろう。これによって読者はページをめくるごとに、無意識に「どちらかを選ぶ」という行為に慣らされていく。


このノンノ10月号に似たレコードを何枚か選ぶとしたら、世界トップレベルのDJであるリッチー・ホウティンが2001年にリリースした『DE9 : Closer To The Edit』は間違いなくそこに入るべき1枚だ。市販のレコードやCDを使い「1曲1曲をいかにつなげていくか」を考えていた従来のDJミックスに対し、楽曲をパーツに分解してデジタルデータとして扱うことで、まるでオリジナル曲を作るようなDJミックスを提示した歴史的名作だ。同作において効果的に使われた手法が、同じモチーフを約1時間のDJミックスにおいて繰り返し使うこと。これによってリスナーは無意識に既視感を覚え、時間感覚が狂い、それと同時にミックス全体に統一感を覚えるようになるのだ。 


ノンノ10月号は、そんな『DE9 : Closer To The Edit』と同じように、無意識に読者の意識に働きかけていく。二者択一は前述のとおりだが、それはトレンドキーワードにも同様だ。


いつもならここで終わり。西野七瀬が演出するエモさのピーク


本作の最初のピークは、西野七瀬がファー小物を取り入れた「七瀬はふわもこ小物LOVER」だが、そこにはきちんと筋道が立てられている。


冒頭の「“色っぽボルドー”と“こなれカーキ”」において季節が秋であることを表明し、本田翼がねこをファッションに取り入れる「翼とねこ。」で「ねこ」と「ファー」をトレンドとしてアピール。「スターモデルがナビ!後期までにイメチェンできるちょっ変えプラン8」ではすでに西野七瀬がファークラッチを持っている。


そこまでの約60ページの準備を経て、西野七瀬が秋モードのファーアイテムを身につけまくり、ふわもこサンダルで子猫みたいなキュートさを爆発させるこの4ページは、まごうことなき今号のキラーコンテンツだろう。 


さらにその4ページ後には、西野七瀬が上品な秋の装いに観を包む「マジェスティックレゴンのレディな『秋色ワントーン』が好き♡」という見開きが待っている。


 「やはり今回もノンノ編集部は西野七瀬をピークに持ってきたか」


ここはまだヴァース。ピークはここじゃない。

…しかし、勘の良い読者はここで気付くかもしれない。


「紙質が…」と。 


そう、これまでのノンノが得意としてきた、それまでの雰囲気をガラリと変え、エモ―ショナルを一気に爆発させるための、光沢紙からマット紙への紙の変化をまだ行っていないのだ。 


その答えは数ページをペーっとめくった先にある。 


あいつのより速いクルマ、あの娘よりも若い女の子

「1女優華のレベルアップ着回し20days」。 


これこそが今回ノンノ編集部が仕掛けてきた2つ目のピークであり「序」に対する「破」なのだ


これまで紹介してきたトレンドアイテムを次々と身にまとう鈴木優華✕20。


一体どうすればいいんだという子猫のような顔と、誰もが守りたくなるような細さとすらりと伸びる四肢。


そのさまは、西野七瀬の儚さと齋藤飛鳥の小顔と愛くるしさを混ぜたような、乃木坂46四期生そのものではないだろうか(と近所のパン屋で小学生の女の子が言ってました)。


鈴木優華に気持ちを揺らされたままペーっと数ページをめくると、再びダメ押し。


「きれいめブルゾン・こなれGジャン・フェミニンライダースに着替えよう」における鈴木優華の破壊力に「西野七瀬の次」を見ずにいられなくなるのだ(と近所の交番で巡査長が言ってました)。 


はじめから無かったんだよ


単刀直入に言おう。ここで読者は、西野七瀬を捨て、鈴木優華に行く未来を想像するのだ。そう、二者択一、である。 


だがノンノ編集部は「序」「破」に続く「急」を読者に突きつける。


「秋コスメで『残暑顔→今っぽ顔』に一番乗り!」での、横たわりこちらを見つめる西野七瀬の見開きである。 



「もう私のことは守ってくれないんだ…」 


揺れる気持ちに気付きながら、しかしそれに泣いたりはしない。無理にこちらを引き止めたりはしない。しかし切なさは隠せない、そんな表情に読者は心をさらに揺らす。鈴木優華に気持ちを揺らがせてしまった自分に対し、罪の念を抱く。


そう、このノンノ10月号が描いたものは「Love Will Tear Us Apart」。「愛こそが僕たちを引き裂く」という永遠の命題である。いわずもがな、1980年に22歳の若さで自殺したイギリス人ミュージシャン、イアン・カーティスが率いたジョイ・ディヴィジョンの代表曲が描いたテーマである。


イアン・カーティスの自殺の原因のひとつとして、妻がいながら他の女性に揺らいだ「不倫」があることはよく知られている。「Love Will Tear Us Apart」とは、まさしくそうした彼の気持ちそのものだろう。


ノンノ編集部はそうしたふがいない男たちに、(もしかしたら)復讐の炎を燃え上がらせ、NOを突きつけたのかもしれない。それこそが、この10月号の正体である。暑い夏と泡沫の恋が終わり、海は凍てつき、しかし紅葉のように(中略)。


だが、何よりも空恐ろしいのは、この雑誌が手に取った男性読者に罪悪感や後悔の念を抱かせることではない。


二者択一の罪悪感を抱かせ、悩ませ、踊らせたうえで、気付かせるのだ。


「最初から選ぶ権利なんかなかったんだ」と。


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