2台のターンテーブルと、DJミキサー。レコードの上に針を乗せて前後に擦ると、独特のノイズが鳴る。もう片方のターンテーブルでは、いい感じのビートをかけてみよう。ヒップホップやベースミュージック、気分を高めてくれる音がいい。ビートに合わせてレコードを擦ると、ビートとビート、ノイズとノイズが混ざり合って、新しい音楽が聴こえてくるだろう。
自由自在にレコードの音を操るターンテーブリストたちにとって、2台のターンテーブルとDJミキサーは、単に音楽をかける道具ではない。それはあたかもギターやピアノのような楽器として存在している。
年に一度、ターンテーブリストたちは、ロンドンで行われる「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS」の舞台を目指す。独創的なビートとノイズを奏でる、世界一のプレイヤーを決める大会だ。30年以上も続くDMCでは、これまでに日本人のチャンピオンが多数誕生している。2002年にはDJ KENTAROが日本人で初のチャンピオンとなり、その時に獲得したハイスコアは未だに破られていない。その10年後、2012年にはDJ IZOHが世界一に。また、バトル部門では2004年にDJ AKAKABE、2006年にDJ COMAが、チーム部門ではDJ HI-CとDJ YASAから成るKireekが、2007年から2011年まで5連覇という快挙を成し遂げている。
日本のターンテーブリストたちは侍のごとく、世界の強豪を斬り倒してきたのだ。
今年も、「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS」に送り出す日本代表のプレイヤーを決めるための「DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS」が、G-SHOCKのサポートの元、8月27日に渋谷WOMBで行われた。当日は宇川直宏が主宰するライブストリーミングサイト「DOMMUNE」でも中継が行われ、ソーシャルメディアのタイムライン上でも盛り上がりを見せていたので、リアルタイムで目にした人も多いかと思う。
全国から凄腕のプレイヤーが集結した、ドラマティックな一日の様子をレポートしていこう。
決勝では選曲、テクニック、お客さんの興奮も最高潮に。声ネタやトリックで挑発しまくるDJ FUMMYと、ヒップホップクラシックやボディトリックでフロアを盛り上げ観客を味方に付けるDJ NORIHITO。お客さんの声も判定のポイントになるのだが、両者に対してはち切れんばかりの歓声が上がる。ジャッジの結果、DJ FUMMYが勝利し、世界の舞台に進出することが決定。
バトル部門終了後には、2007年の世界チャンピオンDJ Rafikがによるパフォーマンスが始まった。Native InstrumentsのMaschineを織り交ぜたライブプレイでは、まさに世界一な高速テクニックを魅せる。これから始まるシングル部門向けて、しばし耳のチューニングだ。
2番手は北海道代表のGRANDMASTER SASAKI。グルーヴィーで疾走感のあるビートと技で、迫力のルーティンを披露した。
ダブステップやドラムンベースの爆音に、スクラッチやジャグリングの技で、華やかなパフォーマンスを魅せた関西2位のDJ SEIGO。
DMCでは、ターンテーブルやミキサーなどの機材のコンディションが命となる。Technics SH-EX1200、 Native Instruments Traktor Kontrol Z2、Rane Sixty-Two、Pioneer DJM-S9が指定のミキサーだが、プレイヤーによって使用機材は異なる。転換の短い時間で、機材を知り尽くした技術者たちがセッティングを行うのだが、彼らの働きがなければ大会は進行できなかっただろう。
遡ること3年前の2012年には、DMC JAPANが開催されないという自体に陥った。その年の世界大会には、前年のファイナリストだったDJ IZOHが挑み、見事に世界チャンピオンの座を獲得したのだ。それをきっかけに、ターンテーブリストや機材メーカー、同シーンを愛してやまない面々が手を取り合い、組織を再編成。2013年からシングル部門のみ敢行するという形で復活を果たした。2015年はクラウドファンディングを駆使した資金集めにも挑戦。このようなステップを踏んで、2016年は晴れてバトル部門も復活。運営チームの努力が実って、次世代のプレイヤーが世界へ巣立つという素晴らしい光景が見られたのは感動的だった。
プレイヤーと運営チーム、スタッフとスポンサー、そしてお客さんによるターンテーブリズムに対する強い思いで成り立っていることを感じた2016年のDMC JAPAN。先人たちの姿を見ながら、ターンテーブルで遊ぶことにどっぷり浸かり、日本一となったDJ YUTOとDJ FUMMYのインタビューを、追って公開していきたい。
photography : 下城英悟 / Eigo Shimojo
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