「Stay Hungry, Stay Foolish」を地でいくMONKEY TIMERS

1Kのマンションで共同生活

MONKEY TIMERSの「ALABAMA」がヤバい。ディスコティックなシンセと生音をサンプリングして組み上げたこの曲は、フュージョンみたいだし、ディープハウスみたいでもある。あんまりハウスに明るくない僕のようなやつが聴いたって、「ALABAMA」がイケてるのは分かる。

Take 俺らはバンタン(デザイン研究所)のメンズ学科の第一期生なんです。数年でなくなっちゃったけど。

Hisashi ストリートファッションデザイン科という浅はかすぎる学科名(笑)。クラスには40人いたんだけど、Takeは当時唯一ウマの合う存在でした。

MONKEY TIMERSはHisashiとTakeによるDJコンビ。専門学校で出会った2人は卒業後、就職した先でダンスミュージックに魅了される。Hisashiはヘッド・ポーター、TakeはBALへ。そしてHisashiの1KのマンションにTakeが転がり込んだことで、MONKEY TIMERSが産声をあげる。

Take 俺が引っ越さなきゃいけなくなったんだけど、それがちょうど家賃設定の高い4月だったんですよ。当時は今よりも金がなかったし、できるだけいい条件で引っ越ししたかったから、相場が下がるまで半年間くらいHisashiのマンションに居候させてもらったんです。

Hisashi 僕はまさにこの中目黒に住んでたんです。いろは寿司のすぐ近く。ここでも本当によく飲んだよね。Takeは僕の1Kの部屋にベッド持って来たんですよ(笑)。

Take Hisashiのターンテーブルを挟んで、俺がキッチン側でHisashiが奥っていう。でもそれが生まれて初めてターンテーブルを気軽に触れられる環境だったんです。DJ的なことをするようになったのはそこからですね。

Hisashi あの頃はよくミックスCDを聴いてたよね。

Take 俺がRub N TagとかDJ HarveyのミックスCDを聴いてるとHisashiが反応したり、Hisashiが(藤原)ヒロシさんのをかけると俺が「ヤバいね」ってなったり。音楽を良いと思う感覚が似てるんですよ。

Hisashi それはあるね。俺もTakeもたまたま1枚しかレコードを買わなかった月があったんですけど、それが偶然同じレコードだったこともあったし(笑)。

Take しかも超マイナーなやつだったのにね(笑)。

目的化したアンダーグラウンドなんてダサい

ふたりにDJ Harveyと藤原ヒロシの共通点について尋ねると「アンダーグラウンドとオーバーグラウンドのバランスの取り方が絶妙」という答えが返ってきた。これはMONKEY TIMERSの活動スタイルにも言えることだ。ファッションシーンに身を置きながら、アンダーグラウンドなクラブシーンを牽引している。

Take でもMONKEY TIMERSのお客さんは、俺がBALのスタッフをやってるってことを知らない人もいますよ。

Hisashi 僕ら、自分たちがファッション的な部分についてはもう謳ってないんですよ。もちろんMONKEY TIMERSとしての活動がそういうファッションシーンの人とリンクしたらいいなとは思ってます。ちょっと極端かもしれないですけど、僕は僕らのイベントに来る女性にはヒールを履いてきてほしいと思ってるんです。ちょっと特別な場所に来る感覚を持ってもらえるとうれしいというか。でもそういうのって僕たちが言うものでもないですからね。

Take 僕らがいるシーンで、外タレ以外でお客さんを呼べるDJって石野卓球さんとかDJ NOBUさんとか数えるくらいしかいないんですよ。あとクラブに若いお客さんが少なくなった気がします。そもそも僕たちのシーンに憧れてる若いDJが少ないんです。いないことはないんだけど、ほとんどの子はアンダーグラウンドで活動することに魅力を感じちゃってて。目的化してるというか。

Hisashi 自分の音楽がわかる友達の前だけでDJをすることがカッコいいと思ってるのは大間違いだよ。

Take 俺たちは2006年くらいから自分たちがカッコいいと思うことをコツコツと地道にやってきて、今は大バコにも呼ばれるようになった。大バコのパーティは必ずしも俺らのスタイルにマッチするものではないかもしれないけど、僕らは常に前のDJよりも盛り上げてやるって思いでやってます。結果を残してひとりでも多くの人がまた来てくれるようになればと。だったら1000人規模のお客さんを相手にDJした方が反応してくれる可能性は高くなるなって。向上心のないアンダーグラウンドなんて大嫌いです。どんなに小さいハコのパーティだって、常に「これを野外イベントに成長させたい」くらいの気持ちでやってる。

Hisashi 僕らはすごい負けず嫌いなんで。そういう意味でも僕たちみたいなスタイルでやってる下の世代ってあまりいない。東京が盛り上がってないと熱が地方に伝播していかないから、そういう意味での責任は常に感じていますね。

Take でもこういうこと下の子に言うと、次から電話が繋がらなくなっちゃうんです(笑)。俺らも最初は「俺らに付いてこい」みたいな感じでやってたんですよ。でもあるとき、自分たちがいつも同じお客さんの前でやってるってことに気付いちゃったんです。同じお客さん、いつもの友達。「わー」って盛り上がって、ギャラは酒代で飛びました、みたいな。そこに限界を感じてしまった。

Hisashi 僕らは常に上を目指していきたいんですよ。もちろん小バコの良さも知ってるけど、大バコでやるDJは本当に気持ちいい。そういうところで僕らみたいな音楽をやるカッコよさというのもあると思うんです。

DJとして結果を示し続けていく

正直、最初にこのインタビューを企画したとき、「ファッションと音楽の最適な距離感」みたいなことを訊こうと思っていた。だけど蓋を開けてみたら、(読んだことないけど)まるで「バンドやろうぜ!」のインタビューみたいな、ハードコアな音楽愛と初期衝動に満ちた展開となった。彼らが最初にリリースしたアナログシングルのタイトルは「MONK」だ。求道者とか、そんな意味。ここまで話を聞けばわかる通り、彼らはDJのMONKなのだ。

Take 本当に最近はいろんなパーティに呼んでもらえるようになって、わかったことがあるんですよ。それはお客さんがいればなんとかなるってこと。

Hisashi DJとして結果を示し続けていくっていう。

Take それを出さない感じもかっこいいでしょ(笑)。俺らがDJを始めたのが2006年で、ディスコ・ダブのブームが来たのは2000年。つまり俺らは一度もブームの恩恵を受けてないんですよ(笑)。しかも東京ってブームの流れが早いから、時々で流行ってるような音楽、今だったらEDMとかトラップとかを取り入れようか悩んだ時期もあったんです。でもクラブミュージックって必ずどこかリバイバルするものだから、その時まで自分たちの好きなことは曲げないでやり続けてようと決めたんです。


ということは、曲作りしてるのもMONKEY TIMERSがワンランク上に行くため?

Take そうです。俺らってどこのレーベルにも所属してないけど、曲作ったらがっつりPVとか撮るんです。そういう費用って、自分たちが働いたお金から出してるんですよ。こういう音楽でそんなことやってる人たちいなかったでしょ? 毎回めちゃめちゃ赤字(笑)。俺らのレコードってそこそこ売れてる方なんですけど、それでも利益なんてほんの少しなんです。マスタリングとリミックスお願いしたら、もう……。

Hisashi 基本、全部赤字です。

Take PVだって知り合いばっかり頼んで超安くしてもらってるけど、それでもウン十万円はかかってるんです。


MONKEY TIMERSってすごいD.I.Y.なんだね!

Hisashi でもそれがかっこいいでしょ(笑)。


photograph : WataruNishida(WATAROCK)

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