来年のフジロックが楽しみだ!
苗場から帰るとき、そんな気分になったフジはひさしぶりだったかもしれない。終わってひと月ほどが経って少しは冷静になって振り返ってみたけれど、その気分は変わらない。
長年フジロックに行ってるし、多くのフジロッカーにとってと同様に、自分にとってフジロックが特別な空間なのは確かだ。でもここ数年、なんとなくテンションが落ちてきてたのも否定できない。かつてのフジロックには、毎年新しいサムシングがあったし、毎年のように新しい刺激があった……。でもここ数年、それを感じなくなってしまったりもしてた。
フジロックが今年で終わる……そんな噂も耳にしたし、ここ数年のフジロックのテンションには、その噂にリアリティを持たせてもいた。たとえ終わらなくても、来年以降はシュリンクしていくんじゃないだろうか? 20周年のフジロックは、そんな終わりの始まりになるんじゃないか!? ヘッドライナーにシガー・ロスやレッチリがラインナップされた豪華な布陣は、消える前の最後の輝きにすら思えた。
ところが、そんな悪い予感は覆された。20周年のフジロックは、素晴らしかった。それも近年稀に見るほどに。
ここ数年のフジロックは、客数の多い少ないはともかく、リピーターに支えられていたのは間違いないだろう。一度行ったらまた行きたくなることこそ、その魅力の表れとはいえ、新しい客を呼び込みにくくなっていたのもまた確か。かつてのフジロックには毎年のように新しい客層が来ていたのだが、ここ数年、それを感じることはなかった。
だが、今年は違った。服装や装備をみても野外フェス慣れしてないであろう客が少なからずいた。キャンプサイトの相談所にいると、「初めて来たんですけど……」と、初々しい質問を投げかけてくる若者が何組も訪れていた。
こんなフジロックは何年ぶりだろう。
そう、今年のフジロックには、新しいサムシングがたくさんあったのだ。
そんな新しいサムシングを象徴するライブが、初日の金曜日の深夜にあった。
シガー・ロスのあまりに世界観の完成された壮大なライヴが終わり、多くのオーディエンスが宿へと引き上げた27:30。新人発掘ステージのルーキー・ア・ゴーゴーに、数多くの音楽業界関係者と若いオーディエンスが集まっていた。
ステージに現れたのは、yahyel(ヤイエル)。昨年結成されたばかりの日本のトリオバンドで、平均年齢はなんと23歳。今年の初めに行われたヨーロッパツアーが評判を呼んだこともあってか、深夜のルーキーステージとは思えない期待感が満ちていた。
そのステージも大したもの。音楽的に共通する点も多いジェームス・ブレイクやシガー・ロスを目にしたばかりにもかかわらず、いや、だからこそ、その世界標準な音楽に感嘆させられた。VJもステージに上がり、バンドの一員として演出するビジュアル面まで含めて大したもの。日本の音楽シーンに新しいタレントが登場したのを感じさせた。
そのyahyelをいち早く見出し、最初のレコードリリースを行ったHOT BUTTERED RECORDから新曲をリリースしたばかりの2人組が、翌土曜日のジプシーアヴァロンに出演した。
jan and naomi(ヤン・アンド・ナオミ)なるデュオで、こちらもフジロック初出演。
ノイジーなサウンドと複雑なリズムにのせた美しいメロディーがなんとも気持ちいい。その気持ち良さは自然の中で聴くと倍増される。今後、各地のフェスに引っ張りだこになるかもしれない。
jan and naomiをはじめ、例年以上に注目の出演者が多かったジプシーアヴァロンで、3日間で最大の盛り上がりだったと言われたのが、BimBamBoon(ビンバンブーン)。
こちらも日本のバンドで、女性ばかりの5人組。トラディショナルなR&Bやファンクをベースにしたインストバンドながら、メンバーがいずれも個性的で、オルタナティブなサウンドを奏でる。
それもそのはずで、プロデューサーは、S-KEN。80年代に日本に最初にニューウェーブを持ち込んだひとりで、その後はプロデューサーとして活躍。クラムボンやスーパーバタードックを見出したプロデューサーとしても知られている。そんなS-KENが惚れ込んでいるバンドがこのビンバンブーンなのだとか。
ちなみに、リーダーのドラマー、山口美代子は、セッションドラマーとして高名。有名バンドのライブやレコーディングに参加してるキャリアを持つ。一方でフロントマンのひとり、サックスの前田サラは平成生まれ。アイドルさながらのルックスとは対照的なハードなプレイをする。その点でも注目されそうだ。
日本の新世代バンドばかり言及したが、海外アーティストの新世代にも、もちろん注目株が少なくなかった。
たとえば、先のビンバンブーンに続いて、ジプシーアヴァロンのステージに登場したKodäma。
エレクトニックなソウルという、今日的な音楽を奏でるパリ在住の2人組。キーボードのキアラが日本とアフリカのハーフということもあってか、アフロミュージックや日本のポップスの影響も感じられるインターナショナル感が新しい。ヨーロッパではすでに評価も高いとの話で、数年後には大きなステージにて帰ってくるかもしれない。
(C)Masanori Naruse
そして、本年度のフジロックでベストアクトの呼び声が高いのが、Con Brio(コンブリオ)。
今年ファーストアルバムが発売されたばかりの新鋭ファンクバンド。フィールドオブヘブンでのライブだけでなく、前夜祭や深夜のクリスタルパレスでのライブも大盛り上がりだったそうで、今年のフジの裏主役的な存在に。
ベテラン揃いで腕利きのメンバーが凄まじい演奏をする前で歌うボーカリスト、ジーク・マッカーターは、23歳。日本で言えば彼も平成生まれ。そのソウルフルな歌声とカリスマ性は、数年後にはスーパースターになりそうだと感じさせた。
ちなみに、フジでのライブが高評価だった表れだろう。11月には再来日しての単独公演が早くも決定。フジのライブを目撃した者はもちろん、見逃したブラックミュージックファンも必見だろう。
もちろん、ベックやシガー・ロスといったヘッドライナーも期待に削ぐわぬライヴだったし、ウイルコやロバート・グラスパーといったバンドも素晴らしかったし、アーネスト・ラングリンのような大ベテランのライブの感動は、フジロックでしか味わえないものだった。ディスクロージャーやカマシ・ワシントン、バトルズ、スクエアプッシャーこそがベストアクトだったという話も耳にする。2日目の夜、EGO-WRAPPIN'の中納良恵がジャズオーケストラをバックに歌った「雨あがりの夜空に」は、長らくフジを体験してきた者なら涙せずにはいられなかっただろう。
そう、フジロックはちゃんとその歴史とポピュラーミュージックの過去をリスペクトする場でもあるのだ。
しかし、日曜日の夜に、とっても印象的なシーンを見かけた。メインのグリーンのステージでレッド・ホット・チリ・ペッパーズがヒット曲を連発するなか、隣の小さな苗場食堂にそれはあった。
フジロックにとってレッチリは特別なのだろう。第1回のフジロックにおける伝説的なステージ、あのレッチリがあったから、今もフジロックは続いているのかもしれないのだから。それゆえか、今回のレッチリは特別扱い。同じ時間帯に、ライブがないようにタイムテーブルが作られていた。
そんななか、唯一同時間帯に行われてたのが、苗場食堂のMCみそしるとDJごはんだったのだ。20周年のレッチリというアニバーサリー的なライブを見ずに苗場食堂に!? どんな客がそこにいるのだろうか? そんな興味もあって、我慢しきれなくなってトイレに行ったついでに近づいてみると……そのスペースは熱に溢れていた! 小さなスペースゆえ100人か200人くらいなものであろう。でも、そこには、レッド・ホット・チリ・ペッパーズという名にも、フジロックの伝説にも興味のない若いファンが集っていた。メインのグリーンステージ以上の熱を持って。いい光景だった。その様子を目にしたとき、フジロックに新しい風が吹いてきていることを強く感じさせられた。
20周年のフジロックは、たしかに、その歴史を振り返るアニバーサリーな3日間となった。と同時に、フジロックの新しい時代がスタートしたことを感じさせるエポックな回でもあった。
2017年のフジロックは、7月28日(金)からの3日間開催されることが発表された。きっと2017年のフジでは、また新しいサムシングに出会えるに違いない。まだフジロックに行ったことがないというあなたも、2017年はぜひ足を運んでほしい。
もう一度言う、来年のフジロックが楽しみだ!
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