容姿…その永遠の課題に傷つきながらも彼女がつかみたい未来とは

taemikagawa

会社員を経て、2013年よりフリーランス。前職の経験を生かし、PRプランナー、ライターとして活動。山口県出身。
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「もっと美しく生まれたかった」。

誰もが一度は抱く感情ではないだろうか。いつも隣にいる友人のように、テレビで見かけるあの俳優のように。身近な人であってもなくても、瞬間的に、そして心の奥で恒常的にくすぶるこの思いは、どこに追いやればよいものなのか。なぜなら容姿は、生まれながらのものなのだから。

今回は、この容姿により、幼少から長きにわたって傷つきながらも、そこから立ち上がろうと行動を起こした「彼女」の話。現在、24歳。今年4月、通っている近畿地方の大学を休学して上京。現在、複数の企業でインターンをしながら、自身が立ち上げたビジネスの足掛かりを東京でつくるべく奮闘している。

見た目が悪くてイジメを受けた日々


「ひたいの真ん中、分かります? この傷。小学一年のとき、クラスの男の子に竹馬を振り落とされたんです。理由は、見た目が悪いから。当時は太ってもいました。

いじめは中学でも続き、友だちは一人もできませんでした。大学生になってからも友人関係でつまずいてしまって。自分に無いものを持っている友人を見ると、羨ましさよりも妬ましさが勝ってしまうんですよね。性格は卑屈です。自分に自信を持てずにいます」

淡々と話しはじめた目の前の彼女は、そんな衝撃的なエピソードとは遥か遠い場所にいるような凛とした佇まいだ。片腕で包み込めるんじゃないかと思うほど華奢なウエストと、涼しげな目元。アジアンビューティーという言葉がしっくりとくる。

「キラキラした男性が苦手、好きになれない」


「そういった過去があるからか、キラキラした男性が苦手です。人から見られることを常に意識しているような人は、絶対に好きになれません」

顔を歪めながら吐き出すその言葉は、憎さよりも憂えが強い。

「女性を見て、『かわいい』とか『キモい』とか決めるのって、ほとんどが男性なんですよね。男の人って容姿に恵まれていなくても、すっごくきれいな彼女がいたりするじゃないですか。逆にイケメンがブスを連れているイメージって、ないですよね? 男性は女性の容姿に対し、すごくシビアな気がします。自分の容姿が恵まれていることを分かっている人ほど、その傾向は強いんじゃないのかな」

―これまでに男性を好きになったことは?

「ありますよ。でも、『どうせ、わたしなんて』という言葉がつい浮かんでしまって。好きな人ができるたび、諦めるために告白して終わらせています。だから、これまで彼がいたことはないですし、いまはその先の結婚を考えることもありません。子どもも欲しくないです。自分みたいな目に遭ったらって考えると、たまらなくなるんで」

そんな彼女が一転、モデルエージェントを運営


そう話す彼女が、今最も力を入れているのは、自身が立ち上げたビジネスを軌道に乗せることだ。厳格な両親は、大学をちゃんと卒業し、確かな職に就くことを願っているという。しかし、1年という猶予をなんとか認めてもらい、東京に出た。彼女が一心に情熱を注ぐ、そのビジネスとは一体。

「男性限定のモデルエージェントを運営しています。学生イベントでファッションショーを手がけたことがあるのですが、そのとき男性だけのショーは、いまだ成立していない印象を受けました。調べてみると、メンズアパレル市場は、レディースと比べると規模が小さく、そのぶん質も値段も高くならざるをえない。そのため、裾野が広がりにくく、メンズモデル市場も活性化しているとはいえません。とはいえ、世の中の半分は男性なので、そこを掘り起こすことにビジネスチャンスがあると思っています」

彼女曰く、メンズモデル市場は「挑戦のしがいのある分野」なのだ。

「ニーズは感じています。その糸口をしっかりつかむべく、東京でチャンスをねらっています」

"男性の価値観"を変えることが目標


目標を生き生きと語る彼女の一方、聞き手のわたしは、捕まえた魚が掌からぬるりと逃げていくような感覚を覚えた。しかし、彼女はそのまま話を続ける。

「所属するモデルは、ブライダルのイメージ動画やメンズファッション誌、CM等でも活躍しています。カメラ映えのするモデルばかりなので、クライアントのニーズに合わせてセッティングできれば、絶対に良い仕事になると思うんですけれど」

どんどん膨らむ違和感。これは、何なのか。

気付けば、整理しきれないその言葉そのままを、とっさに彼女にぶつけていた。

―子ども時代、容姿のことでクラスの男子にいじめられ、そのせいで男性不信になったあなたは今、キラキラした美青年をモデルとして抱え、ビジネスにしているんですよね。つまり、見た目のせいで、いじめの対象に選ばれたあなたが、仕事の対象に男性を選んでいる。自分がしていることに矛盾を感じたりはしませんか。

質問の途中で意図を汲み取った彼女は、はっとした表情のあと訥々と答えはじめた。

「……確かにそうですよね。容姿で人を選んでいることの根本は近いと思います」

でも、それは矛盾ではないという。

「わたし、女性のことを容姿で判断するような男性の価値観を変えたいんです。そのためにも自分が主導になって彼らのビジネスをつくることで、彼らにとって自分がなくてはならない存在になりたい。これは、あのころいじめに遭っていた自分に報いることのできる方法であり、自己実現でもあるんです。だからこそ、早くビジネスを軌道に乗せ、容姿云々で人を判断するのは間違っていることを証明したいんです」

メディア自体が、まず多様性を認めること


まっすぐな瞳で一心に話す彼女。心ない男子たちに、少女時代を黒く塗りつぶされながらも、男性と理解しあえる関係をつくろうとひたむきに取り組む姿に、思わず、「あなたは優しい人なんですね」という言葉がこぼれた。彼女はキョトンとした表情を見せたあと、「そうなのかなあ」と、はにかみながら俯く。

富や名声よりも彼らからの信頼が得たい。それは、彼女の悲願でもあるのだろう。もっと生々しい欲はないのだろうか。あまりにもささやか過ぎて、ついそんなことを思ってしまう。

質問を続ける。

―モデル事務所は、ずっと続けていくの?

「そうですね。幸せになりたいという、わたしの夢を叶える手段でもあるので」

―モデル事務所が、あなたの幸せにつながるの?

「はい。見た目で判断されない人になれるよう努力をすれば、きっとこの見た目に生まれてよかったと思える日が来ると信じています。でも、これを証明するには、自分が成功した立場になる必要があると思っているんです。そのためには、モデルエージェントをビジネスとして成立させなければ。でも、全然ストイックじゃないんですよ。少し生き急いでいるくらい(笑)。

わたし、過去を引きずって鬱々していたときは何をしていても楽しくありませんでした。でも今は、仲間と一緒に打ち込めることが見つかって、辛かった頃に過ぎていった時間を取り戻すかのように過ごしています。今どこかで、昔の自分のように悩んでいる人がいるのなら、諦めずに頑張ってほしい。そう心から言えるように、わたしはわたしで、今しなければならないことと向き合っているんです」

20代半ばの女性らしい、はつらつとした表情を見せはじめた彼女。容姿が挫折のきっかけにならないためには、どんな世の中にならなければいけないと考えているのだろうか。

「一つは、今とは逆のメディアの力が必要じゃないのかな。コンプレックスは、誰かを持ち上げ、称賛する裏側で生まれると思っています。そして、メディアは一つの情報を追随する傾向が少なからずともあると思うので、大きな影響力を持つメディア自体が、まず多様性を認め、そこを発信していくようになれば、前からあるものに新たな価値観が加わり、みんないいよねっていう世の中になっていくんじゃないかと。そうなれば、人々が容姿に気を捉われること自体が希薄化していくと思います」

過去の体験を話していたときとは違い、熱のこもった言葉を聞かせてくれた。

人生を左右する「容姿」との決着とは


「今でも『美=悪』だと思っています。その延長なのか、反動なのかは、自分でも分かりませんが、『今すぐにでも整形したい』『美人と顔を取り換えたい』。そう思うときもあります」

最後に見せてくれた、心の奥底にある本音。『美=悪』のままで終わらせたくない思いも一緒に覗けて見えた気がした。


たびたび社会で話題になる「容姿」について。

彼女は言う。傍から見れば人がうらやむ完璧な容姿の持ち主でも、必ず体のどこかにコンプレックスを持っているし、外見だけでちやほやして内面を見ようともしない世の中には、釈然としない気持ちにもなると。

一方、社会は相変わらず美女を持ち上げ、企業は顔採用を行い、金持ちは美女との結婚を求める。これらを、いかにもというイメージに仕立てるメディア。そして、それを目にする私たちは、今日も入念にメイクをして、流行の服をまとう。

美醜は少なからず人生を左右している。生まれながらに平等ではない、このことが現実とするならば、この容姿というものと私たちはどう向き合っていけばいいのだろう。

彼女の生きざまは、この課題に対する一つの答えを示してくれた。


text : 香川 妙美(リベルタ) / Taemi Kagawa

photographer : 榊 水麗 / Mirei Sakaki

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