サマソニ直前 短期集中ゼミ②「この夏、日本でマイケル・ジャクソンが復活するの知ってます?」

夏フェス・シーズンも佳境。世間では、いまだたいして観る必要もない日本のポピュリズム・ロック・フェスが隆盛です。しかし、〈フジロック〉土曜日のヘッドライナーを務め、全盛期以来の理想的なセットリストと熱演によって完全復活を遂げたベックに象徴されるように、やはり欧米のポップ・アクトたちがこの島国の大半のアクトよりも遥かにエンターテイニングなのは間違いありません。

2016年に生きているなら、この夏はまずはジャスティン・ビーバーを観て、その後はビヨンセとリアーナの来日公演の実現に思いを馳せる。そして、ドレイク、チャンス・ザ・ラッパー、さらには遂に4年ぶりにリリースされるフランク・オーシャンの新譜にひたすら耳を傾ける。世界中のポップ中毒患者の間では、これが2016年のベーシックな立場と言えます。

だとすれば、この残り少ない夏、国内外のアクトが共演する〈サマーソニック〉で2016年的ポップ中毒患者は何を観るべきか? その答えは一択です。一瞬の躊躇もなく一択です。それはレディオヘッドではありません。ジャクソンズ以外にはない。

ジャクソンズ、誰それ?

というあなたのためにお教えします。マイケル・ジャクソンが巨匠クインシー・ジョーンズをプロデューサーに迎えた大傑作『オフ・ザ・ウォール』(1979年)によって、本格的なソロ活動に乗り出そうとする直前、そのマイケルも在籍していた兄弟グループ、ジャクソン5が新たに名乗り出した名義、それがジャクソンズです。

『スリラー』(1982年)、『バッド』(1987年)という80年代のメガ・ヒット・アルバム2枚の陰に隠れがちですが、そもそもマイケル・ジャクソンが音楽的にもっとも充実していたのは、ジャクソン5がジャクソンズに改名してからの70年代後半~80年代前半、そしてソロとしては件の傑作『オフ・ザ・ウォール』の時期なのです。

勿論、今回の〈サマーソニック〉におけるジャクソンズのステージにマイケル・ジャクソンはいません。しかし、ジャーメイン・ジャクソンはいる。あまりに偉大すぎるキング・オブ・ポップ、マイケル・ジャクソンの影に隠れてしまいがちですが、マイケルの次のジャクソンと言えば、ジャネットでもラトーヤでもありません。ジャーメインです。

ジャクソン5時代の“帰ってほしい(I Want You To Back)”や“小さな経験(The Love You Save)”が時代を超える永遠の名曲になった理由は、何よりもマイケル・ジャクソンとジャーメイン・ジャクソン2人の兄弟による、血沸き肉躍るようなヴォーカルの掛け合いに他ならない。さあ、自分の耳と目で確かめてください。


The Jackson 5 / I Want You To Back

The Jackson 5 / The Love You Save

しかし、ジャクソンズ改名時にはジャーメインはグループを離脱しています。かつてジャクソン5を売り出した〈モータウン〉とジャクソン5のメンバーたちの間での契約上の確執から、片やバンドは〈モータウン〉を離れ、新たな「ジャクソンズ」という名義を名乗り出し、片やジャーメインは〈モータウン〉の創始者ベリー・ゴーディの娘と結婚。かつての偉大なる兄弟グループは引き裂かれてしまいます。

それがゆえ、その後の偉大なるジャーメインのソロ・ワークには陰りが漂ってしまいます。そこから数十年、ジャーメインと兄弟たちの間には本当にいくつもの紆余曲折がありました。しかし、マイケルの死後、2012年にジャーメイン・ジャクソンもジャクソンズに復帰。2012年12月にはマイケルの秘蔵写真や映像をふんだんに使った東京公演も行われた。


The Jacksons Japan Tour 2012

そのジャクソンズが再び、この2016年の夏、〈サマーソニック〉にやってくるんです。セットリストは豪華絢爛の極み。もうこれを見逃す手はありません。

初期ジャクソンズから、彼らの最高傑作でもある『デスティニー』(1978年)、『トリンプ』(1980年)『ヴィクトリー』(1984年)というマイケル・ジャクソン在籍時の3枚の大ヒット・アルバムまでを網羅したベスト・ヒット選曲。

それに加え、当時のジャクソンズのツアーでも演奏されていた『オフ・ザ・ウォール』時代のマイケル・ジャクソンのソロ曲、そして、ジャクソン5の輝かしきヒット・メドレーも披露されます。まさに、これ以上はないという究極のセットリストなのです。


The Jacksons / Can You Feel It

Michael Jackson / Rock With You

2016年は何度目かのブラック・ミュージック隆盛の時代なわけですが、プリンス亡き今、70年代後半から80年代前半にかけてのブラック・ミュージック最良の瞬間がここ日本で目撃出来る唯一の場所、それがこの夏の〈サマーソニック〉なのです。

おそらく〈サマーソニック〉に足を運ぶつもりの皆さんも完全にノー・マークのはず。しかし、実のところ、この2016年夏にもっとも観るべきアクトは、レディオヘッドでもなく、ベックでもなく、言わんやアンダーワールドでもなく、ジャクソンズに他ならないのです。

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