「楽しめることを仕掛けていく」THE OTOGIBANASHI’Sのin-dと語らう

朝8時。毎朝この時間に目が覚める。顔洗って、歯みがいて、着替えたら、8時30分。コーヒー飲んで、もう家を出る時間だ。家は目黒、職場は渋谷(といっても神泉の方が近い)。職場までは歩いて向かう。だいたい40分くらいだ。イヤホンを耳につけて、古いiPodで音楽を聴きながら向かう。なにを聴くのか悩んだら、いつも「THE OTOGIBANASHI’S(オトギバナシズ)」のアルバムを流す。「TOY BOX」か「BUSINESS CLASS」。どちらのアルバムも40分前後なので、職場に着くころには聴き終える。どんな情景にもTHE OTOGIBANASHI’Sはなぜか合ってしまうから、いつ聴いても心地が良い。


THE OTOGIBANASHI’Sを知ったのは、たしか3、4年前の恵比寿BATICA。やけのはら目当てで遊びに行ったイベントの出演アーティストだった。偶然見た彼らのライヴは、まるで絵本から飛び出したかのようだった。ヒップホップにはこんな表現があるのかと驚いた。彼らの類まれなるセンスは音楽だけに留まらない。「CreativeDrugStore」 というTHE OTOGIBANASHI'Sのメンバーとその仲間たちが不定期で仕掛ける「Pop Up Shop」や「CREATIVE ROOM」と呼ばれるイベントで、彼らのユニフォームやグッズを販売。そして、DJセットやライヴを披露。イベントには感度の高いストリートキッズたちが並び、スプラッシュマウンテンのような行列ができる。最近ではTHE OTOGIBANASHI'Sとして、20年ぶりに開催された「さんぴんキャンプ」、リップスライム主催イベント「真夏のWOW」に出演。まさに新世代ヒップホップグループといえる。


そんなメンバーのひとりであるin-d(インディー)とは共通の知人がいたことで仲良くなった。


一緒に渋谷で飲む機会があったから、「in-d視点でTHE OTOGIBANASHI’Sの話を聞かせてよ」と話した。THE OTOGIBANASHI’Sのインタビューなどで、in-dが話してるイメージがあまりなかったから。

in-dは生まれも育ちも藤沢の23歳。

「カルチャーに興味持ったのはファッションからですね。その頃はデカい服買ってました。とにかくデカけりゃいいって感じで(笑) 。そこから徐々に覚えはじめて、お年玉を貯めて原宿に行くようになりましたね。たしかSTUSSYとかAPEに行ったりしてたかな。そのときくらいに地元の藤沢でラファイエットってお店を発見したんですよ。そこの店員さんすげえオシャレだし、店の中では90'sヒップホップがかかってるし、よく分からないけどかっこいいってなりましたね。そこから音楽とかも少しずつ知って聴くようになりました。それで高校入ったんですけど、私立だったから厳しかったんですよ。Yシャツの下に着るTシャツと、カバンでどうにかオシャレして抵抗してました(笑)。で、隣のクラスにもオシャレっぽいやついるって思ったら、それがbimだったんですよ。向こうもそれっぽいこと思ってくれてて、mixiで友達申請きたんですよね。そこから、なんとなく遊ぶようになって、高1の最後に『ラップやらない?』って誘われて。『クラス一緒になったら良いよ』って言ったら、一緒になっちゃって。12クラスもあるから一緒にならないだろうって思ったんですけどね(笑)」

そこからbimの後輩のPalBedStockも入り、 今のTHE OTOGIBANASHI’Sになったという。2012年にYouTubeで「POOL」のPVを公開。2013年4月にファーストアルバム「TOY BOX」をリリースし、2015年8月にセカンドアルバム「BUSINESS CLASS」をリリース。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。


最近巷ではラップブームと言われているけど、それはin-dの目にはどう映っているのかが気になった。


「流行っていることは本当に良いことだと思います。俺らのときは想像もつかなかったですね。イメージ的にはファッションと似ている気がする。俺が学生の頃って服屋の店員さんって怖かったんですよ。欲しいけど店員さん怖えみたいな(笑)。今はそれが少し変わったかもって思います。その流れは新鮮だし面白いですね」

自分も学生の頃、ヘクティクで服を買ったとき、店員さんが怖かった記憶がある。しかし、当時はそれが普通でかっこいいと感じていた。今はだいぶ変わって、in-dの言うようにファッション同様、ラップに対しても入り込みやすい時代になったと思う。そんな時代の中で、THE OTOGIBANASHI’Sは世間一般が思うラッパーの強面イメージとは違う。独特の世界観でとても軽快である。トラックはもちろん、リリックひとつひとつにも彼らのライフスタイルが感じられ、センスが伺える。個人的に「POOL」のin-dの「全盛期のスタン・ハンセン」というリリックが気になっていた。絶対世代じゃないだろうって(笑)。in-dのリリックは何から影響を受けているのか。


「全盛期のスタン・ハンセンは世代じゃないから知らないんですよね(笑)。あれは地元のプロレス好きの友達に見せてもらったビデオがきっかけだったかな。それ見てすげえってなりました。影響受けてるとか意識してないけど、食わず嫌いせずにいろいろ見たりしてますね。詳しいわけじゃないんですけど、映画とか観るようにしてて。最近観たのだと『ラン・ローラ・ラン』が面白かったですね。『大脱出』って曲のPVに出てた友達が面白いよって教えてくれて。ローラって子がベルリンを走るんですよ。大ザッパで腑に落ちない部分はあるんですけど、途中でアニメになったりして、映像とストーリーがとても楽しめましたね。あとお笑いが大好きで。週に5、6本録画してて、それ見たりとかしてます。オフの日だと音楽聴きながら、好きな街を歩いてますね。ここ最近は埋立地がめっちゃ好きで(笑)。あの辺のオフィスビルとかタワーマンション見るのが好きなんですよ。たまにお台場の方からチャリ借りて、勝どきの方行ったり築地の方行ったりして、最終的に豊洲のららぽーとでチャリを返す、みたいなこともしてます。普段は電車で移動することが多いので本も読みますよ。小説しか読まないんですけど。今ちょうど読んでるのは伊坂幸太郎の『ガソリン生活』。ストーリーがあるものだったり、意味のある言葉が出てきたりするものが好きなんですよね」

in-dの話を聞いて、彼のラップは、自身の見てきたものや感じてきたことが意識せずに自然と反映されている気がした。自然体でいるから、in-dはかっこいいんだと思った。THE OTOGIBANASHI’Sとは別に活動している「CreativeDrugStore」についても話してもらった。


「CreativeDrugStoreは遊びの延長ですかね、普段から遊んでる連中なんで(笑)。今はbimやCreativeDrugStoreのメンバーが住んでる部屋に俺もよく行っているので、だいたい一緒にいますね。音楽やそれ以外のことで面白いことができたら良いなって思ってます。不定期に恵比寿BATICAで開催してる『CREATIVE ROOM』とかは、俺らの部屋に友達とか先輩を呼ぶっていうコンセプトでやってるんですけど、まさに日常があんな感じです。それをお客さんが楽しんでくれたらうれしいですね。これからも俺らとお客さんが楽しめることを仕掛けていきたいですね」

楽しそうに話すin-dは、まるでキッズのようだった。もしかしたら、キッズでいることそのものが大事なのかもしれない。彼らはこれからも面白いことを仕掛けて、世間を驚かせてくれるだろう。今後の日本のストリート、ヒップホップシーンが楽しみで仕方ない。


正式発表はまだだが、8月にCreativeDrugStore の「Pop Up Shop vol.6」が開催予定だという。8月27日(土)には彼らの所属レーベル、SUMMITの「AVALANCHE 6」に出演。ぜひ現場に足を運んでチェックしてほしい。

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