インターネットが音楽業界に再編を迫るなか、その流れのなかで音楽的にも「業界」的にも新しいスタイル、ムーヴメントを巻き起こしているSoulection。その重要メンバーのひとりstarRo。日本を出てLAで成功したトラックメイカー、プロデューサーである彼のインタビュー後編をお届けしたい。キーワードは「変化」だ。
いろんな選択肢を持っておきたい
前編で聞いたパフォーマンスの話に続き、制作面にも話を向けてみた。ベースミュージック、ビートシーンの影響も感じさせつつ、透明感のある音色でのリミックスや清冽な響きの歌モノを中心に楽しませてくれるstarRo。いわゆる「トラックメイカー」の枠に収まらず、メロディや歌詞まで自分で作っているという。
「トラックだけを渡してボーカリストに任せるという人が多いとは思うんですよ。でも、自分は自分のことを「作曲家」だと思ってるんで。最終的にインストとして出すものにしても、どっちかというとメロディが最初に浮かんできて、それを中心に作ったり展開したりするアプローチが多いですね。
リミックスとかだったら半日で作って、寝かせて。だいたいの部分は1日で作れますね......でも最初のイメージにこだわりすぎちゃうと、同じ音ばかりになっちゃう。例えば『シンセだったらこういう音』っていうなんとなくのイメージはあるんですけど、とりあえず違う音でそのコードを弾いてみて、「あ、こっちの方が合ってる」っていうもときあるし。そういう試行錯誤っていうのはあります。同じ音楽ばっかりやってるとやっぱりすぐ飽きちゃうんですよ(笑)。だから、いろんな選択肢を自分で持っておきたい」
筆者はただただクラブで踊るのが好きという人間なのだが、東京の、特に大きめのクラブについてはもっと違う曲もかけてほしいなぁ、と思いながらクラブに行くことも多いので、彼の言う「飽きてしまう」感覚には激しく共感できたりする。
「僕も昔ハウスダンスをやってたんですけど、ダンスの中でもハウスって複数の要素に触れられるじゃないですか。ルーツにアフリカンダンスもあるしヒップホップダンスもあるし。そういう部分は、今の自分の音楽への姿勢がもう現れてたと思うんです。当時は、例えばショウケースでも『だれがそれ決めたの?』っていうくらい、みんな同じ曲をかけて踊ってた。それが俺はイヤで、クルーの中でショウケースやるときは、普通こんなので踊らないだろ、っていう曲を混ぜて踊ってましたね。どちらかというと前衛的なアートみたいなイメージでやってました」
でもポップさも大事?
「大事ですね。そうなんですよ、その絶妙なところを目指すんです。前衛的すぎず、あくまでもやっぱり生活の中で、生活の一部として、無理なく取り込めるもの。だからポップさは、俺の中では重要ですね」
傍から見たらみんな一緒、でもなにか違う
starRoはアメリカで活躍しつつ、いわゆる「和」を押し出したりはしない。それなのに、レーベル担当者いわく「日本への愛を感じる」というように、作品や活動からは自然と、どこか日本人的な美意識が垣間見えるのも面白い。
「LAにいるときは100%日本のことなんて忘れちゃってますね、すいません(笑)。でもやっぱり海外に住んでると日本の悪口を言われるとすごく腹が立つし、『サムライ精神』みたいなものが、日本に住んでいたときより強くなっている気はしますね。かといって日本を代表しているみたいな気持ちは全然なくて、単純に自分のルーツが大好きっていう。アメリカ人から見た”いわゆる日本”みたいなものを、音楽に取り入れようという意識もないし。
最近だと、アニメとかのそういう要素の『日本』を打ち出すのも面白いんですけど、結局それってイロモノなんじゃないかな、と。彼らに本当の意味で取り込まれるものは、アメリカ人が飲み食いしてるもの、ってことになる。僕はむしろアメリカに住んで、超アメリカンな食べ物=ハンバーガーみたいなものを作ってるつもりなんです。でもちょっと醤油の味がする、みたいな。作るときに醤油を入れてるつもりもないし、食べてる人も醤油に気づいてるわけじゃないんだけど、なんかいつもとちょっと違う感覚」
ここまで聞いて、「アメリカ的な『ハンバーガーを作り続ける人』が増えたとしたら、世界から個性がなくなるんじゃないだろうか?」という疑問が浮かんできた。
ダンス好きの自分が思い浮かべたのは、アフリカのダンスだ。例えばアンゴラのクドゥロというダンスにはNYやパリのハウスダンスが流れ込み、元からある動きや文化を脅かしているように見える。南アフリカのパンツーラは観光資源化して、エンターテインメント性を重視するダンサーが目立ち、もともとの個性が薄まったよう感じられる。
「それは興味深いですね。個性って、その人の生きてきた体験とかの組み合わせだと思うんですよね。長く生きていればその要素って増えていくから、その組み合わせって無限で、絶対に一緒にならないんですよ。まぁ、狙ってそれをやってる人だったら、一緒になっていっちゃうと思うんですけど。別に、そこまで『違う』必要はないんですよ。傍から見たらみんな一緒。でもなにか違う。そういう個性は、ずっと出し続けられると思います」
いまは’80s、それとファンク
どうだろう、この前向きさ。変化を嘆くのではなく、主体として、個として進んでいく力強さ。「日本は」「LAは」と単純な線引きから自分を切り離して、前を見渡していく視界。starRo作品に共通したある種のしなやかさは、こういう志向のあらわれなのかもしれない。
いまはアルバムを制作中で、アメリカで発表後に日本国内盤でもリリース予定だというが、その内容もきっと、しなやかに変化しているのだろう。
「いま面白いなと思うのは’80s、日本で言うと“シティポップ”みたいな楽しくて明るい音。あとはやっぱりファンクですね。昔は'80sキライだったんですけど(笑)。機材的にも、最近作ってる曲には80年代のシンセとかを必ず使ってますね。8ビット的なものをあえてやろうとしてるわけじゃなくて、スーパーでスパイス買ってきたし、せっかくだから使ってみようかみたいな感じです(笑)」
photographer : Yosuke Torii/鳥居洋介
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